ちょうせんじょう

ものかきさんにちょうせんじょう。



やあ、ならざきさんだよ!

今日はnoteでもんもんとしているものかきさんに、ちょうせんじょうをたたきつけてあげよう!

今から私が、400文字のおはなしを書くからね。
その400文字のおはなしを、言葉を変えたり舞台を変えたりジャンルを変えたりして、アレンジしてほしいんだ。

――え?
おまえはなにをいってるんだ、って?

しかたないなあ。
じゃあ、例を挙げてみるよ。
これでいちもくりょうぜんだ!


例:

洗濯物をベランダに干してリビングに戻ると、亮介が床にうずくまって何かやっていた。亮介は戻ってきた私に目もくれず、…どうやら何かを懸命に描いているらしい。
「亮ちゃん、何描いてるのかな?」
私が笑顔を作りそっと声をかけると、亮介はぴょこ、と顔を上げて、
「おそとかいてるの」
と笑顔で言う。
その返事に、私は思わず笑顔のまま固まった。
生まれた時から亮介は身体が弱く、外に連れて行くにしても車内か病院位しか見ていないはずなのに、何を描いているのだろう。私は少し不安を感じつつ、そっと画用紙を覗き込み――そして、思わず窓の外を見上げた。
そこには、一面の蒼。

泣きたくなる位に、綺麗な蒼だった。
(287文字)

お風呂から上がってリビングに戻ると、亮介が床にうずくまって何かやっていた。亮介は戻ってきた私に目もくれず、…どうやらテストか何かを懸命に書き直しているらしい。
「亮介、何やってるのかな?」
私が引き攣った笑顔でそっと声をかけると、亮介はびくぅ、と顔を上げて、
「い、いや、何でもないよ」
と笑顔で言う。
その返事に、私は思わず笑顔のまま固まった。
生まれた時から亮介は身体が弱かったせいか、甘やかしてしまい、勉強もろくにしないでゲームばかりしているはずなのに、テストの復習でもしてくれるようになったのだろうか。 私は少し不安を感じつつ、そっと覗き込み――そして、思わず赤く染まった窓の外を見上げた。 
そこには、一面の朱。
おまけに、右上の大きく書かれた『10』に『0』を書き足していた。

ほんと、泣きたくなる位に、見事な朱だった。
(355文字)


……さあ、けんめいなものかきのみんな、わかったかな?
ちょっと文字数がピッタリじゃないけど、全体の流れとかセリフ回しとかあまり変えなくても雰囲気がかわっただろう?
これをみなさんにやってほしいんだ。


さあて、改めてルールを書くよ!

①元となる文章をアレンジして違う作品に仕上げてください。
 音楽でよく『リミックス』という手法がありますよね。
 原曲をアレンジすることで全く違う印象の曲に仕上げる、というアレです。
 アレを小説でやってみよう、というのが、この挑戦状の主旨です。
②文字数は元となる文章を大幅に超えないこと。
 今回提示する原作は400文字なので、だいたい300~500文字でまとめてください。
 500文字以内であれば、コメント欄に書き込めますしね。
③元となる文章とある程度は対比させるようにすること。
 セリフ、もしくは地の文のどちらかを、そのままの位置で残すようにしてください。
 もちろん文中で使っている単語は変えてもOKですが、もうどう考えても元の文章とは似ても似つかない場合は、たとえどれだけ秀逸な作品であったとしても、アウトとします。


さあ、りかいできたかなあ?
ここまで読んで、よし参加してみるか!なんて思ったものかきさんは、以下の『原作』を読んでアレンジをしてください。
もし書き上げたら、このnoteのコメントらんに直接書き込むか、自分のアップしたnoteのURLをコメントらんに書き込んでくださいね。
私が「これはすげえ!」ってなった作品は、このテキストで紹介させてもらいますので、よろしくお願いします(ぺこり)


では、スタートです!



お題『夏休み』

「じいちゃん、有った、有ったよ!」 
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、隣で手に持った石をつまらなさそうにハンマーで小突いていたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私が隼人の手元を覗き込むと、茶褐色の石の表面にうっすらと菊のような模様が見える。 
「お、菊石だな」 
「菊石!――ってなあに?」 
不思議そうに私を見つめる颯に、私は笑う。 
「あちらの言葉ではアンモナイト、だったかな」 
「アンモナイト?!うそ?!やった!」 
私の答えに、隼人は石を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「おいおい、転ぶなよ」 
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の石を見つめる。
石に浮かんでいるのは、何かの骨のようだった。 
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。 
(400文字)


これが、こうじゃっ!

挑戦者一人目:巨匠 佐伯 有さん

「じいちゃん、勝った、勝ったよ!」 
突然、タオルを振り回しながら駆け込んできた孫の隼人は、居間で手に持った新聞をつまらなさそうに読んでいた私に、元気良く声をかけてきた。 
「お?勝ったってことは――」 
私が隼人の顔を覗き込むと、茶褐色に日焼けした顔に満面の笑顔が見える。 
「お、結果は顔に書いてあるな」 
「大勝利!――優勝だよ!!!」 
隼人の笑顔が伝染したように、傍らの颯と私も笑う。 
「そういえば、哲郎の同級生が、甲子園の土にアンモナイトが埋まってたって話していたが、見たか?」 
「アンモナイト?!うそ?!知らなかった!」 
私の冗談に、隼人は拳を握りしめながらへたり込んだ。
試合の余韻と疲れが一気に出たようで、まだふらついている。 
「おいおい、気をつけろよ」 
「うん!あ、そうだ、オヤジにも報告してくる!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて足元の真っ黒なスポーツバッグを見つめる。
くしゃくしゃのバッグは、あいつの泥だらけの笑顔にそっくりだった。 
「さて、夕飯は何を食わせてやろうか」 
私は一人呟くと、足元にほおり捨てられた赤茶けたタオルを拾った。(484文字)

感想:
その反応速度、そしてアレンジ力!
まさか開始して3時間を待たずに負ける時が来るとは……っ!_| ̄|○
お見事でした!


セカンドチャレンジャー:コントメーカー 小山耕太郎さん

「ジイチャン、アッタ・・・アッタ・・・」 
首に巻いた大蛇に額を噛みつかれた私に、隣で手に持った孫の隼人をつまらなさそうに指で小突いていたはずの巨人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
大蛇の毒により二重に見える巨人の手元を覗き込むと、孫の隼人の肌の色がうっすらと変わっていくように見える。 
「お、チアノーゼだな」 
「チアノ・・・・ゼ・・・?」 
不思議そうに私を見つめる巨人に、私は笑う。 
「酸欠により皮膚や粘膜が青紫色を帯びること、だったかな」 
「エーッ?!ヤッター!」 
私の答えに、巨人は隼人を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「おいおい、転ぶなよ」 
「オレ、ハシルノ、スキ・・・!」
巨人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の孫を見つめる。
孫の脇腹から出ているのは、何かの骨のようだった。 
「・・・肋骨だ!」
私は一人呟くと、首に巻きついた大蛇をいったん棚に置き、タコで額の毒を吸い取った。
(413文字)

感想:
いやもうただひたすら笑わせてもらいましたよ(笑)
この予想の遙か斜め上空の大気圏外までかっ飛ばしたようなセンス!
元ネタとの対比をさせつつ、小山さんらしさ全開とか、いやさすがコントメーカーですわ!


