初恋の相手が義妹になった件。第30話
二泊三日の帰省も最終日。百花と僕は昼の新幹線に乗って自宅へ帰ることになっている。
僕は鞄に荷物を詰め込み、百花も同じように一度萎んだ鞄を膨らませていた。
「早かったね。三日間」
「そうだな……昨日の夜が一番濃かったけど……」
「まあそれはそうだね。でも怜奈ちゃん喜んでたし、また来年もしようね?」
「それまでに僕が他に彼女作ってたらできないかもな」
「は? あり得ないでしょ」
百花は僕を睨むと、スッと距離を詰めた。
「こんなに可愛い彼女が居るのに?」
「それ、自分で言うか?」
僕はそう言いつつも、少し認めてるところもある。正直初めて会った時も、他の女子と違う何かを感じていた。それが、可愛いからとかじゃない、何かビビッと来たような感じがした。でもそれが、確信できるほどの自信には繋がらなかった。
「……まあ、僕からすればなんと言うか……周りの女子と比べればって感じかな」
「もう……そう言うのはもっと声を張って言ってよね」
「だって……恥ずかしいじゃないか。面と向かって言うって」
僕が照れながらそう言うと、百花は「この、このー」と肘で小突いて来た。
「とりあえず朝ごはん食べに行こっか」
「だな」
僕は空腹なのか単純に胃が痛いだけなのかわからない腹を摩りながら部屋を出た。
「あ、二人ともおはよう……ってもう帰り支度万端って感じね」
僕らは育代さんに挨拶をして掘り炬燵に腰掛けた。
「おはよー」
奥から寝ぼけ眼を擦りながら樹也が姿を現すと「え、もう帰るの!?」と僕らの格好を見て驚いていた。
「二泊三日の予定だからね。それにしんかんせんのチケットも取ってるし」
百花がそう言うと、樹也は残念そうに項垂れてしまった。
「昨日は姉ちゃんに悠人さん取られたから、今日はいっぱい話ししたいなって思ってたのに……」
「あはは……初対面で捻られたのがよっぽど効いてるんだな」
「あら、そんなことあったの?」
笑いながら怜奈さんが説明をすると、育代さんは腹を抱えて笑っていた。
「そりゃ、体格差もあるだろうし、ねぇ」
「僕も小学生の頃に、ちょっとだけ合気道やってたんで、その成果が出せてホッとしてます」
「へぇ、そうなんだ」
怜奈さんがそう頷いた後に「ほら、陽菜さんと一緒にいた美夜子さん。地元じゃ結構有名な合気道家の娘さんで、小学生の頃にその美夜子さんに稽古つけてもらったんです」と、僕は返した。
「えーあの美人さん? あの人も女優さんか何かかと思った」
「この前、陽菜さんが声明出してましたよ?」
「あ、確かに。なんかお付き合いしてるってネットの記事のタイトル見たかも……」
怜奈さんはそう言うと、焼き魚を解して口に運んだ。
僕らも会話はそこそこに食事をとる。
「お昼まではどうするの?」
「えーっと、別に決めてないんですけど……」
「じゃあ、悠人さんは俺の部屋で遊ぼうぜ!」
「遊ぶったって、あんた野球部の練習でしょ?」
樹也は「あ、そうだったや」と言うと、急いで白米を口にかき込み、支度のために部屋に戻った。
「にしても、悠人君がええ人でほんまによかったの。碌でもない奴なら、どつき回さんといけんかったけぇ」
「こ、怖いこと言いますね……」
清次郎さんは昔はもっと血気盛んだったらしい。最近は流石に鳴りを顰めているらしいが……。
「ほんとね、百花がおらんかったら、怜奈を嫁にもろて欲しいくらいじゃわ」
「えっ!ちょっとお祖母ちゃん、何言ってるのよ!」
怜奈さんは照れながらそう言うと、こちらをチラッと見る。僕は目が合うと昨日の夜の事がフラッシュバックし、急いで目を逸らした。
「何意識してるのよ」
「べ、別に……」
僕の様子を見かねた百花は僕の腕を抱いて引っ張ると「残念、お祖母ちゃん。私と悠人はラブラブだから、怜奈ちゃんにはあげないよ」と、かなりの見栄を張りながら言う。
それを見た怜奈さんは少しだけしょげていたが、一つ息を吐いて直ぐに僕らを笑って見ていた。
「そうよお祖母ちゃん。私と悠人君じゃ歳も離れてるし、それに私だってその内良い人見つけるんだからね」
「とか言いつつ、怜奈はいつも真っ直ぐ帰ってくるじゃない。友達とも遊びに行ってる感じないし」
「そ、それはこれから頑張るのよ。悠人君に色々アドバイス貰ったし」
