留置場の話@福岡県警察
留置場体験記
はじめに…
留置場の生活についてのブログや記事なんてものも世の中には結構あるみたいだけど、令和最新版として実体験を記してみようと思います。県警や警察署によっても色々違うことが多いみたいなのでそのへんも感じ取って貰えれば…
■留置場とは?
留置場とは各警察署内にある文字通りに容疑者を留置して置くための場所。
警察署内には留置課という留置者を管理する部署があり、刑事課や地域課、交通課などから独立した別部署となっている。いかにも公務員の世界らしい縦割り組織。とはいえ刑事出身の留置課員もいたり、逆に留置課を経て他部署へ異動したりするケースも普通にあり、ちょっと普通の民間企業では考えられないようなダイナミックな人事交流が頻繁に行われている模様。逆に言えば専門性がないので誰でもできる部署ってやつ。
ただ課員の職務遂行能力を見ていると、基本的には20代〜30代ぐらいの世代だと既に見限られたっぽいやや問題ありな署員or能力はあるけどとりあえず1度は経験させとくか的な署員の2パターンに分かれてるっぽいが、40代以上だと明らか閑職扱いな気配が漂っている。
そもそも警察官全般、または警察という組織自体にも言えることだが、全ての業務がマニュアルから逸脱することは決して許されない。つまり留置課も例に漏れず業務において、創意工夫や仕事の効率化を考える必要など全くないロボットのようなものなので、民間企業じゃとても使い物にならないような残念な人材だらけという話。年功序列と階級制でそこそこ高給取りの管理職でもある50代の警部補が1日中留置場内を雑巾で拭きまくって掃除をしているとかまぁ脳死状態のゾンビみたいなもんですな。
■部屋の様子
なかなか歴史ある(古い)警察署だったが、部屋の作りはどの部屋も一緒。合計8室あり、うち1室は扉で仕切られた別部屋にあって、他の留置者に顔を見られてはマズい少年や大声を出すなどの問題行動がある留置者を入れることに特化されている。因みに18歳未満(20歳かしら?)の留置者は少年と呼ばれ、他の留置者の目に触れないように姿は完全に隠されている(声は聞こえる)。護送の時も一切目に触れることはない。
で、留置場の部屋は畳を模したビニール製のなんちゃって畳スペースが6畳、板の間スペースが2畳ほどの広さ。正面から上半身の姿が見えるようになっている窓がついたトイレが1番奥にある。トイレはTOTO謹製水洗の和式。ではあるが、地面に穴が開いているだけという多分留置場専用設計のやつ。水の勢いは恐ろしいほどいいボタンプッシュ式。印象的だったのは極限まで薄くされたシングルのトイレットペーパー。質の悪さも究極なのだがホルダーがないので使うのもなかなか面倒。トイレするのが面倒なのと食生活の悪さから非常に便秘になりやすい。しかしトイレットペーパーは使い放題で無くなればいつでも新しいのを持ってきてくれる。
部屋の正面部分は部屋のドアを含め金網に覆われた鋼鉄製の柵になっている。下部には食事や物品を出し入れする為の30センチ弱程の開閉可能な穴が開いている。柵のうち1メートル弱ほどが板のようなもので目隠しされており、一応外部が気にならないように配慮はされているらしい。また、奥のトイレ横にも横1メートルぐらいの同様な柵があり、留置場担当者が通る通路が部屋をぐるっと1周取り囲んでいる構造。
昔はここに最大4人を入れていたようだが、現在は2人まで。実際に2人で入っていたがさほど狭くは感じなかった。4人はさすがに狭いと思う。
ちなみに留置者が暴れる、叫ぶなど言う事を聞かない場合に放り込まれる保護室なる部屋があるが、こちらはやや狭い板の間だけの部屋とその奥に遮る物が一切ない穴が開いただけのトイレがあるだけの至ってシンプルな作り(留置担当に聞いた)。
暴れる場合は拘束具を付けて、うるさい場合は口を塞ぐ器具を付けて入れられる。まぁ場合が場合だけに警報が鳴らされ、大勢の留置担当や在署の警察官達に連れられ、一部始終をビデオカメラで撮影されたまま人権に配慮された形?での入場となる。
