酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第27回「奇想天外!大阪から東京へ~東西名酒場めぐり」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第27回「奇想天外!大阪から東京へ~東西名酒場めぐり」である。
はじめに
大阪で開催される大相撲春場所の観戦を数年来続けている。1日目が大相撲観戦、2日目が大阪での昼飲みというのが定番だ。このパターンもちょっと飽きてきた。だったら、奇想天外なプランを立ててみるかな。
そんなわけで、今回は大阪から東京へ飛行機で移動して飲み歩くという驚天動地の一人酒を企画した。こんなプランは一度きり・・・だから面白い。大阪ではごひいき酒場、東京では名酒場のあの店に行くぞ。
東西名酒場めぐりとなった一人酒の一日を綴っていこう。
萩ノ茶屋「酒のもりた」~女将の客あしらいも肴に
前夜は新世界に腰を据えて一人酒を楽しんだ。そのまま、界隈にある安いホテルに一泊した。もともと「ドヤ」と呼ばれる簡易宿泊所の多いエリアだが、近年では外国人のバックパッカーが盛んに利用しているそうだ。
本日は昼間に飛行機での移動が待ち受けている。だったら、朝酒としゃれこみたい。足が向いたのは、すっかりおなじみとなった萩ノ茶屋商店街。新今宮駅のコインロッカーに荷物を預けてから出発。どっちみち、関西空港まで行かねばならない。
萩ノ茶屋商店街をぶらつく。相変わらず高齢男性の姿が目立つが、もう驚かない。さすがに朝からやっている飲み屋は限られている。が、探せばちゃんとある。そのなかで私が選んだのは、すっかりごひいきにしている「酒のもりた」だ。
店内には年配者だけでなく、若いカップルもいて、すでに出来上がっている感じ。カウンターの中では女将さんが、明るく切り盛りをしている。早速注文しよう。日本酒と湯豆腐からだ。湯豆腐は朝のタイムサービス品で100円という激安。
いつもなら、はしご酒をするために1軒の滞在時間は短め。でも今日は、東京まで移動するための「中抜け」時間がたっぷりある。「酒のもりた」で腰を据えて飲むというのも、いいかもしれないな。
朝酒はさすがに体の芯まで浸みまくる。それでも、おかわりに芋焼酎のお湯割り、さらしクジラ、ポテトサラダを追加。腰を据えていると、だんだんと店の雰囲気になじんでくるものだ。
それにしても、ご常連はツワモノぞろいである。
ベロベロに酔って来店したおっちゃんは、女将さんにダメ出しされても食い下がり、前金でビール一本を辛うじて飲ませてもらっている。カップルの女性はすっかりできあがってしまい、女将に「飲み過ぎなや」とクギをさされて店を出ていった。
そして、カウンターに座るスケベオヤジ。女将に「乳揉ませろ」と超セクハラ発言をぶつけてくる。が、女将に軽くいなされてしまう。オヤジに「芸者にもなれんわ」と悪態をつかれても涼しい顔をしている。酔客のあしらい方は慣れっこのようだ。
隣に座っていて、静かに飲んでいたおっちゃんに話しかけられる。「見たことない顔やね」と言われつつも、徐々に話ははずむ。おっちゃんは他の店の常連だったそうだが、嫌なことを言われて二度と行かなくなったとか。
飲み歩き人生、いろいろやね。
萩ノ茶屋でもう一軒~そして関西空港から羽田空港へ
「酒のもりた」で初めてしこたま飲んだ。少しだけ時間があったので、もう一軒「難波屋」にも立ち寄る。ディープな店だが、どこかのんびりとした、悪く言えばダルな雰囲気が漂う。レモンハイときずしだけいただき、サッと店を出る。
それにしても朝酒はかなり回るらしく、酔っぱらっているぞ。
でも、この先しばらくはアルコールを断てる。新今宮駅から南海電車の特急ラピート号で関西空港へ到着。搭乗手続きを済ませ、羽田行のジャンボジェット機に乗る。飛行機は酔いが回りやすいと聞いたことがあるが、フライト中かなりクラクラしていた。
羽田空港に到着し、モノレールで浜松町まで行く。だんだんとアルコールが抜けてきたのはありがたい。ほんの数時間前まで「酒のもりた」で飲んでいたのに、今は東京に居るというのが不思議な気分だぞ。
北千住「大はし」~「ほいきた」の掛け声とともに
東京で寄る酒場は決まっていた。その店は夕方開店となるので、それに合わせて北千住へと向かう。北千住界隈もいつか飲み歩きたいと思っていたエリアだ。そこに、東京三大煮込みの店の一つがある。大衆酒場「大はし」である。
開店前から10数人が並ぶ人気ぶり。私もその列に加わり、開店と同時に無事カウンター席に着くことができた。アルコールはすっかり抜けているので、酒飲みモードになっている。まずは何を置いても煮込み。それをキンミヤ焼酎の梅エキス割りと合わせる。
注文が入ると、親父さんの「ほいきた!」が飛び交う。
ほとんどのお客は煮込みか肉豆腐を頼んでいる。ボトルキープのご常連も多い。この店の煮込みは牛のカシラを使っているとか。これは美味い。後ほど注文した肉豆腐も、豆腐に味がしみ込んでいる。さすがは三大煮込みと言われるだけのことはある。
店構えも渋く、店内もお客のワイワイ感はあるのだが、どこか落ち着ける。まさに「飲むだけのためにある店」なのだ。はしご酒を考えなくてもいいので、小ビール、シャコの南蛮漬け、肉豆腐、さらに燗酒、ウニ、煮こごり・・・次から次へと追加していく。
そろそろ定量となり勘定をしてもらう。親父さんに声を掛けると、年期の入ったそろばんをパチパチはじいて計算してくれる。粋じゃないか。こういう店で飲んでこそ、飲み歩きの醍醐味というものだ。
北千住ではもう一軒入ったのだが、残念ながら印象は薄い。その店がどうのこうの、というよりも、大阪萩ノ茶屋の「酒のもりた」、東京北千住の「大はし」が、あまりにも凄すぎたという一言に尽きる。
東西の名酒場めぐり・・・飛行機を使った甲斐があったな!
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2013年3月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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