見出し画像

夫との久しぶりのお出かけで。

宇宙人の夫と私は、価値観が正反対といっても常に冷戦状態というわけではない。2017年の大げんか以降、夫には言動を改めようと努力しているのが見受けられるし、私も夫に今の時代の地球のスタンダードを知ってもらうため、興味がありそうなことに誘うこともある。

以前は調子に乗ってこちらの感覚で誘っていると、手痛いしっぺ返しが返ってきて、楽しいイベントもコッパみじんで、私まで気分が萎えていた。しかし夫は思ったことを言っただけで、その一言が私の神経を逆なでしているなどとは全く思っていない。だから、私は極力、ややこしくなりそうなことは一緒にしない、と決めていた。

夫が自分の発言にワンクッション置くよう努力しているのと(行かない➡その日はちょっと予定があるから、他の日ではダメかな)、私が宇宙人攻略法を身につけつつあるのとで、思い出したように「一緒に何かをする」ことがある。

それでも、イレギュラーなことに弱い夫なので、最近は知り合いの店にランチに行く、映画を観に行く、ぐらいしか共に行動しない。最後に一緒に観に行ったのは2,3年前に話題になったクイーンの映画『ボヘミアン ラプソディ』と、その前が中島みゆきのコンサートの映画上映版。夫も乗り気だったから。

ドライブや旅行に行ってもイレギュラーなことが起きると大騒ぎするので、行かない。今はコロナだから余計に出かけることも少なくなり、揃って行くといえばお葬式か法事で、もめることもなく、それがちょうどよいお出かけというのもなんだかなあ。

そんな夫が先日、車の免許更新で高齢者向け講習を受けに行き、うれしそうに帰って来た。

そして、”これ”と見せたのが、

命の停車場

講習を受けた教習所の壁にポスターが貼ってあり、小さく「チケット、差し上げます」と書いてあるのに気づき、カウンターへもらいに行き、近くにいたおばさんにも教えてあげた。と、うれしそうに語る夫。

テレビで宣伝していたし、在宅介護の話なので、頭の片隅に残っていたんだろうな。2枚あるので「え?!誰と行くの?」と言ったら、目が点になって沈黙。

画像2

こういうフェイントに夫が対応できないのはわかっているけど、トレーニングである。

そして、やっと先日、観に行った。
ショッピングモールの中のフードコートで早めのランチを軽く食べ、映画館へ。はたから見たら、すごい仲良し夫婦じゃないか。(ふ・・・)

映画は、吉永小百合が演じるバリバリの女医さんがあるミスをきっかけに大病院から生まれ故郷の田舎の診療所へ帰ることになり、在宅医療専門の医師として患者さんに接していくなかで、「医療とは?」に思いを巡らしていくというお話。

映画に行く前、涙なくしては観られないだろうな、でもマスクしてるから鼻が赤くなっても大丈夫だな、とか思っていた私。人間の心情の機微が感じ取れない宇宙人夫に、どこまで映画が伝わるかな、とも。

映画にはいろいろな家族が登場するのだが、中盤に差し掛かり、ふと見ると、なんと夫が泣いている。しかもポケットからハンカチを取り出して、眼鏡を外して涙を拭いている。夫と知り合って二度目の涙だ。

夫が泣いたシーンは、柳葉敏郎演じる霞が関の優秀な官僚が危篤状態になり、反抗して家を出て行った息子と連絡が取れず、とっさに吉永小百合が松坂桃李に「息子になれ!」という場面。

私からしたら信じられないのだが、昨年亡くなった義兄の息子が同じように葬儀に帰ってこなかった。仲がこじれてもう何年も家には帰っておらず、母親は連絡先を知っているようだが、私たちにもはっきりとしたことを言わなかった。長男がいない、微妙な空気が漂う義兄の葬儀で、夫は「考えられない・・・」を繰り返していた。夫なりの「家族とは」「親子とは」があり、そこに人間的な感情はあるようだ。

いくら仲たがいをしていても、自分の父親の一生が終わった時には駆け付けるのではないかと思ったが、結局帰ってこなかった。

夫が後で言うには、松坂桃李の演技がうまくて思わず涙が出たらしい。夫と義兄は、とても仲が良いというわけではなかったが、いろいろ感じるところがあったのだろう。

今回の映画のお出かけはもめることなく、夫にも涙があることが確認できてよかった(変な確認)。

どんな反応が返って来ても私がスルーすればいいのだろうが・・・相変わらず、夫は時々突然、黙り込んでしまう。まるで一人で暮らしているかのように。話しかければ何が起きるかわからない。私もトラウマになっているので、静かな嵐が通り過ぎるのを待っている。

攻略法を身につけた今ではどんな流れをたどるかは予測できるが、何度経験しても慣れない空気感だ。そして、夫は突然、何事もなかったかのように、元に戻る。

何を考えているのか、何も考えていないのか。

夫の場合、”ランチときどき映画” ができるだけでも上出来なのだ。




いいなと思ったら応援しよう!