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一カ月間今までに買ったサイケアルバムを振り返る⑤ The Velvet Underground & Nico/The Velvet Underground

今日はオルタナの元祖として名高いヴェルベッツの1stを聴いた。誰しもがこのバナナの絵をどこかで見たであろう抜群の知名度を持つジャケットだ。ただのバナナの絵のはずなのに、妙にリアルなタッチとか、熟れ部分の黒さがアルバムに漂うアングラな雰囲気を連想させるのは自分だけだろうか。

このジャケットを描いたのはかの有名なアンディウォーホルで、この1stのプロデュースをしたのもアンディなのだ。
とはいつつ、楽曲に関してはあまり多く指摘することはなかったそうで挙げるとすれば1stでのみ参加しているボーカルのニコの抜擢は、アンディによる意向だったそうだ。

最初に語ることではないかもしれないが、私はヴェルベッツのアルバムは2nd「White Light/White Heat」が一番好きだ。というのも、2ndはベースのジョンケイルが脱退する前の最後のアルバムで、ノイズミュージック一歩手前のようなアバンギャルドなアレンジ、演奏が気に入っている。まるでルーリードとジョンケイルの一触即発の関係を表したかのような攻めすぎたアルバムだ。

今作はそれに比べるとポップな部分とアバンギャルドな部分が丁度良く、バランスが良くて聴きやすいのだ。そして三曲のみあるニコのボーカル曲も、バンドの雰囲気から浮くことがなくとても馴染んでいる。
このアルバムも媒体によってはサイケではなくオルタナなどに分類される事も多いだろうが、そんな事は関係ない。人がサイケだと思えばサイケだ。

曲ごとの感想

01.Sunday Morning


アルバムの一曲目となる曲で、少し不穏なオルゴールのような音のメロディから始まる。
ルーのささやくような歌声は深くリバーブがかかっており、朝の起きている時というよりは寝ぼけていて夢との狭間にいるような雰囲気だ。文字通り朝に聴きたい曲だ。

02.I'm Waiting For The Man


最初に聴いてとても衝撃を受けた曲。演奏がずっと抑揚なく単調に続いていき、曲調自体は明るいのにボヤくように歌うボーカルなど、なにやら不気味な印象を持った。この曲の不気味さが私はとても好きだ。
しかも歌っていることといえば路地でひたすら男を待っているという些細なことだ。同年代のバンドはラブソングや、サイケ全盛期なので愛や平和、精神的なテーマを歌う所ばかりの中ではかなり異彩を放っている。
アルバムどころかこのバンド自体を象徴する曲だろう。

03.Femme Fatale


アルバム順では最初に来るニコがボーカルの曲で、アコースティックな素朴な演奏をバックに歌う。ニコのミステリアスな雰囲気の歌声がとても好きで、しかしコーラスでの伸びた時の綺麗さがまた良い。
あっさりとしているので小曲的な感じで聴ける。

04.Venus In Furs


「毛皮を着た女神」というタイトルから察する通り、SMを歌った曲。イントロから広がるヴィオラの音や、木魚のようなテンポで一定のリズムを叩くドラムと、まるで来ては行けない場所に立ち入ってしまったような危険な雰囲気を感じる。
ルーの淡々とした朗読のような歌も、不気味さに拍車をかけており、アルバムのアングラなイメージに一役買っている。

05.Run Run Run


アップテンポの曲でルーのボーカルのテンションも高めだが、どうにも盛り上がりはしない不思議な曲。ドラムのドタドタ具合が面白いを
歌の合間に入るギターは精巧な立派なソロというよりかはがむしゃらに弾き倒す感じであり、同時代のバンドのギターと比べるとやっぱり異質さを感じる。

06.All Tomorrow's Parties


ニコがボーカルをとる曲。スローテンポでボーカルも伸びやかに歌っているが歌も演奏も淡々と進んでいき、やはり影を感じる。
ギターはスローテンポの曲には似合わない暴れ方をしているが、不思議と曲に浮いてはいないのが面白い。

07.Heroin


なんて直球なタイトル。人気が高いバラードで、薬物に手を出してしまった人を歌っており、ドラッグに手を付けた人間の精神の闇の部分を生々しく描写している。
途中でテンポが速くなったりする様はドラッグで不安定になった精神かのよう。この曲でもジョンがヴィオラを弾いているが後半になるにつれてノイズのように乱れていく演奏は鬼気迫るものを感じる。

08.There She Goes Again


アルバムの中では比較的明るい曲で、Heroinの後に聴くととても癒された気分になる。
特徴的なリフがあって小気味良い雰囲気だが、アルバムの他の曲に比べてベストに収録されていないせいか影が薄いイメージ。もちろん好きな曲なのだが…。

