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【米SEC VS Binance・Coinbase】Blackrockなど既存金融が暗号資産に続々参入
はじめに
2022年11月にFTXが破綻してからもう半年が経過しました。
長らく暗号資産取引所としてトップを走りつづけてきたBinanceは、FTX破綻以後は1強という感じで君臨していました。
しかし、2023年6月6日の未明に突如として「SEC(米国証券取引委員会)がBinance及びCEOのChanpeng Zhao(CZ)氏を提訴した」という旨の報道が各暗号資産関連のニュースメディアから出ました。
また、翌日にはSECがCoinbaseを提訴したというニュースが出回り、FTXの件以後は投資家保護の観点からSECの暗号資産業界への締め付けがより一層厳しくなっているのを感じます。今回のSECによる提訴の背景などからどういったことが読み取れるのか見ていきたいと思います。
SECが「Binance」を提訴
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Binanceは2017年に香港で設立されてから、その取り扱い銘柄の豊富さはもちろん、レバレッジも最大125倍かけられ、先物取引などデリバティブも充実、取引手数料も安いなどユーザーからすると非常にうれしい機能を兼ね備えており、瞬く間に世界トップの取引所となりました。
一方で、Binanceは2021年にマネーロンダリングと税法違反の疑いで米国司法省と内国歳入庁の両方から調査下に置かれ、英国でも金融規制当局である金融行動監視機構が国民に対してBinanceの利用に注意を呼び掛け、同時に同社にサービス停止を求める通知を出すなど、各国から警告が出されました。
もちろん日本の金融庁からも、未登録で日本居住者に向けて暗号資産交換業を行ったとして2018年、2021年に日本国内の居住者に向けた営業活動とサービス提供をやめるよう要求されています。
しかし、Binanceは中国政府が暗号資産に規制を強めるという情報が流れるとすぐに本社を香港からマルタに移すなど、規制から逃れるように世界各国を転々とし、現在はどこを拠点にしているのか明らかになっていません。
このようにBinanceに対して各国金融当局は数年前から目を付けていたものの、いたちごっこのようになっていました。
しかし、2023年に入ってからBinanceは米商品先物取引委員会(CFTC)から今回のSECと同様の内容で提訴されています。ただ、ここにきてSECもBinanceを提訴したことで本気でBinanceを潰しにかかっているというのが見受けられます。
・SECの告発内容
SECは6月5日、Binanceを13件の深刻な違反行為の容疑で提訴しました。
以下にSECがどのような主張でBinanceを告発しているのかいくつか見ていきます。
① 米国顧客はグローバル版のBinance.comでの取引が制限されている(米国顧客はBinance.USを利用)と主張していたが、一部のVIP顧客が同プラットフォームでの取引を続けられるよう融通していた。
② Binance.USは米国投資家向けの独立したプラットフォームだと謳っておきながら、CZおよびBinanceが秘密裏に管理していた。
③ 顧客資産と自社の利益を混同して管理、使用していた。
CZが所有する貿易会社Merit Peak Limitedが、CZが所有している別の貿易会社Sigma Chainを通じてBinanceの顧客資産約110億ドルを受け取っていた事実を隠蔽し、私的に使用していた。
④ プラットフォームの取引を人為的に釣り上げる操作取引に関与した。
⑤ Binanceで取り扱いのあるBNBやBUSDなどは登録が必要な証券性があるが、無登録でステーキングや取引サービスを提供した。(証券性がある暗号資産として名前が挙がった銘柄:
BNB、BUSD、SOL、ADA、MATIC、FIL、ATOM、SAND、MANA、ALGO、AXS、COTI)
この中でも③や④については2022年11月に破綻した暗号資産取引所FTX、Alameda ResearchおよびSam Bankman-Fried氏による顧客資産不正利用の件を彷彿させます。
BinanceUSに関してはSECが資産凍結を裁判所に要請したとのニュースもあり、Binance.comおよびBinance.USから既に大量の資金が抜けていましたが、その後担当の連邦裁判官が「差し止め命令は全く必要ない」として、プラットフォームの資産を凍結する一時差し止め命令を出すことを拒否したことでこの件は一旦収束しました。
SECが「Coinbase」を提訴
