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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第79回「北九州小倉の角打ちで酔いしれて」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第79回「北九州小倉の角打ちで酔いしれて」である。


はじめに

このエッセイを読んでいる方なら「角打ちとは何か」と聞かれて、即座に答えられるはず。では「角打ち発祥の地は?」と聞かれたら・・・日本の首都である東京か、あるいは大衆酒場の多い大阪か、どちらの都市か迷ってしまうだろう。

東京でも大阪でもない。角打ち発祥の地は北九州市だそうだ。なぜ、北九州市に角打ち文化が生まれたのかは「北九州角打ち文化研究会」というグループのサイトを検索してほしい。ちなみに角打ちの定義は「酒屋の店先で飲むこと」と明快だ。

それじゃあ行ってみるか。角打ち発祥の地へ。

小倉「赤壁酒店」~旦過市場の渋い角打ち

この時の九州行きは大相撲九州場所観戦とのセットプランとして企画した。福岡で絶大な人気を誇っていた大関魁皇(現浅香山親方)のふるさと直方市へ泊るのが主目的だが、せっかくなら小倉にも立ち寄りたい。お目当てはもちろん角打ちだ。

北九州角打ち文化研究会によれば、平成30年現在でも市内に94軒の角打ちがあるそうだ。小倉駅周辺にも当然そろっている。ならば、はしご酒をするしかない。

そんなわけで、まずは旦過市場へやって来た。北九州の台所と言われるアーケード街で、多くの店が居並んでいる。その一角に角打ち「赤壁酒店」がある。オープンな店構えで、観光客でもすんなりと入りやすいのが嬉しい。

店内に入ると、酒がズラリと並んでいる。角打ちなので当たり前だが目移りしてしまう。この店まで来るのに結構歩いたので、体が冷えている。口開けだが、日本酒を頼もう。店番の兄さんに声を掛けると、銘柄を聞かれてしまい面食らった。銘柄ねえ・・・

結局「これが一番安い酒」という日本酒をいただく。

肴もまた目移りする。おでんも美味しそうだが、ラップにくるまれた総菜のうち、アジの南蛮漬けを頂戴する。酒と肴がそろったところで、店内を見渡しながら一杯飲む。昔ながらの雰囲気を醸し出していて落ち着いて飲めるのがいい。

お客もポツリポツリと姿を現す。オヤジ世代が多いのもうなずける。そのうちの一人が「明日もやっている?」と兄さんに尋ねていた。この人は常連なのだろう。明日も来るつもりなのか。まあ、酒の種類はなんぼでもあるのだから、毎日来てもいいよな。

小倉「平尾酒店」~住宅地にある一見ふつうの酒販店

角打ちはあまり腰を据えて飲む酒場ではない・・・というのは私の持論。はしご酒が目的なので次の酒場へと向かう。旦過市場の東側にある住宅地を進むと、一軒の酒屋さんが現れた。屋号は「平尾酒店」と記してある。

どう見ても、ふつうの酒販店じゃないか?

角打ちが出来そうな感じがしない。でも、角打ち酒場のはずである。妙だぞ。店先をグルリと見渡すと、別の入り口がある。こちらが角打ちコーナーのようだ。外からカウンター席も見えたので、早速入ってみよう。

先ほどの赤壁酒店とは違い、まさに酒屋の一角にある角打ち。棚には乾き物や缶詰が並んでいる。ビールの小瓶を頼むが、肴はどうしようかと迷っていると、店主が「やっこなら冷たいのと、温かいのとありますよ」と一声。いいタイミングだ。

温かいやっこ、つまり湯豆腐を頂戴する。しばらくして、女将さんと思われる品のよさそうな女性が持ってきてくれた。これが結構デカいサイズ。いいじゃないか。コップにビールを注ぎながら、湯豆腐を食す昼下がり。ほかにお客もなく、まったりした気分になった。

ちなみに女将さんは「ゆかりママ」の愛称で親しまれた方で、残念ながら2022年にお亡くなりになり、平尾酒店も閉店したそうだ。再来訪かなわなかったな。

小倉「田中屋酒店」~一人静かにワンカップとおでん

もう一軒くらいはしご酒ができそうだ。今度は小倉駅から東へ少し歩いたところにある角打ち「田中屋酒店」を訪ねよう。これまた、外から見る限りはふつうの酒販店である。が、店内に入ると、奥に角打ちスペースが用意されているじゃないか。

丸椅子にドッカと腰を下ろし、人当たりのよさそうなオヤジさんに、ワンカップ酒とおでん(厚揚げ、牛すじ、大根)をお願いする。角打ちなので乾き物で飲むのもオツだが、冷えてきているので温かいおでんはありがたい。

開店と同時だったらしく、お客は私一人。

平尾酒店のようなコンパクトなカウンターではなく、酒屋の店内が見通せるスペースなので、なんだか落ち着かない。別に会話は交わさずとも、他のお客がいた方が角打ちっぽくていい。オヤジさんに話しかければよかったかな?

サッと飲んで食って、この日の角打ちはしご酒はお開きとしよう。

小倉「赤壁酒店」~連チャンの角打ち

直方市に泊まった翌日、平成筑豊鉄道、日田彦山線と乗り継いで、小倉駅へ戻ってきた。北九州空港から飛行機で羽田空港へ向かうのだが、連絡バスに乗るまで少々時間がある。小倉焼きうどんで腹ごしらえし、最後の悪あがきといくか。

てなわけで、再びやって来たのが「赤壁酒店」

昨日、ご常連と兄さんの会話を聞いていて、本日営業しているのは確認済み。あの時、実は「俺も再来訪しようかな」と頭をよぎっていたのだ。

早速注文しよう。本日は芋焼酎でいくか。テーブルにあるポットから自分でお湯を注ぎ、お湯割りの濃さを調整する。セルフサービスも角打ちの醍醐味。肴は昨日見て美味そうだったおでんのサトイモ、牛すじ、糸こんにゃくをいただく。

サトイモをほうばったら、火傷しそうな熱さで思わず「アチチチ」と声を上げてしまう。一人客中心の店内に私の声が響き、なんだかバツが悪い。でも、笑ったり白眼視したりする客もいないし、兄さんも無関心。それでいいんだ、角打ちなんだから。

北九州の角打ち文化。もっともっと触れてみたくなったよ。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2010年11月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

※直方市での飲み歩きはこちら


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