並んで歩く。
ならざきむつろ(BGM:りとるらいと)
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※ この作品はリレー小説企画『片想い~l'amour non partagé~』の1話目です。次の人がイメージしやすいよう、最後に登場人物の設定を記載しています。
※ 今回のBGMには、りとるらいとさんの『グリーンスリーブス(りとるらいとジャズアレンジ) https://note.mu/littleright_lr/n/n3eff8db3f972 』をお借りしました。
『並んで歩く。』ならざきむつろ 作
人は、どうして誰かを好きになるのだろう。
無意味で無駄で無目的で無自覚で無作為で無責任で無秩序で無抵抗で無頓着で無二で無報酬で無欲で無垢なその感情を、どうして人はそんなにも大切にするのだろう。
「ほんと、なにやってんだか」
俺ははあ、とため息をつきながら、向かいに座っている夏姫をちらりと見る。
サラリ、とした長い髪に真っ赤でぷるん、としてそうな唇。
かわいらしいメガネの奥に見える二重まぶたの下にはオパールのような瞳が――
「なによ。私の美しさに見惚れてんじゃないわよ」
「な、なんだよそれ。なんで俺が」
「違うの?おかしいなあ、私を見ながらうっとりため息なんてついてたのに」
にっこり笑いながらさらりとそう言ってのける夏姫にどう切り返して良いか迷っていると、隣に座っていた大介が少し大げさにふっ、と肩をすくめる。
「そりゃため息もつくだろ、口にご飯粒つけてんだし」
「え?うそ!」
夏姫が慌てて口元にそのしなやかな指をあてると、その慌てっぷりに我慢できない、とばかりに大介が噴き出した。
「え?ちょ、大介?!」
「いやわりいわりい、道隆イジるより夏姫をいじった方が楽しいもんで、つい」
「なによそれ信じらんない!ねえ薫も言ってやってよ」
夏姫が口をとがらせて薫に同意を求める。
「あ、え、えと」
薫が夏姫と大介を交互に見ながら言葉を詰まらせているのを見て、思わず口を挟む俺。
「ほら、それよりそろそろ時間だろ」
「――あ、しまった」
「え?もうこんな時間?」
二人はそれぞれにスマホを見て、慌てて鞄を持って立ち上がる。
「じゃあ行くわ」
「薫、また後でね」
そう言って爽やかに立ち去っていく大介と夏姫に軽く手を挙げて応えながら、横目でちらりと立ち上がった薫を見る。
二人を見送るその後姿が小動物みたいだ、なんて考えていると、まるで俺の視線に気が付いたかのように慌ててこちらに向き直って、そして恥ずかしそうにちょこん、と椅子に座りなおした。
「そ、そろそろ俺らも出ますか」
思わずごまかすようにそう口にすると、薫もこくり、と小さくうなずいて、そして俺にほわん、とした笑みを見せてくれた。
※
俺と薫はテラスから離れ、大学のメインストリートをゼミ室へと向かう。
少し肌寒いそよ風がつい、と、人ひとり分空いた俺と薫の間を抜けると、薫がかすかに震える。
「大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫」
薫が見上げるように微笑み返してきて、俺はその笑顔で早まった鼓動をごまかすように空を見上げる。
「――空、青いね」
つられて見上げたのだろう、薫がぽつりとつぶやき、俺はそうだな、と返す。
「来年の今頃はもう、みんなバラバラなんだよね」
「だな。卒論も終わってるだろうしな」
薫の問いに何気なく返して、そんな自分の応えに改めて大学生活の終わりが近づいていることを実感する。
――そう。
こうやって一緒に歩けるときは、
もうあと一年も無いんだ。
「――なあ、薫」
空を見上げたまま、ふと思いついたように問いかける。
「なに?」
「けっきょく、告白しないのか。大介に」
なにげなく口から出た問いに、しかしなかなか応えは返ってこなくて。
急に不安になって彼女に目を向けると、彼女はまだ空を見上げたまま――
「うん。しない」
と、力ない笑みを浮かべて返してきた。
「それで――」
いいのか?と続けようとして、俺は口を閉じる。
いいわけがない。