■その他内部の施設
風呂
風呂は2人が一緒に入っても一応大丈夫な湯船に洗い場、脱衣場といった作り。当然のことながら全てフルオープンで担当が複数人体制で常時監視している。夏場は15分、冬場は20分と時間が定められているが時間は正直足りない。なので、湯船にゆったり浸かるとかは無理。3日もしくは4日に1度の入浴なのでしっかりと石鹸で身体を洗うだけでもなかなか時間はかかるし、シャンプーではなく石鹸で頭を洗う(後述するが購入することでシャンプーの使用は可能)ことになるので、石鹸をしっかり泡立てて洗い流して…というひと手間二手間がかかってくることになり、本当に入浴の時間が足りない。シャワーは使えないので、身体を洗うにも頭を洗うにも湯桶で湯船内のお湯を掬って使うからなかなか面倒だし。あと、基本2人で風呂を使うので、片方が湯船に入って片方が湯桶でお湯を使って…ということになるとなかなか気まずいので、大体の人は湯船に入らずに風呂を済ませるようではある。
洗面所
ステンレスの4人まで同時に使える洗面台があり、上部に各人が使う歯ブラシや石鹸、歯磨き粉が収納できるケースが付いている。部屋の正面にあり、釈放や拘置所送りになる前に個人番号が外されて洗面用具が回収されることから、ここを見ているとその日に留置場外に出ていく人がわかる。また、逆も同様で棚に新しい個人番号が貼られた時には数時間後には新しい留置者が来ることがわかる。
■部屋割り
基本的に留置場に入ればまずは1人だけの部屋に入ることになる。数日経ち慣れてきた頃には留置場の混雑具合に合わせて部屋の引っ越しを命じられて相部屋になることも。相部屋になるとパートナーはどちらかが出ていくまでは固定になるので、引っ越しガチャはなかなかスリリングではある。
見てた感じだとヤクザ関係者は出ていくまでずっと1人、粗暴犯は留置場内の様子を見つつケースバイケースといった感じ。
ちなみにヤクザ関係者は入れ墨や髪型、態度(返事の仕方や声のトーン)で1発でそれとわかる。また、2課絡みになると取り調べに出る回数や時間帯が明らかに1課のそれとは異なるので、仮に見た目で判断がつかなかったとしてもまぁわかる。粗暴犯はだいたいが見た目そのまんま。留置場内でも無駄に態度で周囲にオラつく輩もいたりはするが、留置担当が厳しく接するようになるだけの完全に意味のない行動だから慎みましょう。
■1日の流れ
起床時間は7時。ではあるが、6時頃から朝の準備に慌ただしく動く留置担当の物音で起こされるので7時ぴったりに起床ということはまずない。7時になると「起床!」「おはようございます!」の掛け声がかかり部屋の電気が一斉に点く。
起きたら間髪入れずに布団を畳む。敷布団は幅が70センチ程、縦が180センチ強、厚さが1センチ程のまず街中ではお目にかかることのないサイズ。厚さがないので見るからに想像どおりの寝心地で慣れるまでは身体中が痛くなる。枕も30センチ程度の幅で頭が乗るだけのサイズ感。但し、掛け布団はゆったり目で悪くはない。
布団を畳むと次は部屋の掃除。箒と水が少しだけ入ったバケツ、雑巾が部屋に入れられ、これらを使って部屋を掃除する。
掃除が終わると「これより洗面を実施します!」という留置担当の号令とともに使用した寝具を押入れにしまい、順に洗面と歯磨きを行う。
洗面が終わると点呼のち朝食の時間。10分弱で終了。しばらくして本替えと運動の時間。
本替えとは、留置者は1日に3冊まで200冊ほど揃う文庫本コーナーから本を借りることができて、読み終わった本があれば新しいものを借りることができるという仕組み。芥川龍之介から池井戸潤に東野圭吾、筒井康隆あたりのヤバめなものまで幅広く揃ってはいるものの、幅広いだけにジャンルあたりや作家あたりの冊数は当然少ないので、借りてみたいと思えるような本の絶対数は少ない。ただたまに本の入れ替えもしているようではある。
