紛争地在住者が伝えたい緊急事態時の過ごし方(ストレス対処法)
多くの方が外出を控えている状況かと思います。
まずは自身の、そして他人の物理的な健康を守るため、それは必要なことです。
一方で、その状態が長期化することは、精神的な健康にとっては脅威です。
そこで本日は、ちょっと特殊な自身の経験をもとに、「”見えない脅威”に慢性的なストレスを感じる中、物理的に狭い環境に押し込まれ、他人とのコミュニケーションが不足しがち」な状態におけるストレスの対処法についてお伝えしたいと思います。
目次も兼ねて、先に要点だけを簡潔に書きます。
① ご自身が感じる、不安や苛立ちそのものを否定しないで下さい。
② 自分が感じるストレスについて、誰かに話を聞いてもらって下さい。ただし、解決を求める必要はありません。聞いてもらうだけでいいです。
③ そして誰かの話も聞いてあげて下さい。解決する必要も愚痴に同調する必要もありません。重要なのは、その人が感じる感情を否定しないことです。
(第二弾として、「睡眠の質を高める方法」「コミュニケーションを取りやすくする方法」「笑いに昇華する」などのtipsをお届けする予定です。)
以下、本文です。
さて肝心のストレス対処法の話に移る前に簡単に自己紹介をさせて下さい。
私は、中東の某国に駐在しています。一時期よりは状況が落ち着き、統治機構も機能していますが、依然として非正規武装組織の存在が当たりまえで、テロや誘拐、ちょっとした軍事攻撃などはまだまだ日常という、そんな国です。かような治安状況ですので、安全を確保するためには生活や行動に相当の制約がかかります。
移動は常に武装警護付きの防弾車、それも3両編成のコンボイでしなければなりませんし、基本的に外出は仕事の上で必要な場合のみで、自由に買い物などは出来ません。セキュリティの関係上、写真をお見せすることはできないのですが、所謂軍事キャンプのような場所が私の住居兼職場です(↓の写真はイメージです)。
一つの建物の中で職場の人と生活も仕事もすべて一緒。逃げ場のない半軟禁状態とも言えます。自室とオフィスは同じ建物ですので、通勤は徒歩10”歩”、休日なんて一日300歩しか歩かない日もあります…一応施設内にジムはあるのですが、どうしても体を動かすことが好きになれず、常に運動不足です笑
そんな、かなり閉鎖的な居住空間に加え、周辺環境も”ちょっと騒がしく”、あまり快適とは言えません。かなり慣れては来ましたが、それでも銃声や喚声やヘリの音を聞きながらではなかなか眠れないこともありますし(結局寝ますが笑)、やはり眠りは浅くなりがちで、深夜に警報でたたき起こされることもしばしば。そういった身体的にも精神的にもじわじわと負荷をかけられる環境下では、やはり相当ストレスは溜まってきます。そんな生活を続けてきた経験(主に失敗)から得た知見、生きていくためのコツですが…
① ご自身が感じる、不安や苛立ちそのものを否定しないで下さい。
まず皆さんにお伝えしたいのは、不安や緊張状態が続くと、イライラしてきますし、普段は気にならない些細な事でも苛立ちを感じるようになります。そして重要なのは“誰でもそうなる”ということです。
例えば休校でずっと家にいるお子さんの、些細な行動にイラっとしてしまった場合、大切なのはその苛立ちを他人に転嫁しない…強く当たってしまったり、ましてや手を挙げてしまったりしないようにすることであって、「こんなことで怒っていてはいけない」とか「大人なんだから子供のすることに腹を立ててはいけない」というように考えないでください。それは余計に次のストレスに繋がってしまいます。
そもそも不安というのは人間の正常な機能です。特に”予測がつかない””見えない”ことに関してはより強く感じます。進化の過程で遺伝子に刻まれた性質です。恐怖心がなければ無用にリスクを取ってしまいます。
暗闇が本能的に怖いのと同様、この先どうなるのか、いつ収束するのか全く分からない現状では不安を感じるのは当たり前で、そういったストレスがかかる状況が続けばイライラしてきます。もし自分の苛立ちを自覚したとしたら、これはむしろ、自分の人間としての防御反応が正常に機能している証拠、程度に考えるといいと思います。
② 自分が感じるストレスについて、誰かに話を聞いてもらって下さい。ただし、解決を求める必要はありません。聞いてもらうだけでいいです。
では実際に、どう対処すべきかですが、“話を聞いてもらうこと”…これ以上の方法はありません。適度な運動をしたり睡眠の質を高めたりと、いろいろ試してみましたが、(あくまで私個人の経験では)これが一番効果的でした。というのも、ストレス解消法は人それぞれですが、この“話を聞いてもらう”というのは厳密にはストレス解消ではなく、ストレスの認識に近いものだと考えてください。①で述べた通り、自分のストレスを認識し、現状を認識する…さらにそれを他人に肯定してもらうことで、効果は高まります。
