送り状の文字だけで沁み出す唾液
【2024.4.3】
目が覚めたら、しばらく正座した時の足のように頭がビィィンと痺れていた。痺れるんだなぁ、頭って。
今日は気分転換に公園へ行って仕事しようかなと考えていたのだけど、どうも雨の気配がする。ほうぼうから立ちのぼる雨の気配を布団の中で感じながら目を閉じてじっとしているうちに、頭の痺れはなくなっていた。
布団から這い出てカーテンを開けてみると、やはりしっかりと雨が降っている。
台湾で大きな地震があったそうで、沖縄に津波警報が出たとNHKニュースアプリの通知が忙しく着信するのでソワソワしてしまう。
身支度をして遅めの朝ごはんを用意しながら、岸政彦先生のポッドキャスト「20分休み」を聴く。2月に配信が始まった時にとても気になっていながら、特に理由もなくまだ聴いていなかった。
目を画面に釘づけにしていなくてよい、音声だけのゆるりとした語りは情報量がちょうどよく、これはとてもいいなと気に入った。
パンとヨーグルト、ありものでつくった簡単なスープ。具のウインナーをフォークで刺そうとしたらツルリとすべって回転したはずみで、汁が洗いたての服にはねて悲しい。
...はて?洗ったあと、どれくらい経ってからの粗相なら悲しくないのだろう。掃除や洗濯をせっせとしてもしても、生きている限り汚れる時はやってくる。
「あぁ!せっかく綺麗にしたのに!」ともったいなく思うのは、なにかと面倒くさがるわたしの意地汚さのあらわれかもしれず、ちょっと恥じる。
食べ終えて仕事に取りかかるが、最中たびたびインターホンが鳴るのでいまいち集中しきれない。
ひとつは夫がクレジットカードのポイントで申し込んだ景品の配達だった。「プレミアム"味百選"はちみつ梅詰め合せ」と書かれた送り状の文字だけで唾液を沁み出すことができる身体がすごい。
もうひとつは昨日Amazonで買った水泳用のゴーグル。あまりの運動不足にいよいよ危機感をおぼえ、今年度から市民プールに通うことにしたのだ。
今日の天気はもう持ち直す気はさらさらないらしい。外に出るのは諦めて、明日に希望を託して家にこもり仕事をしようと心を決める。
お茶を淹れ直すなどしてインターホンが鳴るたびに途切れた気持ちをつなぎなおそうとデスクに向かうが、あまり手がつかず、もういっそ酒でも少し飲んでやろうかと荒療治に心が向かう。
ギリギリ持ちこたえた。
仕事を終え、夜もかなり深まったころ。本を読んでいると、ねこがあからさまに抗議をしかけてくる。キバをむき出しにして「ニャアァァァ!!」と語気を荒げ、「ニャゥゥゥ....」とお小言までセットで可愛いのお得セット。
腕の硬くていちばん痛いところを的確に捉えて噛みついては、黒目をまんまるにしてやる気に満ちている。この目は「あたし、もう寝たいんですけど!」だ。
常々「眠たければ寝たらいいんだよ」と言いふくめているのだけど、夜ベッドに入るのは絶対に一緒、が彼女のルール。
眠ることに対して、眠たい状態でこんなにもやる気を表現できるねこという生き物のなんと力強いことだろう。
ねこはその音から「寝子」と当て字されることもあり、言い得て妙とはまさにこのことだなと思う。
世の中には短い睡眠時間でも平気な人が一定数いると聞くが、わたしは昔からしっかり眠らないと使い物にならない。そういう点でも、ねことわたしは気が合っている。
根負けして「よしよし、もう寝ましょう」と立ち上がり、ねこを抱き上げたら「断固拒否!」で飛び去っていった。
理不尽!と言ってはみるけど、ねこのことだから好きにさせておけばよいとは、10年一緒に暮らして得た余裕の心持ちだ。
先に布団に入って、リビングでなにやらしているようすに耳をそばだてる。
寝る前にカリカリを食べ、水を飲み、トイレまで済ませている。トイレハイで部屋の隅から隅まで走り回る大運動会をやんややんやと繰り広げ、高い棚の上に登ったところで「あおーん!」とひと吠え。
くるぞくるぞ。
案の定、ドタドタドタと派手に足音を鳴らして寝室に駆け込んできたねこが、そのままの勢いでベッドに飛び乗り胃の上に着地したので、たまらず呻いた。
「どうぞおはいんなさい」と布団を持ち上げるも入ってこず、掛け布団の上にどすんと腰を下ろしてしまった。
あぁ、夏が来たな。
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