そして次は運動の時間。運動の時間といえば身体を動かしてリフレッシュできるのかな?などと考えてしまうだろうが、これは驚くほど全く髭の剃れない電気シェーバーで髭を剃る、爪を切るという時間だというのが正しい。天気がいい日だと10畳ほどのベランダが開放されていて自由に出ることはできるが、ベランダの塀は高く外部は見えず、上部は柵で覆われているのでただただ柵越しに空が見えるだけで開放感は皆無。朝の爽やかな日差しなどは全く入ってこない。それでも留置者にとっては外の空気を感じることができる貴重な20分間ではある。そんな狭い場所なので実際に運動をすることはない。
ちなみに警察署によってはベランダスペースがない関係で外に出ることが全くできないということもあるらしい(早良署など)。
運動の時間は事務方含め留置課が大勢で対応するので、留置課の警察官達や他の留置者とのコミュニケーションの場という側面もある。運動の時間に出される留置者は1度に2〜3人で、留置者同士の会話は基本的に許されないが、警察官を通しての会話なら可。警察官もヒマなのか話したがりの人も結構いるので、ここで色々な情報を仕入れたり、他の留置者の性格を探ったり様々な交流を深めたりできる。
運動が終わると後は部屋に戻って自由時間。取り調べに呼ばれれば出ていき、検察や裁判所に行くことも。但し、捜査が終れば完全に何もすることはない。
次の大きなイベントはランチ。昼の12時から13時までが昼食の時間。この時間は朝に録音されたラジオニュース(検閲済み)と天気予報が20分ほど流され、残りの時間はCDで音楽が流される。
この音楽の時間は意外と楽しく、King Gnuのような新しめのCDや宇多田ヒカル、サザンがかかったりと係官のセンスが結構面白い。歴代係官が持ち寄ったCDらしく、自作編集の年代別、テーマ別メドレーなどがかかったりも。印象深かったのはCOMPLEXが再々結成ライブをした次の日に早速かけてくれる係官がいて、おー君は若そうに見えるくせに良く分かってるな!と何だか嬉しくなったり。
そしてランチタイムが終われば次は夕食前の部屋の点検の時間までは取り調べがなければ自由時間。まぁ自由時間と言っても部屋の中に閉じ込められているのでできることと言えば本を読むか、手紙を誰かに書くかぐらい。手紙を出すと言っても警察は手紙を出す相手の住所を親切に教えてくれるはずもなく、住所を覚えている相手に出すことしかできないので、宛先は住んでいた住所か実家ぐらい。
部屋の点検は晩ごはん前に数名の留置課員と他部署からの応援部隊によって順番に行われる。週に1度は精密点検と言って、鑑識やらまで入ってかなり大掛かりなものになる。とはいえ身体検査は毎日行われるし、留置から取り調べに出る度に金属探知機を使ったチェックも行なわれるので実際に外部から何かを持ち込むことはほぼ不可能。点検で部屋内部を故意に損傷させたり落書きをしたことが発覚すると違反行為となり、日常普通にできていたことが制限されたり部屋を変えられたりするようだ(聞いた)。
点検が終わるとお待ちかねの晩ごはん。時間は18時からでこの時間も音楽がかけられる。
そして後は20時から布団を敷いて洗面、歯磨き。それが終われば点呼を取って各人にお茶が配られ1日が終わる。規定では21時消灯だがお茶を飲み終われば部屋の電気を消してもらうことができ、そのタイミングでみんな布団に入るようだ。
これが留置場の1日。
■ごはんについて
留置場のごはんは県によってや留置場の規模、仕出し業者によってかなり違うだろうからあくまで参考ってことで。
ご飯は3食留置場の自分の部屋で食べる。部屋には椅子やテーブルなどないので、地べたに直置きするか、弁当を常時持ちながら食べるかのどちらか。
朝ごはんは冷凍弁当を電子レンジで温めたもので、メインメニューはハンバーグ、鶏肉のすき焼き風、鶏肉のケチャップ煮、タンドリーチキン、酢豚、回鍋肉のようなもの、生姜焼きのようなもの、魚のチーズ焼きがローテーション。合わせてソースのかかった鯵フライか中身より衣のほうが分厚いコロッケが必ず付いてくる。後はひじきや切り干し大根、青菜やカボチャの煮物、ブロッコリーなどの副菜が2種類程度。なかなか朝からヘビーでしょ?
