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鴎外荘解体を阻止したい, それだけだ.

エロ親父として軽蔑してた鴎外を、あの1番嫌いで受け付けなかった森鴎外を、イギリス留学四年経た今、読み返している。そして、あの忌み嫌っていた鴎外を弁護するようなブログを今書こうとしている。


「森鴎外旧居跡」、通称「舞姫の間」が取り壊しになる。条件付きで。

そう聞いた時、いくら鴎外と言えど、住居は残してやりたい。何か鴎外のために尽力したいと思ってしまった。

後10日後に迫るホテル鴎外荘閉館までに「舞姫の間」の維持費を寄付金で集められないと、歴史的建築物なつ、区文化遺産が地球上から消えてしまう。


それは惜しい。残したい。
そんな思いがふつふつと湧いてきた。鴎外に負けたようで、何故か悔しい。

とにかく、鴎外荘を残したい、という想いだけで今回はこのブログを綴ろうと思う。

【注:このブログは100円の有料ブログにした。まったく同じ内容のブログが無料で私の個人Websiteに載っているので、もし全て読みたいと思われた方は、そちらに移行することをお勧めする.】

その理由を私の結論部分から抜粋する。

区文化財の「舞姫の間」を是非とも、保存したい。
この機会に、心から是非読者の皆さんに水月ホテル鴎外荘を訪れて、女将と対話し、場所を体感し、募金箱にお金を入れて欲しいと思っている。
しかし、地理的、時間的、体力的、その他もろもろの理由で募金に行くのが難しい方もいるであろう。
それを見越して、私の個人ブログに投げ銭リンクを設置させていただいた。
もし、このブログの読者さんで変わり者が居て、少しでも私を信用して投げ銭しても良いと言う方が居られたら、ここに投げ銭をして欲しい。
あと10日足らずだが、ここに集まった皆さんからの募金は私の方から、責任を持って水月ホテル鴎外荘にそっくりそのまま募金しようと思う。
変態エロジジイと呼んでしまっていた鴎外に罪滅ぼしができればなぁ、と思っている。皆さんには、よろしくお願い頼みたい。

鴎外荘と閉館と私と。

歴史ある水月ホテル鴎外荘があと10日ほどで閉館してしまう。私がそのニュースを知ったのは、1年前くらい。コロナ禍の第二波の頃だった。


新聞をたまたま見ていて、見慣れた鴎外荘の女将さんの顔がコラムにあった。コラムには、コロナ禍の経営難でホテルを泣く泣く閉める、と書いてあった。


私はその後、イギリスに戻らなくてはならなかったため、一年前は鴎外荘を訪れることはなかった。

ふと、住居を浅草に変え、上野が近くなったことで、鴎外荘に足を伸ばそうと思った。


実は、鴎外荘に向かうのはこれが初めてではなかった。5年前、高校3年生だった私は、鴎外荘で苦い思い出を経験して以来、足が遠のいてしまっていたのである。


そんなこんなで、今日、5年ぶりに上野にある鴎外荘を訪れた。何故5年ぶりかというと、一時期、私が高校3年生だった頃に鴎外荘で給餌として働いていたからである。

鴎外荘と初めてのバイトと私と

私が当時、はじめてのアルバイトを鴎外荘でやろうと思った理由は至って単純である。アルバイトというポジションを過度に美化していたナイーブな世間知らずな文学少年であった私だったから、だ。


言わずもがな、鴎外荘は歴史ある旅館で、かの明治の文豪、森鴎外が新婚の時に暮らした邸宅をリノベーションしてホテルにした場所だ。正式名称は水月ホテル鴎外荘で、要人などをもてなす、由緒正しき旅館でもあった。


そんな格式高い顔を持つ反面、都内に小旅行をしにきた人々の宿泊施設になったり、地元の人々の憩いの場として日帰り温泉も提供するような旅館でもあった。


そんな中で仕事ができるなんてハッピーラッキーいい感じ!そんな感じにしか捉えていなかったのだろう。面接では、日本の由緒正しい旅館での業務を通じて日本人としての私のアイデンティティを確かめたい、などと大そうなことを言った覚えがある。


その当時は留学前ということもあって、とても意識が高かったのだ。蒼き力に免じて欲しい。

鴎外荘と鴎外作品と私と

面接では、鴎外の著作を好んで読むと言ったが、これまた嘘っぱちであった。鴎外は忌み嫌っていた文豪の一人だった。明治の文豪も視野に入れて当時、日本文学を貪り読んでいた私であったが、森鴎外だけはどうしても、どうしても読むことを敬遠してしまっていた。


授業で『舞姫』を読み、それで鴎外のイメージがついてしまったのだろうか、物凄くロリコンのエロ親父というイメージしか持っておらず、何故かすごく軽蔑を込めた否定的な感情を鴎外に向けていたと思う。


自らのセクシャリティに疑問を抱いていたので、「エタセクスアリス」も読んだが、三島由紀夫の『禁色』や『仮面の告白』の方が現実味があり、リアルな内在日されたホモフォビアとの葛藤が描かれていて、森鴎外にはとことん失望した覚えがある。