サードチャレンジャー:noteの人気者 ふるぼっこさん

「じいちゃん、有った、有ったよ!」
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。
「お?どれどれ――」
私が隼人の手元を覗き込むと、平たい長方形の木に、うっすらと三つ葉葵のような模様が見える。
「お、印籠だな」
「印籠!――ってなあに?」
不思議そうに私を見つめる孫に、私は笑う。
「悪党を懲らしめる道具、だったかな」
「ホント?!うそ?!やった!」
私の答えに、隼人は印籠を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。
「おいおい、転ぶなよ」
「うん!僕、悪党どもに見せてくる!」
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の印籠を見つめる。
印籠に浮かんでいるのは、確かに三つ葉葵のようだった。
「さて、わしも懲らしめに行くか」
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(361文字)

感想:
まさかの印籠!
化石が印籠に変わっただけで、こうも笑えるネタになるとは!
くそう、この発想はなかったわぁ……_| ̄|○


フォースチャレンジャー:アカペラ人 tockniさん

「店長!ありました、ありましたよ!」 
鼻にかけたメガネが汗でずりおちる様な暑さの中、奥の部屋からあがった声はひどく甲高くハンマーで小突いたように響く。そんな彼の叫びに、うんざりしながら私は振り返った。 
「ん〜、本当かね――」 
我が古書店の狭い通路を、熊の様な大男がその図体には似つかわしくないあどけない笑顔で歩いてくる。巨大な手に持たれたせいで、大きな写本も単行本の様に見えた。
「おお!これぞ、まさしく!!」 
「ですよね!――ってなんでしたっけ?」 
きょとんと私を見つめる彼に、私は溜め息をつく。 
「知らんで探していたのかね?」 
「店長のご用命とあらば!はい!なんでもするです!」 
彼の答えに、私は本の埃を吹きながら微笑した。なんとも人なつこい男だ。 
「まったく、君と言うヤツは…」 
「はい?僕、お役に立てましたか?」 
彼がそう尋ねるのにとっくりと頷いてやると、嬉しそうに奥に引っ込んでいった。
本に書かれている、不思議な内容にはちっとも興味がないようだ。 
「さて、どうしたものか…」 
私は一人呟くと、再び鼻からずり落ちそうなメガネを戻す。
「夏休みの自由研究が『ヴォイニッチ手稿の解釈』だなんて…やれやれ、うちの隼人も…。」
(446字)

感想:
すでにおじいちゃんの姿すら消え失せた、むしろオシャレ感すら漂うお話に大変身!
舞台や小道具まで全部入れ替わってるのに、台詞や言葉の位置と言った『韻の踏み方』はしっかりと押さえているあたりが、さすが元アカペラ人だけのことはあると思いました。
お見事でした!


フィフスチャレンジャー:っていうか再び佐伯さんですと?!Σ(゚Д゚)

「じいちゃん、有った、有ったよ!」 
首に巻いたタオルで額のヤブ蚊を払った私に、隣で天体望遠鏡をつまらなさそうに覗いていたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私が隼人の望遠鏡を覗き込むと、漆黒の空に白く輝く星の姿が見える。 
「お、アルタイルだな」 
「アルタイル!――ってなあに?」 
不思議そうに私を見つめる颯に、私は笑う。 
「わし座のアルタイル。七夕の彦星さんの星だよ」 
「アルタイル!彦星?!やった!」 
私の答えに、隼人は対物レンズを握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎて望遠鏡がふらつき、落ちそうになっている。 
「おいおい、壊すなよ」 
「うん!僕、お父さんも呼んでくる!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の望遠鏡を見つめる。
丸いレンズに区切られた中、浮かんでいるのは、紛れも無い一等星だった。 
「さて、どうしたものか」 
天文学者を辞して20年も経つ。
私は、天球儀に存在しない星を前に、タオルで額の汗を拭った。
(439文字)

感想:
先ほどの甲子園ものとは様相を変えた、切なさ全開の良作。
ほんとこの人の頭のなかを覗いてみたいわ、マジで(まがお


シックスメン:なんでもやってみる親父 萬承さん


「じいちゃん、有った、有ったよ!」
首に巻いていたはずのタオルが見当たらなかったが、私は気にもせず必死で草をかき分けていた孫の隼人の声を聞いて振り向いた。
「ほら!みてみてーー」
私が隼人の手元を覗き込むより速く、天にのばした真っ黒の手に四葉のクローバーが見える。
「お、見つけたな。」
「じいちゃん見えるーー?」
ちゃんと見てるじゃないかと、私は笑う。
「四葉のクローバー、これ見つけると幸福になれるんだよ」
「これがあればじいちゃんも幸福になれるかな」
隼人はクローバーを握りしめながらバンザイした。勢いがよ過ぎて天に突き出す手が震えている。
「おいおい、転ぶなよ」
「よし!お父さんにも見せよう!!」
隼人がそういって駈け去った後私は、改めてクローバーの生い茂る足下を見つめる。
緑の透けた私は足がなく宙に浮いていた。
「そうか、今年は私の初盆か」
幸せを祈ってくれた孫に感謝すると、手であふれる涙を拭った。
(392文字)

感想:
佐伯さんのアルタイルとは違う意味での切ない作品。
まさかこう持ってくるとは予想してなくて、ちょっとうるっと来ましたよもう。
……あ、転載に際して、一部校正してみたら、文字数変わってました(^_^;)ごめんしてね(^_^;)


セブンセンシズ:オールラウンダー・クリエイター dodecagonさん

「じいちゃん、有った、有ったよ!」
 首に巻いたタオルで額の血を拭った私に、隣で手に持った首をつまらなさそうにハンマーで小突いていたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。
「お?どれどれ――」
 私が隼人の手元を覗き込むと、茶褐色の首の断面にうっすらと顔のような模様が見える。
「お、人面瘡だな」
「人面瘡!――ってなあに?」
 不思議そうに私を見つめる隼人に、私は笑う。
「殺された人間の怨霊、だったかな」
「怨霊!うそ?!やった!」
私の答えに、隼人は首を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。
「おいおい、転ぶなよ」
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の首を見つめる。首に浮かんでいたのは、義理の娘の顔だった。
「さて、どう処理したものか」 私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の血を拭った。
(384文字)

感想:
ここまでとは打って変わってのダークサイドな作品。
こう言った作品が出てくるのは予想していましたが、ここまで吹っ切れたものが来るとは(いい意味ですからね)予想してませんでした(笑)
こういう狂気が絡んだブラックなネタも大好物です。お見事でした!


エイトマン:モラトリアムMIZKIマスター 夜川さん

「じいちゃん、あった、あったよ!」
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、隣で手に持った虫めがねをつまらなそうに眺めていたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。「お?どれどれ――」
私が隼人の手元を覗き込むと、淡黄色の壁の表面にうっすらと渦のような模様が見える。
「お、指紋だな」
「指紋!――ってなあに?」
不思議そうに私を見つめる楓に、私は笑う。
「犯人を捕まえるための証拠のようなもの、かな」
「証拠?!うそ?!やった!」
私の答えに、隼人は虫めがねを握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。
「おいおい、転ぶなよ」
「うん!僕、お父さんも呼んでくる!」
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて壁の指紋を見つめる。どうやらあの時、消し忘れたもののようだった。
「さて、どうしたものか」
私は一人呟くと、再び首に巻いていたタオルで額の汗を拭った。
(383文字)
感想:
これは私の好きなやつや~(*´▽`*)
これをプロローグにして、鑑識小説とか書いてみると面白いかも。
『遺留捜査』ばりに1話完結式にして、ラストにじいちゃんとの過去をフラッシュバックさせて……。
くわあ、話がひろがるわあ(*´▽`*)
ナイスなお話し、ありがとうございました!


ナインハーフ:カメラを手にした言霊師 hana sakuraiさん

「おかあさん、有った、有ったよ!」
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、先程からきのこ図鑑とにらめっこしていた息子の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。
「どれどれ?おかあさんにも見せて――!」
私が隼人の手元を覗き込むと、目の前に生えているきのことまったく同じ写真が、そのページに掲載されていた。
「これは、タマゴタケモドキね。」
「タマゴ?それっておいしいの?」
目を輝かせて尋ねる隼人に、私は笑う。
「きっとおいしいわよ。タマゴの味がするかもね。」
「うそ?!ぼく、食べてみたい!」
いまにもきのこにかぶりつきそうな勢いの隼人を、私は慌てて止める。
「ここで食べちゃダメよ。おうちに帰ってからね。」
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の図鑑を見つめる。
『タマゴタケモドキ。猛毒。日本ではたびたび死亡事故が報告されている。』
「さて、どうやって食べさせようか?」
私を裏切り続けた夫の顔を思い浮かべながら、私は再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(444文字)
感想:
hanaさんのイメージを根底から覆した、衝撃の作品。
おまけにご本人は文字数を書いてなかったのですが、こちらで数えたら444文字でびっくり。
このひと、ここまで計算したのか……恐ろしい子っΣ(・ω・ノ)ノ!


