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箸操作の介入視点 ~“正しい使い方と持ち方”を理解する~

1,「正しい箸の使い方と持ち方」を理解する必要性

箸操作へ介入する上で「正しい箸の使い方と持ち方」を理解しておくことは、自身の臨床推論を助けてくれる。ある決まった「使い方」や「持ち方」が正解という訳ではない。しかし、個別性がある事を重々承知した上でも、やはり軸となる視点(基準)をもっておく事は臨床の迷いを減らしてくれる。そのため、誤解を恐れず、あえて「正しい」という用語を用いることとした。
箸の「使い方」とは切る、ほぐす、くるむなどを指すが、それを分類・整理する事で、評価のモレを防ぎ、治療課題の選択や段階付けにも応用できる。また、箸の「持ち方」にはどんな型があるのかを知り、“伝統的な正しい”「持ち方」を熟知しておくと、評価・治療介入する上での手掛かりとなる。子供の頃、「上の箸は鉛筆をもつように持つ」「下の箸は動かさない」といった指導をされた記憶もあるが、これらは必ずしも適切な指導とは言えないようである。
以下に「正しい箸の使い方と持ち方」の理解を深めるべく、書籍・文献を引用しつつまとめてみる。

2,箸の使い方には“静的”と“動的”がある

箸の使い方は“静的”と“動的”に分類することができる。中田ら(2013)は箸の使い方を①切る(挟む)、②ほぐす(分ける)、③くるむ、④まぜる、⑤すくう、⑥刺すの6種類に分け、“静的”と“動的”を整理している。①と②は動的な手の使い方であり、動作の主体は手である。手指の積極的な動きにより箸の開閉操作が行なわれている。④~⑥は静的な手の使い方である。手は箸を把握したまま、動作の主体は手関節や腕の動きである。この時の箸は、あたかもスプーンやフォーク、ナイフのような役割を果たしている。③はその両方が複合された動作といえる。
この“静的”と“動的”といった視点を持つことで、手指に主軸を置いた操作練習と、手関節や腕に主軸を置いた操作練習とを使い分けることが可能になる。さらには、箸操作時とスプーン・フォーク使用時との共通した構成要素(コンポーネント)の理解も進み、治療の段階付けもクリアにできるものと思われる。

3,箸の持ち方(操作パターン)は3型に類型化される

中田ら(1993)は健常者の箸の操作パターンを3型に類型化している。中でもAV型が最も多く出現しており、全体の7割以上を占めている事から、これが日本人の標準的な操作パターンであり、日本の伝統的な箸の持ち方と考えられる。

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4,標準的な箸の持ち方(AV型)を理解する

【開始フォーム】
5本の指全体が屈曲位にあり、特に尺側にある指ほどMP関節の屈曲が強い。手のフォームは三面把握-亜型Ⅱであるが、遠位箸を把握している母指、示指、中指が三面把握-標準型と同じフォームを呈する場合もある。
(※手のフォームについては下スライドを参照)

【箸と指の位置関係】
遠位箸は、①示指基節橈側と②中手末節橈側面にかけわたされるように置かれている。③その間の1箇所を母指末節の掌側面で押さえている。④さらに第3の方向から示指の末節掌尺側面で押さえている。
近位箸は、❶示指中手骨橈側と❷環指末節橈側または橈背側間にかけわたされ、❶❷間の一箇所を❸母指基節骨掌側で固定している。
したがって、両箸は示指の中手骨頭を挟むようにしておかれており、母指はその2本をゆるやかに収束している。

【操作の特徴】
遠位箸を開く操作は、示指・中指の“伸ばし”または“まきあげ”で行い、逆の動き(“曲げ”または“つきだし”)で閉じる。近位箸を開く操作は、環指の“曲げ”または“つきだし”で行い、逆の動き(“伸ばし”または“まきあげ”)で閉じる。すなわち示指・中指と環指が相反する動きを行うことにより、両箸は開閉する。まれに環指(小指)を動かさず、近位箸が固定されていることもある。母指は両方の箸の操作に関与し、開く時には“押し出し”、閉じる時には“引き寄せ”の動きを行いながら、両箸をゆるやかに拘束している。
(※指列の動きについては下スライドを参照)

