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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第14回「謎の静岡割りを探しておでん店へ」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・再開の日を、ただ黙々と待ち続けていても仕方ないので、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第14回「謎の静岡割りを探しておでん店へ」である。

はじめに

豊富な海の幸に恵まれている静岡県だが、B級グルメのグランプリで有名になった富士宮焼きそばに代表されるように、ご当地グルメが数多い。県庁所在地・静岡市には「静岡おでん」があり、謎の飲み物「静岡割り」というのがあると聞く。

これは実際に確かめてみなければならない。たまたま、計画していた旅行が中止を余儀なくされ、代わりとなる旅先を探していたところだった。ならば、静岡に出かけようではないか。
そして「静岡割り」の正体を探ってやろう!

袋井の「たまごふわふわ」~摩訶不思議な食感のご当地グルメ

今回は西から東への移動で、愛知県境から浜名湖を通る。ここで名物のウナギといきたいところだが、値が張るグルメは眼中にない。代わって、浜松餃子をビールで流し込む。
宿泊先の静岡市へ向かう前に、昼酒のアルコールを抜くため、ひと風呂浴びるか。

やって来たのは袋井市内の日帰り温泉。袋井駅から送迎バスが出ているのでありがたい。早速天然温泉の湯につかる。身も心もサッパリしたところで、大広間にて休憩。ここで、袋井名物というご当地グルメをいただくことにする。

その名も「たまごふわふわ」。ふざけているのではない。

小ぶりの土鍋にふんわりと盛られた黄色いメレンゲ状のもの。これは見たことがない。早速食べてみようと、レンゲですくおうとしたが・・・スカッと空振りしたかのような感覚。鍋の底にはだし汁が張ってある。汁と泡をすくって口に入れてみる。

あっという間に実質が消失してしまい、卵とだしのうまみだけが残るという摩訶不思議な食感。実体のない茶わん蒸しを食べているのだろうか。まるで肩透かしを食ったかのような「たまごふわふわ」。この食べ物に合いそうな酒は思い浮かばない。

静岡「多可能」~静岡一の名酒場でチビリと飲む

袋井からは贅沢にも新幹線を使った。ホテルのチェックインにはまだ早いが、急いで静岡入りしたのにはわけがある。それは、静岡でいちばんの名酒場に向かうためだ。その名は大衆酒場「多可能」=たかの、と読む。のれんは旧字のくずし字で渋い。

ここは知る人ぞ知る名酒場。店内に入ったとたん、激渋の雰囲気に酔いしれる。我が一人酒の師匠格である太田和彦、吉田類の両氏ももちろん来店している。

地酒の萩錦の燗酒を注文し、早速「静岡おでん」を頂戴する。タネは黒はんぺん、すじ、大根、糸こんにゃく、玉子。黒はんぺんはイワシやサバなどを材料にした練り物で、弾力のある歯ごたえが特徴的。

特徴と言えば、静岡おでんは「チビ太のおでん」である。

ちゃんとした説明をしよう。静岡おでんのタネは串が1本ずつ刺さっており、それをおでん鍋で煮込んでいる。さらに、おでん種に青のりと鰹節をミックスした粉を振りかけるのが静岡おでんの正統な食べ方である。

多可能は、おでんもいいが、カウンターの前に並んでいる大皿料理もなかなか美味そう。そのなかに、見慣れない巻貝が大量に盛り付けられている皿があった。これは「ながらみ」という貝で、一つずつ中身をほじくり出して食べるのがオツだ。

燗酒は小ぶりの徳利瓶に入っており、おかわりするにはちょうどいい。ながらみのほかに、ウドの酢味噌和えをいただきながら、チビリチビリと飲む。大勢の酔客がいながらも、落ち着いて飲めるのは、老舗の懐の深さといったところだろう。美味かった!

青葉おでん横丁「幸多路」~常連も一見も女将も混然一体となる雰囲気

多可能で飲んで、ホテルにチェックインしてひと休みする。夜はこれから。一人酒もこれからが本番。あまりにも口明けがスゴすぎたが、今宵は「静岡おでん」をガッツリいただかねばならない。
そして「静岡割り」にも迫らねば・・・

目指すは、おでん店が居並ぶ飲み屋街。青葉横丁と青葉おでん街に分かれているが、おでんの店ばかりであることには変わりない。もともとは、おでん屋台が連なる一角だったそうだが、その名残は健在だった。嬉しいじゃないか。

赤ちょうちんが煌々と掲げられ、どの店もお客さんでワイワイとにぎやか。歩き回っていると、どこに入ろうか迷いに迷ってしまう。ならば、おでん街の入り口にある店に飛び込んでしまうのがよい。
おでん店「幸多路」に突入だ。

店はカウンターのみ。すでにご常連が何人か座って飲んでいる。カウンターの向こうには女将さんが一人で切り盛りする。おでんの大鍋には、「チビ太のおでん」さながらの串刺しタネがぐつぐつと煮込まれている。おでんの汁は真っ黒だが、これも静岡流だ。

飲み物は・・・「静岡割り」しかないだろう!

緑が鮮やかな静岡割り、これは説明をしなくても一目瞭然。焼酎のお茶割りのことである。ただし、安っぽいお茶ではない。抹茶の粉が入っている。さすがは茶所、ハンパなものは飲ませない。お茶のさわやかな味わいは、いくらでも飲めそうな気にさせる。

静岡おでんのタネは、黒はんぺん、すじ、コンブにしよう。青のりと鰹節の粉を好きなだけかけて食べる。これだけあれば十分。あとは、静岡割りをお代わりするだけだ。

小さな店なので、お客さん同士の距離が近い。一見であってもあっという間に店の雰囲気に馴染んでしまう。地元で何十年と通い続けたご常連でも、私のような旅の者でも関係なく、よもやま話に花が咲く。手が空けば、女将さんも話に加わってくる。

おそらく、横丁やおでん街の多くの店が、同じような雰囲気なのだろう。確かめたわけではないが、飲み歩きを続けてきたオヤジのカンに狂いはない。それが証拠に、どの店からもにぎやかな笑い声が聞こえてくる。

静岡の一人酒は、この後も続いたのだが、もはや余韻にしかすぎない。2軒目の日本酒バーも、3軒目の昭和レトロ風居酒屋も決して悪くはない。だが、「多可能」と「幸多路」が、あまりにも濃密過ぎた。

横丁ではしご酒をすれば・・・そう思っても、後の祭りであった。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2009年2月の備忘録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

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マイケルオズ@日々挑戦する還暦兄さん(フリーランスライター)
noteでは連載コラム、エッセイをほぼ毎日書いています。フリーランスのライターとして活動中ですが、お仕事が・・・ご支援よろしくお願いいたします!