嘘っぱちでアルバイトとして入り、来る日もくる日も汚いバックヤードで酔っ払った客のビールを開け、ヘコヘコすることに生半可ではあるが、慶應で育ってきた私のプライドが私の中で囁いていた。


こんなこき使われるために生まれてきたのではない、と。


今思えばとんだ思い上がりで、クソ世間知らずな高校3年生である。汚い。軽蔑の眼差しを向けられるべきなのは私なのだ。


結局あまりアルバイトには行かなくなり、そのままフェードアウト。足袋と草履を返しに行ったことは鮮明に覚えている。


多分、まだLINEの友達に鴎外荘の副社長でバイトのシフトを管理していた方のアカウントがあるのではないか。そのくらい、けじめのつかない辞め方だった。


鴎外荘と食器一式500円セールと私と

そんな苦い経験を味わった鴎外荘がコロナ禍の影響で経営難で今年の10月16日に閉館するそうだ。

その際、食器の処分が高値になってしまうということから、旅館の食器一式を500円で取りに来てくれた人たちに譲るということを行っている。


ここで集めた500円は「舞姫の間」の保護のために使われるらしい。


私も、実際に食器一式を取りに行った。
ちょっぴりと贅沢な一人暮らしを成り立たせるために、旅館の高級な食器が、それも由緒正しい鴎外荘の食器がもらえるとは千載一遇のチャンスだ。これを逃すわけにはいかない。という気持ちで行った。昔の苦い思い出はあまりフラッシュバックしてこなかった。


1日目には、控えめに1セット。
帰り際、女将に会わなくてラッキー、と思いながら旅館を出ようとしたその時、バックヤードから女将登場、話しかけられた。


一瞬、女将の眉毛が上に上がり、私に気が付いた表情が見えたが(もしかしたら私のバイアスでそう見えただけかもしれない)、すぐに女将の顔に戻り、「ありがとうございます」と挨拶をされた。


女将の話から、

どうしても区文化財の「舞姫の間」を残したいこと、
ただ、維持費が嵩張り現状とても厳しそうだということ、
ホテルも光熱費を抑え、売り上げを維持費に回すように努めていること

などがひしひしと伝わってきた。


女将の5年前の会食に来ていた大勢の団体様を楽しませていた巧みなトーク力は健在だった。

顔に刻まれた皺や、凛とした佇まい、ピシッとした着物、一つ一つの所作、しっかりと染められた黒髪。どれをとっても気品の泉源そのもの、という感じがした。この人のようになりたい。そう思った。


鴎外荘と『雁』と私と〜エロ親父だと思っていた鴎外を見直したきっかけ〜

女将と話しているうちに気がつくと、食器だけでなく、もう一度鴎外を読み直そう、と思っていた。そして、近くにあった鴎外荘特別仕様の『舞姫』『雁』が収録された本を購入していた。


早速、『雁』を読み進め、次の日もまた、新たな懐石料理のセットをもらうために鴎外荘へ朝イチに足を運んでいた。


結果、2セットも貰ってしまった。
2セットもらった理由は、めちゃくちゃ可愛くて雅な懐石料理の食器たちを引き取りたいという口実もあった。しかしながら、1番の口実は、募金箱に1,500円を入れたいという思いもあったからかもしれない。


こう書くと、じゃあ食器をもらわずに気前よく3000円くらい募金箱に入れてくれば良いじゃないか、という読者の声も聞こえてくるが、私の貧乏性な性格のせいか、それはできなかった。


1500円を実際に募金箱に入れる瞬間に、やはりどうしても惜しくなってしまうのである。
何かお金を払うから対価が欲しい。そう思ってしまって、なかなか気前良くお金をぽんと出せなかったのである。


ああ、なんと私は汚い、矛盾に溢れた人間だろう。


ここでこう書くことによって私は読者の方からの批判をさえ避けようとしているのかもしれない。無意識のうちに。

つまり、私は本当に汚いのだ。これは事実である。


ただ、『雁』を読み直して思った。
鴎外は自分と話が合いそうだ、と。


文学者でもなければ鴎外を研究したこともないが、『雁』には男性性への憧れ、や同性の同級生に密かに想いを寄せる健気な鴎外を見てとれた。


鴎外は『雁』の冒頭部分で、岡田という一つ年下の男を完璧な男、王道な男性性を持つ男として見、「憧れ」と「好き」という感情が入り乱れた視線で彼を廻始めるのだ。

引用しよう。

岡田がどんな男だと言うことを説明するには、その手近な、際立った性質から語り始めなくてはならない。それは美男だと言うことである。
(略)
血色が良くて、体格ががっしりしていた。
成績は級の中位より下には下らずに進んできた。
遊ぶ時間は決まって遊ぶ。夕食後に必ず散歩に出て、10時前には帰る。
日曜日には船を漕ぐが、そうでない時は遠足をする。
破格な金遣いをしない岡田

そして、その後には岡田の日々の散歩コースが事細かく書かれている。


この記述から、鴎外は王道のマスキュリニティ(男性性)にものすごく羨望の眼差しを向けていた結果、それが恋愛感情に発展したのかもしれない。


ものすごく私が高校、大学と経験する感情と似ている。


さらに、それを鴎外は言い訳がましく

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