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地球最弱の生き物がいただくのは(台湾入院日記)

毎日22時ごろ更新。初めて行った台湾で、バイクにはねられ、足を骨折。英語も中国語もできないスキル状態で現地の病院送りになった女の、なにかとギリギリな入院回顧録です。

前回はこちら


楽しみにとってある朝食の存在は、人を簡単に幸せにする。

ていねいに握りしめたおむすびでなくても。スーパーフードを盛りしめたサラダプレートでなくても。わたしはミスタードーナツで最高に幸せになれる女である。

8月8日、久しぶりに頭痛のない朝。
実は退院してからも、ずっと頭痛がしていた。

昨夜、何度もつまみ食いの危機に遭いながら、無事に夜を越したドーナツたちと対面する。

もちろん日本では見たことのないものばかり、4つ。いつもの顔ぶれたちの違う一面を見て、こちらが気恥ずかしい気持ちになる。

ポンデリングのココアクッキー。
ゴールデンクランチの食感をもつポンテリングといった感じ。ザクザクしていて、生地は日本のポンデリングよりしっかりしている感じがした。

青唐辛子と山椒のフレンチクルーラー。
ドーナツに唐辛子と山椒て。と思ったけど、特に辛いわけではなく、山椒の爽やかさがクリームと合う。日本のチェーン店の味も、郷にいれば郷に従えでおもしろい。

腹にドーナツを2つ詰めるという至福を堪能しているところに電話が鳴る。

あぁ、きっと帰国便の手配ができたのだ。

その予感どおり、明日。つまり8月9日7時5分発のエバー航空便のチケットが取れたとの連絡だった。再診を受けてからの展開があまりに早くて、気持ちが追いつかない。わたしは明日ついに、日本に帰れるのだ。

なんだか実感が湧かない。
あんなに帰りたかったのに。

現実感なく、骨折り女の帰国大作戦がはじまった。とにかく、帰国便が決まったことを、夫と仕事仲間に知らせる。

帰国したら、すぐに整形外科にかからないといけない。傷の消毒のことを考えると、できればその日のうちに。よさげな病院を探し、初診予約をするミッションが発動する。

あと、家の中の移動手段。

Urber eatsで運ばれてきた袋を持って移動できないのに、生活ができるはずがない。松葉杖の代わりになる、生活の足としての重大な任務は5,900円のコレが負うことになった。

明らかに荷が重いが、がんばってもらいたい。Amazonで注文しておけば、早ければ翌日夜にも到着するだろう。

買い物には当然行けないから、ネットスーパーで食材を買って作るか、Uber eatsか出前館に頼るしかない。日用品はある程度のものはAmazonで問題ないし、Amazonで買えないものは夫に託そう。

掃除や洗濯はどのくらいできるだろうか。猫のご飯やトイレの世話はどうだろう。食器もトイレも低い位置にあり、しゃがめないことがネックになりそうな気がする。

日本での療養生活のことを具体的に考え出すと、懸念は尽きなかった。

幸いなのは、わが家はデフォルト装備がバリアフリーだということ。

お風呂にもトイレにも、玄関にも手すりがあって、家中の段差はドアレールの数ミリだけ。マンションなのでフロア移動もない。

今まで存在すら気にしたことがなかった手すりに、これでもかというほど助けられるのだけど、それはもうちょっと先の話。

まずは身支度に備えてカロリーを摂ろうじゃないか。お昼にと残しておいた、チーズマフィンとポンデリングのレモンヨーグルト。商品名に「北海道」と謳っているが、これはさすがにどうなんだろう。

コクがあって美味しかったので不問とする。これから先、台湾ミスドの味がときどき恋しくなるような気がした。

少しづつ身の回りの片付けを始めたころ、保険会社から搭乗便のeチケットが届く。さらに、ホテルから空港、空港内のサポート体制、関空から自宅までのタクシーなど、怒涛のごとく決まっていく。いよいよ現実味を帯びてきた。

ホテルの出発は早朝4時15分。フロントに、明日チェックアウトすることを伝えると、本来は返金にならないはずの2泊分の料金を返してくれるという。なんたる親切。心遣いに救われる。

夕方に2時間ほど寝ておき、19時少し前に目が覚める。観たかったYouTubeライブ配信「僕たちはいつも正しいわけじゃない」がちょうど始まる時間だった。

配信を見ながら、台湾での最後の夕食を慎重に品さだめする。麺は昨日食べたし、ちょっとあっさり系がいい気もする。

お、水餃子。

「高麗菜豬肉水餃套餐」と書かれている。漢字はイノシシっぽいけど、どうなんだろうか。調べたけど分からなかった。この水餃子と酸辣湯のセットで台湾の夜を締めくくることにした。

半日後には、日本に帰ってるんだなぁ…。

ライブ配信では、さまざまな人のさまざまな人生の悩み相談が繰り広げられていた。当たり前に日本語が飛び交う配信を観ながら水餃子を食べていると、ここがどこなのか、分からなくなる。わたしは今どこにいるんだっけ?

この部屋には窓がない。

日本には、やはり身綺麗にして帰りたかった。例の、腰にテキメンのダメージを与えるギリギリのフォームでシャンプーをする。洗える範囲で身体も洗い終えた頃には、髪はすっかり冷えていた。

いつもなら15分もあれば済むシャワーに、倍以上の時間がかかる。なにも気にせずバシャバシャお湯を浴びていた日々が懐かしい。ちょっとしたことがうまくできなくて、思わずため息が出てしまう。

シャンプー中も、ブースの床にパウチゴミを落としてしまっていた。拾いに行こうとするが、シャワーの水流にドンブラと流されていて、手すりに掴まれる位置からは届かない。

このまま放って帰るのも忍びない。

おそるおそる、滑り止めがついている部分を確かめて松葉杖で中に入っていく。

ヒィッ!!!

軽くツルッと行き、あやうく追い骨折をするところだった。

自分が落としたゴミを拾うのも命懸けとは。なんかもう、地球最弱の生き物。戦闘能力どころか、生きぬく力がゼロに等しい。ピクミンの方がよっぽどたくましい。

爽快感と引き換えの疲労感。情けなさに涙がちょちょぎれそうになる。

荷物をまとめ、「起きててもなにもできないしー」と、イジけた気持ちで早めに横になる。今から眠れば3時過ぎに起きたとしても、それなりの睡眠時間になる。明日は長い旅路になるだろう。とにかく眠ろう....。

.................

眠れん。

右に、左に、コロコロと寝返るたびに目が冴える。

22時(台湾時間)。
自宅にセットしてあるお留守番カメラでこはだを呼びつけ、心を慰める。

0時。
ケガをしてから、悠久にも感じた時間が急激に進みだす。
1時、2時.....。
まずい。今から寝落ちすれば、いろいろ終わる。

2時半を前に、眠ることを諦めた。


骨折り女が日本に帰る日がやってきた。
台湾入院日記、ついに最終章に突入。

次回、さよなら台湾
(9月12日夜 更新予定)

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