なぜ徹夜の末に入稿してしまったのか
こんにちは。Miyagawaです。
先日開催されたコミックマーケット100に、サークル「Miyagawa Design」として初めてのサークル参加しました。
頒布したのは、TVアニメ『神のみぞ知るセカイ』シリーズの英単語帳『God Only Knows 攻略超特急 神のフレーズ』です。
↓本の詳細はこちら
noteのタイトルにもある通り、今回の制作、徹夜の末に入稿しました。
8/6の9時が締め切りだったのに対して、入稿したのは8/6の7時。
入稿の締め切りが遅めの印刷所を選んでおいてこの有様です。
今後、徹夜入稿を避けるためにも、何が問題だったのか、どこをどう改善すればいいのか、振り返って記録しておきます。
制作開始時のプラン
最初に、『神のフレーズ』をどのように制作する予定だったかを振り返ります。
プラン① 1期分の制作を1サイクルとして、3サイクル回して作る
『神のフレーズ』は3部構成となっており、1期、2期、3期それぞれの楽曲に登場する単語を掲載しています。
そこで、
1期の単語ページ
表紙や扉ページなど
2期の単語ページ
3期の単語ページ
という順で制作すれば、どんなに予定が遅れても1期の原稿は仕上がり、入稿できるはず、という原稿落ちのリスクを大幅に低減する作戦を立てました。
完璧を目指すよりまず終わらせろ、というやつです。
プラン② InDesignのデータ結合で自動化する
単語ページは同一のレイアウトの繰り返しです。なのでテンプレートを作って、テキストをコピペしていけば完成します。
しかし、1期あたり100単語を取り扱う予定なので、人力でコピペするのはしんどいです。ミスも起こりやすくなります。
完成した単語掲載ページを見ると、1単語あたり7項目(左から順に、番号、和文、英文、英単語、品詞、単語和訳、解説、)のコピペが必要です。
100単語扱うと、コピペは700回。
1期、2期、3期を合計すると、総コピペ回数は2100回! 数字を見るだけでウンザリします。
そこで、InDesignのデータ結合機能でページの生成を自動化することを考えました。データ結合とは、InDesignでテンプレートを作ってCSVを読み込み、テキストフレームにCSVの列を割り当てると、CSVの行の数だけテンプレート通りに自動生成してくれる機能です。
プラン③ GASで自動化する
データ結合を利用するためには、最終的に原稿をCSVにする必要があります。そこで、CSVでエクスポート可能なGoogleスプレッドシートで、原稿を作成することにしました。
具体的には、
歌詞から単語を選ぶためのシート
選んで単語を抽出し、対応する歌詞の英文と和訳を転記するシート
この2つのシートを作成し、2のシートを原稿としてCSV化してInDesignに読み込ませようという計画です。
2のシートを作る作業がコピペの連続になってしまうので、1のシートで選んだ単語から、2のシートを作成する作業をGAS(Google Apps Script)で自動化することを考えました。
良かったこと
データ結合とGASによる自動化を実現し、かなり作業量が減りました。それだけでなく、単調な作業の繰り返しを避けられたので、作業のストレスが軽減されたと思っています。
これらの自動化二刀流なしに今回の制作は実現しなかった、といっても過言ではないと思っています。
データ結合もGASも使うのは初めてでしたが、思った以上に簡単に使えました。
問題点
ここまで読んだくださったあなた、きっとこう思っているでしょう。
「自動化二刀流を実施したにもかかわらず、なぜ徹夜の末に入稿してしまったの……?」と。
そう。ここからが、本題です。
徹夜に至った原因を探るべく、いつどんな作業をしたか、制作の進捗記録をガントチャートにまとめました。これをもとにして、今回の制作の問題点と対策を書いていきます。
問題① 原稿の開始が遅く、コミケ当落が出てから、特に7月に作業が集中してしまった
上のガントチャートを見ての通り、6〜7月に作業が集中してしまいました。制作期間を5ヶ月もとっているのに、3〜5月は準備程度の作業しかしておらず、実質的に1ヶ月半ほどで制作してしまっています。
その原因として、
3〜5月はスクリプトとデータ結合で自動化することが、制作の本丸と誤解していた。
作業が進むにつれて、新たなタスクに気付く事態に陥った。つまり作業の洗い出しができていなかった。
表紙と原稿以外のページ(目次、序文、扉など)は原稿と並行して進められるのに、原稿のあとに着手してしまった。
7月に1ヶ月の在宅研修が予定されていて、作業時間を多く取れると思い、慢心していた。
未来の自分がなんとかするだろうという気持ちがあった。
という、完全に計画性や見通しの問題です。
この問題の対策は、
最初にいつ、どんな進捗を生むかを決めておき、こまめな締切を設ける
とします。
問題② 印刷所選びに難航した