6月6日にBinanceに引き続き、CoinbaseもSECから提訴されました。
その内容はBinanceの告発内容⑤と同様で、無登録業者のまま米国居住者などに対して営業しているというものでした。
Coinbaseで証券性がある暗号資産として名前が挙がった銘柄:SOL、ADA、MATIC、FIL、SAND、AXS、CHZ、FLOW、ICP、NEAR、VGX、DASH、NEXO
CoinbaseはIPOをして2021年4月に米ナスダック市場に上場しており、その過程においてSECが審査等を行っていました。今回の指摘ではCoinbaseは2019年から未登録で違法な運営を行っていたとされており、SECの審査の結果(Coinbaseが上場条件を満たしていると承認)と矛盾しているのではとの声があがっています。
しかし、Coinbaseが上場する際の公式文書を見てみると、証券性があるかもしれないコインを扱っているため、いずれSECにこの件で訴追される恐れがあると明記されており、SECの言い分は正しいということになりそうです。
SECから提訴された後もSECとは別にイリノイ州、バーモント州、アラバマ州、ケンタッキー州、カリフォルニア州、メリーランド州、ウィスコンシン州、ワシントン州、ニュージャージー州、サウスカロライナ州の10州から証券取引法に違反したとして法的措置を取られるなど追い打ちをかけられています。
米Robinhood 「SOL、MATIC、ADA」を上場廃止
Robinhoodは、先述のSECによるBinanceおよびCoinbaseへの提訴を受けて、有価証券に該当するとされる銘柄ADA、MATIC、SOLについて上場廃止を決定。
Robinhoodは約13億ドル分のアルトコインを保有しており、ADA、MATIC、SOLはそのうちの半数近くの5億8300万ドル分を占めます。これらが6月27日なると市場価格で売却されるとも伝わり、これがかなりの売り圧になると予想されるため、この発表があった10日には該当銘柄および関連銘柄の価格は軒並み前日比2~3割下落しました。
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SECがどういう基準で該当トークンを証券認定するのか
SECが各トークンに関してなぜ証券認定するのかについて説明しています。長くなるのでここでは一つ一つ取り上げませんが、例としてMATICが証券であるとして指摘されたポイントをいくつか見てみます。
① MATICはステーキングサービスを提供しており、MATICの初期のホワイトペーパー内に、トークンの保有が経済的インセンティブを提供する旨が記載されている
② MATIC運営は、他の著名人・有名人の投資家からの資金調達を報告し、その後IEOも実施し一般投資家からの出資を公募していた
③ 2022年以降はMATICトークンをBurn(燃やす)することをブログ記事などで前面に押し出すことでデフレ効果をもたらし、トークンの価格の上昇を期待させた
今回Robinhoodで上場廃止になったADA、MATIC、SOLをはじめ、コンセンサスアルゴリズムとしてPoS(プルーフオブステーク)を採用している通貨、つまりステーキングができる通貨が多くSECから指摘されていますが、ETHやDOT、AVAXなどは指摘されていないことから、PoSを採用していることで証券認定されるわけではないと思われます。
では何が証券認定の決め手になっているのでしょうか。
米国法上の証券該当性に関しては、1946年に米国連邦最高裁判所判例において確立された、いわゆる「Howeyテスト」がしばしば用いられます。
「Howeyテストの要件」
① 事業者または第三者の努力によってのみ得られる
② 共同事業からの
③ 収益を期待して行われる
④ 金銭の投資
このHoweyテストの要件のうち、③収益を期待して行われるという点について、具体的にはそのトークンの販売者が投資家の利益を期待させるような文言を使って宣伝をしているかというのが焦点になってきます。
今回証券だと名指しされたトークンについては、そもそもホワイトペーパーの中で「事業が軌道に乗って成功すればトークン保有者も儲かる」というような文言が入っていたり、トークンをバーンすることでデフレ効果によってトークンの価値が上がると投資家に期待を持たせたり、Twitterで買い煽るようなツイートをしていたという点が指摘されており、トークン発行時はもちろんのことその後の活動においてもHoweyテストに該当するような行動をとっているトークンは全て証券というのがSECの見解だと考えられます。
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SECがなぜここまで言っているのか?
