酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第37回「嗚呼、思い出の十三しょうべん横丁」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第37回「嗚呼、思い出の十三しょうべん横丁」である。
はじめに
大阪は飲み歩き天国である。そして、飲み歩くのにはこれ以上ないというロケーションのまちが点在している。その中の一つが十三である。梅田から阪急電車で2駅目。十三駅周辺は、大都会梅田近くとは思えないような雑然とした雰囲気に包まれている。
忘れもしない2014年3月7日未明、十三西口側にある「しょうべん横丁」で火災が発生し、多くの名酒場が焼失した。火災前に十三を訪れたのは、わずか3カ月ほど前だったのに・・・驚いたのやら、悲しんだのやら、複雑だった。
3カ月前、十三でこんなふうに飲んでいたのだ。
十三駅東口「立ち飲みまる」~小さなカウンターの店
十三へはそれまでも昼酒で何度か立ち寄っていた。二十四時間営業で知られる「吾菜場」は十三では定番の店になったほどだ。でも、夜の飲み歩きはやったことがない。理由は簡単で、十三で泊まったことが無かったからである。そのチャンスがついにやって来た。
十三駅東口近くにホテルを確保できた。荷物を置き、早速一人酒に向かう。一番の目的は西口の「しょうべん横丁」にあるが、せっかくなので東口の酒場で口開けとしたい。と、思ったところに、うってつけの立ち飲みがあるじゃないか。
「まる」という屋号。店内はカウンターに10人ほど入れるだけの小さな立ち飲み。すでに常連と思われる年配客が数人飲んでいる。では注文といくか。飲み初めには珍しく赤ワインを所望。それからカキピーとハムステーキでいこう。
店はママさんと若い女性が二人で切り盛りしている。ママさんと常連の会話ははずんでおり、客たちはすでにゴキゲンなようす。私の隣にいたじいさまは、手術をして人工肛門になったが、医者通いをしながら「まる」にも通っていると笑う。
なかなかのツワモノである。
もちろん、医者から摂生するよう言われているだろう。だが、病気になっても酒は止められない気持ちも分からないではない。どう生きようと、その人の人生なのだから、それはそれでいいだろう。でも、健康で飲めるのが一番なのだよ。
十三駅西口「しょうべん横丁」へ突撃
軽く飲んでほろ酔い気分となり、いよいよお目当ての「しょうべん横丁」へと繰り出す。小さくて細い小路にびっしりと店が立ち並ぶ独特のエリア。横丁の愛称になっている公衆便所からは、表現がし難い臭気も立ち込めている。
さて、界隈での飲み始めは居酒屋「ふかどん」から行こう。姉妹店の「ふぐどん」とともに、魚系中心の料理をそろえ、なかでもフグが食べられる店として知られる。
「十三まできて、高級料理のフグを食うのか」と言うのはお門違い。
この店ではフグが大衆価格で食べられるのだ。であれば、早速注文するしかない。カウンターに陣取り、日本酒とともに「てっさ」を注文。ついでに湯豆腐もいただく。
てっさとはフグ刺しのことである。千円でお釣りがくる値段はさすがに安い。超高級店の天然トラフグと比べても仕方ないが、気軽にフグが食べられるのなら、こっちの方がいい。
3軒目の店で軽く串カツをいただいた後、4軒目に選んだのは沖縄料理の「はながさ」という立ち飲みである。カウンターにはお客がびっしりと居並んでいたが、その一角に何とか潜り込む。
酒はゴーヤチューハイでいいが、メニューを見ると美味そうな沖縄料理がずらりと並ぶ。沖縄県の那覇市で飲み歩いて以来、沖縄料理はすっかりお気に入りになっている。何を選ぼうか迷いに迷ってしまうぞ。
ならば、ソーミンチャンプルーでいくか。
立ち飲みなので、気軽に入れるのがいい。それでいて、沖縄料理が揃っているのもいい。もちろん泡盛の品ぞろえも豊富。隣に立つおっちゃんは「昔、10数杯泡盛飲んでヘロヘロやった」と嬉しそうな表情で店の女の子に話している。
話につられて、2杯目は泡盛の「多良川」水割りを頂戴する。さすが泡盛、ズシーンと腹にこたえる。これをおかわりしてしまうと、完全にヘロヘロになってしまう。もう一軒、行かねばならない店がある。先に寄っておけばよかった。
そんなわけで、もう一軒のために後ろ髪を引かれる思いで店を後にする。来店記録のために店の写真を撮ろうとしたら、偶然大将が店から出てきて「撮ってあげますよ」と声をかけてくれた。酔っ払い中年が屋号と一緒に写真に収まった。
十三駅西口「吾菜場」~シメはやはりこの店
再三「もう一軒」と言っていた店、お分かりかと思うが「吾菜場」のことだ。十三にやって来たのなら、絶対に外せない大衆酒場なのである。二十四時間営業なので、いつ行ってもいい。本日も店のおばちゃん店員は元気いっぱいだな。
カウンターの奥に案内され、早速レモンハイ、それからおでんの大根、コンニャク、厚揚げを注文。十三飲み歩きもすでに5軒目。かなり酔いが回っているぞ。
店内はおっちゃんたちが多い昼間と違い、夜は年代が若くなる。それでもワイワイと楽しそうな雰囲気は変わらない。チビリチビリと飲んでいたら、いつの間にかグラスが空いた。飲み過ぎているので空っぽでいいやと思っていたが、おばちゃん店員は見逃さない。
「おかわりどうでっか?」
忙しく立ち回っているのに、なんという目配り。これは芋のお湯割りを注文するしかない。酒飲みの哀しいサガといったところだ。そんなお気に入り酒場「吾菜場」も大火によって焼け落ちてしまう。この時の立ち寄りが、まさか最後になるとは夢にも思わなかった。
余談だが、非常識な若者ならぬバカ者について書く。私の横のカウンターに入ってきてリュックを置き、注文より先にトイレに立った男。トイレから出てきたら、リュックを手にして何も言わずに外に出て行っていった。
おばちゃん店員も私も、唖然として見送るしかなかったのだった・・・
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2013年12月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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