田舎の少年はいかにして沼にハマったか vol.1

一番古い記憶は3歳ごろだろうか。

近所の歩道を歩きながらブツブツ呟いている記憶だ。
どうやら近所の子供ともめたらしい。
不服な気分で歩いているにも関わらず、縁石の上をバランスを取りながら歩いていた映像が頭に残っている。

沼津駅から程ない所に構えたラーメン屋の一人息子として産まれた。
出生は長野県諏訪市だが、1歳を迎える前に沼津に移住したらしい。
店舗は一階、住居はその上のアパートの一室で間取りは2K。
保育園の頃は帰宅すると店の片隅で過ごしたり自宅でテレビを見て過ごしたり。
商売屋なので店の本棚には当然のように週刊少年ジャンプなどが置いてあり、早かった識字を生かして年中の頃からキン肉マンやアラレちゃんなどジャンプ黄金期の走りをリアルタイムで読んでいた。
買い出しなどで車を運転する父の隣の席で聴くBGMは、ビートルズやポールアンカやニールセダカ。
とは言え当時は誰の何の曲かもわからず、とにかくリピートするカセットを聴き続けていた。

【幼少期のタカシ推定4歳】

父は1966年に単身アメリカに渡り料理人として修行し、ベトナム戦争が激化していく1968年まで滞在していた。
昭和50年代の日本の田舎にはまだまだ浸透していなかった文化的な側面を持った人で、俺が小学校1年生の頃に急にカシオトーン「CT-701」を買って来て「これでブチかませ！」と言ってみたり当時高級品だったビデオカメラをいきなり買って来たりとかなり尖った事が好きな人だった。まだ生きてるけど。
ちなみに今もMachintoshでillustratorを使って店のメニューを作っている。

小学校に上がると徐々に1人の時間が増え、夕方5時までみっちり遊んだあとはテレビのアニメを見ながら1人で夕飯を食べる。
活字慣れしていたので早々に読書にハマり、2年生の頃には江戸川乱歩の「少年探偵団シリーズ」全46巻を読破。
4年生になると北杜夫氏の作品にハマり、そこを入り口に国産の純文学から海外の純文学を読み漁った。

そんな4年生の頃に「キャプテン翼」の影響でサッカーにハマり出す。学校が終わると帰って来てボールを片手に小学校や公園へ。
母校にはまだサッカー少年団がなかったので、クラスの仲間やサッカー好きな仲間たちとボールを蹴って過ごした。

夏休みなどの長期休暇になると、自宅のアパートの大家さんの所へよく孫が遊びに来ていた。
大家さんは老夫婦で、最上階に2人で暮らしていた。
その孫は史郎くんと言って、俺のふたつ上で横浜に住んでいた。
片田舎の沼津と違って都会の洗練された雰囲気と知識、加えて年上のお兄さんの魅力に溢れていて憧れの対象だった。
そんな史郎くんが、俺が4年生の冬休みに遊びに来た際に「最近これにハマってるんだ」と言ってイヤホンを差し出してきた。
そっとイヤホンを耳に差し込むと、流れてきたのはCULTURE CLUBの「カーマは気まぐれ」。
その音と雰囲気と声に一発で打ちのめされた俺は、すぐに父に報告をした。
すると父は「よし。わかった。」と二つ返事。

その年のクリスマスプレゼントは、ウォークマンだった。

そして一緒に近所のレコード店に行きCUTLTURE CLUBの「COLOUR BY NUMBERS」のミュージックテープを買ってくれた。
あまりにも嬉しかった俺は、店を出てエスカレーターに乗る前にカセットをセットしてヘッドフォンを装着して再生ボタンを押した。

見慣れたショッピングモールが、一瞬にして音楽に彩られる瞬間。
今でもあの瞬間の景色を思い出せるぐらいの衝撃だった。

父は
「これから毎月一枚お前の欲しいレコードを買ってやる。その代わりクラシックも一枚買うから聴くんだぞ。」
と約束してくれた。
それからの日々は、サッカーと音楽の2本の柱で生活は回っていった。

そんなある日、本を探しに書店に行った際に偶然見かけた棚にCULTURE CLUBの文字を発見。
どうやらその本にはCULTURE CLUBの特集が載っているらしい。
表紙に大きく「INROCK」と書かれたその本をレジへ持っていくと、なけなしのお小遣いでそれを購入。
その本にはDURAN DURAN、MADONNA、WHAM!!、CINDY LAUPERなどまだ見ぬ強豪がひしめき合っている。

【忘れもしないこの表紙。時系列的にバックナンバーだったのかな。てかメンツすごい】


なんだ！CULTURE CLUBだけじゃないのか！

そんな衝撃が、徐々に沼にハマっていく最後の一押しになった事を知るのはもう少し後の事だった。

続く

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