『神のフレーズ』はTOEIC対策で有名な『金のフレーズ』のパロディ本です。
パロディするからには、印刷でもなるべく高い再現度を目指しました。『金のフレーズ』がどんな仕様で印刷しているか調べたところ、
カバーをつけて、Y、K、特色金の3色印刷して、クリアPP
本文は、Kと特色オレンジの2色印刷
という、なかなか同人誌には厳しそうな仕様が明らかになりました。
仕様全部とは言わずとも、一部だけでも極力近い仕様に対応している印刷所はないかと、手当たり次第に探したため時間を取られてしまいました。
こだわりの仕様を目指したため難航した、というパロディ本特有の事情に振り回された、という問題を除いても、印刷所を比較・検討するにあたり、
印刷所を探す
webページにアクセスする
対応している仕様、金額、締切を整理する
スプレッドシートにまとめる
という事務的な工程が面倒で、モチベが上がらなかったのも大きいです。
モチベが上がらないと言っても、印刷所を決めないことには同人誌は出来上がらないので、原稿に本腰を入れる前に締切を設けて、印刷所を探して決めることしかできません。
この問題の対策としては、
コミケの当落が出る時期には、印刷所の決定ができるように予定を立てる
特殊な仕様のときは、制作を決めた段階で、印刷所探しから始める
とします。
問題③ 3サイクル型で制作できなかった
プラン①で3サイクル型で制作する予定を立てましたが、実際には3つ一気に制作してしまいました。つまり1期の原稿を完成させる前に、2期と3期の原稿に着手してしまい、立てた予定を守れなかったのです。
3サイクル型で制作できなかった理由として、
すでに要領が分かっている作業を優先して取り組みがち
新しい作業に対してはハードルや面倒臭さを感じて後回しにしがち
この2点があります。つまり、1期の原稿を完成させるまでに、A→B→Cという3つの作業があるとします。1期の作業Aを終えてしまうと、次に1期の作業Bに取り掛かるより、2期と3期の作業Aをするほうが、簡単で抵抗がないんですね。
未知を避けて、既知に逃げがち。人間の習性がモロに出てしまいました。
この問題の対策としては、
新しい作業を先にやるように予定を立てる
とします。
問題④ 作業の重さを過小に見積もっていた
ここでは
(作業の重さ)=(作業の量)×(作業の複雑さ)
とします。
問題③で3サイクル型の制作ができなかった、と書きました。これの何がいけないのか? それは、作業の重さを正確に見積もれないことにあります。
データ結合で単語ページの原稿がほぼ自動で完成するようにしました。しかしその後に行う、一部の文字の色を変え、アイコンを置いていく作業が思った以上に大変でした。徹夜での作業はほとんどがこの作業です。
GASによる原稿の自動処理で、原稿としてCSV化するシートのほとんどが完成しました。しかしその後に行う、解説欄の記入が想定以上に大変でした。
1期の原稿に集中していれば、想定以上の作業の重さに気付き、早めに対応ができたはずです。一通りの作業をまずは経験してみることで、作業の重さを正確に見積もれ、想定の甘さに気付くことができるのです。
この問題の対策は、
3サイクル型で制作していれば認識を改められた
として、問題③に従う問題としておきます。
問題⑤ 4、5月に進捗がほぼ止まってしまった
4月と5月に作業が全く進んでいない、空白の期間があります。
何があったかと言いますと、4/9、10には『ワルキューレ LIVE 2022 〜Walküre Reborn!〜』、5/8には『Rhodanthe* Music Festival 2022 大感謝!!』に参加していました。
つまり、推しのライブが終わった後に腑抜けてしまって、同人誌の制作に戻れなかったわけです。休みボケならぬ、ライブボケですね。ここですぐに作業に戻れていれば、7月に作業が詰め込まれる事態は避けられたはずです。
この問題の対策は、
ライブなど大きなイベントの後には、厳しめに進捗を管理する
とします。
問題⑥ 制作が佳境の7月に制作以外の用事が入りすぎている
7月の前半、制作が佳境に入った頃、会社の飲み会、ココナラの名刺依頼、友達と遊びに行くなど、制作以外のことに時間を取られてしまいました。どれも制作の佳境にやることではないです。
飲み会と遊びに行かなければ、徹夜は回避できたはずですし、名刺制作をしていなければ、7月の作業はもっと楽になったはずです。
この問題の対策は、
佳境に入る前に、ココナラの出品を停止し、遊びに誘わないよう周りに言っておく
とします。
余談ですが、7月にココナラでいただいた依頼が、初めてデザインを買っていただける機会になりました
↓のnoteで紹介しています。
まとめ
制作を決めた時点で、
必要な作業を洗い出し、作業の重さを見積もる
いつ、どんな進捗を生むか、予定を立てる