この冷凍弁当は熱々に温められた状態で提供されるものの味付けが不味くとても食えたもんじゃない。特に回鍋肉と生姜焼きは極薄味で全く白飯が進まず大不評だった。唯一ハンバーグはまぁ食べられるかな?程度。弁当は残しても何も言われないのが救い。SDGSとは何なのか、と。
で、昼と夜は仕出し業者の弁当。冷たい。冷たい弁当を食べる習慣のないアジア系の留置者はかなり困っていたようだ。
昼と夜の弁当は朝と同じ業者が作っているのだが、こちらはチキン南蛮やミックスフライなどなかなか美味しいメニューもあった。しかし謎なメニューも多く、印象深かったものを挙げるとメインのおかずに塩茹でした鶏胸肉、みたいな妙にストイックなものや、すじ煮、すじ焼き肉(冷えているので硬くてとても食べられない)、厚切りチャーシュー(同じく冷えているので硬くて脂が固まっている)、カレー、麻婆茄子豆腐丼、八宝菜(冷えてて不味い)といった具合。あと副菜にはスパゲッティにゆかりをかけただけのものがよく出ていた(想像どおりの味)。
あ、あとカツ丼が出たことがあり、その時はさすがに留置場は盛り上がった。これも冷えていて不味かったけど。
でも昼、夜の弁当は日替わりなので当たり外れが激しいとはいえ全然飽きなかった。但し野菜、特に生野菜は全く入っていないので完全に野菜不足になる。あと、味噌汁やスープもついていないので、スープ物が恋しくて仕方なかった。なので釈放後1番に食べたのがラーメン。
あと、食事アレルギー持ちの場合は強制的に3食とも冷凍弁当にされてしまうので見ていてもさすがに可哀想でしたな。
仕方ないといえば仕方ないんだけど、留置場に入ってきたばかりだと全く弁当を食べることができない人が殆ど。それでも普通ならしばらくすると喉を通るようになるんだけど、中には何日経っても全く食べられない人も。また、中には抗議のハンスト?みたいな感じで自ら何日も食べない人も。
これ、実は地獄の始まりなんです。
何日も食事をとらないと、体調面での監視対象者になってしまうので、部屋から一切の目隠しが取り外され、部屋の前には監視の係官が24時間張り付いて何時何分に立ち上がったとかトイレ行ったとか全ての行動をチェックされるようになるのですよ。落ちついてトイレもできなくなるので無意味なハンストは止めましょう。あと余計な仕事が増えるので間違いなく留置担当に嫌われます。
■自弁
自弁とは自分の金で決められた物品を購入できるシステム。逮捕時の所持金や差し入れてもらった現金から自動的に天引きされる。
週に3度の決まった日に注文をすることができ、内容は署によって異なる。
わたくしのいた署はセブンイレブンが窓口になっていて、まず留置に入る際に半強制的に歯ブラシと石鹸を買わされる。所持金がないなどで買えない場合はしょぼい使い捨て歯ブラシが支給されて共用の石鹸、歯磨き粉を使うことになるが、気にならないならそれを使い続けても大丈夫。
後は便箋、封筒、ノート、切手にタオル、シャンプーといった生活用品など。長期滞在する予定ならシャンプーは必ず買うように。でないといちいち石鹸を泡立てて頭を洗うことになる。風呂の時間は限られているので余計な手間がかかるのは時間的にももったいない。物理的な理由等で石鹸でもいいなら買わなくても大丈夫。
そして自弁といえばおやつ。買えるものを全部挙げると、あんパン、メロンパン、ジャムパン、牛乳、リンゴジュース、オレンジジュース、リッツのクラッカー、チョコスナック、チップスター、キャンディ、以上。殆どがセブンイレブンのPBで市販価格の1.4倍ぐらいな値段。
朝昼晩に量的にかなりしっかりした弁当が出るので腹が減ることはまずない生活だが、例えば朝ごはんの弁当を食べずに代わりに自弁のパンを食べたりとかすることもあった。
他県のブログなどを見ていると、配給される弁当がかなり貧弱な県警では自弁で弁当やパン、おやつ等幅広く買えるケースが多いみたい。逆に言うと金を持たずして留置場に入ると食生活ではかなり苦労するということか。福岡はその逆で出てくる弁当はたっぷりなのでよほどの大食漢でもなければ満足できる量。つまり、おやつは要らないっちゃー要らない。補食的な意味合いはないから。
自弁の中でも飴は大量に入っているので大人気商品。タバコの代わりという意味合いで買う人もいるし、単に甘い物を食べて単調な生活の気分転換になるのでということもある。だいたいの人が常時ストックを持っていた。
