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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第96回「金沢にあるディープな飲み屋街を探索」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第96回「金沢にあるディープな飲み屋街を探索」である。


はじめに

北陸最大の都市・金沢は、北陸新幹線によって首都圏からのアクセスが便利になり、より一層大勢の観光客が訪れるようになった。代表的な繁華街の香林坊には、若い時に団体旅行で立ち寄ったことがあるが、金沢の飲み屋街は香林坊だけではない。

20数年ぶりの金沢でチョイスした飲み屋街は、香林坊の南にある片町の金沢新天地界隈。昭和の風情漂う飲み屋街とのことで、まさに飲み歩くにはピッタリ。観光客向けというよりも、地元向けのディープな酒場が多いに違いない。

では早速、金沢新天地に出向くとするか。

金沢「赤城」~個性派マスターが待ち構える酒場

金沢新天地は細い小路の両側に小さな飲食店が居並ぶゾーン。なかなか良さげな酒場はあるが、早い時間帯のせいか、開店前の酒場も多い。スナックなどが開店し始めると、界隈は賑わいを増していくのだろうな。

辛うじて早い時間から空いている酒場を見つけた。「赤城」という屋号で、小料理屋っぽい居ずまい。マスターが一人で切り盛りしているようで、店内は広くない。

カウンター席は余裕で座れるのだが、予約客があるので午後7時半までだという。口開けの酒場でもあるし、そんなに腰を落ち着けて飲むわけでもない。それよりも、見慣れない一人客なので、マスターはやや警戒しながら探りを入れている感じにも見受けられる。

まずはビール。それからお通しで小鉢物3種盛りをいただく。メニューが見当たらないので、何が食べられるのかは分からない。マスターに聞けばいいのだが、警戒がなかなか解けそうにない。しばらくはお通しでしのぐとするか。

60代後半とおぼしき老紳士がやって来た。どうやらご常連のようだ。その老紳士、見慣れぬ私に向かって「ひょっとして、世を忍ぶ作家さんではないか?」と聞いて来る。そんなわけないじゃないか。あわてて否定する。すると・・・

「嘘には付き合うものだよ」とニヤリ。

老紳士は初めから平凡な一見客だとお見通しだったのだ。マスターもようやく笑顔を見せてくれ、少し打ち解けてきた。老紳士がアマエビを注文したところで、私も便乗して注文。これには地酒の手取川がいいだろう。

老紳士と私のアマエビが同じタイミングで出てきた。私の方は殻を剥いて食べやすくしてくれているが、老紳士の方はそのままの姿。お客に応じてちょっとした気配りができるマスターなのである。何だか、どんどんと居心地が良くなってきたぞ。

すっかり酒場の雰囲気に打ち解けたところだったが、約束通り午後7時半前には店を出ることにしよう。お勘定を払おうとした時、ふと一枚の写真を見かけた。マスターと一緒に写っているのは吉田類さん。なるほど、ここは名酒場だったんだな。

金沢「そのちゃん」~ディープな中央食味街にある個性派かあちゃん

新天地商店街の近くに「中央食味街」と呼ばれる一角がある。ここは、さらに小料理屋などがギッシリと居並ぶゾーンで、昭和ロマンの屋台街をうたっている。観光客の姿は皆無で、地元の常連さんが集う酒場ばかりに違いなかろう。

そのうちの一軒、元気酒場を掲げている「そのちゃん」という小料理屋に入ってみる。ここも女将さんが一人で切り盛りしている酒場のようだ。闊達で明るい女将さん、これ以降かあちゃん、と呼ばせてもらおう。

カウンターには60代くらいの男性3人。その横に座らせてもらい、レモンハイを注文。お通しというにはあまりにも豪勢な手料理の盛り合わせが登場しビックリ。

かあちゃんは「これがうちのスタイルだよ」と笑う。

先客はご常連のようで、なかなかご陽気な方々ばかり。かあちゃんの手引きもあって、一見客であってもすぐに打ち解けた雰囲気になる。ご常連のお一人からキスの天ぷらをおすそ分けしてもらって、かえって恐縮した。

あまりにも居心地がよかったので、レモンハイをお代わりしながら、いつの間にかどっぷりと腰を落ち着けているじゃないか。その間、先客はお帰りになり、入れ替わりにご常連と思われる人がやって来てはサッと飲み、また次のお客が来るという感じ。

昭和の頃は、どこの街にもこういう小料理屋がたくさんあっただろうな。まさに昭和ロマン漂う酒場と酒場街。すっかり酔っ払って「また来るよ」と店を出る背中を、温かく見送るかあちゃんであった。

金沢「雄山」~やきとり横丁にある暖簾をくぐると

金沢新天地のある木倉町には、さらにディープさが漂うゾーンがある。「やきとり横丁」と呼ぶ一角だ。表看板には「やきとり横丁」の文字と、その両側にスナックっぽいような店の名前の羅列・・・これは相当濃いな。

やきとり横丁は人ひとりが歩けるくらいの小路に、小さな酒場がひしめき合う。表看板に書かれている屋号の店は見当たらなかったが、その代わりに暖簾に「雄山」と染められた酒場を訪ねてみよう。

雄山といえば、海原雄山を思い浮かべるが・・・

待ち受けていたのは柔和な感じがする女将さん。早速ビール、それからお通しのバイガイを頂戴する。ビールの一杯目は女将さんがわざわざお酌をしてくれた。これも嬉しい。

肴を注文しようとしたら、女将さんから「たくさん作っちゃったから、よかったらどうですか」とイカのゴロ焼きを勧められた。ここでも他のお客さんのおすそ分けをいただけるということか。これはありがたいな。

一見にもかかわらず、すっかり打ち解けた感じで過ごさせてもらった。女将さんは長く店を切り盛りしてきたようで「そろそろ引退かしら」と話していた。お客の立場としては、一日でも長く続けてほしいのだが、女将さんの気持ち次第だろうな。

ディープで、昭和っぽくて、人情味あふれる金沢の酒場。また来るよ。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2019年9月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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