酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第12回「リベンジ!あいりん地区の飲み歩き」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
一人酒ができなくなって幾歳月・・・再開の日を、ただ黙々と待ち続けていても仕方ないので、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第12回「リベンジ!あいりん地区の飲み歩き」である。
はじめに
前回は、あいりん地区の驚くべきディープさに完敗し、ヘベレケで粗相までするという大失態をおかしてしまった。結局まともに覚えているのは「酒のもりた」だけ。これはリベンジしなければいけない。
そのチャンスが翌月、早くもやって来た。奈良への旅行の帰り、大阪を経由するプランを組んだ。リベンジのためだったことは言うまでもない。あいりん地区には、まだまだ隠れた名酒場があるに違いない。
新今宮駅のロッカーにリュックを預け、さあ出発だ!
今池「難波屋」~ディープゾーンのディープな酒場
あいりん地区には、相変わらず中年や年配の男性が多い。すでに酔っ払って道端で寝込んでいる者もいる。お目当ての店が見つけられない。あまりキョロキョロすると、絡まれるかもしれない。ようやく見つけた!立ち飲み「難波屋」。
ブルーの幌付き屋根に難波屋の文字とともに、ワインや焼酎の銘柄が記されている。店先にはネコがチョコンと座っていた。まるで店番のようである。時々、道行くおっちゃんがちょっかいを出すが、逃げるそぶりは見せない。
こいつが「看板ネコ」らしい。
開店して間もないらしく、お客が誰もいない。注文を早く言わねばと、慌てて瓶ビールを頼んでしまう。この店には「自分で作る焼酎割り」があるという事前情報をキャッチしておきながら、舞い上がってしまったのか。まあ、いいだろう。
店内は雑然とした感じで、品書きの短冊がずらりと並んでいる。お世辞にも綺麗とは言えないが、大衆酒場っぽくていい。カウンターに並ぶ大皿料理が美味そうだ。そのなかからぶり大根を注文。さらにカツオのたたきもお願いした。
店内に若い男が入ってきた。見るからに西成の住人ではなさそう。彼は「自分で作る」トマト酎ハイと明太子を頼んだ。店のにいさんが「解凍するんで時間がかかります。すいません」と謝っていたが、品が出たタイミングは決して遅くない。謝らなくていいよ。
萩之茶屋「もん家」から「なんばや」~あかぬけた店で飲む
次は萩之茶屋商店街にやって来た。何だか懐かしい気がする。酒場が多くて嬉しくなる。リベンジのために下調べも十分にしてきた。さあ、どこから攻めようか。
決めた!立ち飲み「もん家」に行こう。
ここは、30代くらいの夫婦が切り盛りしており、あいりん地区の店としてはあかぬけている感じだ。でもお客は、見るからに西成の住人ばかり。早速日本酒を注文する。
カウンターから見えるガラスケースには海鮮類がズラリと並んでいる。そこから明太ホタルイカを注文。さらに見たことがない細長い貝を塩焼きにしてもらう。これがマテガイらしい。見た目はうまそうに見えないが、さっぱりとした貝の味わいは独特だ。
店の入り口のテレビではNHKのど自慢をやっているが、奥のテレビでは競輪や競艇中継を流している。のべんだらりんと飲みながら、のど自慢を見ているおっちゃんたち。一方ではメモを取りながら真剣に中継に見入る男。人それぞれだ。
萩之茶屋商店街の酒場をはしごしよう。立ち飲み「なんばや和」に入る。ここも清潔感がある立ち飲みで、雰囲気は明るい。もりたやもん家と比べ女性客も多い。その雰囲気を作っているのが、客あしらいをしているおばちゃんの明るいキャラクターだ。
ほぼ満席だったが、先客のねえさんに場所を空けてもらい、チューハイレモンとキュウリのぬか漬けを頼む。それを見て「ぬか漬けが美味そうだ」と、私も、私も、という感じで便乗する。
ご常連も負けず劣らぬご陽気である。
屋号をひらがなに変えているだけだが、最初に訪れた難波屋とは全く対照的。はしご酒では、だいたい1軒1種類と決めているが、居心地がよかったのでチューハイレモンをおかわりする。ついでにアジのフライも頂戴した。ごちそうさん。
動物園前「ホルモンマルフク」から新世界へ~リベンジを果たしたぞ!
萩之茶屋商店街から動物園前駅方面へと堺筋に沿って歩を進める。ふと、人だかりを見つけ、吸い寄せられる。立ち飲み「ホルモンマルフク」である。
この店は激安ホルモン店として界隈では有名店。中南米系と思われる女性店員に注文を聞かれたので、麦酎ハイとホルモン焼きをお願いした。大万ほどではないが、値段は安い。料理はプラスチックのタッパに入れて出される。捨てればいいので楽なのだろう。
飲んでいる時、ちょっと面白い光景を見た。
自転車に乗ったうさんくさいおっさんが現れる。店主に古着を買ってくれと交渉を始めたが、軽くあしらわれてしまう。おっさんは捨て台詞を残して立ち去る。それを見ていた女性店員たちはゲラゲラと笑う。
だが、歩道にまではみ出して飲んでいる客たちは無反応で、黙々と飲み食いしている。ご常連にとっては、別段珍しくない光景なのだろう。そのギャップがまた面白い。
動物園前まで戻ってきたので、ここであいりん地区での飲み歩きは終了。しっかりとリベンジを果たした。満足感に浸ったが、まだまだ平気だ。ならば、新世界のジャンジャン横丁をぶらついて、次の店を探すとするか。
あけっぴろげの立ち飲み「平野屋」に突入する。ビールケースがズラリと並んでいるが、ここはビールではなく、白堤という銘柄の日本酒を注文。肴はきずしとソラマメでいく。
外を歩く人たちは親子連れ、カップルなど行楽客が目立つ。一方店内には呑み助のおっちゃんばかり。このギャップが素晴らしい。
新世界でもう一軒「みふね」に立ち寄り、黒ビールとおでんを飲み食いしたところで時間切れ。ヘベレケになってはいないが、新今宮駅から大阪環状線に乗ったところで眠ってしまい、大阪駅を乗り越して桜ノ宮駅まで来てしまった。前回粗相をした駅である。
「なんてこったい」というドヤ顔で写真を一枚撮っておくか。
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2008年4月の備忘録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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