■人間関係
留置場にいる人間は比率でいうと2割がヤクザ含むいかにも悪そうな人、2割がよくわからん爺さん、そして残り6割が普通の人。多分繁華街に近い署だと違うと思うけど。
何となく運動の時に会話が耳に入ってくるので何をしたかはまぁ薄っすらわかる感じ。刑務所だとピンク系はいじめられるとか言われるが留置だと特に何もなし。そもそも半分くらいの人が起訴猶予や不起訴で出ていくからね。
わたくしの入っていた留置場はとても平和で、運動や洗面などの時にはいつもお互い目礼でまめに挨拶し合い、留置担当がいない時はこっそり隣の部屋の人とバカ話をしたり、誰かが釈放や拘置送りで出ていくとなればお互い手を振って別れを惜しむような、世代を超えてみんな仲が良く(ガチの粗暴犯、言葉が通じなさそうなジジイ除く)非常に人間臭い雰囲気だった。50過ぎの入れ墨だらけのおっちゃんが運動の時に刑務所、拘置所、留置場について色々と情報を教えてくれたり、みんなのメンター的な役割として留置場の中心的存在になってたのが大きかったと思う。
おっちゃんが拘置所にいってからは2代目メンターにわたくしが就任。若い奴を励ましたり、一部の留置担当も一緒になって昼間から檻越しにバカ話したり、後には何故か留置担当からも仕事やプライベートの愚痴や相談を聞かされたり、警察官とも謎すぎる関係を築いていくことになる。
何となく思うのは若い奴らが多い留置場は結構留置担当とも仲良くできる雰囲気がある。留置担当はわけわからんジジイとオラつくオッサンにはかなり対応が厳しいので。警察官も人間だもの。
しかし、入っている層や留置担当の性格なんかは入ってみるまでわからないので実際のところ完全に運。
■留置から出る時
留置を出ることになるのは勾留請求の却下、不起訴、起訴猶予や略式起訴、拘置所送りなどのパターン。
勾留請求の却下の場合は期日の夜。不起訴、起訴猶予パターンの場合もだいたい夜。検察からの書類の到着のちに手続きされてそのまま出ていく感じ。夜8時ぐらいに出される感じになるので僻地の警察署なんかだと家に帰るのがかなり大変そうなイメージ。というのも携帯の充電切れパターンもあったりするので。拘置所送りの場合は前の日の夜に本人に通達や準備があって出ていくので結構余裕がある。
で、起訴からの釈放パターンについて。実際のところ留置場にいるのは全く金を持っていなかったり、家族も釈放に必要なまとまった金を用立てできないというケースが多い。自分の場合は起訴が決まってから保釈金を払い込んで出るまでかかったのがちょうど1週間。
その当日の日記。
朝は普通に起床。風呂の日なので朝食後は運動と風呂の時間。そして着ていたものを洗濯に出す。
だいたいいつも朝食後の7時過ぎぐらいに当日の留置担当が来て10時過ぎぐらいに前の日の担当が帰るスケジュールでその日も同じ感じ。風呂、運動の時間には前日、当日の担当に加えてあまり留置場内に来ない内勤者も監視役に加わるのだが、その日も内勤の顔馴染みの若い警部補と「起訴からだいぶ長くなってきたからそろそろ拘置所行くんじゃね?」的な話をしていた。
警察署に釈放の書類が届いたのは10時半。だがこちらは全く知らないまま。
風呂も終わり、部屋で同居人と喉乾いたしジュースでも飲もうか?みたいな話をし、留置担当の仲いいのがいたので2人分のジュース取ってきて!(何故かこいつとは常にタメ語OKで敬語要らないですまで言われてた)と声をかけたのが多分11時ぐらい。今からなんでジュースなんて飲むの?みたいな怪訝な顔をされて「準備もう終わったの?」とそいつが一言。こっちは何の話かわからないし、いつもお互い冗談ばかり言ってる間柄なので、「何の話!?」といつも通りに返したら、かなりびっくりした顔で「本当に言ってんの!?え!ちょっと待って!」と言いつつ留置場外にダッシュで消えて行った。
朝に他の担当と拘置所送りの話をしていたので、同居人とこれは拘置所かなー、別れるの寂しくなるなー、とか話してたらしばらくしてそいつがジュース持って帰ってきたけどさっきの件には沈黙。全くの沈黙。
