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㉕攫われの姫君と、聖騎士の忘れ形見

全員でリュカの背中に乗り、一気に王都を目指す。

「た、高い……」

ミモザは意外にも高いところが苦手なようだ。
そのせいか、ずっと俺の腕にしがみついてる。

「しばらくの辛抱だから、我慢して」

「で、でも……」

下を見て慄くミモザはいっそ強くは俺の腕を抱きついた。
王都が見えてくると、その傍に着陸し、そこからは徒歩で向かうことになった。
入口付近に近付くと、以前に来たときと同じ衛兵がいた。

「止まれ」

「私だ」

ルシアが一歩前に出て衛兵と交渉する。
が、決裂したんだろう、ルシアは何かしら魔法を発動した。

「行くぞ」

倒れた衛兵を横目に街へと入っていく。
勿論、俺達の都合なんか知らないので、街の中は平和で通常営業と言ったところだ。
見上げると王城があり、今からそこを目指すとなると、途端に緊張してきた。

「……街はこうなっていたんですね」

「そっかエリーがは初めてだもんな」

王宮に籠もりっきりだったエリーは物珍しいものを見るように周りを見渡していた。
これまで立ち寄ったり、滞在した街でもそうだが、エリーにとって全てが新しい物で、そしてこれから向かう場所が唯一、知っている場所なんだろう。

「俺達はこのあたりで分かれる。あまり大勢で行ってもな」

「ありがとうございました、ジェフさん。それにミモザも」

「エリー……頑張ってね」

「もちろん。また会いましょう」

二人と別れるといよいよここからが本番である。

「っと、その前にルカ、これを渡すの忘れてたわ」

ジェフはそう言うと、父の剣を渡してきた。

「お前、置いて行ってたからな。新しいのもあるみたいだが、お守りがわりに持っておけ」

「ありがとうございます」

ジェフとミモザは人混みに溶けていった。
残った俺とエリー、ルシアにウィルで王城を目指す。
徐々に街を登っていくように坂道や階段を順番に登っていく。

「こんなに登らなければいけないんですね」

「そりゃ一応は攻められた時の事を考えて作ってあるからな」

ウィルがそう言うとエリーは額の汗を拭う。
幸か不幸か、街中でエリーの顔が指すことはなかった。
どちらかといえば、ウィルが昔なじみの酒屋の店主から声を掛けられていた。
俺とルシアは黙々と歩いていた。

「なあルカ」

「なんですか?」

それまで黙っていたルシアが口を開く。

「もし何かあったら、エリーを連れて真っ先に逃げろ。いいか、逃げるんだ。私の屋敷に行けば王妃がきっと力になる」

「飽く迄も、保険ですよね?」

「まあそうだな。そうならずに済めばいいが」

「不吉な言い方止めてくださいよ」

冗談でもそうでなくても、そうならずに済めば一番いいに決まっている。

王城の正面へと差し掛かった時、門番が俺たちを勿論、止めた。

「止まれ」

「……誰に向かって槍を向けているのか、わかっていらっしゃいますか?」

エリーがいつもより低音の声でいう。
しかし、門番は怯むこと無くそのままエリーに向かって槍の切っ先を向ける。

「私はこの国の王女ですよ」

「……? おかしなことを、この国に王女などいませんよ」

「何を言ってるんですか、そのいなくなった王女が帰ってきたと言っているんです」

「また戯言を……」

「ならば通してはもらえないか?」

「げっ、荒野の魔女」

荒野の魔女は便利でいいなと俺は思った。
まるで顔パスのように門番は槍を引っ込めた。
しかし、城内は違った。
殺気立った雰囲気、当たり前のように異物が入り込んでいるのが悟られている。

