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【コラボ作品】『恋愛スイッチ SSF Remix』

作 ならざきむつろ 曲 ヨシダショウ『Macaroni』
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スイッチだ。
何の変哲もない真っ白なスイッチが、
何故か私のおでこのど真ん中に、
それこそそこに在るのが当然のようにくっついている。

私は気絶しそうになるのをなんとか堪えて、鏡に映る無機質なそれに恐る恐る手を触れる。

「――冷たっ」
触った感触もその無機質な冷たさも含めて、正真正銘、ごく普通の武骨なスイッチだ。
私は半泣きになりながらスイッチをつまんで痛みを覚悟の上で強く引っ張ってみる。
「いた、いたたた」
ダメだ。全然取れない。
「いやちょっとほんとやめてよお。こんなの付けて、外に出れるわけないじゃんかあ。どうすんのよう」
私がスイッチをつまみながらわあわあ泣いていると、ママが慌てて洗面所に飛び込んできた。
「ま、ママぁ……」
私がおでこのスイッチをつまみながら後ろに振り向くと、目をぱちくりとしたママが不思議そうに首を傾げて、
「どうしたのよ。おでこ真っ赤よ?何のおまじないなの?」
と、心底不思議そうに尋ねてきた。
「おまじないでスイッチなんて付けないよ!」
「スイッチ?」
「ここに、ほら!」
私が慌てておでこを近づけると、ママは目を細めて見つめていたが、やがて大きなため息とともに目を離して私の頭にぽん、と優しく手を置いた。

いやだから、寝ぼけてないってば。

      ※

昼休み。
私は学校の屋上で一人、お弁当を開いていた。
頭の中がもちろんおでこに今も張り付いているっていうか埋め込まれている謎のスイッチのことでいっぱい過ぎて、食べる気力もわいてこない。
「……とりあえず、人には見えてないのが救いだけどさ」
箸でプチトマトの表面をぷすぷすと突き刺しながら、ぼんやりとつぶやいてみる。
「まあ、変なやつ認定されてシカトされてる可能性も無くはないけど」
思わず口にした可能性から、脳裏に気の毒そうな友達の目を想像して、私は箸を持ったまま頭を抱えた。
「あのバカに見られてないだけマシか」
なんてね、と笑いながらふと顔を上げると――目の前に遼太がいた。
「うきゃ!」
私は思わずのけぞる。
勢いで弁当箱を放り投げてしまったが、今はそれどころじゃない。
「りょ、りょうた?!聞いてましたの今!」
「聞いてた、って何をだよ」
慌てる私を呆れたように見つめるこの幼馴染は、しかし心配そうな目でこちらを見つめながら、「大丈夫か?」と問いかけてきた。
「な、わ、私は大丈夫ですけど?!」
何とか普段と同じに見えるように切り返すが、しかし遼太はくすくすと笑ってこちらを見ている。
「な、なんですか?!」
「いや、お前の口調、丁寧語だからさ」
遼太はそう言うと、手で口を隠す私の隣によいしょ、とつぶやきながら腰を下ろした。
「そ、そんなことないよ!」
あ、治った。
丁寧語スパイラルから抜け出せたことにほっとしつつ、私は何とか言い負かしてやろうと口を開く。
「ってか貴重な昼休みなのに、丸山さんと一緒じゃないんだ」
「い、良いんだよ別に。そんなんじゃねえし」
「へえ、付き合ってなかったんだ。それはびっくり」
私が上から目線で切り返すと、遼太はうるせえよ、と口をとがらせた。
「恋愛経験ゼロのお前に言われたくねっての」
突然の切り返しに、私の胸がズキリ、と痛む。
確かに私にはこれまで恋愛らしい恋愛経験がない。そのことを考えると、女として発達していない気がして、遼太にそこを突かれてちょっと腹が立った。
「そ、それとこれとは話が別じゃん」
私がムキになって言うと、遼太はふう、とため息をついてから、ゆっくりと立ち上がる。
「同じだよ、おんなじ」
遼太はそう言うと、真面目な顔で私の顔をずい、と覗き込む。随分と久しぶりに見た遼太のアップは、すごく凛々しかった。
「ここに俺が来た理由も、丸山と付き合わない理由も、今恋愛経験がないというお前のそばに居る理由も」
みんな同じなんだよ、と言う遼太の迫力に、ただごくり、と唾を飲み込んでじっと見つめるだけしか出来ない私を見て、遼太は身体を起こして力なく笑う。
「まったく、そろそろ気づいてくれよ、な?」
そう言った遼太は右手の人差し指をまっすぐに伸ばし、ほんとに、ほんとに何気ない仕草で、私のおでこのスイッチを

ぽん

と押した。



何が起こったのか、さっぱり理解できなかった。
突然心臓がどっくん!となって、
息ができなくなって、
頭がぼおっとして真っ白になって、
顔が一気に熱くなって、
世界が突然ハイビジョン映像のようにカラフルでクリアになったかと思うと、次の瞬間には目の前で不思議そうに首を傾げている遼太だけしか見えなくなった。

遼太は私を心配そうな表情で見つめている。

「だいじょうぶか?」

遠くから聞こえてくる、遼太の声。

幼馴染の遼太。
他のものなど何も見えない。

遼太だけしか。
遼太だけ。

遼太。

「おい、ホント大丈夫か?」

……そっか。

「うん、大丈夫。ありがと」
私はそう言うと、驚いている彼の首に抱きついて、初めて理解した。

そっか、
これが恋なんだ、って。
(了)

※BGMはヨシダショウさんの『Macaroni』をお借りしました。
 https://note.mu/yoshishow/n/nc3f13ceb64b0
※この作品は既出である『恋愛スイッチ』を海見みみみさん主催の『第1回noteSSF』に向けにアレンジ、リメイクしたものです。

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