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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第7回「大阪の超激安酒場が最後に待ち構える」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって2年半・・・再開の日を、ただ黙々と待ち続けていても仕方ないので、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第7回「大阪の超激安酒場が最後に待ち構える」である。


はじめに

大阪での飲み歩きがしっかりとヤミツキになった。初挑戦から半年後、早くも2度目の大阪入りとなる。1日目には、京橋では知る人ぞ知る名物立ち飲み酒場「岡室酒店直売所」への初来店など、大阪酒場をたっぷり堪能させてもらった。

そんな今回の飲み歩きのハイライトは、最後の最後に待ち構えている。その店は「昭和時代の遺産」であり、最も大阪らしい超激安酒場。ここを語らずして、私の体験談エッセイは成り立たない。店は新世界ジャンジャン横丁の道向かいにある。

あわてなさるな!まずは順を追ってジャン横での一杯から始めよう。

新世界「酒の穴」~渋い酒場で食う八宝菜

新世界は、かつて「朝っぱらから飲んだくれるおっちゃんたち」が似合うまちだった。それが、串カツ人気でだんだんメジャーなまちに様変わりした。派手な看板が林立する人気観光スポット。まるで串カツのテーマパークや。

まだ正午前だったが、すでに人気串カツ店の前にはズラリ。並んで待っていても食いたいんだな。そんな行列の脇に、いかにも渋そうな店を見つけた。私には有名店より、こっちの方がいい。名物八宝菜の看板を掲げる酒場「酒の穴」だ。

店構えも渋いが、店内も変形コの字カウンターも渋い。人気串カツ店の行列客とは、客層が全然違う。あきらかに地元ご常連のおっちゃんたちばかり。かつての「飲んだくれ」がたむろしていた頃の雰囲気がそのまま残っているのだろう。

口明けは生ビール。串カツの牛、豚、レンコン。そして名物の八宝菜200円は外せない。この店の串カツは「二度漬け禁止」ソースではない。チューブに入ったソースをかけて食べる。でも、ちゃんと注文後に揚げているから、マズいわけはない。

それにしても何から何まで渋い。ご常連には、賑やかな方もいれば、静かに黙々と飲んでいる方もいる。ジージャンにワイシャツというラフな格好の私でさえ浮いている感じ。ジャンバーやジャージでなければ、この店には似合わない。

それにしても、八宝菜がちっとも出て来ない。

隣のおっちゃんとほぼ同時に注文したはずだ。おっちゃんの分はすぐに出たのに・・・と思っていたら、以心伝心か、おっちゃんが「忘れられているようやね」と声をかけてきた。こういうおせっかいも大阪らしい。

注文し直して、すぐに八宝菜を作ってもらった。中華料理の八宝菜を思い浮かべてはいけない。とろみをほとんど感じない「中華風のシチュー」である。だが、名物とうたっているだけあって、これが美味い。あっさり味は、酒の中ジメにもぴったりなのだ。

新世界「やまとや」~ダブルで飲まにゃあ

2軒目は変わり種がある串カツ屋で軽く飲む。スマートボールで遊んだあと、3軒目を求めてさまよう。ちょうちんがズラリ、ズラリと並んでいて目立ちまくっている店がある。「やまと屋」。界隈で2号店、3号店などとチェーン展開している有名店だ。

店によっては立ち飲みスタイルもあるが、私が入ったのは本店で、カウンター席に通された。早速おばちゃんが注文を取る。3軒目なので、セーブして日本酒1合を頼んだのだが・・・

「にいちゃん、ダブルいかへんの?」と聞かれた。

ダブル、すなわち2合である。飲むつもりなら、後で追加すればいいと思いがちだが、おばちゃんがダブルを勧めたのには理由がある。それは「ダブルを注文すると1合おまけ」。すなわち、合計3合飲めるという驚くべきサービスだからだ。

ビールの場合は、中ジョッキ2杯で小ジョッキ1杯のおまけ。さすがは食い倒れ、いや飲み倒れの大阪である。残念だが、私のアルコール許容量がサービスには耐えられそうにない。今回は1合で断念させてもらった。

この店では、初めて「生ぎも」をいただいた。生ぎもとは生レバーのことで、この当時はまだ禁止されておらず、大阪の酒場では定番の肴だった。味についても触れたいところだが、やめておこう。ただ一言だけ。「生ぎも」は大阪を代表する食文化だった!

動物園前「大万」~超激安の昭和酒場

そろそろ、ハイライトに向かうとするか。その店は、ジャン横と国道を挟んだ対面、地下鉄動物園前駅入り口近くにある。このエリアは西成区のディープゾーンに位置するが、国道沿いなので多少はあかぬけている。とはいうものの、その店の外観には度肝を抜かれた。

漫画「じゃりん子チエ」のホルモン焼き屋のような感じ・・・いや、それ以上である。大阪の大衆酒場に徐々に慣れてきたとはいえ、さすがにその店に入るのには勇気がいる。でも、ここまで来たのだから。その店とは、大阪一の超激安酒場「大万」である。

ご年配の女将さんが一人で切り盛りしているカウンターだけの店。それも数人しか座れない。目の前には年季の入った鉄板とタッパがある。まずは何か注文しなければならない。日本酒を頼むと、女将さんはアルマイトで酒を温め、コップに注いでくれた。

超激安と書いたが、ホルモン焼きと串カツは1串30円!!!

品書きを見て一瞬目を疑ったが、間違いない。まずホルモンを注文してみる。串刺ししてあったホルモンを、女将さんがおもむろに鉄板に置き、串の上からコテを当てて温める。ジュワーっと脂がにじみ出てくる。

これまた年季の入ったアルマイトの皿にホルモンを乗せ、刻んだキャベツ数切れとともに供される。一見客だと見抜いた隣のおっちゃんが「この店、早いやろ」とニヤリ。

串カツの方はというと、どこの部位かわからない「かけら」のような串刺し肉に衣をつけ、いかにも使い古したような真っ黒い油で揚げる。お客の注文の合間に作り置きし、注文があると、油通しして温めなおしてくれる。

30円のホルモン、串カツの味を論じても仕方がない。値段相応と言っておこう。そんなことよりも、昭和にタイムスリップしたような「大万」で飲むことにこそ価値がある。
この店の真価は、たった一回では分からない。また来よう。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2007年3月の備忘録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

★店舗情報などを載せています→ブログ「ひとり旅で一人酒」

★宣伝です!私の著書が発刊されました。よかったら読んでみてください。


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マイケルオズ@日々挑戦する還暦兄さん(フリーランスライター)
noteでは連載コラム、エッセイをほぼ毎日書いています。フリーランスのライターとして活動中ですが、お仕事が・・・ご支援よろしくお願いいたします!