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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第82回「ここは大阪か?沖縄か?いえ、東京経堂です」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第82回「ここは大阪か?沖縄か?いえ、東京経堂です」である。


はじめに

東京都世田谷区にある経堂が近年、住みやすいまちとして人気が高まっているそうだ。一昔前まで「キョードーって、どこにあるの?」というマイナーなタウンだったような気もするが、個人的な偏見だったらご勘弁願いたい。

そんなわけで、今回は経堂で夜酒をいただく。小田急線沿線にあり、学生街でもある経堂に、果たして気の利いた酒場があるのだろうか・・・飲み歩きを考えたことも無かった未知のタウンだけに、不安も期待も交錯する。

まあ、行けば行ったで、何とかなるものだよ。レッツゴー!

経堂「すし勝」~立ち食い寿司をつまんで

今回は経堂駅の南側のエリアで飲み歩きをする。北口方面に面白そうな酒場があるとの情報を得ていたが、南口からの経堂農大通り商店街にも、ところどころに飲食店がある。

ホテルにチェックインして夜の商店街に出向く。口開けにやって来たのは「すし勝」。屋号を見れば寿司屋とわかるのだが、ここはカウンターのみの立ち食い寿司。フラリと入ってサッと飲める寿司屋。いいじゃないか。

カウンターに陣取り、まずは日本酒の一ノ蔵を頼みつつ、どんなネタがあるのか物色する。店は親父さんが一人で切り盛りしているので、注文のタイミングが難しい。頃合いを見て、スズキとカサゴを頂戴する。なかなか美味しい。

追加したいところなのだが、何しろ注文があちこちから飛び交っているので、親父さんはとても忙しい。だからだろうか、親父さんがお客の注文のブリを「ウニ」と聞き違えてしまうハプニングまで起こってしまう。が、捨てる神あれば拾う神ありだ。

「私、好物なんでウニいただくよ」。

ご常連の一言でウニが宙に浮かばずに済んだ。この阿吽の呼吸が素晴らしい。親父さんは改めてブリを握り直して提供。注文した客はかえって恐縮していたほどだ。

私も親父さんにホウボウ、生しらす、コハダ、タコを握ってもらうとするか。

経堂「またきて家」~関西風を守る串カツ店

次にやって来たのは、これも商店街にある串カツ店「またきて家」。なんだか関西っぽい洒落の利いた屋号じゃないか。早速入ってみると、入り口にはビリケンさん。どうやら、正真正銘の関西風串カツの店らしい。

嬉しいことにキャベツは自由に食べることができるし、ソースも二度漬けお断りである。東京に居て大阪のグルメを味わえるとは嬉しい。早速、生ビールと串カツ、紅ショウガ、タマネギ、レンコンを注文。カツが来るまではサメの軟骨梅酢の小鉢物でしのぐ。

酒飲みのサガなのか、大阪での飲み歩きがしっかり身についているので、時々無性に串カツが食べたくなる。ちょうどそんな頃合いだったのかもしれない。やっぱり二度漬けお断りのソースにどっぷり漬けて食べる串カツは美味い。

・・・が、店内に関西弁を話す人はだ~れもいない。

経堂で飲んでいるんだから当たり前と言われればそれまでだが、せめて店員の誰かが関西弁ならよかったな。関西風串カツを食っているので、余計にしっくりこない。

やっぱり、串カツは大阪で飲み食いせな、あかんのかな?(笑)

経堂「がんず~うやき」~大阪の次は沖縄宮古島の酒場へ

次の酒場も商店街で探そう。見つけたのは、商店街から少し小路を入ったところにある居酒屋「がんず~うやき」。変わった屋号だなと思いつつ店内に入ると、沖縄料理の酒場らしい。大阪の次は沖縄か。まあいいだろう。

沖縄の酒ならば、オリオンビールか泡盛といきたいが、ビールは串カツ店で飲んだし、いきなり泡盛のロックもどうかと思い、うっちんハイ(ウコンの泡盛割り)からスタート。肴にはもずく酢とスクガラス豆腐。スクガラス豆腐を食べられるのは、いかにも沖縄っぽい。

店内は、それほど沖縄風に彩られているという感じではなく、ごく普通の居酒屋っぽい。マスターが宮古島出身のようで、宮古島の食材を使った料理も出している。しばらくすると、三線を抱えたマスターが出てきた。いったい何をするのだろう?

店先で三線をポロリ、ポロリと弾き始めるじゃないか。

これはなかなかの趣向だ。三線の音色で店の雰囲気がガラリと変わり、まるで沖縄で飲んでいるような気分に。よし、こうなれば追加は泡盛ロックしかない。宮古島の多良川が醸した泡盛古酒「琉球王朝」をチェイサー付きでいただこう。

音色につられ、ご常連が次々とやって来る。これが「がんず~うやき」お馴染みの光景なのだろうか。マスターもだんだんと興が乗ってきた感じに見えた。が、アピールし過ぎたのか、団体客がドッと訪れてしまい、客対応で演奏を中断せざるをえなくなってしまったのだ。

となれば、私もそろそろ頃合いだな。立ち去るとするか。

経堂「つるすけ」~秋の味覚の王様につられて

もう一軒くらいはしご酒ができそうだ。どこか手ごろな酒場はないだろうか。商店街をウロウロしながら、どうにもこうにも気になって仕方がない張り紙がある。そこには「松茸の土瓶蒸し」と書かれている。まるで、いざなっているかのようじゃないか。

小洒落た雰囲気のある居酒屋「つるすけ」。店に入って真っ先に「松茸の土瓶蒸し、ありますか?」と尋ねる。品切れでは本末転倒だからだ。幸い大丈夫のようだ。ならばカウンターの一角に座って、日本酒を頼もう。

喜多屋(福岡県八女市)の蒼田を頂戴してしばし待つ。時間も時間だけに、店内はかなり酔っ払った母娘と年配のご夫婦が楽しそうに飲んでいる。話の輪に加わるのも一興だろうが、目的はあくまでも「松茸の土瓶蒸し」。それを忘れてはならない。

一人じっくり、秋の味覚の王様を堪能。

う~ん、こんな贅沢な飲み歩きのシメはないな。賑やかな酔客たちを横目に、自分の世界にどっぷり入り込んだ中年男がそこに居たのだった。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2015年9月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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