
MV作品、どう作る?
この記事はデジクリ Advent Calendar 2024 1日目の記事です。
デジクリは芝浦工業大学の創作サークルです。
デジクリについて、詳しくはこちらのサイトをご覧ください。
0. はじめに
始めまして!20th部員のむゆぅと申します。普段はMovie班とVTuber班で活動しています。
さて先日、豊洲キャンパスにて芝浦祭が開催されましたね。我々デジクリでは教室をお借りして作品展示を行いましたが、皆さんお越しいただけたでしょうか?

様々な作品で教室中が埋め尽くされていたと思いますが、その中でも最奥のスクリーンでは「2024前期MV企画」で作られた作品が展示されていました。この企画のコンセプトは「イラスト班・DTM班・Movie班の部員がタッグを組み、一つのMVを作り上げよう!」というもの。私はこのうちMovie班として、二作品の映像制作に携わらせていただきました。
と、いうことで今回の記事「MV作品、どう作る?」では私が担当した作品の内、「ちょうだい? ft.裏命」のMVを制作する際の過程や考えていたことについてお話していきます!
誤解のないように説明を挟みますと、あくまで今回お話しするのは私が担当した映像制作の部分についてのみとなります。イラスト制作や作曲にまつわる話はありませんので、ご了承をお願いします。
(まだMVを見ていないよ!という方は以下の動画からご覧ください!)
1. 作品解釈を固める
時は遡り、9月28日。MV企画の制作期間のうち、第二ターム(二次制作期間)が終了し第三ターム(映像制作期間)へとバトンタッチが行われました。私もまた企画運営から「ちょうだい?」の第一・第二ターム成果物を受け取り、映像制作に着手していくこととなるわけですが――私がMVを作っていく中で、必ず最初に行うことがあります。
それが、作品に対する解釈を固めることです。
はじめに、MV企画第三ターム担当者が企画運営から受け取るものについて確認していきましょう。
・第一タームで作られた、一次創作のイラスト(+差分)
・第二タームで作られた、イラストに対する二次創作の音楽
・第一・第二ターム制作者のコメントと作品解説
MV企画ではこれらの素材と情報を元にして作品を制作していくこととなりますが、多くの場合、その作品解釈は一から十まで指定されているわけではありません。各制作者からのコメントと作品解説を参考にしつつ、映像担当者の私たちが最終的な解釈を固める必要があるわけです。
当然、この解釈によってアウトプットの方向性が大きく変わるわけですから、これまでに担当した作品では贅沢に時間をかけて解釈を詰めていました。……ですが、今回の「ちょうだい?」では、解釈を固めるのにあまり時間がかからなかったんですよね。
というのも、今回は作詞作曲者による作品解説の中で「作詞中○○という作品を思い出していた」という風な言及があったのです。これにより、今回のMVでは言及されていた作品を参考にしつつ、音楽の歌詞・解説を一本道のストーリーへと落とし込む形でMVを組み立てていく方針となりました。
具体的な作業内容としては、主人公が各場面でどのような状態になっているか?ということを、全て文字でメモ帳に書き連ねていきます。

ファイルの頭には「字コンテ」と書いてありますが、実際には字コンテとは別の何かだと思います。内容がちょっとアレなのでモザイクをかけていますが、主人公のいる場所とやっている行為、喋っている言葉と感情を表す言葉などを取り留めもなく書き連ねているような感じです。
ただ、後から見返すと、やっていることがデザイン工学部の授業みたいですね。内容がめちゃくちゃ公序良俗に反しているという点に目をつむれば、演習授業のメモと言っても信じる人が出てきそうです。カスのCJMかも。
私は文字書き班ではないため人に見せるのも憚られるような、文章とも呼べない文字の集合となっていますが、これを基底としてMVを作っていくこととなります。
2. 映像のイメージを構築
続いて、先ほどのストーリーから映像のイメージを構築していきます。
今回、イラスト製作者の方から"元"のイラストを掲載する許可をいただいたため、まずはそのイラストを一緒に見ていきましょう。

はい。ダークで妖艶な雰囲気の、吸い込まれるようなイラストですね。
とても好きです。
このイラストと曲の両方に一目惚れして、自ら「やりたい!」と名乗り出たわけですが――MVを作るにあたって最初に頭に浮かんだことは、「このイラストの引き込まれるような魅力を、存分に活かしたい!」ということでした。やはり、映像をこねくり回していく中でイラストの魅力を殺してしまっては元も子もありません。そのため、作業工程全体を通して「メインイラストを際立たせる」という基準のもと演出を考えていくこととなります。
演出を考えていくにあたっては、サビをどう引き立てるのか?という点が重要となってきます。構想の初期段階からサビの演出は決まっており、「色の無い主人公と極彩色の背景映像からなる、極めてシンプルかつ鮮烈な映像」を作ろうと考えていました。そのためAメロ・Bメロでは、サビをより印象に残るものへと仕立てるようなお膳立てをする必要があるわけです。複数の案を出したのち、ストーリーとの調和も鑑みて決定したのが以下の展開でした。
①Aメロ1では薄明りに照らされていた少女が……