テンポイント:マルチクリエイティブDJ 土田じゃこさん

「じいちゃん、会った、会ったよ!」 
手首に巻いたダイヤルで数値を確認した私に、モニターの中からつまらなそうにダイヤの指輪を手で弄んでいたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。
「お?どれどれ――」 
私がモニターを覗き込むと、若い男性がポケットをまさぐりえらく慌てた様子が見える。
「お、懐かしいな」 
「懐かしいって!――なぜ?」 
不思議そうに私を見つめる隼人に、私は笑う。 
「あ、あちらの時代が、ということだがな」 
「ということは?!うそ?!やった!」 
私の応えに、隼人は指輪を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「おいおい、転ぶなよ」 
「うん!僕、あのお兄さんに渡してくる!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めてモニター越しに見守る。
その向こうにいたのは、確かに当時の、若い頃の私だった。 
「さて、どうなることか」 
私は一人つぶやくと、再び手首に巻いたダイヤルで今日の日付を設定した。
(417文字)
感想:
いやもうね、どんなジャンルが来ても驚かないつもりでしたけど、やっぱり元ネタの短さで考えればSFとミステリーは難しいと思ってたんですよ。
それが土田さんにかかれば、ほらもうこれです。
ほんとこの人の多彩っぷりって、無いわぁ……(羨望


ウィニングイレブン:グッドセンス主婦 りをくさん。

「おじい様、ありました、ありましたわ!」 
首に巻いた蝶ネクタイを締めている私に、隣で手に持った小箱をこれから向かうお茶会に気を病み落ち込み気味で鍵で開けた孫のファルコネが、突然元気良く声をかけてきた。 
「どれどれ、見せてみなさい――」 
ファルコネが手にしている小箱の中を覗き込むと、ダークブラウンの石に菊の模様がある指輪を見つけた。 
「これは花宝石だ」 
「花宝石!――ってなんでございます?」 
不思議そうに私を見つめるライジア・ウィング嬢に、私は笑う。 
「言い方を返れば珊瑚の化石、といいますね」 
「珊瑚の化石?!ほんとですか?!やりましたたわね!」 
私の答えに、ファルコネは指輪を握りしめながら2人は上品にハイタッチをした。勢いが良すぎてふらついている。 
「これこれ、転んでははしたないですよ」 
「ごめんなさい。わたくし、おばあ様に見せてきますわ」 
ファルコネたちがそう言って足早に去っていくのを見送った私は、改めて手元に残った小箱を見つめる。
あれは妻以外へ送ったプレゼントだったようだ・・・。 
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、小箱の中にある手紙を取り出してメイドを呼びつける。
(495文字)
感想:
これまたここまでの参加者さんにはない、新しい視点での作品でした。
一般人の老人と孫を、お金持ちのおじい様と孫娘にしてしまうとは。
この華やかさと豪奢さは、私には書けない世界なので、すごく新鮮でした。
すごいなあ、りをくさん。さすがセンスの固まりだけのことはあるわぁ。


トゥエルブモンキーズ:クリエイティブ電卓 本栖川かおるさん


(TAKE2)
「じいちゃん、有った、有ったよ!」
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、部屋の扉を勢いよく開け孫の隼人がガラス管を握って駆け込んできた。夏休みの自由研究でわからない部分を手伝っているのだった。
「お?どれどれ」
私が隼人から受け取ったガラス管を左右に傾ける。銀色の液体が左へ右へとゆっくりと移動するのを確認した。
「ふむ。良い感じだな」
「そう!?それ付ければ完成するの?」
私の作業を隣で見ていた颯がゴクリと固唾を飲む。
「これを付けてと。よし、完成だ」
「完成したの!?本当に?やった、出来た~」
私の頷きに、隼人は完成した箱を高くあげ、喜んでその場でグルグルと回る。三半規管が揺さぶられ、隼人をふらつかせた。
「おい、落とすなよ」
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」
そう言って駆け出したとき、隼人の手元から完成した箱がすべり落ち、“ピッ”と音が鳴る。今まで消えていたデジタル表示が十五と表示され、その数が一秒に一つずつ減っていく。隼人は父ちゃんを呼んで来ると部屋から駆け出した。
解除には最低でも数十分かかる難易度の時限爆弾。
「さて、どうしたものか」
私はそう一人で呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(498文字)
感想:
すげえ。
他の作品と大きく違うのは、そのラストの緊張感でしょうか。
「さて、どうしたものか」というセリフがここまで緊張をはらんでいるのはこの作品が初めてじゃないかしらん。
元ネタからここまで変化させるとは……お見事でした(くぅっ)


13日の金曜日:って再び萬承さん登場

「隊長、ついに、ついに見つけました!」
航路をスペクトロ羅針盤で検討していた私に、光学望遠鏡式旧型レーダーを使っていた隼人隊員が、画面を指差しながら声をかけてきた。
「どの方向だ?」
私が隼人隊員の指差す画面を覗き込むと、そこには確かに光り輝く恒星の横に小さな惑星が見える。
「あれ・・だな」
「はい、なぜか新型レーダーには映っていません。」
不思議だがこれでやっと調査ができると、私は安堵した。
「これで過去にこの海域で消えた宇宙船の秘密がわかりますね。」
「そうだな、よし、あの惑星に向けて出発だ!」
私の命令にクルーたちも色めき立ち、興奮のあまり勢い良く出力を上げすぎて船が揺れた。
「おいおい、あせるなよ?」
「隊長!私がまず調査艇で先行します!」
隼人隊員がのった調査艇がすごい勢いで飛び出した瞬間、私はすべてを悟った。
惑星に見えるその場所は小さなブラックホールであった。
「レンズフレアか・・もう引力には逆らえないな。」
私はそう呟くと、皆が騒ぎ出す前に静かに自爆スイッチを押した。
(433文字)
感想:おお、SF!しかもここまでで一番スケールが大きいじゃないですか!よくぞこのスケールの話を433文字に収めました、お見事です!


14人目のストライカー:フリーダムパーソナリティ 5ol.imoさん

「じいちゃん、有った、有ったよ!」 
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、隣で横たわった患者をつまらなさそうにハンマーで小突いていたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私が隼人の手元を覗き込むと、茶褐色の肌の表面にうっすらと菊のような模様が見える。 
「お、肛門だな」 
「肛門!――ってなあに?」 
不思議そうに私を見つめる颯に、私は笑う。 
「あちらの言葉ではアナル、だったかな」 
「アナル?!うそ?!やった!」 
私の答えに、隼人はハンマーを握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「おいおい、転ぶなよ」 
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて目の前の患者を見つめる。
肛門に刺さっているのは、何かの骨のようだった。 
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。 
(約400文字)
感想:
うわ、イガラシさんまで参戦とか、なんと光栄な( ̄▽ ̄)
内容は……もう敢えてコメントするまでもなく、今回の企画で小山さんに匹敵する個性を存分に発揮されてて、楽しかったです(笑)
やっぱりサウンドクリエイターって、言葉遊びも上手いんだなぁ……。


フィフティーン・ラブ:夜の飯テロリスト 冬顔さん

「姉者ー!殺った、殺ったよ!」
 首に掛けた手拭いで顔の返り血を拭う私に、さっきまで隣で抱えた大鉈を物欲しそうに齧っていた末弟の声が、梢の上から突然元気良く降っててきた。
「ほぅ?どれ――」
 飛び降りて来る末弟、隼人の抱えているモノに目をやれば、血に塗れた巨大な生首。そして見開かれた単眼が見える。
「ふむ、一つ目入道だな」
「一つ目入道!――ってなぁに?」
 無邪気に私を見つめる末の弟に、私は笑う。
「あちらの言葉ではサイクロプス、だな」
「サイクロプス?!うそ?!やった!レアじゃん!!」
私の答えに、隼人は首を放り上げ、バンザイした。勢いが良すぎてふらついている。
「おい、転ぶなよ」
「うん!僕、父者に見せてくる!」
 そう言って駆け去る背中を見送り、私は改めて足元のモノを見る。
 そこに転がるのは、凶兆とされる猿頭蛇尾の巨大なキメラだ。
「さて、どうしたものか」
 私は溜息と共に呟くと、空を仰ぎ、首の手拭いで嫌な汗を拭った。
(407文字)
感想:
うわ。ファンタジーだ。
そう言えばこのちょうせんじょうアップしたとき、ファンタジー作品がもうちょっと多いと思ってたんですが、真正面からファンタジーを書いたのって冬顔さんが初めてじゃないですか。
しかもまあ、ここまで情景がくっきりと浮かんでくる作品を作ってくるとか、ほんとすげえっす!
さすが飯テロの帝王だけのことはある!お見事でした!


