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【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(24)
前話まだの方はこちら↓
〈24〉何一つ終わってやしないのに、まだ生きるとして
デザートも食べ終わり、食後のコーヒータイムを満喫していると、徐々にピークタイムに入ってきたのか、店内が賑わってきた。
「そろそろ出よっか」
私はそう母に告げて伝票を手に取り精算へ向かった。
「ちょっと、陽菜待ちなさい。ここはお母さんが出すから」
「でも……」
母は私から伝票を取り上げてレジへ向かった。
私と美夜子は紗季に軽く挨拶をしてから、先に店を出た。
「この後時間ある?」
「うん、特に予定は無いよ」
そう言うと、美夜子は少し嬉しそうだった。
昨日一日、私が荷物を取りに行ったくらいで、美夜子と接していなかったからか、少し寂し気だった。
「もしかして……」
「違うから」
「もう、美夜子の方がツンデレなんだから」
「じゃあもういい」
「えー、なんで?」
「なんでも!」
「まあ、安静にしてた方がいいとは思うし、お出かけとかは治るまでお預けだね」
私がそう言うと、美夜子は膨れてそっぽを向いてしまった。
その様子がたまらなく可愛い。
「お待たせ。お母さん、夕飯の買い物して帰ろうかって思ってるんだけど、陽菜はどうする?」
「私も一緒に行く。お母さん、退院したばかりなんだから、1人は心配」
「わかったわ」
美夜子は玖美子さんの運転する車に乗り込み、こちらに手を振ってくれていた。
手を振り返すと、母がニヤついてこちらを見ていた。
「いいの? デートしなくて」
「美夜子、怪我してるしあんまり連れて歩くのは気が引けるし」
「そうね、治るまでの辛抱ね。陽菜も」
「別に、学校で会えるし」
「そう言ってたら、他の人に取られちゃうよ? 私みたいに」
「お母さんがそれ言うと説得力ありすぎて……」
過去のことを笑い話にできている。
それは、以前の母ではあり得なかったことだ。
私は少しそれを見て安心した。
「夕飯、何食べたい?」
「今、お昼食べたばかりだから……あ、カレー食べたいなぁ」
「わかった」
スーパーでカレーの具材やその他必要なものを買って自宅に戻った。
「思ったより、汚れてないわね」
「ほとんど美夜子のところにいたから」
「あ、そっか」
「お風呂場は業者さんが綺麗にしてくれたよ」
「それは……ご迷惑お掛けしました」
私は自室でスマホをいじり始める。
ベッドに横になってボーッとニュースサイトを見ていた。
すると着信があり、美夜子のアカウントが表示されていた。
「もしもし?」
「陽菜の声が聞きたくて」
「それをもっと早くに聞きたかった」
「ごめん」
「で……」
私は話題に困っていた。
話したいことはさっきファミレスで話し尽くしている。
キスをするにも電話じゃできない。
「明日だけど、恭子さんとうちに来ない?」
「なんで?」
「お母さんが快気祝いやろうって言い出して……」
「何でまた……」
「なんか今日色々話して思うところがあったみたい」
「へぇ……」
「それにお父さんが陽菜は次いつ来るのかって五月蝿くて」
この前、会ったばかりというのに……と内心思っていたが、そう言ってもらえるのは嬉しいことだ。
「わかった。お母さんに聞いてみるよ」
「うん……陽菜、好きよ」
「私も好き」
「じゃあね」
「うん、じゃあね」
電話を切って私は抱き枕をこれでもかっていうくらい抱き締めた。
ああ、これが美夜子ならと思いながら私は、そのまま左右に転がっていたら、ベッドから落ちた。
「イテテ……」
「どうしたの?」
「あ、お母さん、美夜子がね、玖美子さんが明日、招待したいって」
「招待?」
「うん、お母さんの快気祝いをしたいってさ」
「そう……今日も色々話聞いてくれたし、無碍にはできないわね」
美夜子にメッセージで明日、お邪魔することを伝える。
「わっ!」
いきなり着信が入りすぐに出ると美夜子は少し怒っていた。
「なんで電話で言ってくれないのよ」
「別に電話よりメッセージの方が早いでしょ?」
「そうだけど……声聞きたかったから」
「美夜子、私のこと好き過ぎ」
「ダメ?」
「ううん、むしろ嬉しいよ」
結局そのまま他愛もない話を続けた。
紗季の制服姿が可愛かっただの、帰り見かけた豆柴が可愛かっただの、美夜子は犬派か猫派かなど。
思えばお互いのパーソナルなことをここまで話すのは初めてだったかもしれない。
私を好いてくれている美夜子がいれば、それでいいと思っていたからかもしれない。
私の好きなもの、嫌いなもの、美夜子のそれらを語り合い、私たちは電話を切った。
「カレーのいい匂い……」
キッチンへ行くと、カレーが殆ど完成しており、母はテレビを見ていた。
「ご飯まだ炊けてないから」
「うん」
母との日常を私は少し思い出せずにいた。
これまで、どう接していたのか、これが普通だったか?
