#いま「コロナ禍」の大学生は語る②
「コロナ禍」という表現が使われるようになったのはいつごろだっただろうか。
当初は「禍」が読めずに「コロナ "まが" 」や「コロナ "なべ(鍋)" 」などと勘違いするひともいて、SNS上で話題になることもあった。
しかし、わたしにとって「禍い」というほどの影響力を持っていたのかと問われると、未だに答えに苦しむ。
#いまコロナ禍の大学生は語る
関係が切れることを悲しむほど、他人との繋がりがなかった。そもそも卒業というタイミングでそれまでの人間関係はなくなるものだという考えを採っていたため、特に違和感を抱かなかったというのもある。
大学にだって行ったことなどないから、行けないことに特に不満も感じない。
たしかに家庭内で暮らすことは簡単ではなかったが、少なくとも今わたしは生きている。
また、正直自粛期間がなかったとしても家の中は同じような局面を迎えていたのだという諦めもある。実際、それまで18年の間にはもっとひどい時期なんて山のようにあった。2019年4月の時点ですでに取り返しのつかないところまで調子を崩していたわたしは、むしろオンライン授業に救われたタイプの人間だったのだと思う。不調で起き上がれない日でも授業に出席することができたおかげで、こうして大学生活を続けられている。
前回の記事で「コロナ禍の大学生」というラベルがしっくりこないと言ったのは、これらの要因によってである。周囲に感染を広げてしまったらどうしようという不安は常に付き纏っていたが、よく言われる「コロナ禍の大学生」としての困難はほとんどなかった。
強いて言えば、学生相談室の利用が個室の中でなければならなかったことくらいだろうか。心理的安全性を保つために「他人のいない」「屋内」で行うことを求められたが、ひとが怒鳴り込んでくる自室よりは近くの公園のベンチの方がよっぽど安全だ。相談室を利用していることがバレたら碌な目に合わないことなど容易に想像がつくし、そんなものより物理的な安全を優先してくれ、とずっと思っていたなとふと思い出したので書いておきますね。結局、途中で挫折してしまったが、それこそ自室がないような学生にはどのように対応していたのだろうか、今更ながら疑問に思います。
コロナという禍い
ではいつもと同じだったのか、もちろんそういうわけではない。
ただただ、死が近くにあることがとても怖かった。
だれかの「死」によって悲しみに沈む人がいること。
自粛によって、今までより一層危険な状態に置かれた人がいること。
それゆえに命を守りきれなくなりそうな人がいること。
今この瞬間、家庭内の中で死の危険を感じている人がいる。
仕事もなくなり、今日の生活にすら困っている人がいる。
不安というのはどこまでも増大するもので。
家族からの性暴力に怯えるこどもがいる。
安全ではない家の中で息を潜めて暮らす子がいる。
ネットカフェもホテルも空いていなくて、彷徨っているひとがいる。
それでもなんとか家を抜け出してきた結果、
望まない形で生計を立てなければならないひとがいる。
今まで出会ってきた、というには烏滸がましいけれど、さまざまな形で袖くらいは触れ合ってきた人たちのことが頭を駆け巡る。
わたしとは関係ない。別の世界のお話。
そう割り切ってしまうほうが楽なのだと思うし、どうしてもそうやって生きていくしかない部分が多くある。
それでも当時は毎日祈っていた。
苦しんでいるひとが生きられますように。
少しでも安全な場で過ごせますように。
どうか生き延びて。
生きることが正義だとは言わないけれど、
もう少しだけ時を重ねてほしい。
せめて苦しみの中で、ひとりきりでいなくならないで。
きっと死亡者数の統計に入らない中で
たくさんの人が命を落とした。尊厳を失った。
当時はあれほど心を痛めていたのに、
あれから3年。
ひっそりと灯が消えていったひとたちのことを
わたしはどれだけ思い出しているだろうか。
いま「コロナ禍」を語る
「コロナ禍」という言葉を聞くたび、
別にわたしにとっては「禍」というほどでもなかったな、という思いが頭をよぎる。
けれども、
あるひとにとっては、そして社会にとっては、
まごうことなき大禍であったという事実を、
踏み躙っていくことだけはしたくない。
企画について
この文章は、「#いまコロナ禍の大学生は語る」企画に参加しています。
この企画は、2020年4月から2023年3月の間に大学生生活を経験した人びとが、「私にとっての『コロナ時代』と『大学生時代』」というテーマで自由に文章を書くものです。
企画詳細はこちら:https://note.com/gate_blue/n/n5133f739e708
あるいは、https://docs.google.com/document/d/1KVj7pA6xdy3dbi0XrLqfuxvezWXPg72DGNrzBqwZmWI/edit
ぜひ、皆さまもnoteをお寄せください。
また、これらの文章をもとにしたオンラインイベントも5月21日(日)に開催予定です。
イベント詳細はtwitterアカウント( @st_of_covid をご確認ください )
ご都合のつく方は、ぜひご参加ください。
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今夜だけでもあなたがゆっくり眠れますように。
紗良