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『小学校ーそれは小さな社会』ー子どもたちと先生たちの成長を描いた珠玉の作品
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前から見たいと思っていた「小学校ーそれは小さな社会」という映画を観ました。
「6歳児は世界のどこでも同じようだけれど、12歳になる頃には、日本の子どもは“日本人”になっている。すなわちそれは、小学校が鍵になっているのではないか」
日本とイギリスにルーツをもつ、山崎エマ監督のこうした着眼点から、ごく普通のありふれた公立小学校が舞台となっています。
たしかに、手の挙げ方、整列の仕方、廊下の歩き方、掃除の仕方(ちなみに、僕が小1のころは用の足し方まで教わったなぁ)、こうした「学校的社会生活の基本」を1年生は叩き込まれます。
それが6年生になると見事なまでに「社会化」されています。いや、今度は中学進学を前に「自分のことは自分でやる」という、自立へ向けたより高度な成長の促しを行っていくわけです。
物語の中心には、子どもたちのこうした「成長」を支える先生たちの情熱や悩み、そして小さな成功が丁寧に描かれています。一方で、全てが順風満帆に進むわけではありません。壁にぶつかりながらも、それを乗り越えることで新たな一歩を踏み出す子どもたちや、心が折れそうになりながらも支え続ける先生たちの姿に、見る者の心が揺さぶられることでしょう。
批判を超えて見るべき、教育の真実
本作品を「いいところだけを切り取った理想化されたドラマ」と批判する人もいるかもしれません。しかし、それはあまりにも短絡的な見方です。この作品が伝えたいのは、完璧な現場の姿ではなく、苦悩や葛藤を抱えながらも必死に頑張る人々の「今」を描くことにあります。理想や現実のギャップに悩む姿こそが、教育の現場の真実なのです。
象徴的な場面に込められた「成長」の意味
作中で象徴的に登場する二重跳びとシンバル。
学校教育に携わっていない立場から見れば、「そんなことを頑張らせる意味はあるのか」と疑問を抱く人もいるかもしれません。しかし、あの二人の子どもたちがやりきった後の笑顔を見れば、すべてが分かるはずです。壁を乗り越えた先にある達成感や自己肯定感、「誰かのためにやってあげたい」という気持ちを育てることは、単なる技術やスキル以上の大切なものを子どもたちに与えてくれます。
ただ、先生たちもまた深く悩んでいます。途中の場面である先生が言った、「自由と制限の非常に危ういバランスの上にいま成り立っている」という言葉には、今の教育現場の葛藤の本質が詰まっています。その葛藤を抱えながらも、子どもたちの未来を信じて指導を続ける先生たちの姿には、胸が熱くなります。
「右向け右」式な一斉強制指導の弊害が言われて久しいですが、では個性の尊重、多様性と言われたこの世の中って本当にそれでいいの?という疑問を持つ人も多いかと思います。厳しく言えば「パワハラ、コンプラ」と言われ、「もう少し暖かい目で指導できないのか」と乗り込んでくる保護者(…作中にでてきて『げ、そんなことほんとにあるんだ汗』と焦ったのは言うまでもなく…)。作品に登場する先生も悩んでましたね。正直、現実は、日本全国中の学校で、もっと深刻に悩んでらっしゃるかと思います。
僕は正月の挨拶に代えて、「『1つの正解』ではなく、多様性を受け入れる教育を」という趣旨のことを書きました。
たぶんこういうことを外野から言うやつが多いから学校の先生が追い詰められるのかと思いますが(汗)、「多様性」というまるで水戸黄門の印籠に対しての学校教育としてのスタンスを考えるきっかけにもなると思います。
教育現場の現実とエール
また、コロナ禍という難しさも本当にあったと思います。ICTからなにから手探りの日々。熱心に指導し、朝早くから努力を重ねる先生でさえ「もうダメかと心が折れそうになりました」と語る場面には、現代の教育現場が抱える厳しい現実が透けて見えます。あれだけの熱意と能力を持つ先生がここまで追い詰められるのなら、全国で多くの先生が心折れるのも無理はありません。妙な納得感とともに、教育現場への理解が深まる瞬間でもあります。
全国の先生たちへの応援歌として
だからこそ、この作品が日本の未来を描き出すという監督の想い以外の副産物として、全国の学校の先生たちへの応援歌のような役割を果たせたら素晴らしいと思うんです。全国津々浦々、こんなにも子どもたちの成長を信じ、情熱を注ぎ続ける先生たちばかりだったなら、学校はもっと素晴らしい場所になるでしょう。時代に合わないだの、教育水準が低いだのいろいろ言われますが、改めて日本の教育って悪くないよなぁと思ったりしてました。
学校という「小さな社会」で繰り広げられる人間ドラマを、ぜひ一度目にしてみてください。この作品が、教育の価値や可能性について、もう一度考えるきっかけとなるのではないかと思います。