16人のプリンシパル:フォーチュンテリングレインマン 易セントリック雨男さん

「副長、やった、やりましたよ」 
羽織の袖口で目に落ちそうな汗を拭った私に、まだ血の滴る刀を抜き身で手にして、局長について行ったはずの数馬が血眼でうわずった声をかけてきた。
「お?どれどれ――」 
私が数馬の足元を覗き込むと、小砂利の浮いた地面の血溜まりに沈み倒れた、少し前まで人だった物体が転がっていた。 
「お、浪人だな」 
「浪人!脱藩浪人ですか?」 
血走った目で見つめる数馬に言った。 
「この羽織、長州だったかな、土佐だったかな」 
「長州?土佐?やった!」 
私の答えに数馬は刀を手にしたまま勝ち鬨をあげた。振り上げる勢いが強すぎて血垂れの顔となった。 
「おい、気を緩めるなよ」 
「はい!局長にも報告してきます」 
駆け去っていく草鞋の音を耳で追いながら足元の物体を仰向けにひっくり返し人相をあらためて驚愕した。
會津藩に見た顔だった。 
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、もう一度袖口でゆっくりと大きく汗を拭った。 
(408文字)
感想:
さすが!
まさかこのジャンルが来ると思ってなかっただけに、衝撃を受けました。
時代劇とか歴史ものって、実は書くのがすごく大変で、だからこそこれだけスッキリした文体でまとめられた易セントリックさんの手腕にただひたすら脱帽です。
さすが6代目!


17歳の地図:ってこちらも再び冬顔さん

「爺!在った、在ったわよ!」
 息を切らし汗を拭う私に、立ち塞がる黒い石壁をランタンで照らし、隈なく探っていた隼乃お嬢様が、突然喜色満面で振り返ったのでございます。
「どこでございますか――」
 私がお嬢様の手元を覗き込むと、黒曜石の表面にくっきりと星のような模様が見えました。
「印、でございますな」
「きっとコレよ!準備は宜しくて?」
 待ち切れない体のお嬢様に、私は思わず溜息をつきました。
「“時”はまだでございます。それより本当に、良いのでございますか?」
「爺?怖いの?!」
 お嬢様はお笑いになりました。余程可笑しかったのか、ふらつく程でございました。
「危のうございます!」
「わかってるわ! それで爺、“時”まで後どの位?」
 お嬢様がそう言って背を向けて屈み印を見つめるのを、私は見届けたのでございます。
 そして―――美しい黒髪を掴み、一閃。白い喉をナイフで掻っ切ったのでございました。
「今、でございますよ、隼乃お嬢様」
 私は呟き、血しぶきで汚されていく憎き旧き神の印を、うっとりと見ていたのでございます。
 いあ はすたあ! はすたあ! いあ いあ!
(473文字)

感想:
クトゥルフ神話Σ(゚Д゚)
しかもまさかのクトゥルフではなくハスター信仰ときたΣ(゚Д゚)
あの作品の短さでこうも上手くまとめてくるとは……やっぱり凄いな帝王は(まだいうか


18人の金田一耕助:コスプレイヤー百合ボーイ ハツセノアキラさん

『マスター、見つけました……』
 首に提げた首飾り型ガジェットのフィリーズが、つまらなさそうに点滅を繰り返す。この300メートルの空の風の爽やかさとは反対に、心なしか声も陰鬱そう。
「さすが、フィリーズね! 表示させて」
 普段よりゆっくりと空間に投影された画面を覗き込むと、学園の地図に×印が一つ付けられ、引き出し線をつけて写真も表示されている。
「うぁぁ〜!? これはイケるわね!」
『左様でございますか』
 どうにも関心なさそうに返事を返すフィリーズに、わたしは口を尖らせる。
「もう、乗り気じゃないわね?」
『マスターの目的が見え見えですので、協力に値しません』
 フィリーズは自発的にその場でクルリと回る。
「そう言いながらも協力してくれる、フィリーズが大スキよ」
『そのスキが困るのです』
 わたしはニヤリと笑いもう一度写真を見る。
「さすが学園一の美少女、かわいい過ぎ! 落とし甲斐があるわ!!」
『どうなさるのですか?』
「見てのお楽しみ!!」
 わたしは自分にかけていた術を解除し300メートルの空からダイブをかける。彼女に向けて一直線に。
『怪我も火傷もなさらないで下さいね?』
(482文字)

感想:
いやもう、ただひたすら楽しく書いてるなぁ、ってのがよく分かる作品です。
いつものハツセノ節で突っ走っているように見せかけて、今回のルールの抑えるべきギリギリのところはちゃんと押さえている辺りに、ハツセノさんのアツくてクールなキャラクターそのものなのかな、と思ってみたりして。
ナイスでした!


19 GROWING UP:広島のアルマジロトカゲ Masano.LANさん

「らんちゃん、売れた、売れたよ!」 
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、私に勧められて仕方なくnoteをはじめた友達が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私がその子の手元のスマホを覗き込むと、ダッシュボードのミントグリーンに白い文字が見える。 
「お、四桁」 
「これって普通?売れてるほう?」 
不思議そうに私を見つめる彼女に、私は笑う。 
「私が初めて売れたnoteは300円だったかな」 
「まじで?!うそ?!やった!」 
私の答えに、彼女はスマホを握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「おいおい、危ないよ」 
「うん!私、彼氏に見せてくる!」 
彼女がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて自分のスマホを見つめる。
彼女のページに飛んでみると、大人向けの内容を仄めかしたnoteが有料で公開されていた。
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(413文字)

感想:
あー……やらかしたなぁ……って気の毒に思える作品。
っていうか、このお題で初じゃないか?エッセイタッチの作品って。
そういう意味では新しい風が吹いた気がします。
そっか、こう言う手もあるんだなぁ、さすが広島県民(いやかんけいないだろそれ

20世紀少年:さすらいの電車馬 天原(あまのはら)みかさ@駄文書きさん

「教授、有った、有りましたよ!」
 割烹着の袖で汗を拭った女性研究員は、隣で手に持った試験管をつまらなさそうに覗き込んでいたはずの教授に、思い切って声をかけた。
「何が有ったって? どれどれ――」
 教授が女性研究員の前にある顕微鏡を覗き込むと、微細ガラス管の向こうで小型の幹細胞が蠢いている。
「お、刺激惹起性多能性獲得細胞だな」
「刺激ジャッキ! ――ってなあに?」
 不思議そうに教授の顔を見つめる女性研究員を、彼は笑った。
「学会に出すとすれば、STAP細胞、かな」
「STAP細胞?! うそ?! やった!」
女性研究員の笑顔に、教授は眉を顰めながら肩をすくめた。彼女のノートには「やった(はぁと)」と書き込まれる。
「おいおい、まだ喜ぶなよ」
「私、ネイチャーに発表してくる!」
 女性研究員がそう言って研究室から駆け去っていくのを見送った教授は、改めて手元の試験管を見つめる。
 試験管に入っていたのは、何か別の細胞のようだった。
「さて、どうしたものか――これ、実はES細胞なんだよな」
 教授は一人呟くと、首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(463文字)

