初恋の相手が義妹になった件。最終話
在来線と新幹線を乗り継いで、僕達は三日振りの自宅へと戻ってきた。
道中お腹が空いて、駅弁を食べたりしたが、それでも慣れ親しんだ家に帰ると、安堵感からか、空腹が再び襲ってきた。
母は、時同じくして仕事を終えて帰宅中、ばったり出会ったので一緒に帰ってきた。
「どうだった?」
「楽しかったよ。樹也めっちゃ背伸びてた」
「へぇそうなんだ。で、悠人は?」
「まあ楽しかった……かな。というか、また陽菜さん達と出会してさ。なんか惹かれ合うものがあるのかな」
僕は首を傾げてそう言うと、百花が「そんなの偶然でしょ」と言った。
「まあ、うちの実家、何もないところだから退屈だったでしょ?」
「そんなことなかったよ。景色綺麗だし、棚田とかあって、写真でしか見たことない風景を実際見れて良かった」
「そう言ってくれると嬉しいわ……」
僕はそう言うと、ソファーから立ち上がり、飲み物を取りに行った。
「そうそう、怜奈ちゃんが言ってたこっちの男の子、あれ悠人だったんだって」
「えっ!そんなことがあるのね……じゃあ怜奈ちゃんの初恋は……」
「私が奪っちゃった……」
僕は人数分のお茶を持ってリビングに戻ると「それは仕方ないことだろ」と呟いた。
「まあだから、お詫びとして二日目は怜奈ちゃんに悠人を貸したの。一日デートして来なさいって」
「危うく怜奈さんと付き合おうかなって思うところだったよ」
「でも昼ドラみたいで面白いわね。一人の男を奪い合うって……」
母はそう言いながら少し俯いた。
「僕は意思のある人間だからね。僕の想う方に行くのが当たり前だから」
「本当、悠人ってくさいことよく真顔で言えるよね」
百花はそう言いながら顔を手で覆っていた。
「百花、愛されてるねー」
「うるさい!」
僕はソファーに腰掛けると、母が僕にこそっと「それで、デートでどこまでしたの? 普通に遊びに行っただけ?」と訊ねてくる。
「百花からは、キスまではOKって言ってもらってたから、キスくらいで……」
「きゃー、悠人君が浮気してるー」
「公認の浮気だから……なんだろ、別に後ろめたいことはないと思う」
百花はこちらを見て少し笑っていた。まさかあのことを母に言うつもりじゃないかと、僕は少し緊張した。
「……でも、それだけじゃないでしょ?」
「え?」
「怜奈ちゃんとしたんでしょう?」
「……はい」
僕はあっさり自白するが、百花が「でもそれも私の目の前でだよ?」と母に言った。
「まあまあ……お年頃なだけあるわね。私も寝込み襲われないように用心しなきゃ」
「酔っ払って誘惑して来た人が言わないでよ……」
僕はコップのお茶を一気に飲み干し、空になったグラスを流し台へ持っていき、そのまま部屋に戻った。
「あー落ち着く」
久しぶりの自分のベッドの感触に僕は安堵感を覚えた。
皆んなよくしてくれたが、ひとの家というのはあまり慣れていなかった。多少の緊張を持ちつつの生活だったので、僕はその緊張が解けきり、一気に眠くなった。
「悠人?」
目を覚ますと百花がベッドの傍にいた。
こちらをジッと見ているだけで、特に何もしてこない。
「百花?」
「夕飯できたから……呼びに来たんだけど」
「そ、そうか……」
僕はベッドを出て立ち上がる。すると、百花はキス顔をして立ち尽くしていた。
軽く唇を重ねて僕は部屋を出た。
「もしかして、寝てた? 寝起きだけど食べられるかしら?」
「大丈夫……まだ眠いけど、お腹空いてるから……」
僕はそういうと大きな欠伸をし、テーブルに座った。
テーブルに並んだとんかつをペロリと平らげると、僕はようやく目が覚めてきた。
すると、食後は暫くしてから入浴を終えた百花が眠くなって来たらしく部屋に戻ると、リビングには僕と母の二人きりになった。
テレビのバラエティー番組を見ながら寛いでいると、母が僕の肩にもたれかかった。
「……」
そちらを見遣ると、母は眠っていた。僕は暫く肩を貸すことにした。
僕らがいない間、一人きりだったのもあるだろうか、どこか安心した寝顔を浮かべる母を見て僕は微笑んだ。
十分程度すると母は目を覚まして僕に謝罪したが、前屈みになった瞬間、服の襟元から胸が丸見えだったことに僕は気づいた。
「み、見た?」
「見たわけじゃないです。見えました」
「そう……」
僕は立ち上がって風呂に入ることにした。