薫がどれだけ大介のことが好きかは、俺が一番よく知っている。
一年のころからずっと見続けているんだ。
知らないはずがない。
「いいの。大介くんは夏姫のことが好きなんだし、夏姫も――」
薫はそこまで言って、慌てたように俺を見る。
「――ごめんなさい」
慌ててごまかすように続ける薫の言葉の意味が一瞬理解できずにいたが、すぐに俺の『役割』を思い出して苦い笑みを浮かべてみせた。
「ああ。いや、大丈夫。夏姫が大介のことを好きなことくらい、朴念仁の俺でもさすがにもう分かってるから」
『夏姫のことを好きな俺』がわざと諦め口調でそう返すと、薫はでも本当に申し訳なさそうな表情で下を向く。
そんな彼女を思わず抱きしめそうになる自分が情けなくて、俺はまた苦笑いをしてみせる。
素直で、真面目で、人見知りで。
でも芯が通ってて、友達想いの彼女。
そんな薫だから俺は好きになったし、
そんな薫だから、俺は自分の気持ちを必死で隠し通してきた。
あともう少し。
あと一年で、彼女はここじゃないどこかに旅立っていく。
大介への想いを胸に秘めながら。
夏姫という親友との絆を大切にしながら。
俺――新庄道隆、という『友人』と、こうやって一緒に歩いた『思い出』とともに。
「――ゼミ室、行こうか」
俺はいろんな思いを吹っ切るようにそう口にすると、ほんの少しだけ勇気を出して、俺の胸のあたりにある彼女の頭にぽん、と手を置いた。
きっと見せてくれるだろう、
照れくさそうな笑みを想像しながら。
(1963字)
次の人のためのキャラクター設定:
【片想いしてる人】
新庄道隆……大学三年生。身長195cm、血液型はA。口下手で恋愛下手で自分に自信がない。成績は普通。顔も普通。メガネ男子。
【片想いの相手】
三枝薫……大学三年生。身長158cm、血液型はA。人見知りで気弱で素直で真面目で気遣いの人。おとなしい頑固者。リスっぽい。
※ ジャケット写真は写真ACで借りてきました。
http://www.photo-ac.com/main/detail/8509?title=%E5%BE%8C%E3%82%8D%E5%A7%BF%E3%81%AE%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%AB2
※ 今回のBGMには、りとるらいとさんの『グリーンスリーブス(りとるらいとジャズアレンジ) https://note.mu/littleright_lr/n/n3eff8db3f972 』をお借りしました。
『並んで歩く。』ならざきむつろ 作
人は、どうして誰かを好きになるのだろう。
無意味で無駄で無目的で無自覚で無作為で無責任で無秩序で無抵抗で無頓着で無二で無報酬で無欲で無垢なその感情を、どうして人はそんなにも大切にするのだろう。
「ほんと、なにやってんだか」
俺ははあ、とため息をつきながら、向かいに座っている夏姫をちらりと見る。
サラリ、とした長い髪に真っ赤でぷるん、としてそうな唇。
かわいらしいメガネの奥に見える二重まぶたの下にはオパールのような瞳が――
「なによ。私の美しさに見惚れてんじゃないわよ」
「な、なんだよそれ。なんで俺が」
「違うの?おかしいなあ、私を見ながらうっとりため息なんてついてたのに」
にっこり笑いながらさらりとそう言ってのける夏姫にどう切り返して良いか迷っていると、隣に座っていた大介が少し大げさにふっ、と肩をすくめる。
「そりゃため息もつくだろ、口にご飯粒つけてんだし」
「え?うそ!」
夏姫が慌てて口元にそのしなやかな指をあてると、その慌てっぷりに我慢できない、とばかりに大介が噴き出した。
「え?ちょ、大介?!」
「いやわりいわりい、道隆イジるより夏姫をいじった方が楽しいもんで、つい」
「なによそれ信じらんない!ねえ薫も言ってやってよ」
夏姫が口をとがらせて薫に同意を求める。
「あ、え、えと」
薫が夏姫と大介を交互に見ながら言葉を詰まらせているのを見て、思わず口を挟む俺。
「ほら、それよりそろそろ時間だろ」
「――あ、しまった」
「え?もうこんな時間?」
二人はそれぞれにスマホを見て、慌てて鞄を持って立ち上がる。
「じゃあ行くわ」
