5.フツー過ぎて能面みたい
バブル時代は、ファンシーショップや文具店やレンタルショップが併設されて、本の方がおまけみたいなチェーン店でも、毎日行ってもワクワクするぐらい新しい本がたくさん出版されていて勢いがあって、私の小遣いは本屋のレジにどんどん吸い込まれた。
本を買った分、貯金していたらマンションぐらい買えたろうし、親孝行もたくさんしたかと思う、たぶん。
そんな出版蜜月はバブル崩壊と共に尻すぼみになっていく。
出版される本の数も減り、代わり映えしないどころか、複合書店はレンタルビデオスペースが広がっていった。
そうなると、さすがに読みたい雑誌やマンガ本の発売日に合わせて行くように私も変わった。
ある日、家から程近い場所に新しい書店ができたという広告が朝刊に挟み込まれていた。
どんな本が置かれてるかな…といそいそ出かけて、店内一周したけれど、この私がまったくときめかなかった。
結局、その書店に行ったのはその時の一回だけ。
ふと思いついて、ひさしぶりに足を運んだら、別の店になっていた。
嫌な店員がいた訳でもなく、静かで店内も明るいし清潔、それなりに広い駐車場もあった。
それなのになぜ?
そう考えてみて、あちこちの脳内書店と比較してわかったことがある。
すべてにおいてフツー過ぎていた。
店長の方針だったのかもしれないが、本のジャンルも書棚も極めてフツーの本屋さんで、個性が全く感じられず、能面みたいだった。
いや、能面の方がまだ個性がある。
そう思うぐらい、本屋だったらこうだよね〜と予想がつく基本形そのまんま。
「わぁ〜、こんな本がある」という発見や、店員による個性的な書棚ディスプレイ、ポップもなかった。
もしかしたら店長は、本はあくまでも商品であって、本自体が好きな人じゃなかったのかな…。
本に対する熱さ、情熱。
それがなかったのかもしれない。
こだわりの古書店なんかで修行してから始めた方が良かったかもね。
後にも先にもそんな能面的書店には、今まで他に出合ったことがない。
今思うと不思議な本屋さんだった。