ちょうど新聞が部屋にあったので、じゃ先に読ませて!と同居人に断って野球欄のチェックだけさせて貰おうとしたら担当が「いやいや、今新聞なんて読んでるヒマなんてないから!」とかいちいちツッコミに来る。そんなこと言ってもこっちはいつもどおりヒマだし状況わからないし…で、しばらくしてまた「今日は留置担当になってから1番忙しい日だわ!」とか「何で服を洗濯に出してんのよ!?」とか謎に絡んでくる。雰囲気で今どういう状況か察してよ!ということらしい。
でもそのうち洗面の石鹸とか歯ブラシとか袋に詰め始めて番号シールも剥がしたのであーこれは確定か…と。
実はその日はもう1人釈放される予定っぽい若いのがいて(風呂も入らずに準備してた)、朝からかなり留置場がバタバタしていた。それに加えて急な釈放(まぁそういうもんだけど)が入ったから2人同時の手続きをしないといけない状況で留置がパニックになっていた、と。
特に保釈金積んでの釈放の場合は通知から保釈までの時間が内々で決まっているらしく最優先になるので、若いの手続きを一旦中止にして動いていたらしい。
また、勤務交代の時間前に通知が来たので、前の日の担当が手続きを進めてると思っていたようで、当日担当との間に行き違いがあった模様。
とまぁかなりドタバタした形で、その後直ぐに部屋から出されて所持品の返却とチェックが行われた。本来であれば破棄の手続きもできるらしいけど、「そんな手続きしてる時間なんてないから袋に入れとくから出たら捨てて!」ということで石鹸やシャンプーまで全てを持たされることに。そして洗濯中の服一式までも水が滴り落ちている状態で渡される。
所持品の返却チェックと所持金の精算が終わったところで「昨日、自弁頼んでたんですけど…」と伝えると係長はピキッとしながらも既に届いていた自弁を返却してくれた。でもこれ、外で食おうって気にはならないよね…
で、一通りの手続きが終わると手錠も検査もなく即留置場から退出。顔馴染みの内勤さんに歩きながらお礼を言いつつ、留置課から外に文字通り締め出されてしまった。最後まで前述の仲いいやつがついててくれたので肩を組んで「じゃーな!」と言って別れた。慌ただしいながらもまぁまぁ感動の別れだったように思う。しかし同居人とは別れを惜しむ間もなくあっさりとバイバイ。まぁ留置なんていつもこんなもん。突然入ってきて突然出ていく。
さて、放り出されたのは警察署2階の留置課前の通路。ちょうど12時半ぐらいだったので昼を済ませた刑事が次々と通り過ぎていく(隣は刑事課、生活安全課)。
出された事を聞いたのかわざわざ担当が来てくれて「もう来んなよ!」とこちらともお別れ。
さて…どうしよう。帰ればいいのだろうけど、次に何をすればいいのか留置モードで頭の回転が極端に落ちているらしく、思考がまとまらない。しばらく留置課前のベンチに座り込み考える。
気付いたのはまずマスクを取ること。留置番号がマジックで書かれているのでこのまま一般の人がいる階下に行くとマズい。ついでにメガネに貼られている番号が書かれたビニールテープを剥がす。このテープは特別仕様で、例の担当が特別に極限まで小さくカットして貼り付けてくれたものなので、ちょっと感傷的にもなるがさすがに付けっぱなしにはできない。容赦なく剥がす。
それから10分ほど経過した後、ふとヒゲが伸びているのに気付き、刑事用のトイレで髭剃り。シャバに出るのに汚いのはマズいよね。
その後に階下に降りて署外へ。外は30℃を超える気温の真夏だった。留置場は冷暖房完備で寒いぐらいだったので気温はわからず、運動の時の屋外スペースも朝早い時間に出るので日中の気温など知る由もない生活だったので、外の空気に触れたことで釈放された実感が湧いてきた。
外は車が行き交っていたが、まるで街自体が無音になったかのようにしーんとしているように聞こえた。目の前に広がる広大な世界に圧倒されて動けなくなり、署の前で立ち止まっていた。しかし、しばらくした後とりあえずは駅を目指そうと歩みを進めるとどうも様子がおかしい。酔っ払っているみたいにフワフワと地に足が着いていない感覚になる。5メートル弱×3メートル弱の狭い留置内のみの生活だったからか周りの距離感が掴めず歩みがおぼつかない。
ペットショップで買った犬や猫が部屋をなかなか動き回れないのは多分これが理由だろうな、と。余談になるが、出てからもそれまで何とも思わなかった動物園やペットショップは可哀想すぎて正直無理になる。これ、同居人とも話していたことだが。留置や刑務所を経験すると多分動物に優しくなれると思う。