「薫、また後でね」
そう言って爽やかに立ち去っていく大介と夏姫に軽く手を挙げて応えながら、横目でちらりと立ち上がった薫を見る。
二人を見送るその後姿が小動物みたいだ、なんて考えていると、まるで俺の視線に気が付いたかのように慌ててこちらに向き直って、そして恥ずかしそうにちょこん、と椅子に座りなおした。
「そ、そろそろ俺らも出ますか」
思わずごまかすようにそう口にすると、薫もこくり、と小さくうなずいて、そして俺にほわん、とした笑みを見せてくれた。
※
俺と薫はテラスから離れ、大学のメインストリートをゼミ室へと向かう。
少し肌寒いそよ風がつい、と、人ひとり分空いた俺と薫の間を抜けると、薫がかすかに震える。
「大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫」
薫が見上げるように微笑み返してきて、俺はその笑顔で早まった鼓動をごまかすように空を見上げる。
「――空、青いね」
つられて見上げたのだろう、薫がぽつりとつぶやき、俺はそうだな、と返す。
「来年の今頃はもう、みんなバラバラなんだよね」
「だな。卒論も終わってるだろうしな」
薫の問いに何気なく返して、そんな自分の応えに改めて大学生活の終わりが近づいていることを実感する。
――そう。
こうやって一緒に歩けるときは、
もうあと一年も無いんだ。
「――なあ、薫」
空を見上げたまま、ふと思いついたように問いかける。
「なに?」
「けっきょく、告白しないのか。大介に」
なにげなく口から出た問いに、しかしなかなか応えは返ってこなくて。
急に不安になって彼女に目を向けると、彼女はまだ空を見上げたまま――
「うん。しない」
と、力ない笑みを浮かべて返してきた。
「それで――」
いいのか?と続けようとして、俺は口を閉じる。
いいわけがない。
薫がどれだけ大介のことが好きかは、俺が一番よく知っている。
一年のころからずっと見続けているんだ。
知らないはずがない。
「いいの。大介くんは夏姫のことが好きなんだし、夏姫も――」
薫はそこまで言って、慌てたように俺を見る。
「――ごめんなさい」
慌ててごまかすように続ける薫の言葉の意味が一瞬理解できずにいたが、すぐに俺の『役割』を思い出して苦い笑みを浮かべてみせた。
「ああ。いや、大丈夫。夏姫が大介のことを好きなことくらい、朴念仁の俺でもさすがにもう分かってるから」
『夏姫のことを好きな俺』がわざと諦め口調でそう返すと、薫はでも本当に申し訳なさそうな表情で下を向く。
そんな彼女を思わず抱きしめそうになる自分が情けなくて、俺はまた苦笑いをしてみせる。
素直で、真面目で、人見知りで。
でも芯が通ってて、友達想いの彼女。
そんな薫だから俺は好きになったし、
そんな薫だから、俺は自分の気持ちを必死で隠し通してきた。
あともう少し。
あと一年で、彼女はここじゃないどこかに旅立っていく。
大介への想いを胸に秘めながら。
夏姫という親友との絆を大切にしながら。
俺――新庄道隆、という『友人』と、こうやって一緒に歩いた『思い出』とともに。
「――ゼミ室、行こうか」
俺はいろんな思いを吹っ切るようにそう口にすると、ほんの少しだけ勇気を出して、俺の胸のあたりにある彼女の頭にぽん、と手を置いた。
きっと見せてくれるだろう、
照れくさそうな笑みを想像しながら。
(1963字)
次の人のためのキャラクター設定:
【片想いしてる人】
新庄道隆……大学三年生。身長195cm、血液型はA。口下手で恋愛下手で自分に自信がない。成績は普通。顔も普通。メガネ男子。
【片想いの相手】
三枝薫……大学三年生。身長158cm、血液型はA。人見知りで気弱で素直で真面目で気遣いの人。おとなしい頑固者。リスっぽい。
※ ジャケット写真は写真ACで借りてきました。
http://www.photo-ac.com/main/detail/8509?title=%E5%BE%8C%E3%82%8D%E5%A7%BF%E3%81%AE%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%AB2