私だけの特捜最前線→73「誘拐、誘拐Ⅱ~前後編でガラリと印象が変わってしまったドラマ」
※このコラムはネタバレがあります。
特捜最前線では、身代金目的の誘拐をテーマにしたドラマがいくつかありますが、今回紹介する「誘拐」は、第66回「誘拐・東京―函館縦断捜査」、第67回「誘拐Ⅱ・パニックイン・函館」の前後編になっています。
金を奪った老人は元警察官だった
前編の「東京―函館縦断捜査」は、サスペンスと緊張感のあるストーリーになっています。ドラマは、銀行に天下りした元警視庁幹部(天津敏)の娘(鳥居恵子)が誘拐され、身代金を要求する電話がかかってきたところから始まります。
犯人は527万7500円をすべて100円玉でそろえろという要求をしました。その金を持って列車に乗り込んだ元幹部のスキをついて、老人(吉田義夫)が奪おうとしますが、特命課が阻止して老人は逮捕されたのです。
老人は元警察官で、上司の発砲命令に従って犯人を射殺してしまい、懲戒免職となっていました。その上司が元幹部だったのです。黙秘していた老人は、津上刑事(荒木しげる)の静止を振り切って飛び降り自殺しました。
その直前の取り調べで、老人は船村刑事(大滝秀治)に悪態をつき、取調官を代えろと要求していました。死を覚悟していた老人は、若い刑事なら失敗しても取り返しがつくと考えていたのです。
要求額は、老人が定年まで勤めていれば受け取れた退職金額でした。「なんで心を見抜けなかったのか」と悔しがる船村。しかし、事件はこれで終わったのではなく、犯人側からさらなる身代金要求が出されたのです。
誠直也さんのアクションシーン
元幹部の秘書がトランクを持って、北海道苫小牧行のフェリーに乗船したのを追跡した紅林刑事(横光克彦)と吉野刑事(誠直也)。乗船者の中に元刑事(中田博久)がいることが判明します。
この元刑事は、凶悪犯の取り調べが行き過ぎて免職処分になっていました。しかも、取り調べを命じた上司が元幹部だったのです。元刑事は、秘書からトランクを奪って、貨物列車に乗って逃亡を図ります。
ストーリーとは外れますが、誠直也さんが走っている貨物列車に飛び乗る場面、さらには貨車の上での誠さんと中田博久さんの格闘へと続き、二人の体を張ったアクションシーンは、特撮顔負けの迫力満点!
結局、二人とも貨車から振り落とされ、元刑事は転落死してしまいます。身代金の2700万5千円は、体の不自由な我が子のために、元刑事が退職までに積み立てる計画だったはずの金額でした。
ところが、老人も元刑事も単なる共犯者に過ぎませんでした。主犯格の男(石山律雄)は、元幹部から時価1億2千万円相当の金貨を受け取ることに成功します。男は身代金を奪えたら、娘を解放するつもりだったのです。
支離滅裂な後編の展開・・・
後編の「パニックイン・函館」は、前編とは雰囲気が全く異なります。ちなみに主犯格ですが、彼は元捜査主任で、元幹部が指揮する汚職事件の捜査方針に反した行動の責任を取って退職していたのです。
その後編ですが、誘拐されたはずの娘が、なぜか主犯格に恋愛感情を持ってしまい、逃亡を手助けするという展開。しかも、主犯格の愛人である水商売女(有吉ひとみ)と張り合う場面まで出てくるほどです(苦笑)
娘の行動はエスカレートし、主犯格に父親が所有するセスナ機を手配するという無謀さ。ただ主犯格は、逮捕された愛人を釈放させるため、セスナ機を使って爆弾投下の脅しを仕掛ける結果になってしまいます。
これに輪をかけて無茶苦茶なのが元幹部。なんと、セスナ機の燃料タンクに穴を開けていたのです。しかも、娘が同乗していなかったのをいいことに「このまま飛べば墜落するだけだ」とまで言い切るほどです
この言葉には、さすがに神代課長(二谷英明)も「たとえどんな人間でも命を奪う権利は我々にはない」と激怒。主犯格の要求通りに愛人を釈放し、セスナ機を着陸させるよう訴えかけたのです。
しかし、愛人の逃亡を確認した主犯格は、セスナ機を郊外の山腹に激突させて爆死。誰一人言葉を発しないまま、エンディングテーマの「私だけの十字架」が流れ、後味の悪いドラマが終わってしまいました。
理解に苦しむ娘と元幹部の行動
正直に言わせてもらいます。前編だけが傑作でした。後編も単発のストーリーだったら面白い作品だったのかもしれませんが、前編とセットになるとどうしても凡作と言わざるを得ないのです。
まず、誘拐された娘の思考と行動が全然理解できません。後編の展開に備えてなのか、監禁されていた前編から、主犯格に対して「あなたは悪い人じゃない」と言わせています。でも説得力がありません。
どうせなら、監禁されていた娘に犯人グループが、父親である元幹部の卑劣な無責任ぶりを徹底的に罵り、娘が父親に憎しみを持つような設定にすれば、主犯格に対する気持ちの変化も理解できたと思います。
また元幹部が、現役時代に部下の不始末から責任逃れをし、それが事件の引き金になったというのは、組織にはよくある話ですが、理解できないのは娘の言いなりのままセスナ機を用意し、細工まで施したことです。
娘を誘拐した主犯格への仕返しのつもりにしては、燃料タンクに穴を開けるのは極めて悪質です。未必の故意による殺人未遂に問われかねません。警察出身者である元幹部の行動としては不可解の極みです。
後編でも、本郷功次郎さんがセスナ機にしがみついたり、車とセスナ機のカーチェイスがあったりと、派手なアクションシーンがありました。ただ、肝心のストーリーが・・・といったところですね。
いつも評価ばかりでなく、たまには辛口の感想も書きますよ(苦笑)
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