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“手洗い”を治療的に捉える ~課題特性・問題点・介入アイディア~

手洗いは日常において一番頻度の高い洗体行為である。食事や排泄などのADLに付随して行うだけでなく、最近では感染管理の観点からリハビリ介入前後に行っている病院・施設も多いと思われる。
手洗いは麻痺の重症度に関わらずに治療介入することのできる貴重な課題である。課題特性や構成要素を理解した上で治療介入することができれば、上肢機能や姿勢制御の改善だけでなく、身体知覚の改善にもつなげる事ができるはずである。廃用手であったとしても、手洗いを治療課題として用いる意義は、脳の廃用予防(機能局在が隣接するエリアに再構成されてしまうリスク)の視点からも重要と思われる。
以下にいくつかの書籍・文献を引用しつつ、介入視点について今一度整理しておきたいと思う。

1, 手洗いの課題特性

手洗いの課題特性について、柏木(2007)の説明を参考に、自分なりに3点に分けて整理してみた。


① 自己身体への探索活動
柏木(2007)は手洗いを含めた洗体動作について、「皮膚反応と姿勢緊張の関連をベースにしながら、自分自身に向かう活動」と説明している。皮膚反応といった辺りの理解が難解である。皮膚構造は筋骨格系とともに相互に関連しあいながら、姿勢・運動の制御に組み込まれて予期的な反応を起こしている。ここで起こる接触感覚は決して受動的ではない。


② 主動作と従動作の切り替え
臨床では「両手の協調」といった言葉がよく使われるが、この理解を深める必要がある。柏木(2007)は手洗いについて「両手はおのおのが操作の対象であると同時に、操作の主体でもあるという二重の性格をもちながら、適時その役割の主要な側面を交替させている。」と述べている。
「洗う側の手」(操作側)と「洗われる側の手」(知覚側)は、手洗い動作の進行に従って、互いに抵抗感を受け止め、両手を密着させ続けて動かしている。「こすり合わせる」という行為はこれをもとに成立している。この操作側と知覚側が相互に役割を分化しながら遂行され、こすり合わせる中で、接触における知覚探索が確立されていく。

③こするではなく「しごく」
柏木(2007)は「しごく」という感覚を2つの意味で重要であると説明している。「ひとつは握りしめることによって、表面だけでなく深部に届く接触の感触が得られるうえに、それが安定した状態で感知されるということ。もうひとつは、動作が引く方向ではなく、押し出す方向に終止するということ。」引く動作は、過敏なほどに定型パターンの引き金になるため注意が必要である。
手洗いではこの「しごく」をいろいろ組み合わせながら十分に洗うというよりも、もみ合った結果、互いの手が協調し始めるイメージが重要との事である。動作は常に知覚が先行し、接触情報は途切れるべきではない。両手の接触面積は自然と最大に近く保たれている点も重要である。

2,手洗いで起こりうる問題と介入アイディア(※主に脳卒中片麻痺者を想定)


①流し台への接近&両手を蛇口の下へ
手洗いの姿勢は、流し台との適切な距離感と位置関係を築きながら、従重力方向への適度な体幹の屈曲、および高さに応じた適度な股・膝関節の屈曲を維持することが必要である。そのことが前提となり、両側肩甲帯の外転・下制が起こり、蛇口の下へ適切にリーチすることが可能となる。
脳卒中片麻痺者は、流し台へ接近する段階で非麻痺側が先行し、非対称姿勢を強めた状態で行う傾向にある。上肢の連合反応は助長され、努力的な活動となってしまう。上記のように従重力的にかがみ込むことを難しくし、蛇口の下へリーチする(腕をおろす)ことが困難となってしまう。
介入する上では、もちろん姿勢制御に着眼を置いた神経学的なアプローチも必須だが、この場面に限って言えば、立位で足部の位置を左右対称的に修正する(後方に置かれた麻痺側の足部を一歩前へ出すような意識付けなど)、車椅子座位ではバスタオルなどで麻痺側の骨盤後退を修正するなどの工夫はすぐに行えるだろう。

②両手をこすり合わせる
脳卒中片麻痺者は、非対称姿勢(不安定な姿勢)を背景に、麻痺手を非麻痺手で引っ張り出そうとし、ますます麻痺側上肢の引き込みを強めてしまうことが多い。その結果、こすり合わせる動きが難しくなり、知覚探索の連続性に欠け、一つ一つの要素が分断された(断続的な)動きとなりやすい。
介入する上では、対象者にはどんな知覚探索が必要であるかを(内観を通して)理解してもらう必要がある。ここで重要となるのが、上記の課題特性で説明した「しごく」という感覚である。まず、非麻痺手と治療者の手(※麻痺側に立ち麻痺手の変わりとなるように)で行い、「しごく」感覚を伝える。治療者が非麻痺手の手背を握りしめる(しごく)ことにより、握られた手は押し出される。押し出された手が自然と接触を求め、治療者の手に戻ってくるような反応を期待する。こういったやりとりを手背→手掌へと展開させていく。治療者は手・肘・肩が安定する動きを探りつつ、自律的な探索反応を促す。その後に非麻痺手で治療者の手を洗ってもらい、「しごく」動きが適切に行えるかを確認する。対象者が十分に理解した段階で、治療者の立ち位置を変え、麻痺手と治療者の手(※非麻痺側に立ち非麻痺手の変わりとなるように)で行い、最終的に対象者の両手動作に展開していくのが良いと思われる(※環境適応講習会ではこの流れで行っていたはず…)。知覚探索を促すためにも口頭指示は必要最小限にしたいところである。

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3,手洗いと立ち上がりの共通点

手洗いを治療的に用いる一例を簡単に紹介する。手洗いと立ち上がりの共通点については、臨床的によく言われており、落とし込みやすい。座位での手洗い動作は①左右対称的である点、②体幹や骨盤の前傾を伴った体重の前方移動&両足部への荷重が得られる点が概ね立ち上がり動作(体幹前傾~離臀相)と共通している(※筋の収縮様式・タイミング・足底内での細かな重心動揺などの視点においては相違もあるだろうが…ここでは大まかな因子として捉えておく)。この際の環境設定として、骨盤前傾や両足部への荷重感覚を強調する目的で、座面を高くするなど工夫が考えられる。また、麻痺側上肢の前方挙上位保持を介助しながら体幹の側屈や回旋を修正し、左右対称的なアライメントを整えていくといった発想もある。

今回は手洗い&立ち上がりを例に取り上げたが、他の課題についても構成要素の理解を深めることで治療の発想は高まるものと思われる。構成要素の理解が深まれば、必ずしも問題となっている課題に直接介入する必要はなく、対象者の能力に応じて、臨機応変に課題・姿勢を変えながらその構成要素の治療を行うことができるはずである。


【引用文献・書籍】

1)柏木正好:環境適応-中枢神経系障害への治療的アプローチ- 第2版.青海社,2007.
2)髙橋栄子・柏木正好,他:環境適応 実践実技ノート-中枢神経系障害への知覚探索アプローチ.三輪書店,2020.
3)柏木正好:柏塾ノート 2009年度までの講義録.有限会社柏塾,2010

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