【手の動きのパターン】
箸を開く・閉じる際、母/示指間、中/環指間(または示/中指間)で動きが分離し、示指・中指と環指(小指)で異種の動きが生じ、それにより箸の開閉が行なわれる。

【箸操作に関与する指】
示指と中指は遠位箸を操作し、環指は近位箸を操作している。母指は両箸の操作に関与している。小指は環指と共に動くが、箸の操作に直接関与しない。

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5,標準的な箸の持ち方(AV型)を学習する上での注意点

1) 遠位箸を、鉛筆ではなく、スプーンを持つように持つ
いわゆる「正しい持ち方」として、遠位箸は「鉛筆をもつように親指と人差し指・中指で取り囲むように持つ」と記されているものをみかける。しかし、鉛筆を持つときのフォームはバリエーションが豊富である。多くの人は三面把握-標準型(上スライド参照)をイメージすると思われるが、これではAV型と異なる。AV型において、遠位箸の把握は、“鉛筆を持つように”にではなく、“スプーンを持つように”母指をもっと内転した位置にあてる三面把握―亜型Ⅰ(上スライド参照)とすべきなのである。

2) 中手骨頭を挟むように遠位箸・近位箸を置くとフォームが決まる
遠位箸と近位箸を示指の中手骨の骨頭を挟むように置くと、比較的容易に手と箸の位置を決めることができる。中手骨頭に対する両箸の位置と中指の接触箇所がAI型とAV型のフォームの違いをつくる。

3) 片方の箸だけを動かすのではなく、遠位箸・近位箸ともに動かす
中田ら(1993)によるとAV型で近位箸を動かさないパターンは箸を閉じる動作においてわずか(18名中2名)に見いだされたが、箸を開く方向に負荷が加わる場合には、遠位箸・近位箸ともに動いていた。
AV型の箸操作では、示指・中指と環指によって、それぞれ異種の相反する動きが同時に行われており、それにより箸は開閉されている。実際の食事場面で、箸の操作に負荷が加わるような操作では、両箸はともに動き、開閉されるのが一般的と思われる。

6,おわりに~箸の歴史と文化について知り、箸操作に介入する意義を深める~

箸の歴史や文化を学んでみた…深すぎた…。自分が学んだ事はほんの一部ではあるが、それをまとめ、あらためて箸操作に介入する意義を深めたいと思う。
箸の原型はいつ、なぜできたのか…。人類が火を利用して食物を焼いたり、煮たりして食べるようになり、熱い食べ物を火中より器に移したり、器から口に運ぶために突き刺す道具やすくう道具、挟む道具が必要となり、それを考案した結果で現在の箸の原型が出来たと言われている。日本で箸が食事に用いられるようになったのは飛鳥・奈良時代であり、聖徳太子が箸食制度を朝廷内で採用したのが最初とされている。607年に遣隋使であった小野妹子たちが箸と匙(スプーン)、食事作法を持ち帰ったとされている。
世界中で箸の文化を持つ国は、意外にも3割あるらしい。その中でも日本は唯一「箸のみを使って食事をする」作法が確立されている。完全箸食文化である。日本以外の箸文化の国々は箸と匙のセットが基本形となっているようだ。例えば、中国では円柱型や四角柱型の箸と陶製のレンゲ(散蓮華)の組み合わせがスタンダードであり、おかず類に箸を使い、ご飯や汁類に散蓮華を用いている。私達は和食を食べる時、お椀に直接口をつけて汁を飲み、具はお箸を使って食べているはずだが、この「お椀に直接口を」というスタイルが容認されているのは日本だけのようである。このスタイルの容認も日本が完全箸食文化となっている事と関連がありそうである…。ちなみに「自分専用の箸」という特定性を持つ文化も日本独自との事である。
「箸に始まり箸に終わる」ということわざがある。生後百日のお食い初めに始まり、毎日の食事、葬儀ではお骨を拾い、お供えの御飯に立てて供養する。「正しい箸の使い方と持ち方」に加え、箸の歴史や文化を学ぶことで、これまで以上に箸操作に関わる意義が深まったように感じる。


【引用文献・書籍】
1)鎌倉矩子・中田眞由美:手を診る力をきたえる.三輪書店,2013
2)中田眞由美,鎌倉矩子,大滝恭子,三浦香織:健常者における箸使用時の手のかまえと操作パターン.作業療法,12: 137-145,1993.


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