小説「絶望を運ぶ者」
(掌編; 627文字)
闇の中、私は目覚める。小さな体に宿る研ぎ澄まされた感覚が、周囲の微細な震動さえも捉える。今こそ、私の時間だ。静寂が支配するこの世界で、私は夜の狩人としての役割を果たす。
標的はすぐそばだ。巨大で鈍重な気配が眠りの中に漂い、その無防備さが私を誘う。私の存在に気づかぬ愚か者。彼奴は、この闇の中で私が接近していることなど夢にも思わない。私の技は完璧だ。一瞬の隙も与えはしない。
冷静に、そして着実に、鮮血を求めて私は進む。翼が夜風を切り裂き、音もなくこの暗闇を滑走する。彼奴の鼓動が、私の耳に響く。距離が縮まるたび、その脈動が私を駆り立てる。
ついに、標的の目前に到達した。私の持つ針にも見える細剣をその柔らかな肌に突き立てる。彼奴の呼吸は深く、穏やかで、私の存在など微塵も感じていない。私は、完璧な死神。絶望を運ぶ者だ。
だが、次の瞬間、運命の歯車が狂いだす。空気が震え、巨大な影が視界を覆う。雷の如き一撃が、私の全てを押し潰そうとしていた。逃れる間もなく、時間が歪み、瞬間が永遠に感じられる中で、私は悟る。終わりが、今まさに訪れようとしていることを。
圧倒的な暴力が、私の技を封じ、私の速度を凌駕し、私の世界を支配する。光が砕け散り、私の存在は虚無に溶け込む。
これが、終焉か。
一滴の血を求めただけで、この無慈悲な運命に葬られる。しかし、それでいい。私は闇に咲く儚き影。束の間の命を燃やし尽くし、美しく消えることこそが、私の宿命なのだから。
私の狩りは、ここで終わる。
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