酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第51回「天満の角打ちで意気投合した男」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第51回「天満の角打ちで意気投合した男」である。
はじめに
掲載50回特別編で「出会い酒もまた楽し」を書かせてもらった。袖すり合うも他生の縁とはよく言ったもので、一人酒とはいえ、酒場で出会う人と飲んでしゃべるのも愉快なもの。それが見知らぬ方だと、余計に面白い。
どちらかというと人見知りのタイプなので、自分からお客さんに声をかけることはほとんどしない。たいがい、ご常連さんが物珍しい一見の私に話しかけてくるというのがパターン。今回の大阪天満での飲み歩きでもそうだったな。
台風直撃のおまけつきとなった天満の夜の思い出である。
天満「神戸マッスルホルモン」~まずは肉料理で精をつける
2023年お盆の日本列島を直撃した台風7号は、東海道・山陽新幹線を丸一日ストップさせ、その翌日も長時間の遅延を招き、帰省客や行楽客を足止めした。人それぞれに事情はあろうが、台風の時は計画を見直したり、変更したりするのが無難だと感じた。
そういう私も、過去には台風直撃の時に関西へ出かけたことがあったので、人のことは言えない。幸い、直接的な影響を受けずに済んだ。運が良かったの一言に尽きる。
台風直撃の夜に泊まったのが天満だった。天神橋筋商店街と酒場ゾーンくらいしか思い浮かばないが、ホテルだってある。天満駅直近という抜群のアクセスだが、その分大阪環状線のガード直下で、頻繁に電車が行き交っているぞ。
台風は確実に近づいている。でも、ここは天満。歩いて行かれる範囲内に酒場はたくさんある。口開けは「神戸マッスルホルモン」という串焼きの店。以前から気になっていた店だが、いつも混んでいる。本日は台風のせいか、座れたのでありがたい。
この店は変わり種の串が食べられるそうだ。
一杯目はマッコリビールという初めてのテイストを頂戴する。若い店員に聞くと「マッコリとビールを合わせたもの」とか。そのまんまやないか。
ツッコミはほどほどにし、肴を注文しよう。コブクロ、タンフォアグラ、ブヒブヒと白ネギの串をいただく。ブヒブヒとは珍しいが、豚の鼻の部分だとか。タンフォアグラは絶品で、口の中でとろける感じはまさにフォアグラ。食べたことはないが(苦笑)
ガッツリ食べてもいいが、せっかくの天満なので一軒目はサッと切り上げるとしよう。
天満「堀内酒店」~コアな常連と楽しいオヤジさん
それにしても「台風、どこ吹く風よ」とばかり、飲み歩いている猛者たちは相当数いる。天満の市場裏側にあるゾーンには酒場が集中しているが、どこも若者たちを中心にワイワイとにぎわっている。おいおい、本当に台風は大丈夫なのか?
店員に呼び込みをかけられたが、一人で飛び込むにはあまりにも騒然とし過ぎている。もうちょっと静かで、落ち着いた店はないだろうか。ゾーンを離れ、天神橋筋の小路をさ迷い歩いてみれば・・・あるじゃないか。
「堀内酒店」の暖簾、ここは角打ちに違いない。
台風の真っただ中、果たして営業しているだろうか。恐る恐るのぞき込むと、立っている人の足が見える。大丈夫そうだ。店内に潜り込めば、ここにも「どこ吹く風」の酔客がズラリ。中高年世代ばかりで安心する。
カウンターの一角に陣取り、一人で切り盛りするオヤジさんに声をかけ、ビール小瓶、おでんの大根、こんにゃくを注文。オヤジさんは、おでんに八丁味噌をかける。これが堀内酒店の流儀なのだろう。
見渡すと、お客はご常連ばかりで、みんな楽しそうに語らっている。一人ポツンと飲んでいたら、オヤジさんに話しかけられた。旅の者だと自己紹介すると、オヤジさんは「ほぼ地元客ばかりだけど、時々よその土地の人がふらりと舞い込んでくるんだよ」と笑う。
オヤジさんはなかなかユニークだ。ビールを空けて日本酒を頼むと、灘の名酒「桜正宗」を引っ張り出し、「まずは味見をしてくれ」とコップ半分ほど注ぐ。それを飲み干したうえで、改めて注文を受けてコップ酒をなみなみと注いでくれた。
常連客は時々、話し相手を求めてあっちこっちへウロウロと立ち位置を移動している。そのうち、私の隣にもカップルがやってきた。ご夫婦かと思いきや、常連同士の赤の他人。男性客(以後Tさんと表す)は私と同じ年とわかり、またたく間に意気投合した。
Tさんから、個性豊かな常連さんの話を聞く。例えば、大柄で目立つ女性がいるが、実は「おかまバー」のマスター・・・といった具合に、とにかくコアな人ばかり。Tさん曰く「相手が社長であろうと、誰であろうと、酒場で飲んでいれば飲み仲間」。同感や!
ノーマークで飛び込んだ角打ち「堀内酒店」おそるべし。
天満「虎次郎」~もう一軒、行きつけの店へ
堀内酒店でしこたま飲んだのだが、そろそろ河岸を変えようかと思っていたところ、Tさんも「もう一軒お付き合いしますよ」と同調。せっかくなので、Tさんの行きつけの店へ連れて行ってもらう。居酒屋「虎次郎」である。
こちらもカウンターのみの立ち飲みの店だが、ご夫婦が切り盛りしており、堀内酒店よりも落ち着いた雰囲気だ。早速ママさんからハイボールをいただく。Tさんも「飲み歩き道楽」のようで、店の好みも似通っている。同類だからこそ意気投合できたのだろう。
ならば、明日の昼酒の情報もゲットしておきたい。
天満をはじめ、今まで行ったことのあるエリアを羅列しながら、どこか穴場っぽい土地はないものかと聞く。すると「布施はどうですかね」との答え。ここも、面白い酒場がたくさんあるそうで、そのうちの2軒の立ち飲み酒場を紹介してもらった。
話は尽きなかったが、Tさんは「明日仕事なので、失礼します」と断り、ひとまず散会。一人残って、ハイボールのおかわりと松茸とハモの茶碗蒸しを頂戴しながら、楽しかった天満一人酒の余韻に浸ったのだった。
その夜、台風はどうなったか? そんなことよりも、明日の布施の方が楽しみだよ。(つづく)
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2017年9月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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