私だけの特捜最前線→54「撃つ女!~サイドストーリーが本編になっていく演出の見事さ」
※このコラムはネタバレがあります。
第309話「撃つ女!」は、裁判所の前で被告の男を拳銃で撃ち殺す女性(島かおり)と、それを止めようとして間に合わなかったおやっさんこと船村刑事(大滝秀治)という、衝撃のシーンで始まります。
倒置法を用いることで強烈なインパクトを与え、視聴者に「なぜ、この女性が殺人に及んだのか」「女性がどうやって拳銃を手に入れたのか」という理由を、ドラマの中でたどってもらおうとの演出です。
偶然、拳銃を手に入れた女
警官が拳銃を奪われるという事件が発生し、容疑者と思われる男をマークするため、特命課はマンションを張り込みます。男の部屋の隣に引っ越してきたのが女性で、船村は捜査への協力を依頼するのです。
女性は、事件で使われる拳銃に異様な関心を持っており、とくに残りの弾数をしきりに気にしていました。船村は次第に、女性に対して違和感を覚えますが、事件と直接関係がないため、深追いはしませんでした。
やがて犯人は、部屋に戻ってきたところを逮捕されますが、拳銃は持っていません。船村の違和感は、次第に「嫌な予感」に変わり、さらに女性の身辺を調べていくうちに「確信」へと変わっていくのです。
女性は、犯人が拳銃を隠すところを偶然目撃して拳銃を入手し、殺された娘の復讐をするために、被告の男を狙っていました。すべての謎が解けたとき、ドラマは冒頭の銃撃のシーンへと移っていくのでした。
女は意図して殺人を犯した
女性が銃撃したところで終わらないのが特捜最前線というドラマの醍醐味です。取調室で女性は、拳銃が手に入ったことを「神様って、この世にいるんだなと思いました」と、晴れ晴れとした表情で語ります。
橘刑事は「それは違う」と否定し、船村も「法律は人間が理性を守るための約束事なんだ」と諭します。しかし女性は「その約束事が間違っていたら!」と語気を強めます。船村には返す言葉もありません。
神代課長から「殺意の有無」を聞き出すよう促された船村は、もう一度女性と向き合います。「自分のやったことがわかっていたのか?」との問いかけに、女性は「殺してやろうと思った」と言い切ったのでした。
被告の男は、裁判で無罪もしくは情状酌量される可能性がありました。それを許せなかった女性が犯した殺人は、確信犯だけに重罪に問われます。この不条理こそが、ドラマの真の見せどころだったのです。
女性役を演じた島かおりさんは、ドラマ前半の感情を押し殺したような姿、拳銃を奪って被告を射殺する時の鬼気迫る表情、そして取調室でのどこか満足そうな笑みと、見事に演じ分けています。
おやっさんこと大滝秀治さんが、いつもどおり感情むき出しな「動」の演技ならば、島さんは「静」の演技。サイドストーリーをいつの間にか本編に持っていく演出も素晴らしく、特捜の中でも名作の一つと言えるでしょう。
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