駅に向かいながら気付いたのは携帯問題。30日の留置で充電切れになっていて電話が使えない。これ、コンビニで使い捨て充電器やケーブル等を買わなければならないので、僻地の警察署だと結構大変かも。金銭的な負担にもなるし。また、長期の勾留だと携帯自体が止まっている可能性も高い。なのでまずするべきことは携帯の充電器の確保となる。
■留置に必要なもの
・上着
留置場は拘置所刑務所と違って冷暖房完備で快適に過ごせる…はずなのだが夏は寒いぐらい。体感で温度設定24℃くらい。Tシャツ1枚では寒く感じる人も多いはず。とはいえ時間帯によって温度は変わるようでスウェットまでは必要ない。脱ぎ着しやすい薄めのジャージやロンT程度で十分。
・本、雑誌
唯一の娯楽、また暇つぶしの為の本は必須。一応図書コーナーで日に3冊まで借りることはできるが、面白そうな本はすぐに読み尽くすことになる。ということで、本の差し入れは誰もが喜ぶはず。
ここで重要なのは部屋に持ち込める本は3冊までなので(オーバーした分は個人ロッカーで保管)、すぐに読み終わるような漫画の単行本などはあまりおすすめできない。ブックオフなどで見かける総集編になっているような分厚いやつがいいと思う。
逆に資格試験の問題集や教科書的なものはおすすめしない。読みものとして楽しめるならまだいいが、本とペン、あるいはノートは同時に部屋に持ち込めないのでそもそも勉強にならないし、留置の段階ではそこまで心に余裕があるものでもない。単純に娯楽になるもののほうがいいと思う。
他の人の差し入れを見ていていいなと思ったのは旅行誌。読むのに時間をかけられるし、シャバっ気があるので、出たら旅行でも行ってみようか?と前向きな気持ちになれる。地域情報誌などでもいいかもしれない。
■留置場の居心地
最初の頃は連日調べだの検察だの裁判所だのでそこそこ忙しい日々を過ごすことになると思う。が、精神的余裕がないので、空いている時間は常に事件と調べのこと、裁判と判決、そして反省(事件への反省というより、あの時◯◯してれば捕まらなかったのに…という類の反省)が頭の中をぐるぐるしてるはず。でも思っている以上に時間の進みはゆっくりで、留置場は時計もないから時間すらわからず不安とイライラが人生最高潮になると思う。
最初のうちはこのような精神状態で1人部屋にいることになるのでなかなかのストレスだが、当然ながら誰も声をかけてくれるわけでもなく、悩みを聞いてくれるわけでもないので、上手く自分で消化する必要がある。手っ取り早いのは「思考を停止させる」「他のことを妄想する」ことだ。
また、有り余る時間を使って部屋の中で筋トレに励むこともできる。ただ、汗をかいてもシャワーなど使えるわけではないので(やりようによっては着替えの時間でなくても着替えはできるが)、できれば風呂に入る前にハードなトレーニングをしたいところだ。
■ローカルルール
留置場の決まり事は本来県内では厳格に運用されており、どの署でもそれは共通なものである…はずだが、本来とは違った形で署によってローカルルールを作っていることもある。
県警本部から監査が入った際の出来事を記しておこう。どの企業でもそうだろうが、警察署は本部の人間を極端に恐れる。監査なら尚更だ。本社勤務のエリート(キャリア、準キャリア)と現地採用の高卒現業では格からして全くの別物だ。
監査の日、留置担当はまず留置場内を丹念に掃除し、ピカピカに磨き上げる。そして本来留置場内に置きっぱなしになっていてはいけないと思われる物品をどこかに持ち出し(隠し)、留置場内のルールを厳格に運用しはじめる。
例えば自弁の物品。いつもなら夜の回収の時間まで部屋に置きっぱなしなのだが、使っていないものは容赦なくロッカーへ戻される。食べていないお菓子なども同様。飴などはいつもは大袋ごと渡されていつでも自由に食べることができるのに、監査の日になると食べたい時に担当を呼んで1個だけ持ってきてもらうという非常に面倒なシステムに変更されてしまう。担当によっては「賄賂だ」と言って何袋かこっそり入れてくれたりもするが…
他にも、普段は調べ等で留置外に出るときは、担当によって部屋の檻が開けられれば、もう1人の担当とそのまま身体検査と手錠をかけてもらう為の別部屋に一緒に歩いて行けば良かったのだが、監査の日は檻を閉めるまで所定の位置で待ち、担当2人に連れられて別部屋へ行く…という形に変更された。
