「経験学習」を学んで日常の診療を振り返る
獣医師になって11年目。
どうしたら飼い主さんが納得のいく診療を提供できるか、ずっと考えています。
動物病院に来る方に取って提供される医療の質が高いことは重要だと思いますが、果たして飼い主さん達はそこだけを見ているのでしょうか。
僕が大学生のとき、急におでこにニキビが多発して皮膚科を受診しましたが、余りに無愛想な先生で挨拶もなく患部をチラ見しかしてもらえませんでした。
自慢ではありませんが僕は肌が綺麗な方で、これまでニキビで悩むことは全くありませんでした。
おでこに多発したニキビは痛痒く、ニキビ用の洗顔や市販されているケアグッズを使うも1ヶ月以上治らず、困り果てての皮膚科受診でした。
どうしてこんな状態になってしまったのか、再発しないようにするにはどのようなことを気をつければ良いのか、知りたいことがたくさんありました。
が、お医者さんが発した言葉は「はい、塗り薬を2種類出しておきます。お大事にどうぞ。」だけ。
本当にこれだけ。
その後ニキビは見事に1回の通院で治り、さすが皮膚科医とは思いましたが、もう一度そこに通院するかと聞かれたら僕は絶対ノーと答えます。
病院に行き病気が治ることは大前提ですが、僕が病院に求めているのはそれだけでなく、病気の原因や治療法、今後どのように予防すれば良いかについての情報なのでそういう話ができない病院だったからです。
ただ、その病院は僕には合いませんでしたが、端的に不要な会話をせず最短で要件を済ませたい方にとっては良い病院だったと思います。
飼い主さんによって
僕のように病気についての細かい情報が欲しい人もいれば、
とにかく結果を出してくれれば良いという人、
先生に情熱を感じられることが重要な人など、
獣医師に求めているものがそれぞれで違います。
人によって求めるポイントが違うのは当たり前ではありますが、十人十色かというとそうでもありません。
ヒトの思考の方法はタイプ分けすることが可能で、
今回僕が参考にしたのはデービットコルブの「経験学習」という考え方です。
この経験学習というものは
人が何か新しいスキルを獲得する時に起きる学習にはその人にとって快適に感じる学習形態があり、それが大きく分けると4タイプに分けられるという内容でした(本では全部で9タイプに細く分類されています)
感覚・直感、人情重視で細かいことは気にしない「経験タイプ」
多くのデータをあらゆる角度から検討し、考えることを重視し、行動が苦手な「検討タイプ」
論理的にデータを分析し、そのデータを使ってどのように行動するべきか考える「思考タイプ」
目標を決めたら自分の信じた方法で突き進んで行く「行動タイプ」
僕は論理的な説明を重視し、直感的な表現はできるだけ避ける傾向があるので
思考タイプ寄りで、
さらに開院当初から一緒に働いている獣医師も説明に時間をかけ、飼い主さんがきちんと病気について理解することを重視する獣医師なので、同じ思考タイプになるかと思われます。
同じ思考タイプの人は求めている情報が一致しやすいので話が通じやすい一方、他のタイプの人には話し方を変えないとすれ違いが生じてしまいます。
実際診察をしていても、
僕はしっかりかっちり説明して、飼い主さんが病気に関して理解した状態で診察を終えたいのに、
説明が始まって数分でもう話はいいから早く薬だけ出してくれ…みたいな顔になっている方もいます。
これまでは単純に自分の説明力が足りないだけ、もっと上手く説明できるようになれば良いと思っていましたが、
そもそも求めている情報がその人のタイプごとに違うのでそれに合わせた説明ができなければどれだけ説明に時間をかけても無駄だったということです。
この考え方を知ってから来院された方で、
明らかにせっかち(ご自身でも即断即決派といってましたw)で自分が「こう」と思ったことは譲らない感じの方がいました。
…少し自分が苦手とするタイプの方ですね。
今までならとにかく丁寧に説明!となるところでしたが
明らかに行動タイプの雰囲気。
そうだとするとごちゃごちゃ言うと逆効果で、
むしろ端的に必要最低限の情報を伝える方が良いかも
と思い診察を進めたところ、にこやかに診察を受けてお帰りになりました。
流石に僕の診察どうでしたか?なんて聞けなかったので自己満足になってない保証はありませんが、スタッフからも良い雰囲気で終わってた印象があったようなのできっと良かったはず(笑)
今までは「自分にとって良い説明」が「他の人にとっても良い説明」だと思い込んでいましたが、
人それぞれ本当に求めていることが違い、そこも察していかないと自分を頼ってきてくれた飼い主さんの力になれないということを再認識した出来事でした。
人をきっちりタイプ分け通するなんてことは難しいと思うし、
まだこの考え方を自己適用し始めたてですが、
今までなら苦手だと感じる人もこうやって少しずつ減っていけば
獣医さんに不満や不安を感じる人が減ることにつながるかな、と思いつつ
今日も1人でも診療に満足してもらえる飼い主さんが増えるように日々精進していき、さらに、うちの病院で働く獣医さんにはこういうこともきちんと考えられるようになってもらえるように頑張っていきます。
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