2020/5/11 晴れ 東京
軽い気持ちでゲンロンの生放送なんか見るんじゃなかった。ゲストに外山恒一を迎えての前半に引き続き、後半は津田大介がSkypeで緊急参加することになった。その告知をTwitterで発見し、興味本位でチケットを購入。
うとうとと画面を眺めていたら津田さんが登場。明らかに防衛的な表情+態度なつだっち、それを瞬時に察して険しい表情になるあずまん、悪い空気をどうにかしようと気を使う革命家。わたしは今、事故現場に遭遇している。一気に目が冴える。しばらく外山氏と津田氏のやりとりが続き、沈黙を貫いてきた東氏が「ここからは普通に話します」と津田氏への質問に転じる。全然普通じゃない攻撃的な口調で。模範的で当たり障りのない津田氏の回答に、いよいよ「なんだよその話し方!」と爆発する東浩紀。有料放送のため詳細は省くが、それからの2人のやりとりは、まるでリアムとノエルのように、まるでピートとカールのように、愛憎が入り混じり、壮絶な泥仕合の様相を呈することになった。誤解、怒り、コンプレックス、憧れ、恨み、嫉み、友愛、尊敬、軽蔑、それらがアルコールの力で加速し、特に東浩紀の業としか思えない部分が露呈する。ヤンキー漫画?青春漫画?いや、これは痴話喧嘩だ。言わなくていいことを言って、お互いを傷つけ、溝は深まり、雨降って地泥濘む。観客として泣き笑う。気付いたら朝の4時だ。
寝るか迷う。2時間後には起きてレンタカー屋に行かなければ。寝不足で運転するのは辛い。とはいえ今日の午後には車が必要だ。とりあえずシャワーを浴びる。1時間寝て車で行くか、このまま電車で行くか。この時間なら電車も空いているだろう。ゆっくり聴きたい音楽もある。バイト先近くのレンタカーを探す。最寄りは臨時休業中だったが、立川まで行けばオープンしている。キャンセル&予約を済まし、出発する。眠気を一切感じなくて、これは本当に眠たい時のやつです。いい座席を確保し、気持ちが軽くなる。あとは1時間30分身を任せて揺られていればいい。
Hi-Hi-Whoopeeを主宰していたLil $egaさんのミックステープ。2台前のiPhoneでダウンロードして繰り返し聴いた。その時のiPhoneを紛失して以来「もう一度あの音源が聴きたい」と願い続けていたら、なんとリリースされていた。フリーダウンロードアドレス付き。これ以上にかっこいいミックス音源を僕は知りません。約5年ぶりに聴いた今日もそう思う。ノイズの霧が消えてキックのみになる8:00〜9:00の展開以上にクールな瞬間ってあるのだろうか。眠気と興奮を行き来しながら、電車は三鷹に。ちょうど真ん中ぐらいだ。
何かウトウトできるアルバムを、と考えてレディオヘッド『A Moon Shaped Pool』をチョイスする。お目当ての「Daydreaming」にたどり着く前に気を失う。目的地手前で目を覚ます。「Present Tense」が流れている。せっかくだから、と「True Love Waits」までスキップする。サウンドの催眠作用が寝起きの脳に作用して強烈なトリップする。窓を過ぎる風景がすべて夢のようだ。「ちょっとだけ不思議になる/夢のはずが本当なんて」。これが明晰夢体験か。朦朧状態で降車する。夏みたいなムワッとした熱気。空が青いなあ。
駅から職場まで徒歩で約15分。ごみごみとした都心と違い、だだっ広い目抜き通りを歩く。「Lift」を聴く。「ここは安全な場所/あなたは安全よ/トム」というリリックは、日本人ファンがトム・ヨーク宛てに書いた手紙から引用されたそうだ。アフォリズムを排したシンプルな歌詞、外連味のないギターサウンド。らしくないからこそ、強くもっていかれる。最後の一節はレディオヘッドらしくなさが振り切れていて、涙と笑いを誘う。”squirt”は直訳すると「噴出」。この曲のモチーフである「クジラのお腹の中」からの脱出を意味するのだろうか。「Lift」以外で目にしたことのない単語で、ミステリアスでとても好き。安全な場所から「元気出せよ」と吐き出される。「It’s time to go home」の後半を「クロロホルム」と空耳して震えてしまう14歳と31歳の僕。やっぱりスペシャル過ぎる。
13時過ぎに仕事がひと段落し、立川に向かう。朝にも増して気温は上昇して、もう完全なサマーデイ。涼を求めてショッピングモールを通る。ほぼ全てのテナントがまだ休業中で、人気もない。チャイルディッシュ・ガンビーノ「Summertime Magic」が怖いほど似合って本当に背筋が凍る。電車に乗って立川駅で降りる。多分人生で最初で最後の立川だろう。そんな予感がする。そう思うと目の前のロータリーの景色が尊く感じる。ラナ・デル・レイ「The Greatest」を聴いている。かつて栄華を極めたロックンロールという文化の亡骸。兵どもが夢の跡。センチメンタル過剰な気持ちになったのは、それは天気のせいさ。レンタカーを借りてまたバイト先に戻る。クーラーを全開に。ユニクロに寄って白Tを買う。この生地感で1500円か、といい意味で感動する。また夏がくる。今年の夏は、だけど、去年までと違って娘もいる。セブンイレブンの駐車場でそんな事実に驚く。
残った仕事を終わらせ、次の職場まで車を走らせる。POP LIFE:The Podcastの『ウォッチメン』回の続きを聴きながら運転する。アイン・ランドの存在を知る。検索ワードがまた増える。そういえば全然眠くないことに気付く。気分も悪くない。寧ろうまく機能している。いい日だ。いい時間がたくさんあった。まだ外は真昼のように明るく、この気持ちが夜まで続きますように。
今日の一曲/Radiohead「Lift」