湯船に浸かりながら、あれやこれやと考えていても、僕は気づけば、母のそれは怜奈さんよりもサイズがあり、それは少しふくよかという要素の関係もあるだろうがなどと、考察を立てていた。それに気づいた僕は、瞼の裏に焼きついたそれをなんとかこそぎ落とした。
髪を乾かしてから部屋に戻りベッドに座る。
枕の柔らかい感触が、折角こそぎ落とした映像をチラつかせた。
「悠人、戻ってる?」
「ど、どうした?」
僕は少し焦りながら、部屋に入ってきた百花へ返事をした。
「なんか、一人じゃ眠れなくて……」
「急に甘えん坊ムーブ?」
「そうじゃないけど……そう。向こうで一緒に寝てたからなんか、癖になったのかも」
「たった二晩一緒に寝ただけで?」
「うん」
少し声のトーンの違う百花が別人のように感じた。
僕は部屋の照明を消すと、百花をベッドの中に誘った。
「別に、エッチなことをするわけじゃないから」
「わかってる。もう眠くてそんな気力ない」
百花はベッドに入ると、僕の胸の中で寝息を立て始めた。
どうしてだろう。眠って仕舞えば僕は別にここにいなくてもいいだろうと思っていたが、いつまでもこの可愛らしい動物を見ていたい。
「百花……」
僕は百花の頭を撫でる。その度に安心したかのように微笑みながら寝息を立て続ける。
こんな愛おしいことがあるかと、僕は内心思いながら、こんな時間が永遠になればいいのに、と呟いた。
さっき起きたばかりだが、引きずっていた眠気に僕は身を任せてそのまま眠りに就いた。
朝目覚めると、顔に柔らかい感触と、甘い香りが漂った。
頭に当たる柔らかな吐息と、手のひらの感触。
「百花?」
「悠人、おはよう。よく眠ってたから、起こすのはなーって思って」
僕を愛でながら百花は言う。
「でも、そろそろ胸からは離れてほしいな」
「ごめん」
僕がそう言うと、百花は油断していた僕の唇を奪う。
「おはようのキスってなんか夫婦っぽいね」
「恋人同士でもするんじゃない? 例えば、学校でもさ、昇降口でするとか校門前でするとか」
「あー、いいね。それ。青春だ」
「僕らはそれができないからなー」
「そうだね……でも、行ってらっしゃいのキスはできるんじゃない?」
「……? それだと、両方の意味になるのか? 行ってらっしゃいと行ってきますの」
「そう……だね?」
僕らは他愛もない話で笑い合った。
それから数週間後、今度は父と母で帰省する日になった。僕らと同じ二泊三日で帰るとのことだ。
「忘れ物大丈夫?」
「大丈夫だって……悠人は心配性だな……そう言うところ母さんそっくりだ」
「それ私じゃなくて、さやかさんのことでしょ?」
「あ、ごめん……」
そう言って二人は出掛けて行った。
「悠人……二人きりだね?」
「とりあえず……」
僕らはキスをした。ここのところ、この日のために我慢をしていた濃厚なキスだ。
「あ、ごめーん、やっぱり忘れ物して……た……」
熱いキスを交わしてる僕らを見て両親が目を点にして見ていた。
「じゃ、邪魔して悪かったな!ご、ごゆっくり……」
「……あんまり羽目を外しすぎちゃダメよ? するにしてもちゃんと避妊はすること!いいわね?」
「わ、わかってるよ!いちいち言われなくても!」
百花がそう言うと「コンドームなら私の化粧机の引き出しに入ってるからね」と言って母は出て行った。
「あの人、デリカシーってものないの?」
「それで言えば親がいなくなっていきなりディープキスしてる僕らはどうなるんだ」
「それは愛情表現じゃない」
「そうなのか?」
僕らはとりあえず興が醒めたのでリビングで寛ぐことにした。
「ちょっとトイレ」
百花はそう言って席を外すと、暫く戻ってこなかった。
「本当にあったよ……」
「マジか……てか母さんなんで?」
「もしかして……悠人と……」
「いや、普通に父さんとする為だろ」
僕らがそんな会話をしていると、インターホンがけたたましく鳴り響いた。
「誰だろ?」
ディスプレイに映し出されていたのは怜奈さんだった。
「やっほー、遊びに来たよー」
「なんで? てか、お母さん達今日そっち行ったのよ?」
「お盛んな子供を二人きりにしたくないっていう清恵さんの配慮の結果、派遣されたのよ」
怜奈さんは家に入ってくると、荷物をリビングに置き、ソファーに座った。
「いやーこういう家の方がなんかいいねー。うちって古民家をリフォームしてるくらいだからさ……ってこれ何? 二人何するつもりだったの?」
怜奈さんは百花がさっき持ってきたコンドームを見つけて訊ねる。
「それは……その……お母さんがあるって言うから」
