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渡らずの鳥、天に渡る


野球の応燕は、東京ヤクルトスワローズだ。

そもそも以前の私は野球に興味もなかったし、
なんなら子どもの頃は金曜ロードショーが野球中継でおすから好きではなかった。

そんな私が野球に興味を持つようになったのは、彼と付き合いだした数年前だ。彼が応燕するヤクルトについて熱心に話すものだから、ああ、これは私も野球を好きにならなきゃいけないな…とこっそり心の中でため息をついた。

ルールはとりあえず彼に聞けばいいだろう。
自力で覚えずとも、彼が喜んで教えてくれる。
でも、野球を好きになるには自分の力が必要だ。
どんなに相手に説明されても、自分のアンテナに引っかからないと心が動く気がしない。
そこで昔、別のスポーツにはまったときのきっかけを思い出した。
そのときは選手個人に魅力を感じたから、そのスポーツが好きになった。

じゃあ、ヤクルトの選手についてとりあえず調べてみるか……
…だめだ。よくわからないし、やっぱり興味が湧いてこない。
彼には悪いけど、ちょっと野球は好きになれないかもしれない。

そんな感じで早々に挫折しかかったとき、ふとSNSで見た動画に「これは…」と興味をそそられる姿があった。

球場内で、自由奔放に動きまわる大きな黒い……ペンギン。
いや、つばめ。

それが東京ヤクルトスワローズのマスコット、つば九郎だった。

相手チームのマスコットキャラクターを蹴り飛ばしたり、
スケッチブックに文字を書いての会話も、世情を反映した毒っ気たっぷりの内容だったり。

こんな自由なマスコットキャラクターがいるんだ!

衝撃だった。
そこから俄然興味が湧いてきた。
それからSNSでファンが撮ったつば九郎の写真や動画を探すようになり、
つば九郎のブログも読むようになった。
するとそこで登場する選手たちにも興味を持つようになり、
彼との会話でも選手について話すことが増えてきた。
そして、一人でもテレビでヤクルト戦の中継を見るようになった。

とはいえ、今でも野球に対する知識はふんわりしたものだ。
だけど、ヤクルトスワローズというチームが好きだし、
これからも応燕していくと思う。
好きではなかったものが好きになれて、少し世界が広がったように思えたことも嬉しい。
おそらくつば九郎がいなかったら、私は今も野球に興味はなかっただろうと思う。


2月頭。
彼が来月神宮で行うオープン戦のチケットを取ってくれた。
ここ最近は球場に行けていなかったし、あまり試合を見たりチームの情報に触れたりもできていなかった。
なので、行けることが嬉しかった。
ただ、つば九郎は体調を崩しているらしい。
早く元気になって、またシーズン中に会えたらいいな。
そう思っていた。
そう思っていたのに。

彼はいなくなってしまったらしい。

そのニュースを目にしたとき、自分でもびっくりするほどショックだった。
つば九郎は、その自由奔放な立ち振る舞いだったり毒舌だったりで、
腹黒いとか畜生ペンギンなんて呼ばれていたけれど、
彼のブログはとにかく選手たちへのリスペクトで溢れていた。
だからこそ、ファンからも愛されるつばめだった。


球団からのお知らせで、「今後の活動については、しばらくの間休止となる」と発表されており、SNSでも「また会える日を待っているよ」というようなコメントを見かける。

でも私は「また会える日を」という気持ちに、今はどうしてもなれない。

つば九郎という球団の「マスコットキャラクター」と、
彼を「支えてきた人」を同一化して考えすぎるのも良くないと思うのだが、
でも私にとってのつば九郎は、「支えてきた人だからこそ」なのだ。
私の中のつば九郎は、もう彼が永遠なのだ。


渡り鳥なのに、渡らない鳥だったのに。
2度もFA宣言して、それでも結局チームにいてくれたのに。
それなのに、急に天には渡っちゃうんだから。
まったく、困ったやつだ。

今までありがとう、つば九郎!






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