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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第86回「ドヤに泊まって新世界で夜飲み」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第86回「ドヤに泊まって新世界で夜飲み」である。


はじめに

新世界には何度も足を運んでいるので、界隈は隅々まで知っているつもりだ。ただ、訪れる時はいつも昼間なので、夜の新世界を実は知らない。あれだけの繁華街であり、観光名所なので夜も賑わっているのだろう。

そんなわけで初の新世界での夜飲みチャレンジとなる。そこにもう一つのチャレンジを加えたい。「ドヤ」と呼ばれるところに泊まってみよう。でも、本格的な「ドヤ」はさすがに躊躇する。「ドヤ」もどきの激安ホテルで我慢しておくか。

ほんなら、ボチボチ行きましょか。

なんば「赤垣屋本店」から「丸一屋」へ

新世界夜飲みの前に、同じ日の昼酒の話もしよう。今回の飲み歩きは大相撲春場所観戦とセットしたプランで、観戦の中抜けとして、なんばで軽く昼酒も楽しもうという目論見だ。

最初に訪れたのは赤垣屋本店。

言わずと知れた大阪を代表する大衆酒場。正午の開店と同時に店内に潜り込み、テーブル席に座ってまずは生ビール。あてにはメバルと竹の子の煮付け、のれそれ、どて煮。旬の味覚あり、珍味あり、大阪名物あり。さすが赤垣屋だぞ。

本店に入るのは初めてだったが、大箱の割りにはさほど喧騒感がない。悪く言えば、もうちょっとワイワイガヤガヤでもよかったな。まあいい。ビールの後は燗酒(歓喜光)と桜鯛の刺身。料理が程よい量なのでありがたいよ。

2軒目に訪れたのは丸一屋。

こちらはグッと渋い大衆酒場。カウンターに陣取ってチューハイを注文。あては・・・耳馴染みのない「とんぺい」でも頼むか。どんな料理が出てくるのか、一か八かも面白かろう。

出てきたのは豚肉入りの卵とじお好み焼き。大阪では馴染みの料理だそうだ。

この店は窓がないため、真っ昼間なのに薄暗い。だからかもしれないし、酔っているせいかもしれないが、時間の感覚がだんだんなくなってくる。いったい今、何時なんだろう。おかわりの芋焼酎とモヤシ炒めを食べながら、ふと思ったほどだよ。

激安ホテルからの新世界「てんぐ」

大相撲観戦を終え、飲み歩く前に今宵の宿へと向かう。最寄りは新今宮駅と聞けば、知っている人は「ああ、なるほど」と雰囲気が分かるだろう。この界隈に「ドヤ」が点在する。大阪市内の一般的なビジネスホテルと比べると格段に安い。

「ドヤ」とは、もともと日雇い労働者の簡易宿泊所のことを指し、昔は木賃宿とも呼ばれていた。完全素泊まり、風呂ばかりかトイレも共同。近年では、海外からのバックパッカーも盛んに利用しているようだ。

そんな激安ホテルにチェックインしてから、夜の街へ繰り出す。方向を間違えると、あいりん地区や飛田新地といったコワいところに行ってしまうので要注意。JRのガードをくぐれば、その先はお馴染みのジャンジャン横丁でホッと一息つく。

最初は新世界名物串カツでも食おう。

やって来たのは「てんぐ」。新世界では「だるま」「八重勝」と並ぶ人気店らしい。昼間だと、いつも行列ができていて、入ろうという気にならないのだが、夜はカウンターに空席がある。だるまも八重勝も来店経験があるが、てんぐは初めてだ。

着席するのと同時に「生ビールとどて焼き」と店員に声を掛けた。それからおもむろに串カツメニューを物色する。串カツ、タマネギ、レンコン、アスパラを頼んだのだが、アスパラは残念ながら品切れ。昼からやっている店ではよくあること。

店員は外国人アルバイトで、大阪の酒場もいよいよ国際化してきたな。ただ、このアルバイトは、私の注文品を隣の席に持っていくなど手際が悪い。別の酒場で、私が酒をこぼしたのを見るやいなや、サッとティッシュを差し出す店員の接客に触れただけに、余計歯がゆいぞ。

新世界「ぜにや」~昔ながらの大衆酒場でテンションアップ

2軒目にいつもお馴染みの酒場「酒の穴」で飲み、さあ次だと意気込むところだが、朝から営業しているような立ち飲みは夜の店じまいが早い。面白そうな店は次々とシャッターを下ろし、営業しているのはド派手な看板の串カツ店ばかり・・・

やっと見つけたのが大衆酒場「ぜにや」。酒場を探してフラフラ歩いていて体が冷えた。ここは燗酒を所望しよう。それから旬のホタルイカといくか。

「ちょっとしかないけど、いいですか?」とすまなそうな女将さん。

出てきたホタルイカは4尾、まあまあだよ。それでも、量が少ないので100円引いてくれるという。嬉しいじゃないか。この量なら、しらばっくれて出されても分からない。誠実な商売をしていて好感が持てた。

テレビで流れているワールドベースボールクラシックの日本代表の試合に見入る。オランダ相手にホームランをバカスカ打っていたので気分も上々。女将さんについつい「次の試合まで、とっておけばええんやけどなあ」と関西弁で話しかけてしまったほど。

昔ながらの大衆酒場の雰囲気にどっぷりつかりながら、追加で芋焼酎お湯割りとギンナン炒めを注文。まだまだテンションは上がりそうな感じだったが、残念ながらそろそろ閉店の時間。お暇(いとま)しよう。

新世界「勝大」~シメに再び串カツか

界隈の人通りもどんどんと減っていき、それに伴ってさらに営業中の店は限られてきた。カラオケスナックのようなところはやっているが、さすがに馴染まないな。

やっと探し当てたのは串カツ店「勝大」。

来店即ラストオーダーという滑り込み状態で、生ビールとビリケンセットをお願いする。串カツ、豚バラ、もも、キス、ホルモン、タマネギというラインナップ。これが飲み歩きのシメになる。肉系よりも野菜系がもう少し欲しかったが、欲を張ってもしょうがない。

ササっといただいたところで、「ドヤ」へ戻るとするか。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2013年3月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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