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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第44回「尾張・美濃の大衆酒場へ出陣じゃあ!」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第44回「尾張・美濃の大衆酒場へ出陣じゃあ!」である。


はじめに

コロナ禍の前までは、毎年7月は大相撲名古屋場所観戦に出かけていた。観戦がメインだった頃もあったが、だんだんと観戦に付随したプランに重点を置くようになった。2015年は大衆酒場を巡るのが、目的の一つになっていたのだ。

1日目の夜は名古屋、2日目の夜は岐阜市に宿を取る。昔流で言うならば、尾張国と美濃国への来訪である。そういえば、岐阜駅前には織田信長の金ピカの像がそびえ立っている。戦国時代を代表する信長にあやかって、ひと声かけてみよう。

大衆酒場へ出陣じゃあ!

名古屋伏見「大甚」~全国でも屈指の名酒場が名古屋にあり

大相撲名古屋場所観戦以外でも、名古屋は西への旅行の中継点として数限りなく足を踏み入れている。当然、いろいろな酒場を巡っているわけだが、今一つ飲み歩いたという印象が薄い。なぜなのか。

偏見じみていて申し訳ないが、長い間「名古屋には粋な酒場がない」と思い込んでいた。だが、それは名古屋を知らな過ぎただけだった。今宵訪れる大衆酒場「大甚」に行かずして、名古屋の酒場を語ることなかれと、若き自分に言いたいくらいだ。

早速店内に入る。テーブル席が並ぶ大バコ酒場だな。

ほぼ満席だったが、私と入れ替わりに店を出たグループ客の座っていたテーブルに陣取り、まずは生ビールをいただく。肴は、厨房近くにあるガラスケースなどから自分で持ってくるのが流儀のようだ。

アサリのヌタを手にする。すると近くにいたオヤジさんが「酢味噌っ」と声を掛け、すかさず店員がヌタに酢味噌をかけてくれる。続いてシャコのボイル。こちらは醤油をサッと流しがけ。この手際の良さ、さすが名酒場だけのことはある。

「大甚」の存在を知ったのは、例によって吉田類さん、太田和彦さんの2巨匠のおかげである。太田さんは、大阪阿倍野の明治屋、東京北千住の大はしと並び称するほど、大甚を名酒場と絶賛している。確かに、明治屋や大はしに匹敵する店に違いない。

テーブル席なので、否が応でも相席になる。それが嫌なら、こういう酒場では飲めない。相席だからといって、他のお客に迎合する必要はない。一人黙々と飲めばよい。でも、酒場の喧騒感だけはしっかり味わいたい。

追加で日本酒の徳利、赤貝の刺身を注文。酒の肴にピッタリの一品をそろえているのもうれしい。勘定をお願いすると、店員が慣れた手つきでソロバンをパチパチはじいて計算する。電卓なんて野暮なものは使わない。

何から何まで粋な酒場。ごちそうさんでした。

岐阜「ニューナガズミ」~豪快な炎の調理と幻の酒

岐阜市入りしたのは、翌日の夕方だった。いろいろあって予定より1時間ほど遅れてしまったのが気がかりだ。

というのも、お目当てにしていた駅近くの老舗酒場が「売り切れ御免」の昼営業だったからである。ギリギリ間に合うかとも思ったのだが・・・残念ながら店のオヤジさんが炭火を片付けていたところだった。

幸先は良くないが、気を取り直して夜の飲み歩きに出るか。

そんなわけでやって来たのは、居酒屋「ニューナガズミ」。通りに面したオープンスペースの店構えで、開放感があっていい。魚系のメニューが多そうだったので、岐阜の地酒「薄墨桜」を頂戴し、生タコ刺し、長良川の天然アユ塩焼きを頼んだ。

客層は若い人が多く、そのせいかワイワイとにぎやか。小ぶりのアユをぱくつきながら、何気なく厨房を眺めていた。すると、店員さんが鉄板の上に生うにを並べ・・・なんと、上からバーナーで炙り始めた!

演出ではないだろうが、目の前で見せてもらうと豪快そのもの。炙ったのはウニだけでなく、カツオも。炎が立ち上がり、焼くと言うよりは燃やすという表現が合うほどだ。

もう一杯何か飲もう。メニューに「ホイス」の文字があったので、興味本位に頼んでみた。どうやら焼酎の割り材のようで、目に前に出てきたのは一見酎ハイ。飲んでみると、薬草成分のような怪しげな味で表現が難しい。

エッセイを書くため、改めて調べてみると、ホイスは東京の小さな会社が製造しており、生産量が少ないため、飲食店用の出荷だけで小売りはしていない。昔飲んだことがあるような、無いようなという記憶。幻の酒と言われるゆえんである。

岐阜「晩酌の店三平」~激渋酒場で静かに飲むのもよし

若者の姿が多かったせいか、岐阜駅前界隈には今風っぽい酒場が目立つように思えた。それも悪くないが、できれば昔ながらの酒場に行きたい。柳ケ瀬という歓楽街まで行けば何とかなるかもしれないが、歩くのは面倒だ。

と、そこに渋そうな酒場「晩酌の店三平」を見つけた。

ダメ元と思って店内に入ると、厨房をグルリと囲んだカウンターがあり、その真ん中に女将さんが立ち、一人で切り盛りをしている。カウンターの周りには美味そうな大皿料理が並ぶ。これは期待通りではなかろうか。

芋焼酎のお湯割りを注文し、大皿料理の中から昆布の煮物、沖漬けを頼む。カウンターには酔客が何人か座っており、しばしご常連の会話を盗み聞きしながら、静かに飲む。

居心地がいいので、さらに日本酒を追加。すると、向かいに座っていたご常連が声を掛けてきた。一見客が渋い酒場に入り込んできたのが珍しかったのだろう。私が旅行者だと知ると「よく来てくれた」と歓迎してくれた。

ワイワイと喧騒の中で飲むのも楽しいが、オヤジたちのマイペースな雰囲気に包まれて飲むのもいい。どちらも酒場の醍醐味。一人酒であっても変わることはない。

そろそろ頃合い。ホテルへと退却じゃあ!


今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2015年7月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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「ひとり旅で全国を巡ろう!旅道楽ノススメ」→note連載中の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」もヨロシク!


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