「先にお風呂入ろうかな」
「お湯はもう張ってあるから、冷めてたら追い焚きするのよ」
「うん、ありがとう」
私はそう言って着替えを部屋に取りに行き、お風呂場へ向かった。
湯船に浸かりながら、体をほぐす。
「陽菜、牛乳好きだった?」
「最近になって、ちゃんと飲もうって思って……」
美夜子のところでお風呂上がりの牛乳の美味しさを知ってから、これは欠かさずにやっている。
「そうなの?」
母はそう言うと、空いたグラスを食洗機へ入れた。
「美夜子ちゃんとはどうなの?」
「どうって?」
「どこまでしたとかあるじゃない。キスはしたの?」
「お、親がそう言うこと聞くもんじゃないでしょ」
「でも聞きたいじゃない」
「……した」
「なるほどね」
「なるほどってなに……」
「美夜子ちゃんって、陽菜が昔ずっと言ってたミヤ君ってことよね?」
「ミヤ君……?」
私は記憶のアーカイブを紐解きあらゆるページを閲覧するも、ミヤ君なんて項目はない。あるとしても美夜子と書き記されていた。
それもそのはず。それを思い出した時。つまりミヤ君が美夜子だったと気づいた時に、私は全てそれを美夜子に置き換えたからだ。
「そういえば……そう呼んでたかも」
「陽菜の初恋の相手ね。なんかドラマみたいじゃない? 巡り巡って高校生で再会して、初恋が成就するって」
「向こうも覚えてたけど、美夜子は一方的にわたしを好いてくれていたから……」
美夜子は子役時代の私に勇気付けられてそこから好意が発生して、今の状態になっている。
私はたまに不安に思う。美夜子は恋愛感情を抱いていてくれているのかどうか。
「明日、楽しみだね」
「ええ……」
「玖美子さんとは何話したの?」
「2人の幼稚園の頃の話とか、子役時代の苦労話を聞いてもらったり……あの人の話とかも。おかげですごく楽になった。なんでもっと早くに連絡しなかったんだろう。電話番号もメールアドレスも変わってないって言ってたし、メッセージアプリのアカウントも交換したから、これからはいつでもお茶に誘えるわね」
「よかったね……」
私はIHのスイッチを入れてカレーを温める。
「よかったらするけど……」
「いいよ。ゆっくりしてて。私さ、1人で何もできないんだって実感したから、これからは料理とかやってみようかなって思ってるんだけど」
「……そうね。今まではお仕事のこともあるから怪我とかされたらって思ってやらせないようにしてたけど、もういいものね」
「だからいつでも玖美子さんとディナー行って来なよ?」
「わかったわ……でも大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。美夜子と一緒にやるから」
美夜子は料理上手。それは玖美子さん直伝のスキルを持っているからだ。
「美夜子ちゃんは大丈夫なの?」
「うん。普段手伝ったりしてるって言うし」
「そう。なら安心ね」
それもこれも、美夜子の傷が癒えてからだ。
私はそう考えながらカレーを焦げ付かないようにかき混ぜていた。
「あれ?」
「どうしたの?」
私は炊飯器開けて驚愕していた。
「お母さん……スイッチ入れてなかったみたい。お米、炊けてない……」
「嘘!ごめんなさい!ちょっと待ってね」
母は急いで急速炊飯スイッチを押して炊飯器を稼働させた。
「おかしいなぁ……押したつもりだったんだけど」
「病み上がりだから仕方ないよ。それに私もそこまでお腹が空いてやばいってわけじゃないから……」
「本当、ごめんね。多分3、40分で炊き上がるから」
「わかった」
私は一度自室に戻りべっどに横たわった。
スマホを見ると、休日恒例の沙友理からの画像が送られて来ていたり、紗季から今バイト終わったというメッセージが来ていた。
その中で一つ異質なものを見つけた。
「これって……」
ミュジーク会長の大村さんからメールが来ていた。
『夜分にすみません。うちに取り敢えず籍だけでも置いてくれうことに感謝しています。咲洲さんのような才能あふれる人材を獲得できて、心から嬉しいです。さて、興味があればでいいのでなければ断ってもらっていいんだけど、次回クールのドラマ。出ることに興味ありますか? もちろん、引退してすぐに出ることに抵抗はあると思うんだけど、もしよければ、僕はこの役、咲洲さんにピッタリだと思うので、メールさせていただきました。お返事お待ちしております』
丁寧なメールに私は驚いていたし、現場で数回お会いしたことがある程度で、まだ正式な契約書も交わしていないので、どう返事すればいいのか、迷った。
「ねえ、お母さん。さっきミュジークの大村さんからメール来てたんだけど……」
「え、なんて?」
「次のクールからは始まるドラマ、レギュラーで出ないって」
「いきなりは……」
「だよねー」
私は取り敢えず断りのメールを送信した。
炊き上がった白米をカレー皿に盛り、それにカレールーを注いだ。
ゴロゴロとした具材のカレーが私は大好きだ。
お肉は何よりビーフ、牛肉派だ。
ビーフカレーに次いで好きなのはチキンカレー。最下位とは言わないが定期的に食べたくなるのがポークカレーである。
それに福神漬けを乗せる。
カレーとライスは絶対に混ぜない。
これは私の中の鉄則だ。
まずはルーとライスの境界線を崩していく。
そして徐々に橋の真っ白なライスをルーの湖に浸けて口へと運んでいく。
福神漬けの甘さが一旦、口の中をリセットしてくれ
る。
「ご馳走様ー」
「もう、もっとゆっくり食べなさい」
「わかってるけど、癖だから……」
私は皿に水を張り、牛乳をコップ一杯飲んでから自室に戻った。
メッセージが来ていて見ると美夜子からだった。
「何これ……」
そこには美夜子と男のツーショット写真。
首にコルセットがあるから、おそらく今日の写真だ。
「誰よこれ……」
私はスマホをビーズクッションに食い込むくらい放り投げて、布団に包まった。
きっと親族だ。それで写真を間違えて送って来たんだ。
美夜子は私以外にも笑う……それは清隆の時もそうだったではないか。
私の思考回路がものすごいスピードで回り始め、回路が焼き切れて私は眠りについてしまっていた。
続き↓↓↓
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