感想:
おっとタイムリー……って惜しい!
某議員がネットを席巻してなければベストタイミングだったのに(こら

しかしこれもまた見事にまとめてきましたね。
元ネタを上手く使いつつ、しかし話に整合性もしっかりあって。
お見事でした!さすが駄文書き!
……ってこれ、褒めてない気がする……。


21世紀少年:駆け抜ける豚と猫 minaquaさん

「高齢者問題はあぁぁぁぁぁぁあ!ウワッハッハーーン!!」 
私は首にかけた一眼レフで彼の顔を激写していたが、マイクを前に手元の資料をつまらなさそうに見ていたはずのN議員は、突然錯乱して泣き叫びはじめた。 
「お?どうしたんだ」 
私がN議員の顔を覗き込むと、肌色の顔の表面にうっすらと涙や鼻水が見える。 
「もっと具体的に教えて下さい」 
「ですから、みなさんのご指摘を真摯に受け止め…」 
耳をそばだてながら私を見つめるN議員に、私は言う。 
「記録になくても記憶に残りませんか?」 
「そういう問題ヒョホオッホーーーィ!! 解決じだいがだめに! 俺ばげェェ! ブェフハアィ!! 誰がでえ! 誰が誰に投票じでぼ、おんなじや、おんなじや思でえ!」 
私の質問に、N議員はこぶしを握りしめながら号泣した。勢いが良すぎてふらついている。 
(おいおい、落ち着けよ…) 
「命がけでイェェェェェヒッフア゛ーーオ!!! ウッ、ッ。あなたには分からないでしょうけどね!」 
N議員がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の一眼レフの液晶を見つめる。
液晶に浮かんでいるのは、N議員の錯乱した姿だった。 
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、再び首にかけた一眼レフで彼の後ろ姿を撮った。
(533文字)


感想:
くっそさっきの天原さんからのこの流れとか卑怯すぎる(笑)
500文字超えてるとか、そういう細かなルールすらもはやどうでも良くなるくらいに強烈過ぎますわこの議員さん(笑)
ちなみに現時点でのニコ動でのマイ・ベストはこちら。


22才の別れ:センチメンタルミュージシャン りとるらいと@会津さん

「秋也、合った、合ったよ!」 
首に巻いた小型爆弾内蔵首輪のせいで額に汗を滴らせている私に、隣で手に持ったダイヤル鍵を間違えないように慎重に回していたはずの生き残りの典子が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私が典子の手元を覗き込むと、茶褐色の鍵の表面にうっすらと時計のような数字が見える。 
「お?、え?、時計?」 
「時計!――ってなあに?」 
不思議そうに私を見つめる颯に、私は笑う。 
「あいつらの言葉では脱走規制装置、だったかな」 
「脱走規制装置?!うそ?!やだ!」 
私の答えに、典子は胸に両拳を握りしめながら身震いした。勢いが良すぎてふらついている。 
「おいおい、転ぶなよ」 
「うん!私、みんなに言ってくる!」 
典子がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて首元の鍵を見つめる。
鍵に浮かんでいるのは、何かの制限時間のようだった。 
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、再び首に巻いた小型爆弾内蔵首輪のせいで額に汗を滴らせた。
(414文字)

感想:
まさかのノンストップ緊張感Σ(゚Д゚)
近未来の脱獄劇のまっただ中、ってとこですね。
やっぱり音楽やってる人は、世界観の構築が上手いなぁとしみじみ感心しましたです。

……しっかし意外と人気だなぁ、SF。
noteではけっこう多いのかしら、SF好きな人。


23番目の染色体:ヒロイモノハンター えりざべすさん

「美香さん、有った、有ったわよ!」 
首に巻いたシルクのタオルで額の汗を拭った私に、隣で手に持った宝石をつまらなさそうにハンマーで小突いて遊んでいた姉;恭子が、突然元気良く声をかけてきた。 
「ん?どこ?」 
私が姉の手元を覗き込むと、クリーム色の小さなそれらを持っていた。 
「まぁ、こんな所に落ちてたのね。 見つかって良かったわ」 
懸命に探していた私の労力は無駄に終わったが、姉は上機嫌。 
「あちらの言葉ではエナーマ、だったかしら?」 
「エナーマ?」 
私の答えに、姉はそれを握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「恭子さん、気をつけてよ」 
「えぇ!わたくし、頑張ってくるわ!」 
恭子がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて残されたそれを見つめる。 
「バカンスでどこのアイランドに来ても、これが無いと困るのよね、恭子さん」 
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭いながら、姉;恭子の必須アイテム「イチジク浣腸」を見つめた。
(430文字)

感想:
いやいやいや。
えりざべすさんのnoteを初めて読みましたが、ネタの拾い方とか持ってきたオチを見れば、読む人を楽しませよう、って気持ちがよく解って好感が持てますねえ(*^_^*)
……しっかし、よく思いつくなぁ、これ(笑)


24人のビリー・ミリガン:レディメイド・バリカン onodaimokoさん

「あいつだ。脱いだ、脱いだ!」
 汗を拭った。ビルの屋上で伏せたまま双眼鏡を覗く隣にいる相棒の声。興奮していた。「マジかよ。あいつホモかよ! チョーうける」
「どれどれ――」
 俺も双眼鏡を覗きこんだ。向かいのマンションの一室。日焼けした茶褐色の男が二人、抱き合っていた。鍛え抜かれた背筋と尻の割れ目。あともう少しで菊のような模様が見えそうだ。
「お、菊門だな」
「ポケモン? ――ってポケモンってなんだよ」
 相棒は俺に向かって怒鳴ってる。
「ポケモンじゃねーよ。菊門だよ、バカモン。肛門。アナルのことだ」
「アナルのこと?!マジ?!知らなかった!」
 俺の答えを聞きながら、相棒は握りしめてるスマートフォンで菊門を検索していた。タップの勢いが良すぎてディスプレイがぶっ壊れそうだ。 
「おいおい、そんなに重大なことか?」 
「お前が嘘を俺に教えてるかもしれねーからな。まじはこの菊門って言葉を、ヤフーに行って調べるんだ」 
 馬鹿な相棒に落胆のため息を送った俺は、改めて双眼鏡を覗く。
 裸で愛し合っていた男のうち、一人が血塗れだった。もう一人は消えている。 
 クソったれ。しくじった――。
「さて、どうしたものか」 
 汗を拭った。
(499文字)

感想:
うわ、これもイガラシさんと同じく、ぶっ飛んでるなぁ(笑)
私は嫌いじゃないですけど(笑)
韻の踏み方も内容のフリーダム加減もテンポも全てがラップ的で、個人的には楽しかったです(笑)


パネルクイズアタック25:カオスエッセイスト プラーナさん

「隼人、さっきから石をコチンコチン小突いて何をやってるんじゃ。修業か?」
「ちゃうわい!石に顔彫って、オリジナル人面石を作ってん!ほら見てみいこの石に浮かぶ顔、ハリソン・フォードにそっくりや!」
「ほお、どれどれ…………。おお、この年齢を重ねたことで深まった渋み、乾いた威圧感、溢れるタフネス……まさにハリソンストーンの名に相応しい……隼人、この石は大切に蔵にしまっておきなさい。我が一家は全員大のハリソン・フォードファンやさかい、家宝にするんや」
「やったー!やったー!ハリソンストーンを完成さした!これで我が家は安泰や!一生遊んで暮らせるで!………おっととととっ!あかんあかん、転んでハリソンストーン落としてもうたらえらいことや。すぐしまわな。でもその前にお父さんに見してくる!」
「ああ、気をつけてな。でもハリソンストーンくらいでええ気になるんとちゃうぞ。わしは石にめっさリアルな膝蓋骨彫るのも朝飯前なんや!」

