内藤さん。
僕には、気になる人がいる。
その人は同じクラスの女の子で内藤さんって言うんだけど、スタイルが良くて勉強もできて、でもだからって偉そうにしてなくてっていうか逆にクラスメートのことを大切に思ってるような人で。
だから他の男子も女子も敬遠したりしてなくて、むしろ内藤さんと一緒に楽しくやってるみたいで、だからクラスはいつも明るくて和気あいあいとしてて。
そんな楽しい教室の片隅からいつも見てるだけの僕は、その輪の中心に居る内藤さんを見ているだけでもう、幸せだったりしていたのだ。
――うん、だったのだ。
今日、ついさっきまでは。
『内藤さん。』
Inspired By『マキノさんRoad…to?』(植木まみすけ作)
Written By ならざきむつろDecorative borders:Made By osso『【素材】noteで使える飾り罫線 シンプルガーリーライン編』
「マキノ!おはよう!」
クラスで――いや、学校で一番のスケベ男の今野がマキノさんを抱きしめたその瞬間、僕の中の奥の奥にしまっていた何かがちくり、と痛みだして、僕は写メろうと取り出したスマホを見つめる。
一見するとなんでもないゆるキャラの壁紙の後ろに隠された内藤さんの隠し撮り画像を表示させようとして、慌ててスマホをポケットに戻しながら顔を上げると、マキノさんが今野の腕の中でジタバタあがいているのが見えた。
「なな、なんしよるとや!」
「何って……愛情表現?」
「いらんいらんいらんんんっ!」
顔をまっかにしてジタバタし続けるマキノさんから視線を内藤さんへと向けると、内藤さんは心底嬉しそうな笑顔で二人を見つめているのが見えた。
いつもよりも優しげなその笑顔に胸の辺りが締め付けられる。
「いいから……はなせ……えっ!」
マキノさんの声に視線を戻すと、今まさに振り回されたマキノさんの足が抱きしめ攻撃中の今野の股間へと命中したその瞬間で。
マキノさんを離しそのまま屈みこんだ今野を見て、僕だけじゃなく他の男子も全員足が内股になってしまった。
「わ、だ、大丈夫?!」
我に返ったマキノさんが慌てて今野に近寄るけど、今野は顔文字のがっくりポーズのまま動こうとしない。
「うっわ痛い」
「ジャストミートしたよな」
「息できないんだよな」
「いやああっ、ごめえええんっ!」
内股でささやく男子の声に慌てたのか、ワタワタしながら今野の背中のあたりをトントンと叩いているマキノさんに苦笑いしつつ、僕はもう一度内藤さんへと視線を移して――そしておや?と思う。
初めてだったのだ。
マキノさんを見る内藤さんの笑みに、どこか寂しさを感じたのは。
2月15日。
日曜日の昼下がりという、ある意味暇で暇でしょうがない時間帯に、僕はだから家を出て近所のコンビニへと歩き出す。
もうすぐ春だっていうのに降り始めた雪を100円ショップで買った透明傘の中から眺めながらコンビニに到着すると、ちょうど店の中から出てきた見慣れた女性にあ、と思わず声が出てしまう。
「あ、小野くんじゃない。立ち読みー?」
そう問いかけてきたふんわりコート姿の内藤さんに、僕はただコクリ、と頷く。
声を出さないわけじゃなくて声が出ないだけだったのだけど、内藤さんはそっか、と微笑み返してくれて。
だから僕もつい嬉しくなって、内藤さんは?とオウム返しに問い返してみた。
「ん、アイス買いにー」
「アイス?寒いのに?」
思わず口に出たツッコミにしまった、と思ったがもう遅い。
気を悪くしたんじゃないかとドキドキしながら内藤さんを見ると、でも彼女は特に変わらない表情のまま、そそ、と返してくれる。
「調子に乗ってストーブの温度上げすぎちゃってー」
そう言ってははっ、と笑う彼女にぎこちない笑みを返しながら、何気なく彼女の買い物袋に目を向ける。
「……あ、あずきバーなんだ」
「うんそう。これじゃないとね」
内藤さんがそう言って買い物袋を持ち上げると、袋の中のあずきバーがカサリ、と揺れる。
「僕も好きなんだ、あずきバー」
何気なく言うつもりが、つい『好き』という単語にだけ力が入ってしまう僕。
「冬はやっぱりこれじゃないとねー」
気づいているのかいないのか、内藤さんは嬉しそうにそう言うと、そのまま持ち上げた買い物袋をフラフラさせながらじゃあねーと歩き始める。
「あ、あの、内藤さん!?」
初めて彼女の名前を呼んだせいか、思わず上ずった声に顔が真っ赤になる。
「なにー?」
そう言って振り返った彼女に、テンパっていた僕は何故かとんでもない問いを投げかけていた。
「なんで昨日、今野たちが抱き合ってたとき、寂しそうにしてたの?」
それから数分後。
コンビニで慌ててあずきバーを買って出てきた僕は、入口横の軒先で降り注ぐ雪を見上げていた内藤さんに声をかけた。
「ごめん、レジ並んでて」
「あー、良いよ別に」
僕の言い訳めいた声に、しかし彼女は空を見上げたまま、こちらを見ること無く応えてきて。
――やっぱりさっきの質問、マズかったかなぁ。
「――ねえ、」
「は、はい?!」
突然の問いかけに、僕はやっぱり素っ頓狂な声を上げてしまって、彼女の失笑を買ってしまう。
「そんなに緊張しなくていいのに」
「う、うん。そうなんだけどね――」
好きなんだもの、とはさすがに言えず黙っていると、彼女はまた空を見上げて、そしてゆっくりと口を開く。
「――なんか、さ。みんなうらやましいな、って思ったんだ」
――羨ましい?