「清恵さんはどうさせたいのよ……私に気を遣ってくれたのかな?」
そう言って僕の方を見てくる怜奈さんにデコピンをかます百花。
「何度も言ってるけど、悠人は私のだから、怜奈ちゃんにはあげないから」
「じゃあ、貸して?」
「いーや!」
こうして僕らは穏やかな日常を送ることなく、騒がしい生活を送っていった。
雪が降る街の中で、僕らは手を繋ぎながら赤や緑の装飾に彩られたショッピングセンターに居た。
ケーキとチキンを受け取り、帰宅しようかとしていると、陽菜さんと美夜子さんに出会った。
「二人も買い物?」
「はい」
「お二人は?」
「飲み物買いに来たの。美夜子の家でクリスマスパーティーなんだ」
陽菜さんはそう言うと、美夜子さんは「あんまり騒がない」と注意していた。
「よかったら来る? 食べ物もあり過ぎるくらいだから、二人増えても大丈夫だけど?」
美夜子さんがそう提案してくれたが、僕らは断った。
「今年はこの家族になって初めてのクリスマスなんです。だから……すみません」
「そっか、そうだよね。うん、そっちの方が大事」
「じゃあね。良いお年を」
「良いお年を……」
僕と百花は手を振って二人を見送ると、再び歩き出す。
「積りはしないか……」
そう残念そうに言う百花に「積もらないくらいの方が寒いよな」と僕は言う。
右を見ても左を見ても恋人達ばかりで、僕らはそんな通りを歩く。
「あ、悠人君ケーキ……もう買ってるか」
「エレナ、さっきいなかったのに……」
「あ、うちで買ってくれたの? ありがとー」
バイト中のエレナに別れを告げて僕らは歩き出した。
「もう年末か……」
僕らはなんだかんだ、大きな喧嘩をすることなく、クリスマスを迎えていた。
「初詣、どうしよっか? 広島には帰らないってお母さん言ってたけど」
「そうだな……近場で済ますか」
そんな話をしながら家に帰ると、サンタのコスプレをした母と父に迎えられて僕は思わず「年柄を考えてよ……」と呟いた。
「お母さん、露出度高過ぎ……」
百花はそう言うと頭を抱えた。
「初めてのクリスマスなんだから、楽しまなきゃ!」
母は僕の背中を押す。僕は部屋の真ん中に躍り出ると、とりあえず「メリークリスマス?」と言った。
父も母もビールやワインを飲んで大騒ぎしていたが、僕らはそれを白けた目で見ていた……。
結局、酔い潰れた二人を抱えて寝室へ連れて行き、僕らは後片付けをした。
「最初の約束覚えてる? というかあの約束なくても結局そうなってるんだけどね」
「もちろん。クリスマスまで売れ残ってたらってやつだろ? その後に初恋の話になってお互いが初恋の相手ってなって……」
「正直、運命かもって思った。私も悠人も忘れよう、最初から始め直そうって思って知ってる子が少ない高校選んだんだよね。で、そこで同じクラスになって……ってなんかもう出来すぎてて……」
それが神様のいたずらか、それとも運命のサイコロがたまたまいい目が出たのかわからない。
「そういえば最初はクリスマスにエッチしようって話だったな……」
「本当だ……流れでしちゃったね」
「……今日、しないか?」
「初めて悠人から誘われた……うん、いいよ」
僕らは急いでコンビニにコンドームを買いに行ったが売り切れていた。流石は聖夜だなと僕はボヤきながら家に戻ると、酔った母が部屋からコンドームを持って来て僕に襲いかかった。
「やっぱり……若い子の方が……」
「お母さん!水飲んで寝てなよ!」
「大丈夫だって……」
母はそのままソファーに崩れ落ちたので毛布を掛けてあげると、気持ち良さそうに眠った。
僕らは百花の部屋に入りソワソワし始める。
実は夏休み以来と言うこともあり、お互い照れが生じていた。
「悠人……」
「百花……」
裸のまま僕らは抱き締め合い、そのままベッドへと倒れ込んでキスをした。
気がつけば朝焼けを迎えていた。
まるで眠り姫のように眠っていり百花の額にキスをして僕は自室に戻った。
「あ……」
百花の部屋を出ると、床に座った母がいた。
「何を? こんなところにいると風邪引きますよ?」
とりあえず肩を貸して寝室まで連れて行き戻ると、百花が僕の部屋にいた。
「一緒に寝よ?」
僕は承諾すると「裸のまま来たの?」と問う。百花は慌てて服を取りに行こうとしたが、僕は裸のままの百花を抱き締め、再び眠りに就いた。
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