酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第95回「隠れ里のようなまち・阿佐ヶ谷で飲み歩く」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第95回「隠れ里のようなまち・阿佐ヶ谷で飲み歩く」である。
はじめに
平成最後の年となる平成31年(2019年)1月も恒例の初詣&飲み歩きのため東京へ出かけた。本来なら楽しく出発するはずだったのだが、出発当日に会社で左遷の内示を告げられるという、不本意このうえない旅立ちになった。
内示は内示として、せっかくの飲み歩きにまで仕事を引きずっていては面白くない。いったん、きれいさっぱり忘れて道楽に没頭しよう。初詣で仕事のことをお願いせずに済んだのだから、と考えることにする(笑)
さあ、今宵は夜酒できれいさっぱり洗い流そう。
阿佐ヶ谷「鳥久」~焼き鳥がウリの激渋酒場
「はじめに」で仕事のことを書き始めてしまったため、肝心の飲み歩きタウンの紹介が遅くなってしまった。今回やって来たのは中央線の阿佐ヶ谷。我ながら激渋なチョイスだ。
それというのも、中央線沿線には中野、高円寺、荻窪、西荻窪、吉祥寺と、名だたる酒場街がずらりと居並ぶ。高円寺と荻窪の間にある阿佐ヶ谷は、あまりメジャーではない。なんとなく「隠れ里」のようなまち、という感じがする。
降り立ってみるまで雰囲気は分からなかったが、いざ駅を出て界隈をちょっと歩いてみると、渋い昭和の酒場街の匂いが漂う。そして、雰囲気にマッチした激渋の居酒屋、小料理屋が点在する。これは楽しみだぞ。
いつものように駅近くのホテルにチェックインし、シャワーをザッと浴びてから阿佐ヶ谷のまちに繰り出す。下見の際に酒場をいくつかピックアップしておいたが、そのうちの一軒で吉田類さんも訪れた名酒場がある。が・・・
「風邪のため今週は休みます」の張り紙。
あららら・・・出鼻をくじかれた。まあ、しょうがない。界隈にはほかにも酒場がある。仕事だって、思い通りにはいかないじゃないか・・・・おっとグチはやめておくぞ。
そんなわけで改めて口開けでやって来たのが「鳥久」。たたずまいから渋さを感じさせる昭和っぽい酒場。中に入ると開店から間もないというのにほぼ満席状態。カウンターの一角を辛うじて確保し、人心地ついた。
焼きとりではなく、正真正銘の「焼き鳥」を看板にしているようなので、生ビールとともにレバ、軟骨、首肉を注文する。真冬であっても風呂上がりだからビールが美味い。お通しをいただきながら、ゆっくりと焼き上がりを待つ。
焼き鳥、看板だけあってさすがに美味いぞ。
とくに、めったに注文しないレバが、ジューシーに焼き上がっていて美味い。これは一軒目からベストチョイスの酒場に巡り合えた。大将、女将さん、息子さんの家族経営で、ご常連が店を支えている。だから、酒場激戦区の中央線沿線で生き抜いていけるんだろうな。
阿佐ヶ谷「燗酒屋」~女将さんの丁寧な接客に酔う
店を出ると外は寒い。真冬なのだから当たり前か。そこへ一本の電話。内示のことを聞きつけた後輩からだった。おいおい、せっかくきれいさっぱり忘れていたのに、記憶をよみがえらせるんじゃない。適当にあしらって、サッサと電話を切らせてもらったよ。
心身共に寒くなってきたので、これは熱燗をいただくしかなかろう。おあつらえ向きに小料理「燗酒屋」があるじゃないか。屋号が気に入った。これは入ってみるしかないぞ。
店は女将さんが一人で切り盛りしており、カウンターと小上がり一つだけ。そこそこお客さんが入っていたせいか、女将さんは「今混んでいるので少しお待ちいただきますけど、よろしいですか」と丁重なご挨拶。待つくらい全然平気ですよ。
まずは白鷹の燗酒。これは外せないだろう。肴にはホッキ貝の刺身をいただこうと思うが、女将さん一人なので料理は順番待ち。いいよ、いいよ。お通しをいただきながら、ゆっくりと待つことにしよう。
「お待たせしてすみません」と、いちいちお詫びする女将さん。
ここまで丁寧な接客に触れたのは久しぶり。しかも、ホッキ貝が小ぶりだったため、値引きをしていただいた。これは追加で白子のポン酢と燗酒のお代わりをいただかなきゃな。
この店もご常連さんが多いようで、料理の出がゆっくりでも誰も文句は言わない。そして静かに、でも楽し気に酒をたしなんでいる。まさに大人の酒場とは、この店のことを言うんだろうな。そんな酒場が似合う年齢に俺もなってきたんだよ。
阿佐ヶ谷「和田屋」~珍しいジビエ・鹿カレーに舌鼓
さあ、3軒目へ行こう。もはや、仕事のことも、さっきの電話もすっかり忘れ、いつものゴキゲンな気分で阿佐ヶ谷のまちを闊歩している。入りたいような酒場がいくつもあって目移りするが、鳥久の隣にある大衆割烹「和田屋」にしよう。
ここも鳥久や燗酒屋に負けず劣らず、いや、もっと激渋で昭和の雰囲気が漂う酒場。前2軒よりは多少大箱っぽいが、家族経営の店とすればまずまずのキャパ。日本酒はたっぷり飲んだので、まずは黒ビールからいこう。続いて肴。
珍しい「鹿カレー」がある。これでいくか。
カレーを食うといっても、ご飯がセットされたものではなく、正真正銘のおつまみ。しかも、ジビエである鹿肉を使っているというのは珍しい。ルーだけのカレーは、ジャガイモがゴロゴロと入っており、鹿肉よりも自己主張が強い。
一緒に頼んだのがポテトサラダだったので、完全にジャガイモがバッティングしてしまったが、ミスマッチと言うなかれ。両方ともビールにピッタリの肴じゃないか。しかも腹いっぱいになってくれるのも嬉しいぞ。
すっかりご機嫌になって店を出て、さらにもう一軒と界隈をぶらついてみた。面白そうな酒場はまだまだありそうだ。このまま阿佐ヶ谷でベロベロに酔っ払うのもいいけど、明日の初詣と昼酒も待っている。ここはボチボチお開きということにするか。
隠れ里阿佐ヶ谷にある激渋酒場よ、ありがとう。
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2019年1月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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