「おやおや、荒野の魔女と……」

「お久しぶりですな」

「で、皆さんで何の御用ですかな?」

「王に、父に会いたいのですが」

「……」

大臣はジッとエリーを見つめて何かを思い出した。

「王女殿下……まさか生きておられてとは」

「ということは、あなたはご存知だったのですね」

「うっ……」

大臣は不味いことを口走ったと言う自覚で、少し悔しそうな顔をした。

「皆何をしておる!早く捕らえよ!」

王の間の方から声が聞こえる。

「お父様!」

「よもやまだ私を父と呼ぶか。荒野の魔女から真実は聞いたのだろう。そこにいるのは皮肉にも聖騎士の息子か」

俺達は兵に取り囲まれる。
王の命令なだけに城中の兵士が集まっているくらいだ。

「お父様、なぜこのようなことを? 私の存在が邪魔ならもっと早く殺しておけば……」

「……淡い期待だ。もしかしたら何かの間違いだったと、本当に私の娘であると……だが、明らかに私に似ていない。それに魔導士であるなら尚更王族に相応しくない」

「そんなの許されないだろ!無理矢理奪っておいて、要らなくなったから捨てるみたいなそんなの許されない!」

俺は人垣を飛び越えて王の懐に入り込む。
胸倉を掴むと、王は顰めっ面をする。

「貴様、これで国家反逆罪だな」

「構わない。俺はあんたをぶん殴らなきゃ気がすまない」

「ルカ!止めてください!」

「ふん……」

ルシアが鼻で笑う。

「何がおかしい。荒野の魔女よ」

「いや、少し自分の中で納得したところがあるんだ。なるほど、そうなってか」

「何を言いたい」

「私はルカの心配をしている。そして、私が未来に帰るにはその時願った願いを叶えなければならない。それがどうやらこの瞬間らしいな」

ルシアはそう言うと囲んでいた兵を眠らせた。
そして俺に顎で合図をして、俺はそのまま王の間に王を押し込んだ。

「貴様……未来から来たのか」

「ああ、私は未来のエレナだ。あなたを殺しに来た。でないと、未来でルカは……」

やはりルシアの行動の原動力は俺が原因なのか?
俺はそんなに不幸体質だったのかと疑ってしまう。

「国王陛下、そろそろよろしいですか?」

「な、お前は……」

「お久しぶりです。陛下」

「ジェフさんにミモザ!どうして……これも依頼ですか?」

ミモザだ機敏に動くと王の腹部は赤く血で染まり始めた。

「き、貴様らぁ……」

「これでおしまい」

ミモザは介錯をするかのように、首の大きい血管を切り裂く。

「これで俺は助かるのか?」

「いやまだだ」

「ええ、そうです」

俺の問いかけにルシアが答えると、後ろから見知らぬ女性が歩いてくる。

「ミモザ」

「はい……」

ミモザは生気を失った目をして俺に斬りかかる。

「くっ……そっちが本命か」

「おっと動くな。こっちが死んだらあんたも存在できないだろ?」

ジェフがエリーの首元にナイフを突きつけると、ルシアとウィルは動けなくなった。

「クッソ、やめろミモザ!」

「無駄よ。その娘は私が操ってますから」

「ジェフさん、離してください!」

「あんまり暴れないでくださいよ姫様」

「エレナ、あなたは私とこの国を支えなければなりません。そのためには邪魔なものは全て排除せねば……」

「くっ、そうか。大事な部分はいつも曖昧な記憶しかない。それもこの魔法の理だというのかっ!」

「ふふふ、ルシア、あなたが未来から来たことによって変わったことがあるとすれば、私に大いなるチャンスをもたらした事よ」

「チャンス、だと」

「初めにあなたがいた未来と変わっていたところは覚えているかしらね。いや、覚えていないはずだわ。私の魔法特性は意識の操作に特化している。だから、多少なら記憶をすり替えることもできる」

「まさか、私のも?」

「いいえ、あなたのはできなかった。恐らくあなたのほうが優れた魔導士だからでしょうね」

俺はミモザのナイフを避けながら、その話を聞いていた。
どう対処すればいいか、ミモザを殺してしまうか?
それだとエリーが悲しむ。
どうすればいい、どうすれば……。
そういえば、リュカは何処へ行った?
城に入るまでは一緒にいた。
王都へ入る前、皆んながリュカから降りた時、ルシアが何か耳打ちをしていたな。まさか何か策を隠しているのか?
頃合いを見計らい、リュカが入ってくるなんてありえる話か?
そんなことより、ミモザをどうにかしないと……。

「くっ!」

「あっちの坊やはもう疲れてきているみたいだね」

「ルカ!」

足が動かない……もうダメか。
そう思った瞬間、ミモザが突然消えた。



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