ブラジル音楽が大好き!① Gal Costa E Caetano Veloso/Domingo
前回の記事ではいつになく多めにいいねがいただけて、やっぱり皆ブラジルが好きなんだなあと嬉しくなった今日この頃です。
去年やっていたサイケアルバムのレビューみたいなノリで今度はブラジル音楽を語りたい。
何故こういうアルバムレビューをやるのかという理由は二つで、一つ目が「自分の好きなもののどういう所が好きかを整理して言語化したい」というのと、二つ目が「自分が人のアルバムの感想記事を見るのが好きだから」という理由である。
特に二つ目の理由の方が大きく、自分は気にいったアルバム、というか音楽だけでなく漫画やアニメだったりをネットで名前を検索して他の人の感想を見たくなる癖がある。
特に最近は、マイナーなアルバムも段々聴くようになり、そうなると自ずと感想も見つかりにくくなるのだ。他の人の感想がないと、なんだか「この作品を今楽しんでいるのって自分だけ!?」って、ちょっと寂しい気分になる。なので、私がこのようにnoteに感想記事を書いているのは私のような境遇の人間がいたらこれを見て共感してほしいといった一種の願いもあったりする。
前置きが長くなりましたが…
まず最初に取り上げたのはガルコスタとカエターノヴェローゾによる二人のデビュー作「Domingo」。この二人は後にトロピカリアという一連の運動の中心となる人物で、後にビートルズのサージェントペパーズなどの英米のサイケを積極的に取り入れた音楽性の作品を作るのだが、今作は意外にもボサノヴァの作品となっている。
今作が発売された1967年は、ブラジル本国では既にボサノヴァのブームが過ぎていた時期だった。翌年にはトロピカリア運動が起こることも考えると、ボサノヴァブーム末期の作品という少し哀愁を感じる聴き方もできる。
曲ごとの感想
Coracao Vagabundo
赤と青のサイケチックなジャケから楽し気な雰囲気を期待していると、今作で最もダウナーな曲のイントロが始まる。
全体的にとても物悲しい雰囲気で、なんとなく緊張感が漂う。
Onde Eu Nasci Passa Um Rio
穏やかなギターのアルペジオが心地いい曲。
「僕が生まれた街には川が流れている」という邦題がついており、川のせせらぎを感じる穏やかな雰囲気がとても好き。カエターノの自然愛が伝わってくる名曲。
フルートのソロから始まるなんとも悲し気な雰囲気の曲。
ガルのソロによるボーカルで、後の高らかに歌うイメージとは反対に今作のガルはボサノヴァらしくささやくような歌唱が中心。
この曲もとてもしっとりとした曲であり、前半の3曲で一気に聴く人をダウナーで気だるげな雰囲気に持っていく。
Um Dia
しっとりした曲が続くA面の中では明るめな雰囲気を持つ曲。
前曲同様フルートのフレーズが特徴的。カエターノのソロボーカル曲の為、ソロの1stに収録されていても違和感がなさそう。
Domingo
タイトル曲であるこの曲は1曲目以来のデュエット曲。「Domingo」とは日曜日という意味であり、3拍子のリズムによる優雅なメロディのこの曲は正に晴れた日のなんにもない日曜日に聴きたくなる。後半の二人のハモリがとても綺麗で好き。
Nenhuma Dor
A面のラストとなるギターと歌のみのシンプルなアレンジの曲。
2分にも満たない演奏時間と、デュエット曲のDomingoの次という事もあり、本当にあっさりと流れて行ってしまう。B面への橋渡し的な位置づけか。
Candeia
エドゥロボ作曲による曲で、個人的にアルバムで特に好きな曲。
イントロのフレーズが特に好きで、言葉で上手く言えないが何とも言えない切なさというか退廃的な感じがとてもハマる。控えめながら特徴づけているストリングスもまた独特な寂しさを感じて好き。
Remelexo
軽快なリズムが特徴的な曲。こういった明るめな曲がときたま挟まることでアルバムが完全に湿っぽくなりすぎず、日曜日の楽し気な雰囲気を感じさせるからとても重要な位置ではある。
Mina Senhora
ささやくようなガルの歌声がとても良く、メロディもキャッチーでとても聴きやすい。この曲のストリングスが結構好き。ちなみにこの曲はジルベルトジルによる作曲である。
Quem Me Dera
個人的にアルバムで特に好きな曲②。
前半は気だるげで静かな雰囲気だが、パーカッションが入ってからはどんどん歌が盛り上がっていくというドラマチックな構成の曲となっており、全体的に淡々としていて冷めた雰囲気の曲が多い今作の中では結構熱が入っている感じがとても良い。
最後にはまた弾き語りの静かな演奏になってしっとりと終わるのでアルバムの雰囲気も損なわない。いや~本当良い曲。
Maria Joana
同年にはナラレオンもカバーしていた曲で、短いながらも小気味良い感じがとっつきやすくて好きな曲。
金持ちの娘を揶揄したような歌詞がまた面白いので、和訳も是非見てほしい曲。
Zabele
ラストの曲にしてB面では唯一の二人のデュエットとなる曲。この曲もジルベルトによる作曲。
ラストは打って変わって明るい雰囲気で、ストリングスが加わり正に大団円といった感じを思わせつつ、終わってしまう切なさすら感じさせる明るさ。
まとめ
今作は収録曲数が12曲とアルバムとしては平均的な曲であるにも関わらず、その総時間は31分ほどしかないというかなりあっさりしたアルバムとなっており、演奏時間が2分にも満たない曲が5曲もあるくらいである。
シンプルなアレンジも相まって全く胃もたれせずに短くつるっと聴けてしまうのが今作の好きなところである。
そのあっさりした演奏や、二人の淡々とした歌唱などが全体的に切ないような、気だるげな雰囲気を醸し出しており、日曜日の真昼間に家で日向ぼっこをしているかのような穏やかさもあるが一方でその冷めた雰囲気が退廃的な終末感すらも感じさせるような、色んな印象を感じさせる不思議なアルバムである。私は今作を、後者の終末感ある雰囲気に惹かれた口だ。
そしてなんといっても全曲メロディがとても美しい。メロディだけでも十分に強いのに、ストリングスや優しいタッチのギターがさらに曲の強度を補強して甘くて切ない雰囲気づくりに貢献している。或いは楽器数が少ないアレンジだからこそ、メロディの良さが際立っているとも言える。
今作の曲の半数をカエターノ自身が作曲しており、デビュー作にしてカエターノの作曲能力の高さが十分に発揮されている。
もうそろそろ夏がやってくるが、今年の夏は今作を聴いてゆっくりと家で過ごす休日を送ってみたいところである。