しかし、このような厳格な運用も監査が終われば元に戻り、いつものローカルルールによって留置場が運営されていくことになるのだった…
■裁判
一時的に釈放されたにせよ起訴されているわけで、当然のことながら裁判の日にちは決まっている。日時、場所については裁判所からの手紙で連絡が来る。
当日の様子について書いてみよう。
弁護士によると法廷のドアは5分前ぐらいにしか開かないので、そんな早めに行かなくてもいいよ、とのこと。とはいえ、落ちつかないので早めに出かけてみる。
まず、裁判所の中に入るとすぐの場所で空港にあるようなX線検査機で持ち物をチェックされ、人間は金属探知機を通される。とはいえ空港ほど厳格なものでもなさそう。そして法廷のある階へ。
法廷のある階はエレベーターを降りるといくつかの待合室があり、裁判の関係者はそこで時間まで待機することができる。部屋はガラスが曇りガラスになっていて入室すると電気が点くようだ。暗い部屋、つまり誰もいない部屋を選んで入室し、弁護士との待ち合わせ時間まで待機する。ちなみに弁護士が指定した時間は開廷時刻の10分前。事前に弁護士との問答については打ち合わせをしているのでこの時間だが、していなければ少し早い時間を指定されるだろう。時間になり待ち合わせ場所で弁護士と軽く挨拶を交わし、そのまま法廷へ。
中に入ると既に事務方の人たちは着席している。傍聴席には恐らく裁判の勉強中っぽい学生?と裁判マニアっぽいおっさんが数人。まぁ特にこれといった社会に与える影響があるような事件でもなければそんなもんだろう。
で、弁護士に先導されて傍聴席から中にイン。座席は向かって左側で弁護士の隣に座るように促される。法廷の広さは大学の中くらいの教室ぐらいの広さか。そこそこ広く、裁判長や検察との距離もあるので一応マイクが各々の席と証言台に置かれている。しかし、このマイクが使われることは最後までなかった…つまり全部地声。
最初に証言台で氏名とか住所の確認と本籍地言わされるから…と聞かされ慌てる。本籍地とか覚えてない。弁護士の資料から本籍地を見せてもらい、ノートに書き写して時間まで覚えることに。覚えていない場合は裁判官が教えてくれるようだが、まぁ自分で発言したほうがいいだろう、何となく。ちなみに法定内ではノートを開いたり書いたりは自由にできる。ただ、証言台へは持ってはいけない。
そして、開廷。
裁判官が入ってくると全員起立、礼。これは周りに合わせてするだけ。次に証言台に促され、住所などの確認。終わればまた弁護士の横に着席。そして検察の話を延々と聞く時間。一言二言、弁護士が話すがまぁ別に何もない。そして、証言台に再度向かい、弁護士から質疑応答の時間。打ち合わせでは弁護士が作った問答の書面を見せてもらい、できるだけイエス、ノーで誘導するから…と言われていたが、実際は前日にいくつか修正した部分もあったようで、打ち合わせにないような質問も。そして、全然イエスノーじゃなかったり…。このあたりは弁護士によるだろうけど。
そして検察官からの質問がいくつか。オタクのような話し方をする妙に早口な検察官(調べとはまた別の人)だったが、詰問するという感じでもなく、諭しながら質問するといった感じで別にどうってことはない。ただ、反省の弁はしっかりと答えられるようにしておいたほうがいいと思う。
その後に弁護士が何やら弁護的な話を喋って終了。普通のパターンなら後日改めて判決というところだが、今回は即日結審なパターンで(弁護士が事前に申請しといた、とのこと)、休廷することもなく、そのまま証言台で判決を言い渡される。
裁判官からは判決とその理由についての説明、国選弁護人の費用について、そして更正に向けての話をされるので、黙って静かに聞く。で、終わり。閉廷。
そのまま帰っていいよ、みたいな感じ。
後は弁護士についてエレベーターを降り、1階でお別れ。これで終了。
裁判の時間は20分ぐらいと言われていたが、なんだかんだで40分ぐらいかな?予想以上に喋らされたのでかなり疲れた。大勢の人前で話す仕事を長年してたので(教師ではない)緊張感は思っていたほどではなかったが、話下手な人だとかなり緊張する雰囲気だろうな、という印象。しーんとしてるし。
そんな感じで終わり!