SECがこのタイミングで急に暗号資産取引所を潰しにかかるようなことを言っているのか。いくつか考えられることを挙げてみます。
① FTX破綻の事件などを受け、投資家保護を強化するため
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これまでも度々投資家保護というのは度々議論されてきてはいたものの、あまり締め付けすぎるとイノベーションを阻害するといった声も多く、米国では暗号資産に対して包括的な規制というのは特にありませんでした。
しかし、2022年にTerraショックやFTXの破綻といった暗号資産関連で大きな事件が立て続けに発生し、米国内でも多くの投資家が多額の損失を被りました。
これを重く見たSECは、2023年に入ってから1月に米GenesisとGeminiを証券法違反として提訴、2月にはTerraform LabsとそのCEOであるDo Kwon氏を詐欺容疑で告発するなど規制の手を強めていました。
② 世界的に暗号資産が規制されている流れで、米国内の暗号資産の法的位置づけを明確にするため。
2023年6月から、日本でも「犯罪による収益の移転防止に関する法律」の改正に伴う「トラベルルール(マネーロンダリングおよびテロ資金供与への対策を目的として、金融活動作業部会(FATF)が定めた顧客情報の共有に関するルール)」が導入され、日本の取引所で暗号資産を入出金する際に相手方の個人情報の入力が求められたり、そもそも送金可能な取引所やウォレットが制限されたりするなど、かなり規制が厳しくなりました。
また、日本だけではなくEU(欧州連合)も2023年6月に暗号資産に関する包括的な規制案「MiCA(ステーブルコインの発行者は担保となる十分な現金を保有しなければならないといった規定をはじめ、ライセンス制度や消費者保護要件などを定めたルール)」およびマネーロンダリング防止法を承認しました。世界的に暗号資産に対する規制がされていく中で、米国でも暗号資産の法的位置づけを明確にしたいと考えているようです。
③暗号資産を現行のBinanceやCoinbaseなどの暗号資産取引所ではなく、既存の金融機関(銀行や投資会社など)のものにするため。
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SECがBinanceやCoinbaseを提訴したことで暗号資産業界が総悲観の様相を呈していたところ、6月15日に世界最大の運用会社ブラックロックがビットコイン現物ETFの申請を行ったというニュースから空気が一変し、BTCの現物に大量の買いが入りました。
その後、Wisdomtree、Invesco、Valkyrieなどが立て続けにビットコイン現物ETFの申請を行い、さらに暗号資産に買いが入る状態が続いています。
それに加えて6月21日には、FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長が、「暗号資産は資産クラスとして持続性があるように見える」「ステーブルコインは貨幣の一形態とみなしており、中央銀行が監督する必要がある」などと暗号資産について言及しました。
また、ウォール街の主要な金融機関が出資している機関投資家向けの暗号資産取引所「EDX Markets」がサービスを開始するなど、既存金融機関の暗号資産業界への参入がまるで示し合わせたようなタイミングで次々と起こっています。
おわりに
今回のSECによるBinanceやCoinbaseへの提訴は、米国から暗号資産を排除する動きのようにも感じましたが、6月15日のブラックロックのビットコイン現物ETF申請からの流れを見ていると、逆に米政府は暗号資産を重要視しているのではないかと感じました。
暗号資産を管理下に置きたい米政府と利益を享受したい既存金融、双方にとって暗号資産市場を独占しているBinanceやCoinbase等は非常に邪魔な存在なのです。
SECによる規制によって国外追放、そして満を持してブラックロック等のビットコイン現物ETF申請と考えるとかなり辻褄が合います。これによって暗号資産の価格は上昇しており、楽観する人も多く見られます。
ただし、暗号資産は元々金融の中央集権化に抗うために開発された分散型金融というのがコンセプトのはずで、暗号資産が政府や既存金融に取り込まれるのであれば本末転倒です。
暗号資産が政府の監視下で既存金融が販売することで、多くの人が安心して売買できるようになるので良い面もありますが、一方で暗号資産にしかないような数十倍~数百倍といった銘柄が出るような夢もなくなり、既存の暗号資産投資家からすれば中長期的に暗号資産は投資対象として非常につまらないものになってしまう可能性があります。
ビットコインの現物ETFについてもまだ申請という段階ですが、ひとまず来年の半減期に向けた起爆剤となる可能性もあるので期待して見ていきたいと思います。
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