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百物語『ヤバい家』
――ああ、そうそう。
さっきの生首の話で思い出したんだけど、ちょっと都市伝説っぽいのでも良いかな。
――あ、いいの?
じゃあ――
※
ほら、怪談っていうか怖い話ってさ、良く生首って出てくるじゃない?
暗闇の中に浮かぶ生首、とか。
祠の扉を開けたら生首が!とか。
大量の生首が一斉に襲い掛かって来て、とか。
高校の時、ちょっと興味があって、生首の出てくる話を日本地図使って分布図みたいなの作ってまとめてみたことがあるんだ。
――え?なんで、って……そりゃ、暇だったから。
良いじゃん、暇つぶしに生首話の分布図作る女子高生がいたって。
で。
その分布図だけど、けっこう頑張って100個くらい集めてまとめてみたら、面白いことが分かったんだ。
――っと、ここでみんなに質問。
その100個の生首話の中のうち、半分以上が集中している地域がありました。さて、どこでしょうか?
――はーい、終了。答えは、関ケ原でした~。
全員外れだったね、はっはっは~。
※
ま、それはともかく。
実は、分布図を作り始めたのって、あちこちに在る生首話のオオモトってどこなんだろう、って思ったのがきっかけだったんだけど、良く考えてみたらさ、関ケ原っておっきい戦があったんだから、そりゃ生首だっていっぱい落ちてたんだろうし、それを見た地元の人が生首を怪談のネタにするのも当然じゃん、って話でさ。
だから結果を見て、最初はこんなもんか、ってそれで終わったわけ。
――最初は、ね。
※
でも、なんか納得いかなくてさ。
今度は昔の関ケ原の地図っぽいの見つけてきて、そこに今の地図を重ねて、さっきの分布図みたいなものを作ってみたのよ。もしかしたら、もっと具体的にここ!ってとこが見つかるかもって思ってさ。
そしたら!ほんとにそれっぽい場所があったの!
今の関ケ原町関ケ原のとある場所に、特に集中してる場所が!
それを見つけたときはおっしゃー!ってなったね。うん、なった。
んで、当時付き合ってた大学生の先輩にその話をしたら、せっかくだから肝試しに行こうぜ!みたいな話になってさ、当時の友達と先輩の友達と4人で車に乗って、東京から高速使って関ケ原まで行ったんだ。
――え?そりゃ先輩にとっちゃ、肝試しなんて口実で、その後ホテルでエッチしようと思ってたんじゃない?
もちろん私もそのつもりではいたんだけど、思ったより東京から関ケ原って距離あるんだよね。
明るいうちに着いて先に観光でもするか、なんて言ってたのに、関ケ原に入ったのがもう6時過ぎでさ、先輩たちもさすがに運転で疲れ切ってたから、とにかくその場所に行って肝試しっぽいことしてさっさとホテル行こうぜ、みたいなノリになってさ、私のナビでその場所に向かったんだ。
※
そこは、普通の家だったんだ。二階建ての――ちょっと狭いかな、って感じではあったし、電気はついてなかったし、人の住んでる気配はしなかったんだけど、本当にフツーの家。
もともと私が使ってた地図ってテキトーに図書館でコピったヤツだったから、いつ頃の地図かとかぜんぜん気にしてなくて、でもそういう話が集中してるとこだもん、もうちょっと何かさ、墓場だとか廃墟だとかそういうものが建ってるんじゃないか、って感じするじゃない?
だから、最初車の中からその家を見たときは、私もだけど、他の3人がめっちゃガッカリしてさ。
肩透かしも良いとこだもん、ガッカリもするだろうな、とは思ったけど、あんまり他のみんなが見せつけるようにガッカリするから、ちょっとハラが立ってさ。『いや、まだ分かんないから』って、とりあえず外に出てみたんだ。
――みんなさ。
経験あるかな。
背筋がピリピリする、って感じ。
私は霊感なんてないし、他の3人も霊感無いのばっかだったんだけど、車の外に出て、その家の前に立って感じた、あのピリピリ感はほんとヤバかったんだよね。
――なんかこう、上手く表現できないんだけどさ。
刃物みたいなものを持った何かに睨まれてるみたいな、隙があったらいつでも襲い掛かってやるぞ、みたいな、そんな気配がさ。
その家の奥から、
ぶわあ
って近づいてくるような、そんな感じがしたんだ。
だからもうみんなめっちゃ慌ててさ。
これやべーやべーって大騒ぎしながら車に戻ってさ。
エンジンかけっぱなしだったから、そのまま一気にアクセルふかして、そこから逃げ出した、ってわけ。
※
――え?肝試し?
それがね、その後その家のことを某掲示板に書き込んだら、すっごいヤバい家だったってことが分かってさ。
これまで何回も家主が変わってるんだけど、その理由がどれもこれもヤバくて、心中だの強盗殺人だの浮気相手が怒鳴り込んできただの自殺だのって、全部死人が出てるっていう――ね、ヤバいっしょ?
で、その掲示板の人たちは、
『そこ、もともと関ケ原の戦いに巻き込まれた人たちの怨念が溜まった場所で、彼らを鎮めるために何か慰霊碑みたいなものが建ってたと思うんだけど、それが高度経済成長期の強引な区画整理で倒されたことで彼らを鎮めるものが無くなってしまったから、怨念のチカラが強まって、とんでもないことになってるんじゃないか』
『もしそんな家に人が住めば、怨念が何かしなくても、負の影響を受けて不幸になるのは目に見えてるし、その結果恨みつらみが生まれて死人とか出れば、怨念に取り込まれてもっと始末に負えなくなると思う』
って。
もし私たちが何も考えずにあの家に近づいてたら、もしかしたら生きてなかったかも知れない――
そう思うと、今でもこわいよ、私は。
(了)