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100均狂

スーパーの入り口前で、背の曲がったばあさんがお茶を吐き出している。

燃えているのは空だろうか、アスファルトだろうか。それとも、ワークマンで買ったマスクの中だろうか。
濡らすとひんやりするらしいマスクを乾のまま装着しているから、口の前でキャンプファイヤーしてるんかってくらい暑い。
ぼうぼうぼうと、確かに火の燃える音が聞こえた気がする。だけど空耳だろう。暑すぎて頭がぼんやりしている。

ばあさんが、どこから持ってきたのか紙コップでお茶を飲んでいる。カバンから水筒を出して、謎の紙コップに注ぎ、ぐびぐび美味そうに飲んでいる。吐き出していたのは、やっぱり暑さが見せた幻覚だろうか。
エコバッグから買ったばかりのS字フックを取り出して、ばあさんに重ねる。シルエットがぴたりと重なる。頭がだめだ、やっぱりぼんやりしている。

休みのたんびにこうやって、私はキャンドゥに足しげく通って、いったい何がしたいのか。S字フックやら強力マグネットやら網戸掃除用の雑巾やら、そんなもん買ってどうしたいのか。この2か月、そうやって買ったものが部屋の中に溶けて、何をいくつ買ったのかもわからないのに。
100均で買ったものは、なぜだかいっつも部屋に溶ける。溶けて溶けて、わかんなくなる。だからまだ、まだまだまだ、何か要る気がしてしまう。

キャンドゥで買った収納ボックスがかわいいと、撮った写真を職場の先輩に見せたことがある。
翌日先輩は、ダイソーにもっとかわいいのがあった、私はそっちを買ったし今後もそれで統一するつもり、微妙に違うからキャンドゥの買い続けるしかないねと言った。
100均でマウントとるやん。

その先輩をほんのり嫌いだなと、自覚したのはそうだ、あのときだ。
もう4年も前か。

ああずっとこうなんだろうか。

100均で買ったものを部屋に溶かして、ほんのりから濃厚に嫌いになった先輩のいる場所で、私はずっとなんだろうか。
夏の暑さでぼんやりしたまま、え? これ現実? いやわかんないね、ってノリで、どうにかこうにかね、やっていくしかないんですかね。

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