「木彫りの仏像にはちょっとうるさくてね」

【2024.3.24】

このくらいには起きたいね、と昨夜思っていた時間よりもよく眠った。

すっかり時間がなくなってしまい、ごはんも食べずに急ぎの仕事にきゃー!っと取りかかる。朝ごはん用に買っておいたサンドイッチが冷蔵庫の中でますます冷えていくのが気がかりだったけど、とにかく急がなくてはいけない。

なぜなら今日は午後からお出かけの予定があるからだ。デスクに向かうわたしに前脚をめいっぱい伸ばして「ねぇねぇ」とアピールする可愛いねこちゃんをなだめすかしてドタドタと作業し、わちゃわちゃと支度する。

無事に間に合わせ、夫婦であべのハルカス美術館へと出かける。知人から「円空展」の招待券をもらったので、ありがたく。旅をしながら仏像を彫った僧侶・円空の作品がたくさん見られるのだという。

あべのハルカスといえば日本一高いビルとして華々しく開業したが、あれからちょうど10年が経ったそうだ。そして日本一だった高さは去年11月に麻布台にできたビルに抜かれてしまった。人間が少しでも高く、高くと建物を伸ばすのは、天へのあこがれだろうか。

木彫りの仏像をまじまじと、つぎつぎ見るというのは初めてだった。「木彫りの仏像にはちょっとうるさくてね」と、訳知り顔でいた方がいいのかと振る舞い方に気を揉んでいたけど、杞憂だった。

はっきりと見て取れるノミの跡からは、円空さんがたしかにこれを彫ったのだと感ぜられて、眺めているだけで楽しいものだった。彫り手の背中をこんなに浮かびあがらせる彫刻作品があることに驚くが、ご本人が“美術品”として彫っているなんて思っていないからではと思ったりした。

ロープで囲われた大きな仏像には、触ってはいけませんよと美術館でよく見るプレートが置かれているが、「お手触れ禁止」と書いてあって日本語がちょっとおもしろい。

ミュージアムショップでちょっとしたおみやげものを買い、せっかくだからと60階の展望台に登った。雨上がりでモヤモヤはしているけれど、それなりに向こうまで見渡せる。あれは四天王寺さんだね、かろうじて大阪城が見えるね、自宅はあの辺かなとひとしきりやんやして、地上に戻った。エレベーターがおどろくほど高速で、耳がツンとする。

晩ごはんは新世界で串カツ。メインの通りから少し逸れた落ち着いた店内のテレビでは、ちびまる子ちゃんが流れていた。そういえばTARAKOさんが演じるまるちゃんは今日で最後だったなと横目で見ながら、なぜ人は高いところに登るんだろうね?などと夫と話す。

ふだん暮らし、仕事をし、友達と会ったりしている町がどんなところなのか、ぐーっと俯瞰してときどき確認したいんじゃないか。そうしないと、自分がいる場所のことがよく分からなくなってしまうんじゃないか、というのがわたしの意見だ。

高いところから、知っている場所を指差して確認した小一時間ほど前の自分を思い返した。

串カツは大変な美味しさで、日曜の夜を満喫して帰宅。以前はかならず玄関前のドアまで出迎えに来てくれたねこだけど、最近はめっきり来ない。10歳をすぎて省エネしはじめたのだろう。

ふとんを押さえて居場所を探ると折り返しているところに手応えあり。ここだ!と少し持ち上げると、もわっとした熱気とともに赤茶色の小さな鼻先が見えた。

私たちが出かけてからずっと、ねこはたしかにここにいたのだ。

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