「わたしの部屋」暮らしレシピ #9 松見坂こばやし<じゃがいもの煮っ転がし編>
「煮っ転がし」
にっころがし、文字通り煮て転がすからにっころがし。
若い方はにっころがしという言葉は知っていても漢字は知らない方がいらっしゃるかも知れません。
昔は家庭の料理でよくおばあちゃんが煮っ転がし作ってくれた、なんて言いましたが。
そんな、なぜか懐かしい響きの煮っ転がしを小林さんに教えて頂きました。
南瓜の煮物と時と同じく、出汁(水でも可)、酒、みりん、砂糖、醤油を入れていきます。
今回は南瓜の時と違ってじゃがいもの頭がたっぷり浸かるぐらい入れます。
最初は強火で炊いていきます。
ここでも前回同様に落とし蓋を。
落とし蓋の役割は、出汁が鍋の中で回流してくれる事と出汁の蒸発を防ぐためです。
出汁が最初に蒸発してしまうと、じゃがいもが柔らかくなる前に出汁が離れていってしまうからです。じゃがいもに味がつかない訳ですね。
個人的にこの落とし蓋をする、というのはかなり重要かなと思いました。
細かな、ちょっとした事にやはり意味があり、味を決めていくのだなと。
湧いてきて、じゃがいもが柔らかくなってきたら弱火です。
途中でお楽しみの味見時間。
前回の暮らしレシピ(南瓜の煮物編)で、お気に入りの盃で味見をしてみては?という話を書きましたが、早速実践して頂いた読者の方もいらっしゃった様で、とても嬉しかったです。
味が大体決まってきた所で落とし蓋を取って、強火で煮ていきます。
じゃがいもの形を崩さず、早く煮詰めるために最後は強火です。
ある程度ドロっとしてきたところで小林さんが取り出したのは
なんと、バター。
今日は家庭用なので、じゃがバターにします。とのこと。
おお〜こんなに入れるんだ、と思いましたが、皮付きのじゃがいもというのはなかなか中身まで味が入って行きづらいそうです。
ですので、皮にはしっかりと味付けをして(多少甘辛いかな、と感じるぐらい)、その濃い皮の味と、中身のじゃがいも本来の味を一緒に楽しむ感覚でしょうか。
味付けしたじゃがいもは、ただの味付けしたじゃがいもだろう、と思っていた僕ですが、なるほど、じゃがいも一個で皮と中身で味を分ける、という考え方なのか、と新鮮に感じました。
「なんで今日バター入れようと思ったのですか?」と聞くと
「うまいからです」と小林さん。
確かに、じゃがいもの煮っ転がしだと、「美味しい」というより「うまい」という方が合っていますね。
最後に煮っ転がしの「転がし」作業です。
ドロドロっとしたタレを絡ませる様に、鍋を動かして転がします。
いい色と香りが漂います。
”うまそう”ですね。
最後に木の芽を添えて完成です。
タレをたっぷり上からかけて。
今回使用したうつわは山田隆太郎さんの粉引鉢。
取り皿に使用したのは江戸時代の瀬戸灰釉の小皿です。
色合いも、若干トーンが落ちていて、パッとしない色のうつわの色がいいですね。
色あせた感じや、はっきりしない色のうつわは実は使いやすいんです。
色味の主張が抑えられ、料理を引き立てます。
以上、今回はじゃがいもの煮っ転がしでした。
今回と前回と、シンプルな料理でしたが、どちらも定番で作りやすく、うつわとの合わせも楽しめるものになったのかなと感じています。
料理とうつわ、聞き慣れた言葉ではありますがこの二つをよりシンプルに、より丁寧に楽しみたいと思っています。
今回小林さんがよく言われていた言葉が「塩梅」でした。
料理とうつわの自分なりの塩梅を見つけて、人を家に呼ぶ事もいいですし、SNSで投稿する事もいいと思います。
自分の塩梅が他者になんらかの形で広がり、また同じ様な趣味の仲間ができたらこれほど楽しい事はありません。
今回の様なテイストのレパートリーを、また今後も小林さんと考えて行けたらいいなと思っています。
暮らしの中に溶け込む、シンプルで丁寧な料理。
それを作って、うつわに盛るだけで気持ちがスーッと豊かになっていきそうです。
おわり
LAPIN ART 坂本 大
現代のうつわと古美術骨董を取り扱うLAPIN ART OFFICE ディレクター。本プロジェクトを通して、自分の大切な物との向き合い方を、自らが描く理想の暮らし方とギャラリストとしての知見を掛け合わせながら提案する。
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