さて“話を聞いてもらう”際の注意点ですが、決して解決を求める必要はないということです。もちろん解決できるレベルのことから対処していく、というやり方もあるかと思いますが、コロナ禍が今後どうなっていつ収束するのか、誰にも分りません。自分に対処できないことについて考えても余計にストレスがたまるだけです。「楽しみにしていたイベントが中止になって残念」「家族がずっと家にてストレス」といったように、気持ちを吐き出すだけでも楽になります。そしてこれは、聞いてもらう相手にとってもハードルが下がります。相談相手となると、相談される側にも覚悟が要りますが、ただ話を聞いてもらうだけならそこまで負担にはならないはずです。あらかじめ「何かして欲しいわけではなくて、ただ聞いてもらいたいだけ」と伝えておくといいかもしれませんし、むしろお互いの話を聞くということにしてもいいと思います。
私が良く使う手法は“笑いに昇華する”というものです。平たく言えば“ネタにしてしまう”ということです。空から雨以外のモノが降ってきたり、上司の寝息が聞こえるような特殊な環境で生活していると、信じがたいような事件が起こったりします。その時は精神的にきつくても、日本で考えると荒唐無稽で、ネタにしか思えないようなことばかりです。だから最近は、そういった事態に直面した時は「ネタが出来ている…!」と考えるようにして、(休暇で帰国した際などの)飲みの席などで話すようにしています。こういった状況で大切なのは、話を聞いてもらう相手にも負担をかけすぎないようにすることです。今は誰もが、それなりに負担がかかっているはずなので。
③ そして誰かの話も聞いてあげて下さい。解決する必要も愚痴に同調する必要もありません。重要なのは、その人が感じる感情を否定しないことです。
そして最後に、皆さんにお伝えしたいのは、誰もがつらい状況では、意識して誰かの愚痴を聞いてあげてほしいということです。その際に重要なのは①、②でお伝えした通り、“その人のつらさ”を肯定してあげることです。もちろん、解決できるならそれに越したことはありませんが、まずは感情を肯定してあげてください。決して「辛そうにしている人に対して何もできない」などと自分を責めないで下さい。話を聞いてあげただけで、その人の救いになっています。また逆に、どんな些細な事であっても、あなたにとって理解できない理由であっても、“その人のつらさ”を否定しないでください。つらいかつらくないかはあくまで主観の問題であって、自分にとって何でもないと思えることでも、その人が「つらい」といえばつらいのです。その人の中では。
子供の悩みは大人にとってくだらないものに映るかもしれません。ただ、例えばあなたが気持ち悪くて触ることのできない虫を、逆に子供は何でもないように持てることがあります。その子からすれば「え?なんで大人は虫に触れないの?」と思うでしょう。子供にとっての“学校の悩み”というのはこの虫のようなものです。この認識の違いが男女間であったり、世代間であったり…というより一人ひとりの間にあるのです。繰り返しになりますが、「自分が○○の時は~だった。そんなことは何でもない」といったように否定しないでください。まずは「それは大変だったね」と言ってあげてください。もちろん、愚痴や悪口に同調する必要はありません。「それはあなたにも原因があるのでは?」とアドバイスしてもいいです。ただし、それと感情の話は分けて考えてほしいのです。
最後に、繰り返しお伝えしている通り、不安が長期間続くと絶対にストレスは溜まります。しかし通常時と違い、誰かひとりがつらいのではなく、周囲の人もみんな負荷がかかっているのが緊急事態です。こういったときに肝心なのは、まずは自分がつぶれてしまわないように適度に発散していくことと、自分を支えてもらいつつ、周囲の人も支えていけるかです。ストレスが溜まってくれば、どうしても態度や行動に出てしまいます。ただ、仮に1のストレスを誰かに転嫁したとすると、その人が我慢しないかぎり、次はその人がまた別の誰かに、今度は1.5のストレスを転嫁させないといけなくなります、これが集団内で増幅し、今度はより大きなストレスとなって自分に返ってくるのです。
私の環境では、この高ストレス環境に対処するため、6週間ごとに一週間ほどの休暇が発生します(週末も働いているので、その分の休みをまとめて1週間取る、というイメージです)。「休みが多くていいな」と思われるかもしれませんが、実際にこの環境で生活して感じるのは、この6週間ごとというのは健康を保つために必要なギリギリのラインだということです。もちろんこれは一切外出出来ず、ネットも遅い環境下での数字ですので、散歩やジョギング、そして必要最低限の買い物が出来る今の日本では6週間よりもう少し長く保つはずですが…長期化はほぼ間違いなく、さらにより外出制限が厳格化する可能性もある中、周囲の人を救うことは自分を救うことでもあると認識し、愚痴を聞く文化が一人でも多くの方に広まることを願っております。
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