09.I'll Be Your Mirror

ニコがボーカルをとる曲の中では私が好きな曲。リズムをタンバリンで取っており、アコースティックで素朴な雰囲気がとても良い。
ここまでの二曲はこれからの二曲の前の癒しと言ってもいい。終盤の曲はヴェルベッツの尖った部分が強い曲だ。

10.The Black Angel's Death Song


不穏なタイトル通りかなり尖った曲で、不協和音気味にひたすら弾かれるヴィオラがとても不気味。演奏時間は短いながら、かなり大きいインパクトがある曲だ。

11.European Son


アルバムを締め括る最後の曲。
内容は歌よりもセッション的な演奏がメインであり、実際に作曲のクレジットもメンバー四人の名前が書かれている。最初にちょっぴり歌った後は、聴きようによっては出鱈目に聴こえそうな自由で混沌とした演奏が聴ける。後半になるとどんどん演奏が激しくなっていき、前半は一定のリフを弾き続けていたベースが後半になるにつれて力任せに弾き暴走していく様子はとても狂気を感じる。
2ndに収録されている16分もの即興演奏を記録した怪曲「Sister Ray」に発展する前段階的な曲なのかもしれない。


今回聴いて改めて良いと思った曲

今回からこのコーナーもつけてみることにしてみた。「改めて聴く」というこの日記の主旨にピッタリなのと、これまでのアルバムでも今まで聴くことは少なかったが注目して聴くと評価が変わった曲も少なくなかった。
また、これを書くことを念頭に聴くことで隅々まで曲を聴く姿勢を持てる。
今回は、
Venus In Furs
European Son

の二曲。単純に聴いた回数が少なかったが何度も聴いているうちに良さが見えてきたという点か。
特にEuropean Sonは暴れるベースと左側のギターに耳が行くが、よく考えると右側のリズムギターも異常だ。(恐らくスターリングのギターか。)ひたすらに、ただひたすらDのコードをかきならす様はずっと暴れ続けていることよりも狂気的であるとも言える。
セッション曲は、演奏部分で聴き直すたびに色々な発見があるのでとても面白い。

まとめ


ヴェルベッツを評価する際はルーが書くアングラ的な視点の強烈な詩世界が評価される事が多いが、私は演奏形態や演奏の特異さが特に好きなのだ。

まず、モーリンタッカーのドラムだ。私がヴェルベッツの凄さを最初に挙げるとすればモーリンのドラムを一番に推したい。
アフリカンドラムに影響を受けた彼女のドラムのスタイルはかなり特殊で、バスドラに通常使うペダルを使わずに立った姿勢で両手のマレットで叩くのである。そして聴いている人なら気づくかもしれないが、彼女はシンバル類を全く使わないのだ。金物を使わないことで煌びやかが無くなり、原始的かつ独特なサウンドを作っていたのだ。これがこのバンドのグルーヴの異質さの正体であり、ジョンのベースとともにバンドの唯一無二のサウンドの土台を作っている。

次にジョンのヴィオラ。まず普通のバンド編成では持ち込まれないであろう楽器を取り入れたことが凄い。実際「Venus In Furs」や「Black Angel's Death Song」では不穏極まりないサウンドを作り出しており、アルバムをバラエティに富んだ内容にさせている。
それ以外の楽曲ではベースも演奏しており、特筆するならやはり「European Son」でのゴリゴリと弾くプレイだろう。
ルーがバンドの面の顔とするならばジョンはアバンギャルドな部分を象徴する裏の顔だろう。

ルーもボーカルや作詞を評価されるが、彼が弾くリードギターのフリーダムさを注目していきたい。「Run Run Run」でも触れたが曲調に反して実はギターがかなり激しく、それもスケールにそったソロらしいフレーズではなくただ乱暴に弾き倒すのである。同年代のバンドでこういうソロは少なかったのではないだろうか。
これが2ndではファズを取り入れて暴力性が更に増していくのだから恐ろしい。

そしてそれらをベースやギターで埋め合わせ、バンドのリズムを陰ながら支えるスターリングモリスンの存在も忘れてはいけない。
これらメンバーの個性がより強烈に反映されたのが次作だが、制作中にルーとジョンが対立をし、ジョンが脱退してしまう。
その後新たなベースが加入して数枚アルバムを出しているが、どうにもルーの比重が強すぎるように聴こえてあまり好きになれない。なのでルーとジョンが切磋琢磨して曲を作り、バンドで作り上げた感のある今作と次作がとても好きなのだ。

そういう訳でこんなにもアブノーマルで当時にしてはかなり攻めたサウンドの今作がとても好きな訳だ。かなり好きなバンドなのでまとめが長文気味になってしまったがお許しください。

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