スタイル抜群、学業優秀、社交的でかつ自然体な内藤さんが、羨ましい……だって?
「羨ましい――って、どうして?」
思わず口にした問いに、彼女はしかたないな、とばかりにため息一つ。
「いやなんかさ、誰かを好きになったり、なられたりが――さ」
そう言って力なく笑う彼女に、僕の心臓がバクバクと激しく動き始める。
――まさか、『今』か?
僕にとってのチャンスは、今なんか?
「私って今までLikeな人は居ても、Loveな人って居なくてさ。
だからあの二人が正直羨ましかったんだ」
わかりやすかったしね、と笑う彼女に確かに、と笑いながら、僕のドキドキは更に大きくなってくる。
――いや待って待って落ち着けって自分!
「告白だってされたこともしたこともないしさ。もしかして私、このままなんじゃないか、って――」
「そんなことない!」
思わず口から吐き出された声の大きさに、彼女がビックリした顔で僕を見る。
そりゃそうだ、だって僕もビックリしたし。
「内藤!さんは!ゼッタイ!そんなこと!ないって!」
目の前の僕が居る。
僕が彼女を好きなのは、絶対不変の決定事項だ。
ここにちゃんとした証人がいるんだ。
「内藤!さんが!す――好きな!人は居る!から!」
冷たい風が顔に当たってるはずなのに、僕の顔は耳の先から鼻の頭まで沸騰したみたいに熱い。
恥ずかしさと照れくささと何かよく解らない感情で、頭のなかがグルグルしてる。
「だから――だから!」
「分かった分かった分かったから!」
彼女の笑うような声に顔を上げると、彼女はちょっと頬を赤く染めながらそっぽを向いていた。
「ごめん小野くん。気、使わせちゃったかな」
「そ、そんなこと――」
「ありがとね」
言い募ろうとした僕を遮るように、彼女が買い物袋を差し出してくる。
「あんまり深く考えてなかったけど、……うん、ちょっと元気でた」
そう言って彼女は笑うと、これお礼、と買い物袋ごとあずきバーを僕に突き出してきて、僕は思わず手にとってしまう。
「バレンタインデーでもないし、あずきバーだしね。気にせずもらっといて」
もらっといても何も、もう受け取っちゃってるし、何より彼女のお願いだからNOとは絶対に言えない。
「わ、わかった」
「うん。じゃあ、またあしたー!」
コクリと頷いた僕にニンマリと笑って返すと、彼女は僕に背を向けて、そのまま歩き出す。
僕は彼女の颯爽としたその後姿に見とれながら、手に持った二つのあずきバーの入った買い物袋を握りしめつつ、決めたのだ。
これから死ぬまで一生、
冬はあずきバーだけ食べるんだ、ということと、
いつかきっと僕もあの今野とマキノさんのように、
彼女に告白するんだ、ということを。
――はい、というわけで。
イベント部のマンスリーイベント『HappyValentine!2015』に参加してくださった、植木まみすけ(漫画,イラスト)さんの『マキノさんRoad…to?』にインスパイアされた、久しぶりのショートセッションでございます(●´ω`●)
今回の企画には本当にたくさんの方が参加してくださって、バリエーション豊かな作品たちが集まってきていましたが、その中でも最も頑張ってくださったのは植木まみすけさんだったと思います。
プレ・イベント『ロードトゥバレンタイン』から始まり、メイン・イベントでも〆切りギリギリまで頑張ってくださって、結果的にイベント内で作品をキチンと完結されて。
だから今回は、その作品にキュンキュンしたからだけじゃなくて、キチンと有言実行されたそのクリエイターとしての頑張りに敬意を表すべく、スピンオフ的な何かを書きたいと思ったわけなのです。
主人公は、マキノちゃんや今野くんのクラスメートの、小野くん。
ラストシーンで今野くんの背後でスマホを持ってる、彼です(たぶん)。
ヒロインはもちろん、マキノちゃんをさり気なく後押ししてた、内藤さん。
美脚Fカップの美人さんです。
――まあ、勢いで書いちゃったので、正直オチはついてませんが(;^ω^)
でもとても楽しかったです……書いてる私は(笑)
※
ちなみに今回は、ossoさんの飾り罫線をお借りしました。
もちろんMeguru Ishidaさんのnoteで、Meguruさんのショートムービーに声で参加されたというossoさんが、
むつろさんともいつか何かでご一緒したいです☆
と仰ってくれたという理由もあるんですが(笑)、それ以上にこのガーリーラインが可愛くてねえ(●´ω`●)
というわけで、ossoさんもありがとうございましたヽ(=´▽`=)ノ
※
というわけで。
今回の2月のマンスリーイベントは、これにて終幕です。
ご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました。
そして、今回告白できなかったチキンなみなさま。
告白はバレンタインじゃなくてもできます。
もし告白する勇気が欲しくなったら、
『 #ハピバレ2015 』をクリックしてくださいませ。
きっと勇気が湧いてきますよ。
では、ならざきむつろでした!
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