感想:
……いやちょっと待てい。これ文字数以外はルール完全無視やないかい(^_^;)
逆や逆、単語を流用するんちゃう、文章そのものを流用せえ言うとるやんか(^_^;)
……いかん、ついエセ関西弁でツッコんでもうた。
いやまあ面白いんだけども。面白いんだけどなあ(^_^;)


キリング/26日間:ワードマジカルニューヨーカー 雪町子さん

「じいちゃん、あった!すごいのあったよ!」 
森の中とは言え、暑い。首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、びくびくとしながらついてきていた都会育ちの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ」
 隼人の手元を覗き込むと、夏に相応しくない茶褐色の木の実がちょこんと収まっていた。 
「――のどんぐりかもな」
「え?なあに?」
 不思議そうに私を見つめる颯に、私は笑う。 
「それを庭に埋めてみな。夜には、空を覆うほどの立派な木になるかもしれないぞ」
 「うそ?!やった!」
 私の答えに、隼人はどんぐりを握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。
 「おいおい、転ぶなよ」
 「うん!僕、お父さんに見せてくる!」
 隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、遠い夏の日の冒険を思い出していた。
何度も森を訪れたが、再び会うことはなかった生きものとの。
かさりと音がして隼人だろうと顔を上げると、目の前に傘を手にした銀鼠色の巨大な生きものがいた。
そいつはニッと歯を見せて、笑った。
「さて、どうしたものか」
 私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(484文字)

感想:
……いやもうね、雪町子さんの四コマ見てていつも思うんですが、言葉の選び方とか凄い上手いんですよね。
その雪町子さんがアレンジしたこれもまた、どこかほんわかしてて、どこか切ない、町子さんらしいアレンジになったなあ、って思いました。
やっぱりイイわあ、この人(*^_^*)


フォーエバー27クラブ:ストーリートラベラー 空音さん

「みーちゃん、待った、待っただよ!」
首に巻かれたタオル。額に浮かぶ汗。叫ぶ僕。背中に乗りながら楽しそうに僕を小突いていたはずのみーちゃんが、突然タオルで首締めてきた! 
「お?どれどれ――」 
みーちゃんが私の顔を覗き込む。真っ赤な顔の表面にはっきりと血管が見えることだろう。 
「お、ギブだね」 
「ギブ!――って、何すんの!」 
ようやくタオルを解いたみーちゃんに、僕は怒る。 
「あちらの言葉ではアンモナイト、だったかしら」 
「アンモナイト?!どちらの言葉で!?」 
みーちゃんの知識に、僕は拳を握りしめながらジタバタした。酸欠で勢いがない。ふらふらだ。 
「あらあら、死なないでね」 
「だ、だったらなんでこんな……!」 
僕はそう言った。僕の言葉に黙したみーちゃんは、改めて僕の顔を見つめる。
サディズムが浮かぶ彼女の顔は、何かの絵画のようだった。 
「だって、好きだもの」 
みーちゃんが呟く。
僕は、再び首にタオルが巻かれることを所望した。
(400文字)

感想:
とりあえずこの作品、私の元ネタと比較してみてください。
これを読んだ時の私の衝撃を、参加された皆さんならお分かりになると思います。
入れ替えられた言葉が、入れ替えていないはずの言葉すらもその意味合いを変化させていて、まるで違う作品のように思えてきませんか?
これを読んでつくづく、日本語という言語の奥深さを知ったように思いました。
お見事です、さすが空音さんだ!


ルービックキューブ:リアルプログラマー TyokuNaiさん

「先輩、有った、有りましたよ!」 
首に巻いたネッククーラーで涼む私に、隣で手に持ったハンドマッサージャーで無表情にモニタと向かい合っていたはずの後輩の隼人が、突然威勢良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私が隼人のモニタを覗き込むと、黒の背景目一杯に広がる文字列の中に、一際目立つ1語句に目が付いた。
「お、脆弱性だな」 
「脆弱性!――って何ですか?」 
不思議そうに私を見つめる新人の颯に、私は無表情に応える。 
「今の言葉ではセキュリティホール、だったかな」 
「セキュリティホール?!うそ?!やりました!」 
私の答えに、隼人はハンドマッサージャーを握りしめながらバンザイした。連日徹夜の影響でふらついている。 
「おいおい、転ぶなよ」 
「はい!俺、リーダーにも報告してきます!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元のモニタを見つめる。
見覚えのある1語句は、ハッカー対策用に私が過去に手掛け仕込んでおいたダミープログラムの一部だった。
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、背中に冷たい物を感じながら過去の自分との闘いに没入した。
(487文字)

感想:
さすがプログラムに触れている人だけあって、この制限されたなかでも見事に世界観を構築されてます。
二人の動きや台詞が自然だったのも好印象。お見事でした(*^_^*)


鉄人28号:イモムシ萌えのシナリオライター 希都さん

「姉ちゃん、生き物いた、いたよ!」
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、隣で手に持った水筒をつまらなそうに振り回していた弟の隼人が、突然元気よく声をかけてきた。
「ん?どれどれ――」
私が隼人の手元を覗き込むと、胴が太い蛇のような生き物がちろちろと舌を出しているのが見える。
「あ、ツチノコだね」
「ツチノコ!――って食べれる?」
期待を込めた瞳で私を見つめる隼人に、私は笑う。
「もちろん食べれるよ。唐揚げにすると美味しいんじゃなかったかな」
「美味しいの?!うそ?!やった!」
私の答えに、隼人はツチノコを手にしたままバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。
「ちょっと、転ばないでよ」
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の生き物を見つめる。
人間だと名乗ったそれは、結局、私たちの姿に気絶してしまっていた。
そのあまり美味しくなさそうな食材の調理法を考えながら、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭う。
「さて、どうしたものか」
とりあえず切って焼いてみようかと、私は墜落した宇宙船に足を向けた。
(467文字)

感想:
くは、油断しました。
ある意味それまでの全てをひっくり返す超絶なオチに、思わずのけぞりました(笑)
……いや待てよ、ってことは、ツチノコって宇宙生物なのか……?


はたちあまりここのつ:メッシータイプライター 赤星士輔さん

「親父、行くな。行くなよ!」
 首に巻いたスカーフでヘルメットのバイザーを拭った私に、東京の高校で追試を受けていたはずの息子の隼人が、交信中に突如割って入って来た。
「ガフッ!? ゲホゲホーー」
    私がひび割れたモニターを引き寄せると、黒い学生服を着た隼人の姿が歪んで見えた。
「お、俺はもう助からん」
「隊長!ーーもう他に。他に助かる方法は無いのですか?」
 冷静に聞いてきた楓に、私は不敵に笑う。
「隼人。お前は人類最後の希望だ。世界を……救ってくれ」
「救ってくれ?! あんたがやれよ?! ふざけんな!」
   私の答えに、隼人がマイクを握りしめながら声を荒げた。力が制御できずひしゃげている。
「おいおい、無茶いうなよ」
「聞いてくれ! 俺、あんたにまだ伝えてない事が」
 隼人がそういって通信が途絶したのを見ると私は、改めて眼前に広がる宇宙怪獣の群れを見つめる。
   真ん中で月の半分くらいはありそうな紫色の化物が咆哮をあげているようだった。
「さて、どうするもこうするもないよな」
   私は一人呟くと、再び首に巻いたスカーフでヘルメットのバイザーを拭った。
(474文字)

感想:
一見まるっと変えているようでいて、台詞の位置や描写のタイミングがキチンとリンクされてる辺りに、書き慣れてるなあと感じさせる作品でした。
……っていうか、オッサン頑張りすぎ(笑)
清水栄一の『ULTRAMAN』を思い出しましたわ(笑)


