こはだ日記 #1
猫界の菜々緒こと、こはだです。一緒に暮らして8年半になる飼い主が、わたしのことをそう呼ぶのだけれど、2.8Kgという軽量ボディにそなわった長い手脚を見れば、そう言いたくなるのも仕方ないわよね。
ところで、その飼い主だけれど、「ライター」といってものを書く仕事をしているらしい。「らしい」というのも、たとえばお巡りさんやお医者さんみたいに、すぐにそれと分かる服を着ているわけでもなく、ちゃんと印のついた建物にいるわけでもなく、あの子はだいたい家にいて、わたしのカッコいい爪で開けた穴のある服を着ているからよく分からない。
でもわたし、知ってるのよ。難しい顔をしながら銀色の平べったくてつるつるしたやつ(アイツ、「まっく」というらしいわ。あの上に吐いてやると、笑っちゃうほど慌てるのよ。)と向き合って、ときどきポチポチやるのがあの子の「仕事」らしいけれど、ほとんどの時間はついったーをぼんやり眺めてるだけだってことを。なーんだ、そんなのが「ライター」だったら、わたしならもっと上手にできるわ。だってわたしはカシコイ猫だもの。
だから日記をはじめます。うちの間抜けでぐうたらな飼い主のことを、時々こうして書くわね。ほんとうは毎日でも書きたいけれど、わたしが「ライター」もできるなんて知ったら、意外と繊細なあの子はきっと自信をなくしちゃう。だから見つからないように、あの子がいないスキにこっそりと。
わたしの、どこか知らない国の湖みたいな美しい瞳で見たことを、するどい洞察力でとらえて書きつづる「こはだ日記」。どうぞお楽しみに。
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