②Aメロ2では暗闇に包まれ、しかし絶えずこちらを見ている。

③Bメロに入ると少女が真ん中に移動、彼女を中心に世界がゆがんでゆく。

④サビに突入。極彩色の背景の中、少女と共に溶け落ちてゆく……。

「Aメロ・Bメロの黒を基調とした映像から一転し、サビに突入するとともに刺激の波が襲い来る。しかし、少女自身には未だ色がなく、コントラストの差が少女へと視線を誘導する……。」
そのようなイメージが、見た人に伝わっていればいいなと思います。
また、演出を考えていくうえでサビと同様に重要な点があります。それが、曲中の歌詞の無い部分です。イントロやアウトロ、間奏などの歌詞の無い部分には、歌詞のある部分をより際立たせるという役割があるのです。
詳細な演出案が決まったのはここよりもっと後の段階となりますが、この時点でぼんやりと考えていたこととして
・比較的単純なシェイプアニメーションを使う
・少女の身体の一部分(≒単なる性的魅力)にフォーカスをあてる
というものがありました。
加えて、映像イメージを構築していく中で「少女の主観による世界と、周囲からみた客観的な世界の、冷ややかな温度差」を表現しようというアイデアが浮かんできました。実際にうまく表現できたかと言われると微妙な気もしますが、AメロからBメロへ移る際に舞台のカーテンが閉じていくのは、少女の退廃に同情も制止もしない周囲の人間の、他人行儀なさまを表しているつもりです。

3. 表現を具体化、エンドレス反芻
映像のイメージがあらかた構築できた後は、その表現を頭の中から外へとアウトプットしていきます。ただ、しょせんは一般的な大学生のチンケな脳みそで構築したものです。実際の1920×1080の画面に映る映像に落とし込むには、あまりにも解像度が低すぎます。
そこでまずは、皆さんおなじみの絵コンテを書いていきます!

本来、絵コンテというものは絵から文字からすべてを表として書いていくもの、それは重々承知しています。ただ、今回絵コンテを作る目的はどんな映像を作るか考えることではなく、すでに考えた映像を16:9の画面に落とし込んでいくことです。メインイラストをぐりぐり動かすなら真っ白な紙を用意すべきですが、そういう訳でもありません。
そのため、今回はこのような絵コンテのベースを事前に作っておき、その上に色々なものを書き込んでいくことにしました。
(キャラの切り抜きが雑なのは、イラスト製作者の方に背景透過した素材をもらう前だったからです)
それが書き終わったら、今度はAfter EffectsやPhotoshopなどの実際に利用するソフトを用いて配置や動きの具体化をしていきます。ただ、この中でも特にAfterEffect上で行った動きのテストについては、そのほとんどを実際のプロジェクトデータへ流用してしまったこともあり、当時の形そのままでのデータが残っていないんですよね。
画像ファイルにはなりますが、残っていた数少ないデータのうちの一つが以下のもの。After Effects上でメインイラストの配置とグラデーションやグローの合成処理を行い、そのフレームを書き出した後、Photoshop上でテキストの配置を行っています。

このように演出案を具体化していく中で、先ほどの項で述べた歌詞の無い部分についても具体化を進めていく必要があります。しかし、これが難しい!メインイラストや曲の歌詞がない以上、このパートの演出を作るうえでは何よりも映像担当者の作風の影響が色濃く出ることとなります。
前後のパートを引き立てる役に徹しながらも、視聴者が飽きないような動きのある演出。ただし、作品の世界観を壊すのは言語道断――そんな課題に立ち向かうために、私がしていたことがあります。それは……
とにかく、聞きまくる!
PCの前でも、大学でも、電車の中でだって、とにかく音源を聞いて頭の中に刷り込むのです!
十分な刷り込みが終わったら、自分の経験や今まで見たMVなど、頭にある限りの表現と組み合わせて「ああでもない、こうでもない」と模索していきます。もし、宇都宮線の車内でiPhone純正のファイルアプリを使い、サムネイルのないwavファイルを小一時間聞き続けている人がいたのなら、それは間違いなく私です。
このようにして映像イメージの具体化ができた後は、シームレスに映像制作の作業へと移ることとなります。
4. Adobeと和解せよ!
ここまで来たら、後はAfter Effectsと大乱闘を繰り広げるだけです。
文字の配置、素材のアニメーションにイージングの設定、ありとあらゆるものが登場/退場するタイミングの調整……いずれについても、ただただ地道に調整を重ねていくだけなんです。
――だけなんですけどね。
ここにきて、After Effectへの不理解が自分自身を苦しめることとなります。
例えば、Bメロで使っている「電波」エフェクトの幅を調整する方法が分からなかったり。
長時間作業していると、テキストレイヤーの最初の1文字だけ強制的にメイリオになって変更が利かなくなったり。
Aメロ2で回ってるチョコレートの3DCGモデルが、めちゃくちゃな状態で読み込まれたり。(これについてはBlenderでの書き出しミスが原因でした)