「僕は何も言ってないですよ?」
僕は身振りも合わせてそれを否定したが怜奈さんは「十分、貰ったよ」と言った。
「昨日のデートで男の人との接しかたもわかったし」
「そ、そうですか……それは何より」
僕は怜奈さんとの間にあった事については、他言無用という決まりになったことを思い出した。
朝食を終えた僕と百花と怜奈さんは怜奈さんの部屋で寛いでいた。
「ね、怜奈ちゃん。この漫画の続きどこにある?」
「あー、それ、ここだよ」
なぜかベッドの下を弄る怜奈さんが、まるでこちらにお尻を振るようにしてくる。
「もう怜奈ちゃん、はしたないよ」
百花はそう言って怜奈さんのお尻を叩くと怜奈さんは「ひゃん!」と少し変な声を出した。
「へ、変な声出さないでよ!」
「だっていきなり叩くから……」
「そもそも、なんでそんなところに続きが落ちてるのよ!」
「前読みながら寝落ちして、その時ベッドの隙間に落としちゃってたのよ。ずっと忘れてたの」
怜奈さんはようやくその漫画の続きの巻を拾い上げた。
「ふう……」
「そうやって悠人を誘惑しないで」
そのまま四つん這いで僕の方を見る怜奈さんのTシャツの胸元に、二つの山があるのが見えた。
「悠人君が見てるから、やってるんだよ?」
「じゃあ、悠人は見るな」
百花はそう言って僕と怜奈さんの間に立ちはだかる。
「はぁ……百花、もうちょっとしたら出なきゃいけない時間だぞ」
「え、もう?」
僕が時計を指差すと、その表示されている時間を見て百花は驚いていた。
「……帰りに古本屋でこの漫画の続き全部買おう」
「よかったらあげようか? 私もそろそろ断捨離しなきゃだし」
「そろそろ?」
「大学出たらそっち出ようって思ってて。三谷湖市だったら都心にも近いし」
「まあ良いところだけど……そんなに都会じゃないよ?」
「別に田舎を出たいわけじゃないんだけどね。一度は経験して見たいというか……ね」
怜奈さんは僕の方を見て笑うと、スマホに目をやった。
「ね、悠人君とID交換しておきたい」
僕は承諾しメッセージアプリのIDを交換した。
「これでいつでもエッチな電話できるね」
「悠人、今すぐアカウント消して」
「冗談だってば……怒る百花ちゃん可愛いなぁ」
百花は抱きつく怜奈さんを懸命に引き剥がそうとするが、怜奈さんの方が力が強いのか、うまく行っていない。
「私、もしかしたら女の子の方が好きなのかもしれない……」
「なんで……私なんだよ!」
百花は必死に怜奈さんに抵抗するが押し倒されてしまう。
「昨日、キスされた時に気づいたの……私、百花ちゃんとずっとこうしたかったんじゃないかって……」
「や、やめてよ……悠人助けて……」
僕は二人の様子を見ながら「百合っていいよな」と呟いた。
「百合は私も見るの好きだけど、実際はそうじゃないから助けてってば!」
「大丈夫、食べたりしないし、ちょっとこうしてるだけだから」
怜奈さんは百花に覆い被さり、首筋の匂いを嗅いでいた。
「良い匂い……と言ってもうちのシャンプーの匂いか」
「うぅ……」
「このまま百花ちゃんを寝取っちゃおうかな?」
「ゆ……悠人ぉ……」
僕はため息を吐きながら怜奈さんを引き剥がした。
「はい、そこまでですよ……そろそろ支度して出ないと」
僕は百花の手を引き、怜奈さんの部屋を出て、自分たちの部屋に戻った。
「新幹線のチケットは?」
「持ってるよ」
「よし、じゃあ行くか」
僕らは鞄を持って居間に向かった。
「あら、もうそんな時間なのね。なんだか寂しいわ」
「お世話になりました」
僕が頭を下げると「いいのよ、そんなの」と育代さんは言った。
「で、怜奈は?」
「居るよ。じゃ、行こっか?」
「うん。それじゃあお祖父ちゃんお祖母ちゃん、また年末年始かな?」
「いつでもええけぇ、顔見せてくれるだけでええよ」
「カープが優勝したらパレードするけ、そん時にきんさい」
「……わかった」
「それじゃあ皆さん、お体に気をつけてくださいね」
「悠人君、まるで百花ちゃんのお婿さんみたいね」
僕らはそうやって笑いながら外に出ると、来た時と同じように怜奈さんの運転で駅へと向かった。
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