三十路の執念:再びの挑戦、夜川さん

「じいちゃん、有った!有ったよ!」
タオルでおでこの汗を拭いていたおじいちゃんに、ぼくは、元気良く言いました。 
「お?どれどれーー」 
おじいちゃんが、ぼくの手の中をのぞきこんできます。茶色の石が、うっすらと毛が生えたおじいちゃんの頭のうしろに隠れました。
「お、菊紋だな」
「菊紋!ーーってなあに?」
首をかしげておじいちゃんを見つめるカエデと一緒に、おじいちゃんの言葉を待ちます。
「あちらの言葉ではアンモナイトだったかな」
「アンモナイト?!うそ?!やった!」
おじいちゃんの答えに、ぼくは、うれしくなってバンザイをしました。右手ににぎりしめたアンモナイトの重みで、こけそうになったけど、なんとかこけないように持ちこたえました。
「おいおい、転ぶなよ」
「うん!ぼく、お父さんに見せてくる!」
ぼくはそう言って、おじいちゃんにアンモナイトをあずけて走りだしました。お父さん、びっくりするだろうな!
隼人を見送った私は、改めて手元の石を見つめる。
石に浮かんでいるのは、何かの骨のようだった。
「さて、どうしたものか」
私は一人呟くと、首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(473文字)

感想:
惜しい。非常に惜しい。
元ネタの視点を孫の側に切り替えるという発想はお見事だったんですが、ラストで唐突に元に戻しちゃいましたね。
せっかくなので、ここは徹底して最後まで孫視点で攻めて欲しかったなあ(^_^;)


31アイスクリーム:フェバリットマスター プランニングにゃろさん

「じいちゃん、取れた、取れたよ!」 
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、キャプチャービームで地球から牛を集めていたはずの孫のトヤハが、突然元気良く声をかけてきた。
「お?どれどれ――」 
私がトヤハの手元を覗き込むと、バタバタと暴れる獲物の胸に豪華なバッジが見える。
「お、大統領だな」
「大統領!――ってなあに?」
無邪気に私を見つめるトヤハに、私は笑う。
「あの国の言葉ではプレジデント、だったかな」
「プレジデント?!大物?!やった!」
私の答えに、トヤハは大統領を握りしめながらバンザイした。大統領はすでにグッタリとしている。
「おいおい、潰すなよ」
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」 
トヤハがそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて地上をサーチしてみる。
地球の全域で核ミサイルが飛び交い、すでに生命体の75%が消失していた。
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(400文字)

感想:
さすがにゃろさん、この制限されたルールをキチンと踏襲しつつも、ここまでぶっ飛んだSFに仕上げてくるとは(笑)
その丁寧な仕事ぶりがにゃろさんらしくて、思わず唸り声を上げましたよ。
お見事です!


二進数数え法最強の数字:駆け抜ける休日 indyさん

「兄ちゃん、有った、有ったよ!」 
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、隣で手に持った石をおもちゃのハンマーで小突いていたはずの祖父が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
手元を覗き込むと、茶褐色の石の表面にうっすらと菊のような模様が見える。 私はもう幾度目かわからない返答をする。
「お、菊石だな」 
「菊石!――ってなあに?」 
不思議そうに私を見つめる新任介護士に、私は笑う。 
「アンモナイトのことだよ」 
「アンモナイト?!うそ?!すごーい!」 
私達の会話など耳に入らないのだろう、祖父は石を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「転倒、気を付けて」 
「僕、お父さんに見せてくる!」 
祖父が立ち上がろうとするのを慌てて制止し、別の石を渡す。
「ほ、ほら、今度はこっちを削ってごらん?」
私を兄と思い込んでいる祖父は、素直に従う。私は、受け取った石を改めて見つめた。

割れた化石に浮かぶ、無数の傷。夏になると繰り返される遠い記憶の再生。 
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭い、窓の外を見上げる。

泣きたくなる位に、蒼い空だった。
(499文字)


感想:
くっそ、まさかの最後の一撃(笑)
うわ、切ない話だなあ、って思ってた矢先の最後の一行。
その文章は例文だろうとか思わずツッコんだやないですか(笑)
お見事でした!


クラブ33:再び登場、ハツセノアキラさん

「ない! 雪乃、見つからないわ」
わたしは首にかけていたタオルで頬を伝う汗を拭い、雪乃へ視線を送る。雪乃はしゃがんでイーゼルの間を見つめ、なくした物を黙々と探し続けている。
夏休みの美術準備室。蒸し風呂のように熱いが、わたしと違って雪乃の白いキレイな首筋にほとんど汗は見られない。
「何を無くしたって?」
問いに雪乃はすぐ答える。
「消しゴム……菊の模様が入った」
「消しゴムって……また買えば良いじゃん」
雪乃が振り返る。普段無表情な雪乃。そのドールのような整った顔に、今は感情が浮かんでいる。
怒ってる?
そう思った瞬間、雪乃が立ち上がる。起立性貧血で雪乃がふらつく。
大丈夫?と声をかける前に、雪乃が口を開いた。
「あなたにもらったものだから……」
言って顔を逸らす雪乃。
「あっち探してくる……」
わたしから離れ別の場所を探しに行く雪乃。
思考の止まったわたしは雪乃の背を見送る。
記憶を探ればすぐに思い当たる。
「はぁぁ~~……」
盛大にため息をつく。
忘れていた──でも、雪乃は覚えていた。
「どうしよう……?」
わたしはもう一度頬の汗を拭うと、自分の口元が弛んでいることに気が付いた。
(478文字)

感想:
この企画でここまで徹底して百合を追求した人は他にいないんじゃないか、ってくらいのど直球な百合作品。
前回よりもほんわかしてて、確かに百合度が上がってる感じがしますね。
……いや、百合小説ってあまり読んだことはないんですが(^_^;)


萬子・筒子・索子各9種と字牌7種:今帰ってます unNaturalさん

「さて、どうしたものか…」
額から噴き出る汗を拭うこともできず、私は、改めて足元の父を見つめた。
_______
「踊れ踊れー!」
バンザイをして飛び跳ねて、今にも転びそうな隼人は、石を持った手をブンブン振り回した。
「ちょっと見せてみんかい!おい隼人!」
「聞く意志、無しね」
嬉しそうに隼人を見つめる颯に、私は慄く。
父は隼人を追いかけ回すが、すばしっこい小学生は一向に捕まらない。
「ハァ…孫ひとり手懐ける案も無いとは…ゼェ…」
私が父の目元を覗き込むと、焦点のズレた視線がうっすらと八の字を描いた。
「おいおい、殺すなよ…!」
「うん?お父さん見ててね!」
隼人が石をパッと放り投げると、父はそれをむんずと鷲掴んだ。
そして次の刹那、隼人は石を手に持った父を、少し悲しそうにハンマーで小突いていた。
「うそ!殺った!?」
父の何処かの骨から噴き出した液体が、私の首に巻いたタオルを茶褐色に染めた。
「じいちゃん、立派だったよ」

感想:
……うわ、これ、感想書きにくいな(^_^;)
韻を踏むことに力を入れすぎてるせいか、とりあえず『短編』としては描写が八艘飛び過ぎて、何が起こってるのかサッパリ判らないっす(^_^;)
個人的には往年のコサキン(ラジオのほうっすね)を彷彿とさせるこのハチャメチャ感は大好きなんですけどね(笑)
試合に負けても勝負に勝ってる、って感じの作品だなと思いました(笑)



なんともう35!:再び登場、にゃろさん

「父ちゃん、撮れた、撮れたよ!」
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、天体望遠鏡で天の川を撮影していたはずの息子の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私が隼人の手元を覗き込むと、少しピンボケした数枚の写真にうっすらと抱き合っている男女のような影が見える。
「お、織姫と彦星かな」
「織姫と彦星!――って二人は何してるの?」
不思議そうに私を見つめる隼人に、私は笑う。
「大人の言葉ではアイビキ、ってやつだな」
「アイビキ?!肉?!へんなの!」 
私の答えに、隼人は大笑いしながら写真を振り回した。勢いが良すぎて写真が一枚舞い落ちる。 
「おいおい、落とすなよ」
「うん!僕、お母さんに見せてくる!」
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、足元の写真を拾って見る。
写真に写っていたのは、隣町のラブホテルの看板だった。
「さて、どうしたものか」
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(400文字)
感想:
うわ、オーソドックスに大人なブラックものっすね( ̄▽ ̄)
相変わらず元ネタを上手く使ってきましたね、お見事です!
これで目覚めなきゃいいけど、隼人くん(なにが