サークル内の人間で、よくVCに入っている人は、僕がAEに対して恨みつらみを垂れる様子を見たことかと思います。Adobeと和解?そんなの無理だよ。
あまりマイナスなことばかり言うと後味が悪いですから、精いっぱいのフォローをしておきますと、今回のMV制作の中では色々と新しい表現手法を学ぶことができたのが良かった点かなと思います。この企画とは別に行っていた、「モーション周期表をマスターしよう!」企画で学んだ技術を間髪入れずに実践活用できたのはとてもよかったです。特に、サビ後半の背景映像は(偶然の産物という側面もありますが)満足度の高い出来となっています。
Adobeと和解、できるかも……?

5. 超自己満!演出・素材解説コーナー
ここまでで当記事の本題はすべて語り終えました。
あらかじめ宣言しますと、この項は蛇足です。興味のない人は最後の項に飛ぶとよいでしょう。
さて、私がMVを作る際は、演出や素材へ多少なりとも意味を込めて作っています。しかし、そういった「意味」は得てして誰にも気づかれないもの……。こういった物を自ら解説するのは格好が悪いような気もしますが、この項では一部の演出や素材について解説を行っていきます。
1. レコード
イントロの部分で映っているレコードは、「Lucy in the sky with diamonds」のレコード盤のデザインをモチーフにしたものとなっています。これは、作曲者の方からいただいた歌詞の解釈として「Lucy in the sky with diamonds」への言及があったからですね。
「レコードが回り出すとともに、少女のストーリーが始まっていく」というイメージで制作しています。
また、レコードのイメージに思い切り引きずられた結果、イントロ部分の映像にだけフィルムノイズの演出を入れました。芝浦祭の環境下で気づいた人はいるのでしょうか……?

因みに、レコード盤に書いてある文字をまじめに読んでいくと「MUSIC VIDEO PROJECT '24 EARLY」という風に意味のないことばかりが書いてあります。

2. 月っぽい何か
Aメロ1で画面に映っている「月」があるじゃないですか。

あれ、実は月じゃないんです。
\え~っ!?/ \何だって~!?/
「月っぽい何か」の模様をよく見るとわかるのですが、あの模様は実際の月と全くもって関係のない、私がAEのエフェクトでテキトーに作ったものなんですよね。
月の写真をトレースして素材を作ることも可能でしたが、あえて本物でない月を用意したのは、これもまた作曲者の方からいただいた歌詞解釈に由来しています。「月が綺麗ですね」という表現に対して、表面上は愛のなす行為をしているにも拘らず、本質的にそこにあるものは愛でもなんでもないという背景をこの「月っぽい何か」で表しました。
3. 「殺してやりたい」~「息をする」
この一連のパートにおける映像演出は、場面ごとの端的な説明の連続で紹介したいと思います。
まず、「殺してやりたい」~の画面が何分割にも分かれていく演出は、異常な精神状態にある主人公の自己同一性が揺らいでいる様子を表現しています。

続けて、Aメロ1のように肌の色がある状態の少女の姿が堂々と映しだされます。このタイミングで、一瞬だけ少女は通常の精神状態へと戻っているのです。

しかしながら、桃色の光が少女を横切るとともに、上下から鋭い牙を携えたワイプが迫ってきます。このワイプに牙のようなものが付いているのは、歌詞の「蛇みたいに」からとっているのと同時に、少女の持つ特徴的な八重歯(?)を表しているものでもあります。

そして、その直後少女は先ほどよりもさらに深く、もう戻れないほどに混沌とした世界に迷い込んでしまいます……。

――と、このようなイメージで映像を作っていったのですが、実際の映像で映し出される時間にしてみればたったの7秒です。当然、見た人に一発で伝わるわけも無いですから映像って難しいですね。
この他にも色々解説したいものはあるのですが、サークルの公として書くのは良くなさそうな内容であること、そして何よりも記事が長くなってしまう事から割愛させていただきます。ストーリーに沿って演出や素材に意味を込めていくのは、どうしようもなく楽しいものですね。
6.最後に
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
とりとめのないようなお話となってしまいましたが、作品を作る過程について言語化するというのは面白い体験でした。
記事が一つ書けるほどに映像制作というのは面白い物ですから、皆さんもぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?
明日(12/2)の記事は 18th 小どばとさんの「にゃーんの絵かきうた」です。
お楽しみに!