インナーコミュニケーションの重要性を理解してくれなかった
昨今、インナーコミュニケーションの重要性が再認識されています。
少人数の組織ならば容易に取れるコミュニケーションも、一定の規模以上になると「隣の部署が何しているのか分からない」のが常態化。人は知らない人にはここまで冷酷になり、知っているだけでここまで親切にしてくれるのか、はビジネスにおいて実感されることも多いですよね。
こちらは2016年の広報会議の記事からの一部抜粋です。
『自分(たち)がどのような社会を実現したいのか』
『社会から自分(たち)がどのように見えているのか』
一人ひとりの自発的な意識変革と行動変革を促すコミュニケーションが必要になる。そして従業員だけでなく、経営層も一市民として社会や顧客と向き合うことが求められる。
最終的に顧客と対峙しながら会社のビジョンを体現するのは、従業員一人ひとり。いかに現場にビジョンが浸透しているかが重要。極論を言えば、給湯室での何気ない会話や、社内メールやSNSの中にビジョナリーな言葉が入ってくるかどうか。
そのためには点のコミュニケーション施策では不十分で、継続的な線のコミュニケーション、さらに様々な話者や媒体を通じた面のコミュニケーション設計が必要になる
トップダウン型の情報発信には限界がある
ましてや、行政の場合、「その組織を理解して、トップ(首長)になる」パターンだけでなく、「いきなり組織を知らない人が組織を改革しようとトップとなって選ばれる」わけです。
だから、もう少し組織内の通訳的役割、潤滑油的な役割が必要なのだと思っています。私が都庁のインナーコミュニケーション担当だったのは、だいぶ前、2007年、2008年度です。10年以上前の企画ということでこの令和の時代の斬新さはありませんが、当時のヒット企画ベスト3を振り返ってみます。
ヒット企画その1 U-29応援企画 若手職員のビジネスマインド
これから都民のために一生懸命働くぞ、と難しい試験を突破して入ってくる若者がいざ出先機関に配属となり、仕事の進め方にとまどったり、あまりにも都庁のど真ん中とは全く違う空気の中で数年置かれる。いい先輩に巡り会えなかったり、同期の本庁配属が眩しく見える。情報が全く入ってこない。彼らにとって、それが都庁。
そんな彼らの焦りや戸惑いをなんとかして解消したいと思ったのが、「U-29応援企画 若手職員のビジネスマインド」です。
初回は、公募制人事にトライして自分のキャリアをつかみとった2人。5月公開なので、悩む若者にこの先「こんな選択肢もあるよ」というメッセージを込めました。
どんなことに悩んだり、どんな自己啓発をしたのか、などのインタビューを掲載しました。ストレス解消や最近読んだ本など、結構プライベートもしっかり話してくれる2人でした。
2回目は入都5年目の2人が、若手にアドバイス。人間関係に悩んだら、なども近いからこそ響くし、ロールモデルになり得ると思いました。
あえて「30歳以上は読まなくていいよ」くらいの大胆なタイトルにしたところ、案の定、閲覧回数は伸び続け、1か月以上ずっとアクセスランキングは独走となりました。知事の動向や各局の施策より、ダントツでアクセスがよかったので、それはそれでうれしい悲鳴となりました。それだけ、この企画が長く多くの方から受け入れられたということです。やはりここに読者のニーズがある、と確信しました。
ヒット企画その2 NEW DAD'S DIARY〜パパの育休日記〜
2007年に男性職員で育児休暇を取得した職員に頼んで、WEBで日記「NEW DAD'S DIARY〜パパの育休日記〜」を公開しました。イクメンの走りの企画です。数年後に他局に完全にパクられましたが(笑)、それだけ良質な企画だったと思うことにします。
家でどんな風に過ごすのか、どんなことを考えるのか、仕事との距離感など、これから育休を取得する方にイメージしやすいように、彼の目線をそのまま伝えることがリアルで共感を生みました。
最大のヒット 夕張レポート
今や北海道知事となった鈴木直道さんなど、夕張市派遣職員の発表が庁内であった途端、すぐにインタビューを企画し、その後の連載もお願いしました。
「夕張レポート」も力を入れて取り組んだ企画の一つで懐かしいです。当時、鈴木さんが派遣を希望した理由を以下のように答えています。(画質の荒さが当時のカメラの性能を物語ります)
派遣を希望した理由として
第一に、テレビ報道等で、市政、市民がともに手を取り合い、厳しい状況下で財政再建に向け必死で頑張っている姿を見て、「自分にできることで役に立ちたい」と強く感じたこと。
第二に、首都東京は、大都市であるが故に都市部で起こる問題には敏感ですが、地方の問題には鈍感になりがちです。夕張市の現場で直接その問題に触れ学ぶことは、今後の都政人生又は一人の人として非常に有意義なものであると考えたからです。
生活環境の変化が大きいことに対しての不安はあります。しかし、夕張市では、私たちの想像を超える大きな不安の中、市民、市政が一体となって財政再建へ向け様々な取り組みを行っています。私ができることは非常に小さなことかもしれませんが、「何をやる」では無く、「何でもやる」の精神で、担当業務にこだわらず多くの仕事に関わっていきたいと思います。
この若い彼のまっすぐな言葉。こういう言葉は、やはり人を初心に立ち返らせる力、あらゆる層の職員の何らかの感情を動かす力があると言わざるを得ません。
トップダウンの情報発信だけで庁内にマインドを浸透させるのは絶対に難しいと思います。他の人がどんな気持ちで、どんな風に業務に取り組んでいるのか、を広く知り、自分の仕事に落とし込んで考えたり、朝の職場のアイスブレイクの一端になったり。
そんな方向から、組織全体をどうデザインしていくべきかを考えて、がむしゃらに取材して、記事書いて(1日3本は書いてました)、写真撮って、動画編集して、WEBにアップして、をほぼ一人で頑張りました。(楽しそうにやってるから助けてくれるメンバーもちらほら、それはそれで楽しかった!)
自分の広報の基礎を作ったのは間違いなく、インナーコミュニケーションです。都庁はこの事業を削減し、代わりに「都庁内部だけに見せるのはもったいない、せっかくやってるならWEB全公開して公式サイトに統合」という乱暴な策を取ったのはそこから10年くらい後です。
まさにインナーコミュニケーションの重要性を理解していない残念さに、異動先で心底がっかりしました。
目的とターゲットが違うものを混在させても機能しない
公式ウェブサイトとインナーサイトは目的もターゲットも違います。都民のニーズ、職員のニーズの把握をスルーして、自分たちが発信したい、もしくは発信すべきと勘違いしているコミュニケーションは無策といわざるをえません。
インナーコミュニケーションをうまく活用して、士気を高めて、トップの方向性をわかりやすく理解して自分の業務に落とし込む。都庁の職員のモチベーションアップ策の一つとして、再度、インナーコミュニケーション戦略を検討してほしいなと思っています。
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