この2つを行わなかったことが、大きな問題です。これができていれば、徹夜せずに済んだ……と言いたいところですが、予定は立てて終わりではありません。
制作が始まった後、
未来の自分に押し付けずに、予定に対する遅れを許さない
勝手に予定を組み替えて、新しい作業を後回しにしない
作業の重さを過小に見積もって、なんとかなるだろうって思わない
大きなイベントの後、直ちに制作に戻る
これらも合わせてやり切る必要がありました。一言でいうなら、自己管理が足りなかったわけです。
作業の重さと消化能力のバランス
同人誌制作に限らず、基本的なこととして、
締切を延ばせない以上、プロジェクトが炎上するかどうかは、作業の重さと、作業の消化能力のバランスで決まってしまうものです。
つまり同人誌制作でデスマーチが発生し、徹夜の末に入稿するハメになったり、原稿が落ちたりするのは、作業の重さが消化能力の限界を超えているからです。
作業の消化能力が、制作能力と管理能力の2つで成り立つと考えると、作業を軽くするか、制作能力と管理能力を上げて解決するしかないでしょう。
具体的な解決策として4つ考えました。
解決策① 同人誌をクオリティダウンして作業を軽くする
せっかく同人誌を決めたのにツライ選択です。
ただ、
あまりに贅沢な内容の同人誌を作ろうとしていないか
締切に対して妥当なクオリティか
という点は検討すべきです。
プラン①に書いた3サイクル型の制作は、いつでも1期の内容だけで、クオリティに妥協して入稿できる体制として、理にかなっていると言えそうです(まあ、実現しなかったんですけど……)。
最後の手段として用意しておくのはありですね。
解決策② 自らを鍛え、制作能力と管理能力を上げる
素晴らしいことですが、一朝一夕では実現しないのが問題です。「制作能力と管理能力が足りない! もっと欲しい!」と思ったときには、すでに時遅しです。
どちらの能力も、
同人誌を作る
↓
制作能力と管理能力が少し上がる
↓
今までより、少し早く少し良い同人誌を作る
↓
制作能力と管理能力がまた少し上がる
↓
……
というスパイラルの中で、徐々に上がっていくものだと思います。
なので長期的対策として、同人誌を作り続け、己を鍛えましょう。
例外的に、新しいツールや機能を利用してみる、という方法は、短期で効果が期待できます。
今回の制作では、プラン②やプラン③の自動化がこれに当てはまります。
すでにある道具の力をうまく借りれば、比較的簡単に制作能力を上げられます。
解決策③ 人を増やして、制作能力を上げる
1人の制作能力には限界があるので、他の人を頼ることを考えてみます。
考えてみるのですが、報酬を出せるわけでもないので、人が集まりません。
仮に報酬を出せたとしても、同好の士でもない人をむやみに増やすと、同人誌本来の定義から外れていきます。
「こんなの同人誌制作じゃねぇ! 仕事だ!」と叫びたくなるでしょう。
同人誌を作る楽しさを維持するには、
同好の士である
同人誌のコンセプトに共感してくれる
同等の同人誌制作能力を備えている
以上の条件を満たす必要があります。……こんな人、どこにいるんですか?
もし3つの条件を満たす人が周りにいたら、奇跡に近いので、大事にしましょう。
解決策④ 誰かに頼んで、外部拡張により管理能力を上げる
制作能力のために人を頼るのが難しいので、管理能力のために人を頼ってみます。
制作に直接関わるわけではないので、そんなに難しい条件ではないと思っています。
どのタイミングでどんな進捗を上げるのか、予め共有しておいて定期的に報告する。
これだけでも効果ありそうですし、同人誌制作に理解のある友達がいれば可能です。別の同人誌を作っている者同士でバディになっても良いですね。
遅れている、あるいは想定とは異なる進捗が生まれている場合に指摘してもらえれば最高ですが、そうでなくても自分に報告の義務を課すことで、スケジュールを守る力は上がるかと思います。
結論
後半、色々と複雑なことも書きましたが、今回の問題は、データ結合やGASで制作能力を上げる視点は持っていたものの、管理能力には無頓着だったことです。
対策をまとめると、
制作開始前に予定を立てて、
予定を立てるときに、新しい作業と、時間がかかりそうな作業を優先し、
立てた予定を守れるように、誰かへの報告義務を課す
として、徹夜入稿を繰り返さないための結論とします。
付け加えるなら、
予定を狂わせる予定が最小限になるように備えておくこと、も大事です。
ただ、同人誌を作るために他のやりたいことを断念しまくるのでは、同人誌のために多くのものを失うことになります。
余裕ある予定を組んで、両立する体制を整えましょう。
この記事を読んだあなたが、徹夜入稿しないことを祈っています。
『神のフレーズ』について気になったら、こちらの記事も読んでみてください!
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