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やまだしす

「あ、そうそう」

と、長電話のついでのくだらない世間話のように彼の死は軽やかに伝えられた。  

「そうなんや」とこちらもなんでもないことのように返したのを覚えている。

中身のない他愛ない話を終えたあと、考えた。

私は彼に嫌われていたはずだ。今も疎ましいと思われているのではないか。連絡が来たとはいえ会いに行ってもいいものか。 「いややめてくれよ」とか思わないだろうか。
連れ合いがいたら気まずいよな…。と。

そこで気づいたのはひと目会いたいと思ったことと、未だに彼に嫌われていることを気にしている自分。

「ええい、死人に口なしだ。行けそうなら行ってしまえ。」

決意を固めるのにそう時間はかからなかった。

「死人に口なし」
私はこの後この言葉を何度も使うようになる。


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