前人未到の36人目:デザイナー兼担々麺 Naoさん

「辰兄ィ、見て、見てよ!」
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に開始から3時間、隣でまったくあたりが無くつまらなそうに釣り竿をにぎっていたはずの弘樹が、突然元気良く声をかけてきた。
「ん?どれどれーー」
私が弘樹の船を覗き込むと、黒光りした巨大な魚体が見える。
「あ、黒マグロだな」
「黒マグロ!ーーって、な・あ・に・?」
この男は、分かっててやっている…
ドヤ顔で私を見つめる弘樹に、私は、腹が立った。
「売ったら、高い魚だよ!!昨日俺が釣ったやつの方が大きいけどな」
…本当は、弘樹が今日釣った方が大きかった。
「昨日の?!うそ?!こっちのが大きいよ!」
私の答えに、弘樹は、両手の拳を握りしめながらフンガイした。勢いが良すぎて
ふらついている。
「おいおい、落ちるなよ」
「落ちないよっ!港でみんなに見せてくる!」
怒りながら弘樹は船長に指示を出し、去っていく。
…悔しかった。私は改めて弘樹の船があった海面を見つめる。
落ちていた。去ったはずの弘樹が船から落ちていた。
「さて、どうしたものか」
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(463文字)
感想:
えっと、この方も初めましてさんなんですが、上手いですねぇ(*^-^*)
このテンポの良さ!
やり取りの楽しさ!
ルールをきちんと守る仕事の丁寧さ!
とりあえず私ならそのまま置いていくかな、とか思いました(おぃ


衝撃の37人目:オンリーワンノベルライター 龍川那月さん

「姉ちゃん、はまった、はまったよ!」 
色とりどりのパズルを黙々とはめていく私の隣で1つのピースをずっと手に持ってつまらなさそうに、飽きたようにしていたの弟の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「ん?どれどれ――」 
私が隼人の指差す先を覗き込むと、確かにピースがはまっている。絵柄的にも合っているように見えた。
「すごいね。それは海かな」 
「海!――ってなあに?」 
不思議そうに私を見つめる隼人に、私は笑う。 
「私達の言葉ではワタ――かな。」 
「ワタ?!うそ?!やった!」 
私の答えに、隼人はバンザイして立ち上がった。勢いが良すぎてバランスを崩したのだろう。少しふらついている。 
「大丈夫?転ばないでね」 
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて目の前に広がる未完成のパズルを眺めた。
これが『世界』になっていくことを私は理解していた。 
「さて、どうしたものかな」 
私は一人呟くと、パズルを再びはめ始めた。
こんどは急がず、ゆっくりと、世界を作っていこう。
(451文字)
感想:
おお、これはまたすごい!
さすが本職、って感じの丁寧さと鮮やかさに、思わず舌を巻きました。
やっぱりこうやって見ると、違うもんなんだなぁ
……うん、精進しよう(;^ω^)


満を持しての38人目(登録漏れすみません):柔らかな茶髪 みなもりふみさん~

「じいちゃん、有った、有ったよ!」 
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、隣で手に持った古い本をつまらなさそうにめくっていたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私が隼人の手元を覗き込むと、茶褐色の紙の表面にうっすらとお札のような模様が見える。 
「お、50銭札だな」 
「50銭!――ってなあに?」 
不思議そうに私を見つめる颯に、私は笑う。 
「昔のお金の単位だよ。今はもう使われてない。」 
「お金?!うそ?!やった!」 
私の答えに、隼人は石を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「おいおい、転ぶなよ」 
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて手元の本を見つめる。
本の表紙に浮かんでいるのは、誰かのサインのようだった。 
「婆さん、こんなところにヘソクリしとったのか。」 
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
(414文字)


感想:
ほんと抜け落ちてました、すみません(>_<)
というわけで、みなもりさんらしいアレンジをしてくれましたよ。
こう言ったほのぼの系の作品って意外と多いのかな、って思ってたんですけど、そう言えばあまり出品されてませんね。なんでだろ?
ちなみに私、ガチで似たような経験をしてます。
五十銭札→古いお金→骨董品?!→わーい!→親父に価値を聞く→がっかり、っていう見事なジェットコースターを味わったことを今でも思い出します。
……あれはほんと、がっかりしたよなぁ……。


旧約聖書の書物数:空と海の間にはいつもブルー 水動まなさん

「じいちゃん、出来た、出来たよ!」 
首に巻いた手拭いで額の汗を拭った私に、隣で手に持った石をつまらなさそうに積んでいたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。 
「お?どれどれ――」 
私が隼人の手元を覗き込むと、小さく不安定ながらもなんとか崩れず積まれた積み石の塔が見える。 
「お、ケアンだな」 
「けあん!――ってなあに?」 
不思議そうに私を見つめる颯に、私は笑う。 
「あちらの言葉では卒塔婆、だったかな」 
「おそば?!うそ?!やった!」 
私の答えに、隼人は石を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
「おいおい、転ぶなよ」 
「うん!僕、お父さんに見せてくる!」 
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて足元の塔を見つめる。
石に紛れて見えていたのは、嫁の干からびた指だった。 
「さて、どうしたものか」 
私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで額の汗を拭った。 
(413文字)

感想:
39番目は水動まなさん。
元ネタを残しつつ小道具を変えることで、サラリとブラックなネタに変えてきましたね( ̄ー ̄)ニヤリ

そう言えば、卒塔婆って、字を入れてもらうとけっこうお高いんですよね。
そのお墓を管理してる住職さんに書いてもらうらしいのですが、お値段を知っててびっくりしたのを思い出します。
アレって『時価』なのかしら、やっぱり……。


ノアの洪水:生粋のスマッシュヒッター 流民さん。


「じいちゃん、有った、有ったよ……」 
 首に巻いたタオルで額の汗を拭った僕は、眠ったように瞳を閉じるじいちゃんの前に立ちすくむ。

『お?どれどれ――』
  じいちゃんが僕の手元を覗き込み、茶褐色の石の表面にうっすらと菊のような模様のような石を見る。 
『お、菊石だな』    
『菊石!――ってなあに?』 
 不思議そうに見つめる僕に、じいちゃんは笑う。 
『あちらの言葉ではアンモナイト、だったかな』 
『アンモナイト?!うそ?!やった!』
 じいちゃんの答えに、僕は石を握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。 
『おいおい、転ぶなよ』
『うん!僕、友達に見せてくる!』
 僕がそう言って駆け去っていくのをじいちゃんは笑顔で見送っていた。

 眼を開き、僕は改めて目の前のじいちゃんを見つめる。
 僕の瞳に浮かんでいるのは、涙のようだった。 
「さて、どうしようこれから僕一人で……」 
 私は一人呟くと、再び首に巻いたタオルで涙を拭った。
(418文字)


感想:
40番目は流民さん。
彼はmixiの創作コミュニティからのお付き合いですが、とかく小説については人をうならせるのが上手なんですよね。
今回もほとんど中身を変えずに、でもまったく違う視点を用意してくれました。
やっぱり上手いわ、この人。


"We're All To Blame":ホラーの伝道師、捨文金五郎さん。

※ 作品が文章ではないため、ご本人のnoteへのリンクを貼らせてもらいます。

ならざきむつろさんの「ものかきさんへのちょうせんじょう」への応募のつもり。


感想:
いやすみません、まったく見落としてました(^_^;)
このnoteが盛り上がってた当時にこっそりとアップされてたようで。
今日たまたま『ならざきむつろ note』でググったら出てきて、すげえびっくりしました(^_^;)

というわけで、まさかのコミカライズ。
これはまったく予想外の展開でした。
いやもうただただお見事!



さあさあ!
期限は決めてないからね、まだちょうせんをまってるよ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?